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混じり合う運命

 





「ここが帝国最大の都市、帝都…アルバートの王都よりずっと大きくて先進的だわ」


 旅立ちから一年以上掛け、セフィリアとレイチェルの二人はロカディリアス帝国帝都までその足を伸ばしていた。

 セフィリアは自身が育った王都よりも大きく綺麗で洗練された街並みに感動を覚える。


「大陸北東部で最大の国家。ここで情報を得られなければ南下する」

「そうね。少し遠回りしてここへ来たけど、無駄じゃなかったと思いたいわ」


 旅立ちの地点から真っ直ぐ向かっていれば一年以下で辿り着けていただろう。

 しかし、目的はここではなくジークリンドなのだ。

 様々な国や街へ寄り、情報がなくここまで来てしまった。


 それでも二人に悲壮感はない。

 必ず会えると信じているからだ。

 この辺りはアメリアと違う。

 理由はジークリンドの生存を確認していることが大きいのは言わずもがな。


「先ずは冒険者ギルド。ジークリンドがこの街を訪れていれば必ずそこに立ち寄るだろうと思うとこには行く」

「ええ。これまでと同じね」


 これまでもギルドや宿への聞き込みは欠かしていない。

 それでもジークリンドがこの世界から消えたかのように何の手掛かりも二人は掴めていない。


「でも、ここは他の街と少し違う」

「アレね?」


 二人の視線の先。

 そこにはこの街のシンボルとも言える巨城が聳え立っていた。










「今日はどうするのよ?」


 昨日はギルドと街の宿を巡った。

 勿論何の手掛かりもない。


「私は城へ行く。セフィーは残りの宿の聞き込み」

「…いいけど。入れないわよ?」


 元王族として当たり前のことを伝える。

 何処か抜けているレイチェルには、確認作業が必要なことを理解しているため。


「入らなくても、近付けば私のテリトリーでカバー出来る。

 それに、ジークリンドがいたら鼻でわかる。

 あの匂いを忘れる私じゃない」


 舐めないで。

 そう言っていそうなほどにレイチェルは得意げ。

 それを聞いたセフィリアはまた始まったと無視を決め込み、朝の支度を済ませにかかった。








「そう…見てないのね。いいえ、ありがとう」


 宿への聞き込みを始めたセフィリア。

 しかし、返ってくる言葉は何処でも同じだった。

 この虚しさを分かち合える仲間が側にいれば違ったのかもしれないが、今はセフィリア一人きり。

 自分が思うよりも落ち込んでいたことを宿の主人に謝られ、感謝を伝えて建物を出る。


「はあ…まだ逢えないのね…」


 外に出てもそれは変わらず、セフィリアは少しだけ油断してしまう。


「隙あり」


 小さな声がして、小さな物体が背中から勢いよくぶつかってきた。


「うげっ!?何してんのよ!?って…レイチェル?」

「そ。レイチェル」


 突撃してきたのは良く知る仲間だった。

 人の多い帝都ではフードを目深に被っているのでセフィリアからその表情は見えないが、確かにセフィリアだった。


「貴女…まさか…」


 見えないが、いつもと雰囲気が違うことに気付く。

 これは良い方の変化であることも、この長い旅の間で知ったことでもある。


「いっしっしぃ」


 レイチェルはいたずらっ子のようにハニカミ、言葉を続ける。


「見つけた」


 それはセフィリアがずっと待っていた言葉だった。


「ど、ど、ど、どこ!?」


 その言葉に我を忘れ、辺りをキョロキョロと探す。


「ここじゃない。恥ずかしいから宿に戻る」

「ちょっと!?早く教えなさいよ!」


 旅人の格好をしていても、セフィリアの高貴な雰囲気は色褪せはしない。

 レイチェルも不思議な雰囲気の旅人として目立つ。

 その二人が天下の往来でキョロキョロしたり騒いだりしているのだ。

 多くの視線が集まっても不思議ではなく、事実悪目立ちしていた。







「それで?何処にいるのよ?」


 多少歩き時間も開いたことでセフィリアは落ち着きを取り戻していた。

 ここは朝と同じ宿の一室。

 二人以外の姿も気配もない。


「城。間違いない」

「城…」


 見つかったのはよかった。でも、なんでよりによって城なのよ!

 セフィリアの表情がそう物語っていた。


「気付いたのは城の近くでテリトリーを広げてすぐ。

 別のテリトリーと接触した。

 そのテリトリーからは、ジークリンドの匂いがした」

「確かにジークはテリトリーを広げることが得意だったわ。あの城を覆うくらいは出来るかもしれない」

「実際覆っていた。全部じゃないけど」


 ジークリンドが如何に凄くて才能があろうとも、レイチェルには二百年のアドバンテージがある。

 バレずに接触させることも可能だった。


「向こうにはバレてない」

「なんでよっ!?気付いたら出て来てくれるかもしれないじゃない!」


 セフィリアが怒るのもわかるが、レイチェルには言い分があった。


「私が食べに来たと思われたら、絶対に逃げる」

「……そうね」


 この旅を通して、セフィリアの実力は強さも経験も増している。

 増したが故にレイチェルの強さも明確に理解してしまっていた。

 ジークリンドが抗戦もせずに逃げるのも頷けると考えるくらいには。


「どうすんのよ?」

「セフィーが迎えに行けばいい。これで解決」

「はあぁぁ…」


 セフィリアは長い溜息を堪えられなかった。


「だ・か・ら!どうやって城に入るのよ!」

「身分を明かせば良い」

「バベル王国と帝国が繋がってたらどうすんのよ!」


 もし、そうであれば、飛んで火に入る夏の虫となる。

 セフィリアは常識人のようだ。

 レイチェルと比べて。


「そうなれば、ジークリンドが助ける」

「あのね…そのジークが捕まっている可能性もあるのよ?

 バベル王国と帝国が繋がっていたら、私達は間違いなく捕虜になるわよ」

「むむむ…」


 どうやら、レイチェルは匂いを嗅いだせいで冷静な判断が出来なくなっている模様。


「でも、一つ良いことを思いついたわ」

「なに?」


 レイチェルの突飛の無い発言からセフィリアが突破口を見出す。


「私のテリトリーで接触するのよ」

「おお…珍しく妙案…」

「ぶっ飛ばすわよ?」


 レイチェルで逃げるならセフィリアのテリトリーでここにいることをジークリンドへ報せれば良いと作戦を披露した。


「問題は…」

「わかる」

「ええ。距離ね」


 セフィリアのテリトリーは小さい。

 それでも対人戦において問題ない程度の広さはある。

 ジークリンドやレイチェルがおかしいのだ。


「兎に角、向かうわよ」

「わかった」


 こうして、二人は帝城を目指すことになった。











「どう?どの辺りまでそのテリトリーは広がってるの?」


 帝城を囲む高い壁と堀。

 これ以上近寄れない場所まで二人は着ていた。

 この辺りも巡回の騎士は通るが、人通りもあって二人に注目する要因はない。

 二人が目立つことに変わりはないが。

 兎にも角にも、問題は距離。


「おかしい…」

「え?どうおかしいのよ?」


 レイチェルは怪訝な表情をしている。

 そのテリトリーで何を見たのか。


「テリトリーが広がってる…」

「良いことじゃない?距離も近くなったんでしょ?」


 セフィリアは好条件に期待が膨らみこの異変に気付かないが、歴戦のレイチェルは敏感に悟る。


「通常、異変がない限り広げるのはおかしい。このタイミング……

 これは…気付かれてる?」

「貴女のオーラ操作が見破られたの?」

「信じられないけど…多分」


 レイチェルは悩んでいる。

 しかし、思い切りが良い人物がここにはいた。


「やるわ」

「…わかった。私は……」

「宿に戻っていて。もし私が戻らなければ、判断は任せるわ」


 気付いているのなら、何かしらの対応があって然るべき。


 セフィリア自身はアルバート王族の生き残りであることを隠せば済むが、吸血種であるレイチェルはそうもいかない。


 レイチェルの姿が見えなくなったところで、セフィリアはテリトリーを可能な限り広げた。










 ◇◆◇


「来た」


 その頃、帝城ではアメリアがその時を待っていた。


「…変ね。さっきの反応はもっと洗練されていたのに。まあいいわ」


 自身が張っているテリトリーへ誰かが干渉してきた。


 これまでにも何度かあったが、それは剣聖だったり近衛騎士だったり兎に角城の関係者ばかりだった。


 けれど今回は違った。城の外から、それも嗅覚を使用していなければ気付かなかったほどの制御。


「誰か」


 アメリアは廊下へと声を掛ける。


「はい。アメリア様」

「近衛騎士に伝言を。西中央入り口より南へ20m。そこに立っている女性を応接室へ通して」

「かしこまりました」


 侍女へ指示を伝えると、椅子から立ち上がり背伸びをした。


「さて。城にテリトリーを飛ばすなんて、誰だか知らないけど良い度胸ね。

 臭いで女性であることはわかったわ。強さは……オーラで全てが決まるのであれば、私もここまで苦労しなかったわ」


 強さがオーラでわかるのならアメリアはすでに剣聖を超えている。

 しかし、オーラでわかるのはオーラの練度のみ。


 今回のオーラならシュナウザーの方が上だと、その練度さえも読み切っていた。


「剣士だとしても城へ武器は持ち込めない。オーラも使えないけど……私クラスになるとどうかしら?」


 オーラを阻害するオーラツールはあるが、それを完全には信用していないようだ。

 試してはいないが、恐らく自分は使えるだろう。

 アメリアはそう捉えている。


 使えそうなら手駒の一つにしようかしら?

 アメリアはそう考えて部屋を後にした。

 手駒どころかジン本人以外では最重要人物の来訪であることを、この時のアメリアには知る由もないのであった。

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