エルフの隠れ里
「まさか…吸血種だったとは…」
エルフ達が眺めているのは、生き残りの騎士を噛んでいるセフィリアとレイチェルの姿。
戦いの後、二人を眺めることしか出来なかったエルフ達へ、先ずはセフィリアが話をした。
『私達は敵じゃないわ。貴方達を助けられて良かったと思っている。
殺したのは、この人達が悪人と分かったからよ。安心しなさい』
と、極々普通の言葉だ。
その言葉により、少し緊張が解けたエルフ達だったが、それもレイチェルがとんでもないことを言うまで。
『この生きてる四人は報酬としてもらう』
意味は分からなかったが、一人のエルフが口を開いたことにより、周囲は一応の納得を見せる。
『人族は同族を奴隷として売ると聞いた。恐らくそうするのだろう』
と。
『違う。食べる』
このレイチェルの言葉が場を混乱させた。
『違うの!血を吸うだけよ!?レイチェル!こぉのぉ言葉足らずっ!』
フォローしたはずのセフィリアの言い訳も言い訳にはなっていなかった。
「そうか。我らは長命種という括りでは同じ。確かにその理屈はわかった」
助けた言い訳。
必要だったのかそれは曖昧だが、この空気を何とかしようとしたセフィリアだった。
「だが…恩人にこういうのはなんだが…」
「知ってる。吸血種がエルフにも迫害されてることは」
「………」
居た堪れない表情で、そのエルフは下を向いた。
「お姉ちゃん!ありがとう!」
「こらっ!やめなさいっ!」
大人エルフ達が必死に止めようとするも、木の陰から少女が飛び出してきた。
その少女の耳も尖っており、エルフであることは明らか。
「子供を守るのは大人の役目よ。気にしないで。でも、感謝は受け取っておくわ」
大人達は未だ近寄れなかった。
だが少女は二人の目の前。
そんな少女の言葉に、セフィリアは少女の頭を撫でながら応えた。
「こっちのおね……」
「お姉ちゃんであってる」
「お、お姉ちゃんもありがとう!お陰でパパ達が怪我しなくて良かったよ!」
一瞬、言葉に詰まるものの……空気を察した少女は、レイチェルへもお礼を伝えた。
何せ背丈がほとんど同じなのである。
お姉さん呼びにはさぞ抵抗があったことだろう。
「我らは助けられた。しかし、里のものがどんな風に受け取るのかは不明だ。
それでも、恩には報いたい。里へ来てくれ。
我らだけでも歓待させて欲しい」
子供が飛び出す前までは、エルフ同士で怪訝そうな顔を見合わせる程に信用はなかった。
だが、セフィリアの『大人は子供を守るもの』という言葉がエルフ達の心に響いた。
エルフの掟は破れば死罪に直結する程厳しいと知られているが、数はそれ程多くはない。
その中の一つに『誰の子であれ、子はエルフ皆の子。どんな時も子供の命を優先すること』というものがあった。
まさに、同じ感覚。
感覚が同じであれば、それ即ち同志である。
ここにいるエルフが二人を心より歓迎することに、戸惑いはなくなっていた。
「エルフのご飯は食べたことない。是非ご馳走になる」
「確かに気になるわね」
食道楽と化した二人に、それを拒む選択はなかった。
「初めての吸血はどうだった?」
エルフに里まで案内されている道中、珍しくレイチェルからセフィリアを気にする言葉が掛けられた。
「血を吸うまでは嫌悪感しかなかったけど、今はもう何の抵抗もないと思うわ。
別に美味しかったわけじゃないけど、当たり前というか…吸えば『そうそう、これね』といった感じだったわ」
「うん。問題なさそう」
どうやら遺伝子レベルでセフィリアは改変されているようだ。
まだオーラが自然回復するので血を吸う機会は少ないだろうが、今後飢餓が訪れても我慢して死ぬこともなさそう。
そう、レイチェルは結論付けた。
過去にあったのかもしれない。
レイチェルは吸血種になれる器の者を何かの縁で吸血し、吸血種に変えた。
だが、その者は終ぞ吸血行動を取ることはなく、飢餓に苦しんだ結果死んでしまうといったことが。
「ここだ」
「ここが…凄いわ…まるでお伽話そのもの…」
「生まれながらの長命種は生活様式を変えない」
セフィリアが読んだお伽話。
それはもしかしたら、大昔にあった本当の出来事だったのかもしれない。
「木の上に家があるのね。あっ、あっちは木をくり抜いているのね!木の幹に扉がついているわ」
「こんなことではしゃぐなんて、セフィーはまだまだ子供。私は大人だから驚かない」
セフィリアは素直に感動し、レイチェルはない胸を張った。
「ようこそ。精霊の里へ」
「我々は貴女方を歓迎します」
「お姉ちゃん達、いらっしゃい!」
先程のエルフ達が歓迎の言葉を告げる。
二人はそれに笑みを深めて応えた。
レイチェルは上手く笑えていなかったが……
「それにしても、人っ子一人いないわね」
「警戒して隠れてるだけ。あそこから覗いてる」
「許してくれ。知った通り、我らは人族に狙われることが多い。話せば分かってくれるさ」
セフィリアが他のエルフが見えないことを疑問に思い、レイチェルがその答えを示した。
謝るエルフ達に続き、更に村の中を進んでいく一行。
「ここだ。これが村長の家」
「一際大きな木ね」
「我らは生まれた時に生みの親達が木を植え、成人を迎えるとその木に家を建てて住むのだ」
村長の家がある木は周りの木よりも二回りは大きい。
それだけ村長の歳がいっていることを、二人は想像した。
木の階段を昇り、簡素な作りの玄関前に辿り着く。
「村長。客人をお連れした」
『どうぞ』
中から返ってきた声は若い。
ガチャ…
「さあ、入るといい」
「お邪魔するわ」
「ん」
二人が家に入ると、一人の少年が目に入ってきた。
「いらっしゃい。悠久の時を共にする同志達よ。僕はこの村の最年長ということで、村長をさせられているディケラだよ。
二人の名前を聞かせてくれないかい?」
他のエルフは若いといえど、その見た目は大人のものだった。
だから年寄りとはいかないまでも壮年程度の見た目のエルフが現れると二人は思っていた。
だが、現れたのは少年。
人の見た目に当て嵌めると15から18程にしか見えない。
「セフィーよ。よろしく」
「レイチェル」
セフィリアは普段通り、しかしレイチェルには強張りが見られた。
「セフィー?僕に偽名を名乗る意味はないよ。名乗りたくなければ無理強いもしないけどね」
「……セフィリアよ。セフィリア・ミスティア・アルバート」
セフィリアはレイチェルに視線で確認を求め、頷いたので本名を名乗る。
「あれ?それも少し違う気がするけど…まあいいや。よろしくね」
その言葉の意味をセフィリアは理解出来ない。
しかし、レイチェルは気付いた。
「ディケラ。貴方、ハイエルフなの?」
「おお。凄い、よく分かったね」
ハイエルフ。
それはエルフと精霊のハーフと呼ばれるお伽話の存在。
「精霊に真名を聞いたから」
「ああ、バレちゃった?ちなみに彼女の真名はセフィリア・オーティアらしいね。心当たりはあるかな?」
それを聞いたセフィリアは少し考えた後、顔を真っ赤にさせた。
「……ジークの馬鹿…阿保…私に何したのよ……」
「…彼女、どうしちゃったの?」
「セフィーは病気だから気にしたらだめ」
ブツブツと呟くセフィリアを心配そうに眺めるディケラ。
そしてレイチェルの説明は相変わらず。
「ハイエルフだから、若い?」
「うん、そうだね。僕は丁度八百年生きてるけど、ハイエルフとしてはまだまだ若いね」
レイチェルは人から見たら化け物だが、そのレイチェルから見てディケラは更なる化け物だった。
それは年齢だけではない。
その自然なオーラの流れも。
まるで自然と一体化しているようなそのオーラに、レイチェルは生きた心地がしなかった。
「ところで。私達より強そうね?」
「そうだね。僕からすれば、君達は赤子だよ。生きた年月も、精神的なものを含めた強さもね」
赤面から立ち直ったセフィリアが、ディケラを見てから思っていたことを口にする。
それは想像より、上だったのかもしれない。
しかし問題はそこではなかった。
「じゃあ、何故貴方は彼らを助けなかったの?」
セフィリアは怒っている。
村長ということは彼らの上役であるはず。
その役目は、彼らを色々なものから守ることにある。
王族として生まれ育ったセフィリアは、それを看過できないでいた。
セフィリアのオーラが漲る。
それは先程オーラを吸収したからか。
それとも怒りにより、何かが溢れ出たのか。
これまでに保有していたそれとは全く別物のオーラが、小さな家の中で暴れ回った。




