表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/78

忠誠の証

 






「課外授業に参加したい…だって?」


 学園生活にも慣れた頃、特別授業というものの存在を知った。

 それは立候補した者の中から教師が選んだ生徒だけが参加出来る、帝都の外で行う課外授業。


「はい。見聞を広める為、それと経験です」

「それはわかるけどね…皇子皇女が参加した前例はないんだよ?理由はわかるよね?」

「はい。魔獣及び誘拐の危険が高いからです」


 私には予定があるの。

 一人で無理なら仲間を集めるという予定が。

 それに、実際経験を積めば強くなれるでしょうし。


 安全な課外授業でどれほどの経験が積めるかは謎だけど。


「そうだ。アメリア。君にもしものことがあれば、私とエリザベスはどうにかなってしまう。どうか、諦めてはくれないだろうか?」


 泣き落とし。

 単純だけど、効果はある。


 そこに情があればね。


「お父様。もし、私が皇太子になることがあれば、その時はどうされるのですか?

 シュナウザーに叛意がなくとも、周りは勝手に動きます。

 その時、危険を冒した経験があれば、多くのことを切り抜けられると思いませんか?」


 お父様は、明らかに弟ではなく私に帝位を譲ろうとしている。

 それは遠い先の話だけど、立太子はそう遠くもない。


「耳で聞くより、何倍もの経験を得られます。それも全くではありませんが、比較的安全に」

「…しかし……」


 自分の欲や我儘ではない。

 そう言われると反対することは途端に難しくなる。


「私は強いです。まだ近衛騎士には及ばないまでも、その辺の騎士に遅れは取らないと、剣聖様からのお墨付きがあることをお父様もご存知ですよね?」

「…わかった。その代わり、エリザベスを説得しなさい。わかったね?」

「ありがとうございます。これで益々帝国は安泰になるかと」


 自分の評価も他人の評価も、等しく情報を集めている。

 それはテリトリーの恩恵。

 この力のお陰で私の自己評価は揺らがないし、人が何を欲して何を嫌っているのかもわかる。


 ただ、帝城内での盗み聞きに限ってだけれど。


「それでは、お父様。また晩餐で。失礼致しました」


 挨拶を終え、執務室を後にした。

 目指すは後宮最奥の間。


 ある意味でお父様より御し易く御し難い、お母様の待つ場所へ。











「あら。シュナウザーじゃない。こんな所で、どうしたのかしら?」


 お母様のいる場所まで後少し。

 そこで弟を見つけた。


「剣の稽古です」

「そう。無理はしないようにね?」


 そういって、言葉少なの弟の頭を撫でる。


「お姉様」

「な、何かしら?」


 向こうから会話を振ってくるなんていつ振りかしら?

 それくらい稀な出来事だったのでつい驚いてしまった。


「お父様とお母様は頑張れと言い、お姉様は無理をするなと仰る。

 僕はどうすればいいのでしょう?」


 お父様とお母様が私に頑張れと言ったことはない。

 私がシュナウザーへいつも言うように、無理はしないでと言われ、同じく困ったもの。

 でも、私と弟は違う。


 弟は板挟みで困っている。

 私は邪魔をされ困っていた。


「シュナウザー。それは貴方が決めることよ」

「僕が?」

「ええ。貴方の人生だもの。皇族だからとか言う連中は無視しなさい。

 みんなは貴方ではないし、貴方を理解しようともしていないのだから」


 この群れに生まれた事実は変わらないけど、それからの人生は弟が選んだものであって欲しい。


「貴方は時として可愛げがなく無愛想に見られているわ。

 でも、私は知っている。

 ただの一度も文句を言わず、ただの一度も我儘を言わない。

 誰の悪口も、誰のせいにもしない。

 貴方は既に自分の意思で動き出しているわ」

「僕の意思……わかりました」


 撫でていた手を離すと、弟は立ち去っていく。

 相変わらず小さな背中だけど、それでも城の誰よりも逞しいと私は感じていた。












「それが条件です。これ以上は譲れませんわ」


 とても怒っている。

 怒られるようなことはしていないのに、する前から怒っている。

 不思議。


「わかりました。こちらからお願いしてみます」

「…ええ。ですが、くれぐれも安全だけは」

「わかっています。これもお国の為。では、失礼します」


 条件付きだけど、お母様から許可を得ることが出来た。

 次はその条件をクリアする為に向かうわ。








「や!せいっ!はあっ!」


 やってるわね。


 訪れたのは後宮と王城の間にある中庭。

 そこでは剣を必死に振る弟の姿と、それを見守る剣聖の姿があった。


「これは皇女殿下。如何されましたか?」

「貴方に用が有って来たの。と、その前に。弟はどう?」


 私が言葉使いに気を配るのは、大勢の目がある時と、両親の前でだけ。

 それ以外で気を付ける意味はないと学習した。


「うむ。中々に上達されましたな。しかし、殿下や同年代の強者と比べると、まだまだ見劣りします」

「そう?私とは少し見解が違うわね」

「ほう?どう見られているので?」


 剣聖のその言葉には曖昧な笑みで答え、本題を切り出す。


「ところで。貴方、護衛してみない?」

「護衛?ですか」

「ええ。私、課外授業を受けるのよ」


 その瞬間、剣聖の顔色が曇る。


「殿下。実は最近、帝都近郊にて不自然な出来事が多発しておりまして」

「初耳ね。何かしら?」

「どうも魔獣と見られる死骸が多数。今までにこのような事はなく、課外授業は是非ともおやめください」


 死骸。それも普通の人では倒せない魔獣の……


「それは出来ないわ。だから、貴方に護衛をお願いしているのよ。

 受けないと後悔するかもしれないわよ?」

「…皇族をお守りするのが、私の勤め。是非もなく」


 剣聖を脅してでも行く価値はあるのかしら?

 でも異変があるのはいいことね。

 そこにはきっと何かがあるから。


「ありがとう。貴方ならきっと、そう言ってくれると信じていたわ」

「皇女殿下の御心のままに」

「それはそうと。やっぱりシュナウザーは凄いじゃない」


 先程までと変わらず素振りをしている弟。

 五日ほど前に見た時と比べ、力強さが上がっているように見えた。


「確かに。昨日までとは別人の様ですな。これまでとは違い、練習に熱が入っている模様。

 男子三日会わずと言いますが、皇子殿下は一日で変わられた。

 流石アメリア様の弟君ですな」

「…そういうところよ」

「なにか?」


 何でも。

 剣聖が剣の達人であることに疑いはない。

 でも、人に何かを教えるのは下手みたいね。


「姉上!どうでしたか?!」

「最後の方は少し力み過ぎていたわ」

「…そうですか」


 元気に駆け寄るシュナウザー。

 こんな姿が見れるとは、弟が生まれて初めてのことじゃないかしら?


「それ以外は良かったわ。シュナウザーはきっと強くなれる」

「本当ですかっ!?姉上、ありがとうございます!」


 才能だけで言えば、私よりもシュナウザーの方が多くの才を持っている。

 私と弟の違いは、確たる目的や目標を持っているかどうか。


 そこさえ埋まってしまえば、シュナウザーに死角はない。


「ところで、何故呼び方を変えたの?」

「も、申し訳ありません」

「怒ってなどいないわ。ただ可愛い弟の変化が姉として気になっただけよ」


 シュナウザーは可愛い。

 これが前世で終ぞ持てなかった母性本能というものなのだろうか?


「剣聖様。私達は戻ります。では、ご機嫌よう」


 ここには弟の目がある。

 だから言葉使いを改め、剣聖へと別れの挨拶をした。







「それで?何があったの?」


 初めて入る弟の部屋。

 そこには生活に必要なもの以外、何もなかった。

 これが普通なのかしら?

 お母様達のお部屋には沢山の宝石や雑貨があったわ。

 考えたところで何が普通なのか、私にはわからないでしょうね。


「…言わないとダメでしょうか?」

「いえ?それも貴方の好きにすればいいと思うわ。考えなさい」


 この子は命じられれば何でもする。

 そこに一切の疑いはないけど、ただ感情もない分、成果も薄い。


 好きにさせれば良いのよ。

 お父様もお母様も。

 ただ私を好きなようにさせてきたのは、それが二人にとってはして欲しかっただけのこと。


 シュナウザーは放っておくべきだった。

 私がしてきたことを真似させるべきじゃなかった。


 させるにしても、自由な時間をそれ以上に与えてやるべきだった。


 それが群れの長としての正解。


「…姉上だけなのです」


 考えた後、シュナウザーは俯きながら言葉を紡いだ。


「私のことを皇子としてではなく、一人のシュナウザーという人として、また一人の弟として見てくれたのが」


 それはそう。

 貴方は貴方であって、他の誰でもないのだから。


「ですので、敬意を持って呼ばせて頂きました。姉上、と」

「そう。私はいつでも貴方の味方。とまでは言い切れないけど」


 ふっと笑いながら伝える。


「でも、他の雑事よりは大切にしているわ。少なくとも、貴方以上に関心を持てる人には今のところ出逢っていないわね」


 今世では、ね。


「貴方には私を上回る才能が沢山ある」

「それを伸ばせと?」

「いいえ?それも好きになさい。才能がないからしてはダメということもないわ。

 でも、貴方は見つけないといけない。

 打ち込める何かを。

 こうありたいと強く願う心を。

 それが、貴方にとって何よりの力となるから」


 前世の私は末っ子で、兄弟から搾取されるだけの惨めな存在だった。

 いつも小屋の隅で震え、みんなと同じタイミングで食事を摂ろうとすると威嚇され。

 残った僅かばかりの餌を貪る日々を送っていた。


 だから、私は間違えない。


「私は…僕は、姉上の力になりたいです」

「私の?」

「はい。今は役に立てませんが、必ず力をつけ、お役に立ってみせます。

 だから、見守っていてくれませんか?」


 やはり正解だった。

 あの時、私が欲しかったもの。

 それをくれるなら、私は何にでもなれたもの。


「いいわ。見せてみなさい。貴方の想いを」

「はっ!私の剣は、姉上の為に」


 騎士が叙任される時、陛下へ行う口上と所作。

 それをシュナウザーが行う。


 私は小さな騎士を手に入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ