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英雄は突然現る

 





「速すぎよ…どんなバ……」


 息を切らしているセフィリア。

 息も絶え絶えのその言葉だが、決して舌が絡まったわけではない。


「危ない。危うく殺すとこだった」


 バケモノ。

 その一言を止めたことが、セフィリアの目の前で氷の刃が止まったことと繋がる。


「…それじゃ死ねないわよ」

「大丈夫。これはセフィーに刺さった瞬間、こうなるから」


 レイチェルがそう言うと、氷の刃は四方八方に広がる。

 それはまさに大輪の氷の華が咲いたかのようだった。


「何が、大丈夫なのよ……」


 それはそう。

 しかし、これが二百年以上を生きるレイチェルなのだ。


「森を抜けた。後は歩く」

「え?なんでよ?」


 道無き道を走り抜けた二人は、見知らぬ街道へ辿り着いていた。

 道無き道でアレほど速く走れたのだ、整備された道ならもっと速い。

 セフィリアは不満ではなく、疑問を口にした。


「私達は人族から嫌悪されている生き物。目立つと厄介」

「ああ…でも、レイチェルは強いじゃない?蹴散らせば良いのよ」


 レイチェルを上回る単純な思考回路。

 自分より長命種らしいそんなセフィリアを見て、レイチェルは珍しく微笑んだ。


「それも面白いけど、だめ。人族を侮った結果が、今の世界。

 長命種は自然と静かに隠れて生きる道を選んだ。

 つまり、そういうこと」


 大昔、吸血種やエルフ達長命種は短命種を舐めていた。

 その結果、世界の隅へ追いやられてしまった。

 短命種が生存競争に勝てた理由は二つだけ。


 一つは、その繁殖力。

 即ち、数の暴力。

 一つは、進化の速さ。

 短命種は一万年もあれば、全く別の生き物に変化出来る。

 が、長命種には不可能。

 元々完成されているといえばそうだし、唯一の欠点らしい欠点である繁殖力を補う為には、莫大な数の世代交代を必要とする。


 つまり、色々と変われない種族であるが為に、この世界の大部分を担う短命種の変化についていけなかったのだ。


「わかったわ!目立たないようにすれば良いのね!簡単よっ!」

「…セフィーは自分が目立つことを理解出来てない」

「…レイチェルに言われたくないわ」


 どっちもどっちだ。


 片や幼女に見えなくもないレイチェル。

 片や見た目だけはお姫様なセフィリア。


 どちらも中身は真反対なのだから。


「でも、私は目立ってなかったわ!」

「それは嘘。セフィーが目立たないはずない」

「本当よ?お城でも、肩書きの割には誰も注目しなかったわ。お兄様やお姉様の方が目立っていたわね。」


 そこでレイチェルは顎に手をあてて少し考える素振りを見せる。


「わかった。ジークリンドの所為。セフィーの側にはずっとあの子がいたから。それじゃあ相手が一国の主だろうとも、誰も目立てない」

「そう言われると…そうね。やはりジークね」


 やっぱり凄い奴だわ。


 セフィリアはジークリンドを深く認めている。

 ただ、十三歳当時のセフィリアに恋心はなく、あったとして、それが恋心であるとは気付けない。

 それくらい子供だったのだ。


 しかし、今は少し違う。

 記憶は十三歳当時のものだとはいえ、身体が違うのだから。

 精神は肉体年齢に引っ張られることが多く、セフィリアも例外ではなかった。


(ジークのことを考えると、なぜ胸が痛むのかしら…)


 声に出せない疑問には、誰も答えようがなかった。












「建物が石で造られているわね。城もそうだけど、これは普通の民家みたいだし…興味深いわ」


 所変われば品変わる。

 二人が辿り着いたのはとある田舎町。

 町の名は『最果てのフィーン』と呼ばれていた。


「ここの昼は暑い。その為、断熱性の高い石を建材に利用していると聞いた」

「レイチェルは博識ね。流石ジークの師匠だわ」

「あの子は変わってるだけ。本物の神童は私の方」


 拘りがあるらしい。

 セフィリアもそこには突っ込まず、目的の場所を目指した。


「アレかしら?」

「そう。アレが冒険者ギルド。ここの建物は変わってるけど、あの看板は大陸共通だから覚えておくことを勧める」


 レイチェルが勧めることは全て覚えておかないとならない。

 それ即ち、死に直結することが殆どだったから。

 セフィリアは疑うことなく、二振りの剣で十字を描いているその看板を目に焼き付けた。


 カランカランッ


 ドアベルがなる。

 それもセフィリアにとっては初めての体験。

 興味は湧くが、それを押し殺してレイチェルの後について行く。


「この子の登録手続きをお願い」

「はい。では、こちらをご記入の上お待ち下さい」


 紙ではなく板が渡される。


「これでいいかしら?」

「問題ない。後は身分証を受け取るだけ」


 国を出奔しているセフィリアに身分はない。

 故に、誰でも入ることが可能な辺境の田舎町であるここを目指していたのだ。


「セフィーさん。こちらが冒険者証になります。失くされると二度までは再発行可能ですが、その度に手数料がかかることはお忘れなく」

「ありがとう!」


 元気よく返事をし、これまた初めての身分証をセフィリアは手にした。

 それをマジマジと見つめ、そして笑みを深めた。


 それを見たレイチェルは彼女の若さと無垢さを改めて知り、優しく微笑むのだった。









「で?依頼を熟すのよね!?」


 冒険者ギルドを出て、町の広場に乱雑に置かれている岩へ腰を下ろした二人は、今後の予定を立てることに。


「依頼は受けない」

「何でよっ!?お金も必要でしょっ!?」


 旅には金がかかる。

 それくらいの常識は身に付けていた。


「お金は必要。でも、不必要に持つと荷物になる。物理的にも精神的にも」

「どういう意味よ?」

「若い女が金を持ってると知られたら、何が起こる?」


 レイチェルのこの話し方はまさに教育者のそれだ。

 教師、親、それらが子へ学ばせる時に行うことに酷似している。


 自身で考える。

 そのことの大切さを教えているのだ。

 無意識。

 それがレイチェルという人間。


「…襲われる?」

「そう。殆どがそれ。中には私達の強さを知り、あの手この手を画策してくる面倒なのもいる。

 そんなのを一々相手にしていたらキリがない」

「……わかったわ……」


 理解は出来たが諦めきれない。

 セフィリアの顔にそれを見たレイチェルは言葉を続ける。


「でも、お金は必要。

 それは、道中の魔獣を倒して、ギルドなどで換金することで得る予定」

「え?」

「その時、オーラの回復が出来るセフィー任せになると思う。良い?」


 初めにこれを提案していれば、納得させることに時間が掛かっただろう。

 だから、最初にムチを使い、最後に飴を使った。

 その飴の味は、確かに美味しくなっていることだろう。


「勿論よ!任せて!」


 セフィリアは元気いっぱいに応えた。











 小さな町に用は少なく、それはセフィリアの身分証を手に入れる為だけ。

 二人は早々に最果てのフィーンを発っていた。


 そんな二人の姿は街道にあった。


「この国の首都を目指しているのよね?」

「そう。ここベリガルク首長国の首都ベリガルクが当面の目的地」


 首長国とは君主制の一つ。

 王と呼び名は違うが、実質的な違いは多くない。

 セフィリアもそれは教わっていたので知っている。

 ただ、アルバートとの国交はないので、国の名前にはピンと来ていないが。


 街道は整備され、馬車がすれ違うには十分な広さもある。

 ただ、大岩が多く、視界はそれほどよくはない。

 誰かが陰に隠れていても、その存在には気付きようもない。

 常人であれば。


「セフィーがテリトリーを使えたのは不幸中の幸い」

「私と出会ったことを不幸みたいに言わないでよっ!」


 セフィリアは怒りのままに腰の剣を抜いて斬りかかるも、それは途中で止まる。


「出会ったことじゃなく、お荷物……」

「……何かあったわね」


 セフィリアが止まったのはレイチェルが何かする前。

 それよりも前に街道に異変が生じて、二人の意識が其方へと向いた。


「行こう」

「え?行ってもいいの?」


 異変は悲鳴だった。そこには明らかなトラブルが待っている。

 隠れ潜む吸血種は目立ってはいけない。


 しかし、セフィリアは元王族。為政者としてではなく、帝王学を叩き込まれ育ったその性格は国の為に形成されている。

 民を放っておけない。

 それは生まれながらのリーダーとしての自覚。


 しかし前者を重視して、その想いに蓋をしたはずだった。


「金の匂いがする。それに、子供の声だった」

「そうね。お金は必要よね!子供はどうでも良いけど!」

「嘘」


 五月蝿い!

 セフィリアは走り出しながら叫ぶ。







「いたっ!アレは!?」


 オーラの消費を考えず全力で駆けたセフィリアが一番に異変を視界に捉えた。


「アレが魔獣。乾燥地帯に多くいる蛇が変異したストーンスネーク。

 見た目は龍に見えるけど、違う生き物。私は襲われているキャラバンを守るから、魔獣は任せた」

「わかったわ!」


 ヒーローは危機に現れる。

 そして、その素養がある二人。


 目立たないなんて、天地がひっくり返るよりあり得ないのだった。

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