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動乱の西部

 





「アルバート…王国ですか?確か大陸西端にあるごく普通の国ですよね」


 ガーベラから齎された報告を聞き、私はつい立ち上がってしまう。

 機転を効かせてくれたシュナウザーの言葉により、少し冷静さを取り戻せた。


「そうよ…バベル王国がなんで…いえ、理由などどうでもいいわ。

 勿論、それだけじゃないでしょうね?」


 私が知りたいことは一つしかない。

 よもやそれだけを伝える為に来たんじゃないわよねと、言葉に怒気が混ざった。


「開戦は一年と四ヶ月前、アルバートが負けたのはその一月後になります。

 情報が遅れたのは、アルバートを出国する際の手続きに時間が掛かったということでした。

 その間に仕入れた情報によると、王族は一人の王女を残して公開処刑または戦死とされ、戦争に加担しなかった貴族達が元王都に集められたと」

「ガーベラ嬢、お茶を」

「あ、ありがとうございます」


 ガーベラの額には大粒の汗が浮かんでおり、急いでここへ向かってきたことがわかる。

 今は冬真っ只中。

 西部と違って雪が降らずそこそこに暖かい東部といえど、羽織るものがなければ寒さに凍えてしまう程度には寒い。


 オーラが守ってくれる私は寒いと感じることもないけれど。


 どうやら、お茶を飲んで息が整ったようね。


 今度は此方が整える番。

 何を聞かされても動揺しないように。


「情報が錯綜していまして、何が真実かわからない状況です。

 それを踏まえた上で、オーティア男爵は決戦時に死亡したと。

 そしてオーティア男爵家の方々は全員が行方不明です」

「……あのお方も?」

「…はい。申し訳ありません」


 ふう…一先ず、最悪な報告ではなかった。

 最悪ではないけど、それに近くはある。


「推測でもいいから、良い情報はないの?」


 縋りたい。


 もしあの人が死んでいたら、私の生きる意味もなくなる。

 だから例え嘘でも聞きたいの。

 希望を持てる何かを。


「ジークリンド様は大変目立つお方です。その銀の髪も勿論のこと、王族との繋がりも。

 ですが、出陣したという話は噂レベルですら何処にもありませんでした。

 オーティア男爵が決戦で奮迅した聞いています。男爵家の方々は死刑を免れられないでしょう。

 それでも、皆様行方不明なのです。

 ……これは希望的観測ですが、亡命されたと考えるのが妥当(ふつう)かと」

「普通じゃない彼が普通の行動を取った。そう言いたいのね?」

「はぃ…申し訳ありません」


 ふう……

 何度目かわからない溜息を溢し、話を頭の中で纏める。


 ジンが死ぬとは思えないし、例え死んだという情報が入ったとしても私のやることは変わらない。

 だって、この目で見ない限り信じないから。


 それに、物凄く低い可能性だけど…ジークリンドがあの人じゃない可能性も残されているわ。


 ただジンと同じ趣味を持つ私達と同じ世界から来た別の誰かという、極めて低い可能性だけれど。


「二人とも、少し待っていなさい」

「はい」「はっ」


 そう告げて、私は一人部屋を後にする。







 ◇◆◇


「ジークリンドという方と、姉上のご関係は?」


 アメリアが居なくなった後、口を開いたのはシュナウザーから。


「申し訳ありません、皇子殿下。私もその答えを持ち合わせていないのです。

 ただアメリア様の大切なお方だという情報しか」

「恋人だろうか?いや…西部地方に知り合いなど居ないはずだけど。

 となると、我々凡人には理解出来ない繋がりを持った相手であると考えるのが妥当だね」

「はい。身分は男爵家嫡男で御座いますが、身分では測れない相手であると私は確信しております」


 シュナウザーは会話の中で納得のいく落とし所を見つけ、それにガーベラも続いた形。


「その人は姉上がここまで求める相手なのかな?」


 敬愛する姉。

 その姉のすることに間違いはないと確信しているが、していることは気になる様子。

 全てを理解出来なくとも、出来る限り理解を深める努力はするべきだとシュナウザーは質問を重ねた。


「私の主観では、『はい』とお答えします。ジークリンド様はここにいる剣聖様とは別の剣聖様に師事しており、アメリア様よりも幾分か早く修行を終えられています。

 そしてアメリア様が帝都に流行を作ったように、ジークリンド様も王国全体を巻き込んだ流行を幼少期から幾つも作っておられます」

「所謂、神童というやつだね。姉上がその方に何を求めているのかは知る必要がないけれど、その方と会える方法を我々は模索しよう」


 シュナウザーは姉が何をしているかよりも、何を求めているかを重視する。

 そこには主従関係に似た信頼が垣間見えた。


 ガチャ…


「その必要はないわ」


 扉から入った来たのは先ほど出て行ったアメリア。


「聞こえていましたか?」

「声は漏れていないわ。でも、私の特技だから秘密よ」


 シュナウザーは声が漏れていたか心配になるも、アメリアは領域展開(テリトリー)を常に広げている。

 それを伝い、離れていても話を聞くことが可能だった。







 ◇◆◇


「さっきの話だけど、ガーベラは引き続き情報収集とジークリンド捜索をお願い。

 シュナウザーは私が帝国を出る時に手引きを」


 戻ってきた私は足早に指示を出す。

 今すぐ帝都を脱出することが出来なくとも、やれることは沢山あるわ。


 こうなった以上、ジンに見つけてもらいやすくする為に目立つことも含めてね。


「わかりました。私はそれまで皇太子になる為の修行に励みます」

「いい返事ね。貴方を弟に持てたことは私の人生で最大の幸運よ」


 深く聞いてこないことが、信頼の証。


 わかっていたけれど嬉しいわね。

 シュナウザーのヒエラルキーでは、ボスは私。


「ですが、戻ってきて頂けることを強く願っております」

「それは貴方の自由よ。約束は出来ないけどね」


 一度群れから離れた者を、権力を手にした後でも素直に迎え入れれるかしら?

 ま。敵対すれば、力を見せるだけだわ。


「そしてガーベラ」

「はい。アメリア様」


 この子には悪いけど、まだまだ働いてもらう。


「これは情報収集と人探しに掛かる経費よ」

「これは…多過ぎでは?」


 渡したのは金子袋にみっちり詰まっている金貨。

 これは私の個人資産だから好きに使える。


「当面の費用よ。それに城を出てしまえば暫くの間は払えなくなるわ。

 先払いみたいなものね」

「それであれば、大切にお預かり致します」


 そして、肝心なこと。


「私がいなくなった後はシュナウザーを頼りなさい。それが報酬よ」

「はい。有り難く」


 そう。部下に報酬を与えるのは群れのボスの役目。


「シュナウザーには渡すものがないけど、皇太子の椅子でいいわね?」

「我儘としては、いつか帰ってきてくれると約束して欲しいものです。

 ですが、そんな私では姉上が安心して帝国を預けられませんから、我慢いたしましょう」


 帝国は私のものでもないけれど……預かる、ね。

 その気持ちは貰っておくわ。


「それに姉上からはこれまでに多くのものを頂きましたから。

 ですので、不要です」

「いつか旅から帰ってきた時に、旅のお話を報酬として聞かせてあげるわ。

 まだ準備に二年ほど掛かるし、状況が変われば出る必要もなくなるかもしれないけどね。

 二人とも、任せたわ」

「「はい」」


 遂にシュナウザーにも私が何をしているのかを打ち明けた。

 心配はしていなかったけど、二人とも良い群れの仲間よ。


 二人を眺め、明日の希望を繋ぐ。


 そうでもしないと生きていけないの。


 ジン…無事でいて。


 お願い……

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