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討伐報酬

 






 岩場を切り拓いて造られたこの街道に、常人が使えるような逃げ場は存在しない。

 両端は岩に囲まれており、低いところでは平坦だが、高いところでは3m以上の岩の壁が道の両端に聳え立つ。

 壁が低く平坦な岩場の部分を使えば逃れるように思えるが、道を外れ岩場を越えるとそこには砂漠が待っており、そこでは馬や馬車は走ることなど出来ず、動きの速い魔獣からは決して逃られるものではなかった。


 今回、セフィリア達が目撃した現場は岩の壁に囲まれた場所。


 そこでは全長10mはあるだろう巨大な蛇の魔獣が、いくつもの馬車が連なるキャラバンを襲っていた。


「『ストーンシールド』」


 バトルツールを使う時、詠唱は不必要。

 だが、連携の為に決められた言葉を連ねることは何ら不自然ではない。


「きゃぁぁっ!?……あれ?」


 大蛇に襲われる寸前。

 十歳程に見える少女は、壊れた馬車の隅で伏せつつその時を恐怖していた。


 馬車は幌馬車。

 その幌は戦闘により吹き飛んでおり、少女を隠すものはなくなっていた。

 しかし、巨大な影に包まれた少女は不思議に思う。


 痛くない、と。


「ナイスッ!」


 突如として地面から迫り上がってきた巨大な岩の壁が大蛇の行手を拒み、その動きが制限される。

 魔獣といえど、蛇は蛇。

 その視力は低く、また魔獣に成り立てだったのだろう。

 そのオーラの練度も低いことが功を奏して、何が起こったのかわかっていない模様。


 それを見たセフィリアは脚に力を入れ・・・飛んだ。


 ザシュ…


 地面から3mも高い位置にある蛇の頭。

 その頭上を通過する瞬間に、前方へ一回転し、その回転力を利用した一撃で大蛇の首を落とした。


 トッ


 それだけの曲芸であっても、セフィリアにとっては全力ではなかった模様。

 特に着地を乱すことなく、静かに舞い降りた。


「助けに来たわ!…といっても、もう終わったけど」


 意気揚々と告げる言葉。

 最後は尻すぼんでしまったが、それでも構わなかった。


 セフィリアの目的は、だらしなく口をぽかーんと開けて蛇とセフィリアへ視線を交互に向けている彼等を助けることだったのだから。










「ありがとうございました。仲間にも物資にも少なくない被害は出ましたが、こうして私達が生きていられるのは貴女方のお陰です。

 お陰で弔うことも出来ます。

 キャラバンを代表して厚く御礼申し上げます」


 半壊しているとはいえ、元は大きなキャラバンだったことが窺える。

 恐らくどこかの大店の関係者なのだろう。

 言葉遣いも丁寧で、セフィリアとしては満足のいった形だ。


「お礼はお金で」


 その空気をぶち壊すのは、もう一人の役目。

 本人に自覚はないが、人に教えることが好きなレイチェルが子供の悲鳴を聞いて心配していたのは事実。

 だが、そこは百戦錬磨の冒険者。

 実利を逃すほど甘くはない。


「勿論にございます。お礼はこちらで足りますかな?」


 じゃら…


 渡されたのは金子袋。

 中には銀色がいっぱいと金色が少しだけ見える。


「それと…助けて頂いて更にお願いするのは厚かましくもあり恐縮なのですが…」

「じゃあ、言わなくていい」


 レイチェルはこれまでの長い人生で、こんなこと五万と経験してきた。

 何が言いたいのかも確信に近く予想できている。


「レイチェル。聞くだけ聞いてあげれば良いじゃない」

「セフィー。それが貴女がトラブルメーカーたる所以」


 水と油、ではなく。

 どこか似た所を持つ二人は啀み合う。


「で?なによ。言いたいことがあるならさっさと言いなさい」


 折れたのはレイチェル。

 レイチェルは直近に組んでいたパーティでも似たようなことで啀み合ったことがあり、それを教訓にした形だ。


(こういう時、カーバインは頑固だった。セフィーはそれ以上な気がする)


「あの…実は護衛の冒険者が全滅してしまい…」

「そう。それは残念だったわね」


 実にあっさりしたもの。

 家族を皆失ったセフィリアにとって、赤の他人が赤の他人を失ったと聞かされても動揺は出来なかった。同情はしているものの。


「それで…御二方はとてもお強い。さぞご高名な方なのだとお察しいたしますが、何分不勉強の身、そうとは知らず恥ずかしい思いをしております」

「お世辞は必要ないわ」

「はい…街までの護衛をご依頼出来ないかと」


 セフィリアが住んでいた国である元アルバート王国は魔獣の被害が比較的少ない地域にあった。

 それでも旅には護衛が付き物。

 こうして頼んでいるということは、この辺りには魔獣が多いということだ。


「レイチェル。どうする?」

「貴女が話を聞いたせいでロスが出る。報酬は私が多めにもらうから」

「いいわ。というか、私お金を触ったことがないの。貴女が全部管理してちょうだい。

 私は生活費と旅の資金、それと武器の費用さえそこから出してくれたらいいから」


 王族は欲しいものがあれば手に入れ、それ以外に頓着がない。

 金銭に執着すると下品と思われるからという理由もあるが、覚えることの多い王族が無駄なことを覚えないで済むという側面が大きい。


「そう。じゃあ、貴女が管理して」

「何でよっ!?人の話聞いてたのっ!?」


 セフィリアはレイチェルのことをお金好きだと思っていた。

 ただそれは勘違いで、自立しているからこそ身を守る為にそうせざるを得なかっただけ。

 過去には複雑な計算が出来ず、依頼料を誤魔化された苦い経験もしている。


 それがお金に対してしっかりしているレイチェルを作り上げていた。


「もし、離れてジークを探す時が来たら困る。今から実践で学んで覚える」

「……わかったわよ」


 セフィリアは帝王学により、物価なども叩き込まれているので、すぐに対応出来るようになった。

 が、それは少し先の話。


「いいわ。街までの護衛依頼、受けてあげる」


 すると、返事が来るよりも早く、セフィリアの脳天に激震が走る。


「馬鹿。内容と依頼料を聞いてから」

「いっっったぁ……」


 セフィリアの足元に拳大の岩が転がり落ちる。

 レイチェルがバトルツールを使いセフィリアの頭上に創り出したものだ。


 その速度はあまりにも速く、警戒の為テリトリーを広げていたセフィリアですら感知出来ないほど自然な動作で生み出された。


 普通、痛いでは済まないだろうが、こちらも人外の存在になりつつある吸血姫。

 痛いだけで済んだのはレイチェルの手加減とセフィリアの頑丈さあってのものだった。


「……依頼はここと首都ベリガルクの中間地点にある水の都(オアシス)までの護衛です。

 料金は金貨十枚で如何でしょう?」


 このキャラバンのリーダーを名乗る商人の初老の男性は、仲間割れかと心配になるものの、話をさっさと纏めてしまおうと動いた。

 時は金なり。

 二人がプロの冒険者であるように、この商人もその道のプロ。

 時間を無駄にすることはなかった。


 それを聞いたセフィリアは確認の為レイチェルへ視線を送ると、頷きが返ってきた。


 貨幣価値を知っていても、地理や馬車旅でどれくらいの時間がかかるのか、それと『二人の価値』がわからなかったのだ。


「受けるわ。その依頼」


 こうして、セフィリアにとって初めての依頼が始まった。





「キャシーっていうの。おねえちゃんは?」


 栗色のウェーブがかった髪を持つ少女が、馬車に乗り込んだ二人へ自己紹介をした。

 急な同乗者。

 ましてや馬車の数は先程までの2/3で、かなり狭い思いもしているが、少女に嫌そうな素振りはない。


「セフィーよ。こっちが…」

「レイチェル」

「セフィーお姉ちゃんにレイチェルちゃんね!わかった!」


 それは、二人が命の恩人だと理解しているから。

 少女の年齢は十歳。

 見た目年齢十五歳のセフィリアはお姉ちゃんで、精神年齢二百歳超えのレイチェルはちゃん付け。


「私もお姉さん。間違えないように」

「え?そうなの!?レイチェルちゃん、私と同じでちっちゃいから同い年くらいだと思ったよー」


 何処がとは言えない。

 何がとも言わない。


 ただ、そこに気付いたセフィリアが笑い、レイチェルはムキになっていた。


 ただそれだけの旅だった。

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