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課外授業と欲しかったもの

 





「ここにいる人達は、選ばれし者達です。そんな皆さんであればこの過酷な環境でも力を発揮してくれると信じています。では、三日間の課外授業へ向かいましょう」


 帝都の外。

 門の近くで私達はその時を待っている。

 目指すはここから5キロほど離れた森。


「アメリア様。荷物を持ちましょう」


 課外授業は森での宿泊。

 荷物はそれぞれが用意し、それは自分で持てる分だけ。

 私が背負う背嚢を見て、知らない男が声を掛けてきた。

 恐らく年上と見られる。


「貴方は?」

「これは失礼を。私は三年のカーザル・フォン・ドルスティン。ドルスティン伯爵家の者です」

「そう。荷物はいいわ」


 名前を聞いたのは、しつこい場合に排除する為。

 金髪を靡かせたこの優男は使えそうにないわね。


「え?アメリア様っ!?」


 まだ何か言ってくるけど、構ってあげるほど私はお人好しじゃないの。


 男を無視して先を歩いていく。

 この機会、そう訪れるものじゃないの。


 皇女が自由に外を歩ける。

 それだけでも、近い将来きっと役に立つはずよ。


「殿下から離れよ」

「なっ!?貴方は…」


 無視を決め込んだのにしつこいこの男。それを止めてくれたのは、護衛を頼んだ剣聖。


 侯爵という身分も強く、力はさらにかけ離れている。

 男はすごすごと離れていく他なかった。


「ありがとう。流石に殴るわけにもいかないから困ってたわ」

「はっはっ。殿下であれば、何の問題もないでしょうに。ですが、早速呼ばれた意味がわかりましたよ」

「貴方をこんな事の為に態々呼ぶはずもないでしょうに。

 でも、助かったわ」


 剣聖に嫌なものは感じない。

 でも、完全なる味方でもない。

 お父様の一言でコロっと変わるくらいには弱い主従関係。


 一番欲しい手駒が絶対に手に入らないなんて。

 それならいっその事いない方が将来的にやり易いのに。


 ま。今考えてもしょうがないわね。

 剣聖曰く、森での異変も気になるところ。

 今はこの課外授業を楽しみましょう。


 さて。何が待っているのかしら?









「はい。皆さん。ここからは各々で過ごしてもらいます。活動範囲はここから一時間の距離まで。

 女生徒は催した時には近くの先生へ声を掛けて下さい。

 体調が悪くなったり怪我をした生徒も同様です。

 リタイアも出来ますが、その場合は欠席扱いになることをお忘れなく。

 三日間、気を抜く事なく乗り切りましょう」


 そういうと教師陣は散らばる。

 そして、護衛の冒険者達も。


 ここからは自由行動。

 どこで食事を摂ろうが、どこで寝ようが自由。


 今世で初めての自由時間が遂に始まった。




「中々の練度ですな。騎士達にもこのような訓練を課せようかと思うくらいです」


 私の自由は?

 一メートルと離れる事なく、剣聖が後ろをついてくる。

 その後ろには見慣れた顔の侍女も。


「貴方達。せめて気配を絶ってくれないかしら?」

「それは構いませんが、まだ梅雨払いも必要でしょう」

「……彼等が消えるまでよ」


 私の後ろには剣聖達が。

 そして周りにはこの機会を伺っている見知らぬ生徒達が。


 あれは学年が違うから知らないだけよね?

 ま、何でも良いわ。

 剣聖と侍女がいれば、つゆ払いになるのも本当だし。


 こうして、自由の少ない課外活動が始まった。












 課外活動が始まって二日目の朝を迎えていた。

 ここまで異変はない。


「レイモンド卿。魔獣の死骸が見つかった場所はこの近くかしら?」

「アメリア様。近づいているなら兎も角、教えるわけにはいかないことくらい分かっているでしょう?」

「融通が利かないわね」


 魔獣の死骸が複数見つかっていると聞いた。

 その範囲は広いだろう。

 つまり、ここも安全ではないはず。


「じゃあ、別のことを聞くわ。その死骸の状態は?」


 人がしたことなら素材を持っていくだろうし、仮に別の目的であれば殺すだけで充分。


「バラバラでした。食い荒らされたようだと聞いております」

「そう」


 つまり、人の仕業である可能性は低いと。

 何がいるのかしら?


「少し散策するわ。レイモンド卿は兎も角、貴女は荷物になるだけだから、ここにいなさい」

「はい。アメリア様」


 何かが起これば目撃者は邪魔になる。


 剣聖だけならもしかしたら……

 可能性は薄いけど、それを上げる努力を怠るわけにはいかない。


 私が外に出られる機会なんて二度とないかもしれないから。


「いってらっしゃいませ」


 侍女を残し、比較的安全なベースキャンプ地を離れる。


 頭を下げ続ける侍女の動きは硬い。

 多分だけど、恐ろしいのでしょうね。


 ここは魔獣蠢く森の中だし、その魔獣を狩れる謎の存在もいるのだから。










「アレが魔獣ね」


 視線の遥か先。

 木々の切れ目から見えたのは、角が異常に発達した大鹿が一体。


「そうですな。アレくらいであれば、問題はないかと」

「戦わせてくれるの?」


 それは望外の経験になる。

 例え明らかな格下だとしても。


「まさか。護衛の冒険者達もしっかりと補足しております。

 他の生徒の場合は危険な状況と判断するまで手出ししないでしょうが、彼等にとっても殿下は特別なのです」

「つまらないわね」


 これ以上近付いても、倒されるところを見るだけみたいね。

 それも良いけど、餌を減らすのも勿体無い。


「方角を変えるので?」

「そうよ。私はここへ魔獣を狩りに来たわけじゃないわ」


 そう。表向きは課外授業。

 自然環境での経験を糧とし、何が出来て何が危険なのか。

 それを学ぶのが目的。


 勿論、私の目的は別にある。

 魔獣を殺しているのが人であれば、その者を懐柔する気だったけど、もうその必要もない。


 足元を一瞥し、私は方向を変えた。












「あれは…殿下。魔獣の死骸です」


 他の学生が寝泊まりしているだろう範囲を越えると、漸く異変を発見した。


「行くわよ」

「…そうですな」


 見つけたなら様子を見る。

 もし、何か発見したのなら、それは帝都の安全にも繋がる。

 皇族としての行動としては間違っていないから、さしもの剣聖でも止める術を持たないわ。


「中々にグルメなのかしら?」

「確かに。この魔獣のモモ肉は人気ですからな」


 足の付け根。

 その部分だけ骨を残してごっそりなくなっていた。

 内臓は手付かず。


 恐らく鼻が良いのね。

 やはり、アレは貴方のものだったのね。


「殿下!これより先はダメです!」

「残念。貴方にその権限はないわ」


 魔獣の血は固まっていなかった。

 死骸を触ることは止められて出来なかったから温かいかどうかは不明。

 でも、そう遠くない場所にいる。


 それがわかっているから剣聖は止めてきたけど、まだ課外活動の範囲を逸脱していないのだから私を止めようもない。


「止めたかったのなら、この異変を学園にも周知しておくべきだったわ」

「く…それは、帝都に混乱を」


 分かっている。

 その情報規制が貴方達の仇となるの。


 それがなければ、課外授業も延期もしくは中止になっていたことでしょうね。


「行くわ」


 サクサクと進む私を、剣聖はただ追いかけることしか出来ないでいた。






「魔獣の群れ?」


 見えてきたのは十体に迫る数の魔獣達。

 そのどれもが身の丈3mを超す熊の魔獣。


「殿下。流石に譲れません。引きます」

「もう遅いわ」

「チッ」


 剣聖なら楽に倒せたでしょうが、それでも時間は掛かる。

 熊の魔獣は生命力が高いと聞くから。


 それでも、私達だけなら良かった。

 まだ魔獣はこちらに気付いていないのだから。


「殿下!剣聖殿!逃げて下さい!」

「我らがここを死守します故!」


 剣聖にとっての邪魔者は私ではなく、彼等冒険者だったようね。

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