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英雄は何度でも現る

 





「ふーん。じゃあ、そのハイエルフを探すのかしら?」


 精霊の里を出発した二人の姿は街と街を繋ぐ街道にあった。

 辺りには草原が広がり、心地良い風が二人の髪を揺らしている。


「探さない。エルフは皆森の奥深くに隠れ里をつくるから、探すならそこまでいかないといけない」

「良かった。じゃあ、変わらず北東を目指すのね?」

「そう。旅の途中で見つけたら寄ってハイエルフを探すくらいはする。でも、それ以上はない」


 二人の旅の目的はジークリンド。

 先ずはそれが第一。

 その旅路の中で機会があれば程度にレイチェルは考えている。


「約束を果たさなくても何もないかしら?」


 レイチェルが約束した相手は化け物中の化け物である。

 細かいことを気にしない性格のセフィリアであっても多少の心配はする。


「何もない。でも、私の寿命は長いから、その内見つける」

「いいの?ジークを見つけた後に一緒に探すわよ?」

「いい。セフィーは普通の人。ジークリンドとの時間を大切にしないと後悔する」


 セフィリアだけではない。

 仲間の大切な時間を無駄にしたとなれば、実質無限の時を生きるレイチェルは無限に後悔する。

 だから、この約束は自分で何とかすると伝える。

 そも、レイチェルはハイエルフと交わしたジークリンドの話を隠しているのだ。


 それ故に、セフィリアがその約束を果たす義理はないと考えてのこと。


「それは大丈夫。次は何があってもジークから離れないから。

 でも、レイチェルも大切な友達。

 出来ることなら次は三人で冒険がしたいわ」

「それは楽しそう。私が血を吸うのを二人が阻止する。私は機会を窺う」

「…怖いわね。でも、そうね。ジークが見つかれば、ある意味では敵同士…なのよね」


 レイチェルの目的はジークリンドを見つけることではなく、その血を飲むこと。

 そうすれば十中八九ジークリンドは吸血種になるだろう。


 初めからわかっていたことだ。


 しかし、二人は距離を縮めすぎた。

 その所為で二人に迷いが生じ始めていた。


「敵じゃない。仲間でも見解の相違はある」

「…見解の相違…その程度なのかしら…」


 セフィリアは温度差があることに気付くが、レイチェルはいつもこんな感じだと思い直し、ため息を吐いた。


(ジークリンドがこの世界の住人じゃないとセフィーが知ればどうなる?

 わからない。

 意外になにもないかも。

 でも、先ずはジークリンドに聞かないと)


 レイチェルはそんなセフィリアを眺めながら考えを纏める。


 先ずは確認から。

 セフィリアへ伝えるのはそれからでも遅くはない、と。


 これはレイチェルの大きな変化でもある。

 これまでの秘め事は全て自分が絡んだことか、自分が不利になるから隠したかったものばかりだったが、今は他人(セフィリア)の為に隠している。


 きゃーーーっ!!


「………」

「諦めなさい。聞こえたわ。行くわよ」

「…ぁい」


 街道にまたも悲鳴が響き渡った。

 この世界はどこへ行っても、どこまで行っても危険が潜んでいるのである。














「ありがとうございます!お陰様で息子が結婚式を挙げることが出来ます」


 大豪邸の一室にて頭を下げるのは、この街の領主とその息子。

 セフィリア達が街道で賊から救ったのは、この息子の婚約者御一行だった。


 婚姻を結ぶ為、別の街からこのイザークの街へ旅をしていた最中、賊に襲われたのはブリュッセルク公国の貴族家。

 そこを助けた縁で、二人はこのイザークの街へと寄ることになった。


「良かったわね。二人が素敵な縁で結ばれ続けることを願っているわ。じゃあ、これで」


 二人の内、社交性が高いのはセフィリア。

 セフィリアは自分も得意だとは思っていないが、レイチェルに任せるよりは遥かにマシだとこの役目を負っていた。

 レイチェルに任せると要らないトラブルを度々起こしてきたからだ。


 そして今日もいつものようにセフィリアが代表して会話を終わらせる。


「お待ちください!お二人には、是非とも式に参加していただきたく」

「……わかったわ」

「なぜ……」


 セフィリアは渋々受け、レイチェルはそのセフィリアへ疑問を呈した。


 レイチェルの耳へ口を近づけ、セフィリアは理由を伝える。


「慶事の誘いを断るのは、どこの国でも白い目を向けられる行いなの。

 レイチェルは色々と隠さないとダメよね?敵は作らない方がいいわ」

「…りょうかい」


 これは葬儀も同じく。

 祝う気、弔う気持ちがないのか?と、勘繰られてしまう。


「でも、何故なのかしら?」


 セフィリアは領主へ向けて、誘われた理由を問う。

 これも多少の失礼にはなるが、今回の立場がそれを許すとセフィリアは判断した。


「貴女様の佇まい、気品、所作。そして私がこの街の領主と知っても、変わらない言葉遣い。

 これ以上の詮索は礼に逸すると判断しましたので、明言は避けます」

「……そう。否定も肯定もしかねるわね」


 セフィリアが他国の姫君であることを疑われている。

 恐らく自国の公族の姫と似たような雰囲気を感じ取ったのだろう。


 そして、護衛がいないのは息子の婚約者から聞かされた話で納得し、見える範囲に付き人が一人しかいないことで何かしらの事情もあるのだと一人納得している様子。


「そのような方に祝ってもらえれば、息子達が良き縁に恵まれることも間違いなく。

 そして、しっかりとしたお礼も出来ます故」

「心遣いに感謝するわ。でも、私達のことは一恩人として扱って」

「はい。心得ております。先ずはお二人の部屋を。こちらへ」


 言い方が(それは)心得ていないのと一緒よ……

 セフィリアはつい苦言を呈しそうになったが、やはり目立つことは避けようと黙って領主の後へついて行くことに。


「結婚式は三日後。それまではここで情報収集するしかないわね」

「セフィーはやっぱり目立つ」

「…言い返せないのは、何か溜まるものがあるわね……」


 今回ばかりは仕方ないとセフィリアは前を向いたのだった。












「綺麗だったわね」


 結婚式を無事に終え、情報収集は無駄に終わった二人は街を出発していた。


「そう?私の方が綺麗」

「…レイチェルの辞書には風情って言葉と謙遜って言葉が載っていないのね」


 レイチェルは整った顔をしており、肉体年齢が若い為肌も綺麗だ。

 しかし、花嫁は花嫁なのだとセフィリアは思う。

 その日だけはどんな女性であれ世界一綺麗で、唯一の主人公(ヒロイン)でなくてはならない。


 見た目は主観が大きく左右するので置いておくとしても、そうした風情がないと溜息を溢した。


「セフィーは記憶を取り戻してから、大人になった気がする」

「私の年代の二年は大きいわよ。それに…実際ジークに大人の女性にしてもらったわ…」

「きもい」


 照れてクネクネしているセフィリアを見て、これまでとのギャップから最低評価の三文字を叩き出した。


「それと、前より強くなってる」

「えっ…?そう?」

「間違いない」


 身体能力はそのままだが、記憶を取り戻したことにより二年分の技術がレイチェル目線では加算されていた。

 記憶を分離することが出来ないセフィリアには分かりようもないことだ。


「弱くなるのは困るけど、強くなっても困らないから別にいいわね」

「…セフィーは簡単な頭で幸せ」

「斬るわよ…」


 二年の記憶が埋まっても、この二人のやり取りは変わりそうにない。


「セフィーもあの白いドレス着たって言ってた。どうして?」

「アルバートだと王侯貴族の結婚式で新婦は白いドレスを着るのよ。戦争中のアルバートにいた当時の私とジークにはそんな余裕がなかったのだけど、ジークのお義母様方が着せてくれたのよね。

 一生の思い出よ」

「忘れてたのに?」


 やはり斬ろうかしら…?

 セフィリアはそう思ったが、斬っても死なないだろうし反省もしなさそうだと思い直した。


「それにしても…旅ってこんなにトラブルが多いわけ?」

「セフィーの所為」

「何でよっ!?」


 トラブルの殆どが、魔獣と賊が原因だった。

 それなのにレイチェルはセフィリアの所為だと断言する。


「確かに少し多い気がする。でも、その全部に首を突っ込んだのはセフィー。

 いつもなら私は無視するから」

「…仕方ないじゃない。見捨てたらジークに合わせる顔がないもの」


 この世界は生き抜くだけでも厳しい。

 だから強者が国を興し、弱者はその庇護下に置かれることを良しとしている。


 ギブアンドテイクが自然の摂理に従うだけで成り立っているといえる。


「ジークリンドは見捨てることもある」

「…ジークは薄情者じゃないわ」


 セフィリアの知っているジークリンドは、面倒見が良く、賢く、誰とでも平等に接する稀有な存在。

 しかしそれはセフィリアとその周りに向けられた姿しか見てきていないから言えることでもある。


「あの子は決して神童なんかじゃない。取捨選択が得意な子。

 不必要なものは切り捨てられる強さがある」

「…私のイメージとは違うわ。幼い時はそうだったのかもしれないわね」

「年齢は関係ない」


 それはレイチェルがジークリンドのことをこの世界の住人ではないと半ば確信しているから。


「あの子は子供の時から危うかった。不必要なものには飛び付かず、必要なものなら泥水の中でも躊躇なく飛び込む。

 だから、習熟も早かった」

「私も同じよ」

「セフィーは剣だけ。ジークリンドは人生の全てがそうだった」


 レイチェルにセフィリアを困らす気など微塵もない。それはセフィリアもわかっている。

 わかってはいるが、自分の愛する人が否定されている気分になり、二人の間に少し険悪な空気が流れる。


「セフィー。ジークリンドに会ったら、見極めて」

「…何をよ」

「あの子の本当の姿を」


 レイチェルは遠回しに私たちが見てきたジークリンドは偽物かもしれないと伝えるが、事情を知らないセフィリアには理解することが出来ない。


 それでもレイチェルは初めて出来た対等な友人。


「それでレイチェルが満足するなら見定めるわ」

「うん。後一月程で、帝国領に入る」

「そう。気を引き締めなきゃね」


 相変わらずの話を折る会話。

 セフィリアも切り替えは早いので、二人はこれで上手くやれるのだろう。


 二人は遂に大陸東部へと足を踏み入れる。

 明日にでも会えるかもしれない。


 果たして、二人を待つ未来は。

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