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水の都と森の都

 





「何かわかった?」


 水の都へ辿り着いた二人は、暫くこの街に留まることを決めた。

 その理由は、この街が四方八方から行商の類が訪れる場所だから。

 ベリガルク首長国の国土の殆どは乾燥地帯である。

 首都を含めた僅かな湿地に人が集まり、そこで営みを送っている。


 その一つがここ水の都。

 あくまでも行商達の通過点であり、終着点ではないが、国内の行商のその殆どがここを通ることもあり、情報集めには打って付けという結論に至った。


「何もないわね。って!アンタも足を使いなさいよっ!」

「大丈夫」

「何がどう大丈夫なのよっ!?」


 オーラに守られているとはいえ、暑い中情報を集める為に冒険者ギルドや商人ギルド、さらには市場へと毎日のように足繁く通っているのはセフィリアただ一人。

 そんなセフィリアをレイチェルはベッドに寝転んだまま出迎えていた。


「まだ五日。もう少し粘る」

「…だから、アンタはなにもしてないわよ」


 何もしていないようで、レイチェルも少しは頑張っている。


「私はジークリンドを直接探してる。セフィーは情報集め。わかった?」

「何もしてないじゃないっ!?」

「してる。ジークリンドが近くにいれば、私の鼻は誤魔化せない」


 そう。少しだけ。

 それは何もしていないのとほぼ同義だけど。


「そう。わかったわ。じゃあ、美味しそうな香りがしてた屋台には、私だけで行ってくるわね」

「待て。それは行く。ズルはダメ」

「ズルしてんのはアンタよっ!!」


 吸血種も普通に食事を摂る。

 身体を構成している物質は人と同じなのだから、栄養は摂らないといけない。

 摂らなければオーラが代用として使われて、オーラ不足による吸血衝動が待っているのだ。


「寝癖」

「自分で直しなさいよっ!?」


 今日も仲のいい二人だった。













「どうするのよ?」


 あれから五日経ったが、本人どころか有力な情報すら得られなかった。


「むぐぐ…この肉、硬い…」


 今は湿地帯である水の都の市場にて、情報収集の最中。何の情報かは不明だが。


「ごきゅ。…ん。これ以上、待ってても仕方ない。東に向かう」

「アルバートが西だから…その反対ね。わかったわ」


 湿地の上に作られた街。

 石で組み上げた土台の上に木の板が並べられ、それがここの地面となる。

 つまり、足元の向こう側は水溜まり。


 これは涼しさを得る為と生活していく上での最低限の湿度、それと貴重な水が蒸発することを防ぐ目的でそう作られている。


「大陸北東で一番大きな国は帝国。そこに行くまでに見つかればいいけど、見つからなければそこまで向かう」

「大陸横断ってことね。どれくらい掛かるのかしら?」


 元アルバート王国は大陸北西部に位置している。

 そしてここは中央よりではあるものの、まだ北西部の国。


「情報を集めながらだから、一年は掛かる」

「そんなに……わかったわ。さっさと見つけてしまいましょう」


 何も考えず向かうだけであれば、この二人なら二ヶ月以内には辿り着けるだろう。

 しかし、目的は帝国ではない。


「ここで何も見つからなかったから期待できないけど、首都経由で向かう」

「わかったわ。早速だけど、今からよね?」

「明日から」


 レイチェルの時は無限。

 セフィリアの時は有限。

 ジークリンドの時は有限。

 レイチェルの我慢も有限。

 つまり、時間には限りがあるのだ。


「何でよ?」

「明日の朝市に、ここでしか食べられない幻のフルーツが入荷されるから」

「…じゃあ、仕方ないわね」


 食べ物は、偉大だ。














「聞こえたわよね?」


 水の都を出立してから二ヶ月。

 首都でも何の情報も仕入れられなかった二人の姿は森の中にあった。

 ここは既に首長国の国外。

 そこでセフィリアは異変を伝える。


「あーあー、何も聞こえない。あーあーあーあー」


 レイチェルは真面目だ。

 真面目に抵抗している。


「聞こえたわよ。行くわよ!」

「また…時間の無駄…」


 それでも着いていくところが、レイチェルクオリティなのだろう。

 面倒見が良いというか、結局放って置けないというべきか。


 道無き道の森の中を駆けるセフィリアの視界に、音の発生源が飛び込んできた。


「人…と人?」

「騎士と長耳族(エルフ)

「そう。アレが…」


 飛び込んできた光景は、人同士が争っているものだった。

 片や金属鎧を纏った騎士と、片や簡素な布を纏っただけの者達。

 エルフは裸足で弓を持っているが、その弓では金属には歯が立たない。

 代わりに、軽さを利用してうまく立ち回っているように見えた。


「ただの争いなら、私達の出番はなさそうね」


 ここへ来るまでに、一体何回の人助けをしてきたことか。

 それに後悔はないが、少しだけ疲れていたセフィリアだった。

 街を出る度にトラブルに巻き込まれていたのだ。そう思うのも仕方のないこと。


「エルフに助力する」

「え?」


 騎士に助力するならまだわかるが、エルフを助けるなんて目立つことこの上ない。

 それくらい短命種は長命種に対して排他的。

 しかし、エルフとドワーフに限ればまだ友好的ではあるが。


「前にも教えたけど、長命種はいずれ自然に淘汰される。

 世界の変化に追いつけなくなるから。

 でもそれは自然に淘汰されるべき。

 エルフや私達が存在している理由が、まだこの世界にはあるはずだから。

 だから、護る」

「わかったわ。でも、争ってる理由によっては…」

「わかってる。それは後で聞く」


 その言葉にセフィリアは頷いて応える。

『護る』。つまり、この場では殺さずに制圧するという意味だ。


 条件は厳しいが、味方にはレイチェルがいる。

 セフィリアに不安はなく、争っている現場へと駆け寄る。


「双方武器を降ろしなさい」

「何奴!?」「女?!」「構わん!邪魔者は殺せ!」

「決まりね」


 騎士の背後から現れたセフィリア。

 場は一瞬の膠着を見せるも、直ぐに切り替えた辺り騎士達の練度は低くなさそうだ。

 騎士の数は八。対するエルフの数は見えているだけで六だ。


「エルフの民よ!助力するわっ!」

「何!?人族が…信用出来るかっ!」


 仮想味方に声を掛けるも、返ってきたのは敵対する言葉だった。


「構わないわ。はっ!」


 セフィリアをただの少女と侮りエルフ達に向き直った騎士達。

 その背後から鞘に入れたままの剣をセフィリアは無防備な背中を見せる一人の騎士に振り下ろした。


「がっ!?」

「おいっ!?」「くそっ!?コイツやりやがった!」


 騎士達は騒ぐが、形勢は確実にエルフ達へ傾く。


「『草原の(いかずち)』」


 騎士達がエルフとセフィリアに注視した瞬間、森の中に閃光が走った。


「ぐぎゃ!?」「がっ!?」「びぎぃっ!?」

「今」


 騎士達の呻き声の後、澄んだ少女の声が森へ木霊した。


 その声にいち早く反応したのはもちろんセフィリア。


「はあっ!」

「ぐえっ!?」「がはっ!?」「うっ!?」


 レイチェルの使用したバトルツールにより、金属を纏う騎士達は痺れて動けなくなった。

 その隙にセフィリアがさらに三人を無力化する。


「今なら逃げても良いわよっ!さあ、どうするの!?」


 騎士の数は残り四人。

 倒れている数と同数である。


「ふざけるな!人族!助力は感謝するが、見逃して何になる!?」

「そうだ!コイツ達は子供を攫うような輩。またやってくるに違いない」


 形勢が完全に逆転したエルフ達は強気に出る。

 しかしその発言がこの場で一番強い者に火を付けた。


「『地獄の業火』」


 その言葉の後、立っている騎士達を炎が包み込んだ。


「何!?レイチェルっ!?なんで!?」

「コイツらはエルフの子を攫った。だから燃やした」


 二人は言い合うも、エルフ達は動けないでいた。

 その牙が自分達に向いたらと、その瞬間でそう考えてしまったのだ。

 一度恐怖を覚えると、人である限りそれを払拭することは難しい。


「そう…コイツらはどうすんのよ?」


 人を殺した。

 記憶をなくしている為、初めて殺人の現場に立ち会ったセフィリアは、少し気持ちが揺れるも、自分がエルフの立場なら同じことをしただろうと、一定の理解を示した。


「決まっている」


 自分達のことなのに勝手に決められている。

 それでもエルフ達は、この少女達の動向を窺うことしか出来なかった。

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