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社交デビュー

 





「アメリア。ついに明日だね?私の方が待ち遠しいよ」


 お父様は爽やかにそう伝えてくる。


「本当にあのドレスで良かったの?」

「はい。あの赤いドレスが良いです」

「アメリアは綺麗だけど、赤のドレスはまだ少し早い気がするわ…花柄のドレスも可愛くて素敵よ?」


 私の晴れ着。その色で赤は譲れない。

 それはジンが初めてくれた首輪の色だから。


「エリス、良いじゃないか。アメリアの好きにさせてやれば」

「そうですね。アメリアにはちゃんと考えがありますもの」

「お父様、お母様。ありがとうございます」


 明日、私は社交デビューを迎える。


 十一歳の誕生祝いが社交デビューの場。

 それが皇族の伝統。

 私には必要ないかなって思ってたけど、人脈は必要だと思い直したの。


 ジンを探すのに、何が助けになるかなんてわかんないもんね。













「アメリア王女殿下、ご入場」


 無駄に楽器を鳴らし、注目をわざわざ集める。

 そんなもの私には必要ないのに。


「おお…アレが噂の…」

「話に聞くよりもお綺麗だわ」


 噂はいい噂。

 悪い噂なんて遥か昔のこと。


「おい!こっちに笑いかけて下さったぞ」

「卿ではない、私にだ」


 私が目立つのは当たり前。

 これまでもそうだった。これからもそう。

 こんなに目立たなければ、今すぐにでも城を抜け出してジンを探しにいけたのに……


 無い物ねだりね。

 目立つと良いこともきっとあるはず。

 例えば、ジンに見つけてもらいやすいとか。


「皆様、初めまして。アメリア・ウイ・テリエ・ロカディリアスでございますわ」


 ここで、習った通りの挨拶を完璧に熟す。

 ほら。

 また視線が集まってくる。


「この度は、私の十一度目の誕生を祝う為にこれだけ多くの方々にお集まり頂き、恐悦至極にございます。

 細やかながらのお食事と音楽をご用意させてもらいました。

 御ゆるりとお楽しみ頂けると幸いにございますわ」


 そこで再びお辞儀をし、用意されている席へとつく。


 ここは帝城内のダンスホール。

 皇族はこのステージから降りることはなく、皇族へ挨拶したい人だけが列をなして階段の途中まで上がってくる。


「これに手をつけられないのは、拷問ね…」


 危ない。テーブルに並べられている料理の香りを嗅いでしまい、危うく涎が……


「財務大臣、ラランド卿」


 城の者が挨拶者の名前を告げる。


「ラランド伯爵家が当主・・・」


 長い挨拶は続く。

 私は無我の境地で、食欲と闘った。









「以上となります。アメリア殿下、御演奏の準備をお願いいたします」


 挨拶が終わると次の余興。

 皆は食事を摂る時間も、ダンスを楽しむ余裕もあるけど、ずっと挨拶を聞いていた私にそれらはなかった。


 水を一口だけ飲み、壇上の中央へと向かう。


 そこに飾られているバイオリンを手に取ると、ホール内は静まり返り、私の演奏を皆が傾聴した。




 パチパチパチパチ……


 演奏が終わると、その余韻を楽しんだ後で拍手が鳴り響いた。


 まばらではなく、かといって拍手喝采という程でもない。

 だけどそれは最上級のもの。


 皇族に対しての派手な発言や行動は、不敬と取られかねないから。


「流石才色兼備と噂される皇女殿下。バイオリンをあのように弾かれるとは…誰の曲だろうか?」

「恥ずかしながら私も初めて聞きましたわ。とても壮大な曲でしたし、それを弾きこなした皇女殿下もまた…流石の一言ですわ」


 耳が肥えているはずの貴族たちの賛辞の声が止まない。

 気分は悪くないけれど、褒めてくれるならやっぱりジンがいい。


 弾いたのは前世でジンがよく聞いていたクラシックっていう歌のない曲。


 タイトルも本来のメロディもあやふやだったけど、それでも何とか形にして、音楽の講師を前に一度だけ弾いたら絶賛され、この日の曲に決まったの。

 どうやら正解だったようね。


「続きまして……え?ほんとに?」


 司会役の城勤の者が言葉に詰まった。


「問題ないわ。続けなさい」

「…あの。失礼ながら、陛下の許可は…その…」

「取ってあるわ」


 不敬だと知りながらも私へと聞き返してきた。

 その内容が私の独断であれば、死罪は免れないものね。

 仕方ないわ。


 司会は姿勢を正し、良く通る声で告げる。


「続きまして。皇女殿下とレイモンド侯爵による、剣の演舞。皆様、お静かにご覧ください」


 告げられた内容によってホール内は騒然となり、舞台となる壇上の私がいた席の丁度向かって反対側に座るお母様の顔がみるみると険しくなっていく。


 既にこの余興を知っていた隣にいるお父様が宥めているけど、後でお叱りを受けそうね。

 その時は仲良く怒られましょう?ね、お父様?


「殿下。その服で構わないのでしょうか?」

「着替える間が惜しいわ」


 壇上には皇族と関係者以外が立ち入ることは禁じられている。

 つまり、侯爵は侯爵としてではなく、近衛騎士としてこの場にいることになる。


「では、副団長。開始の合図を」

「はっ!」


 これは本気だ。

 会場の人々は静まり返り、これが冗談ではないことを悟る。


「始めっ!」


 騎士の合図の瞬間、自身のオーラを最大限身体強化へと回す。

 剣聖に動きはない。

 この程度のフィジカル差なんて気にも留めていないということ。


「はぁっ!」


 だから、私は安心して必殺の剣を振り回せる。


 キィィンッ


 剣と剣がぶつかる度に、ホール内へ先程のバイオリンが奏た以上の高音が鳴り響いた。


 その度に会場中から聞こえる息を呑む音が、私の強化された聴覚を刺激する。


「そこまで!」


 演舞とは名ばかり。

 ただ私が全力で剣聖にぶつかっただけのモノが終わった。


 わぁあーっ!


「はぁっはぁっはぁっ…ふぅー」


 観客…じゃなかった。

 誕生会の来客から歓声があがる。

 これは不敬じゃないのかしら?

 まあ、お父様が喜んでいるから、多分問題ないわね。


「殿下。それで?目当てのものは見つかりましたか?」

「バレていたのね。居なかったわ。誰も私のテリトリーには反応しなかったわ」

「…強者をお探しなら、騎士を紹介しますが?」


 壇上で剣聖と言葉を交わす。

 側から見たらお互いを称え合っているように見えるのかしら?


「騎士はいいわ。私が欲しいのは…いいえ。いいの」

「…左様ですか」


 剣聖は剣の頂を目指している者の内ほんの数人だけが辿り着ける孤高の称号。だけど、侯爵は国の人間。

 彼に話せばお父様へ話がいく。


 彼は世にも珍しい誰かに忠誠を誓っている剣聖だから。


 その力は一騎当千なのに、侯爵家に生まれたばかりに彼の覇道は止められた。


 お陰で帝国は盤石。


 少し残念だったけど、探すアテは山程ある。


 私は汗を理由に早めに退席することが許された。

 それは思いもよらない幸運。


 早く…お腹を満たしたい……


 剣舞で動きすぎた影響から、我慢の限界はすぐ目の前に迫っていた。











「アレはなんですかっ!?」


 その夜、後宮に鬼が出た。

 いいえ。

 鬼なんて生優しいものではないわ。


「い、いや。落ち着いてくれ!皿は投げるものじゃないぞ!?」


 お父様は縦横無尽に食堂を駆け回り、お母様はその場から動かず的確に皿を投擲している……


「アメリア!止めてくれ!君しか止められない!」


 悲壮感が籠っていないから無視してもいいけど、原因は私にあるのよね。


「お母様。私がお父様に無理を通したのです」

「アメリア!何で、あんな…誕生会を台無しに…」

「それは違います」


 お母様は勘違いなされているご様子。


「お母様も見ていらっしゃいましたよね?臣下達の驚き、喜んでいた顔と声を。

 私は主賓です。

 お客様を楽しませ喜ばせ、出来たら驚かせることが役目。

 それを熟したのです。

 何ら恥じることはないと胸を張っています。

 私、間違っていますか?」


 ガシャン…


 それを聞いたお母様は、持っていた予備の皿を落とし、力無く椅子に腰を下ろした。


「…ですが…淑女たる者…」


 ブツブツと呪文を唱え出してしまったわ……


「お母様。皇室に生まれた者は、皇太子が指名されるまで男も女もありません。

 誰もが世継ぎとなる心構えでその時まで切磋琢磨するのです。

 貴族夫人方の模範となる貴族家出身のお母様には分からないかもしれません。

 ですが、受け入れてください。

 私は淑女の前に皇女でなければならないことを」

「………」


 お母様は項垂れたまま。


「…そう、でしたわね……」


 一先ずの納得は得られたようね。


 帝国は実力主義。


 それは皇太子に選ばれることも。

 つまり男児である弟がいたとしても、私も未だ候補ということ。


 だから、女だてらに剣を振ることを許された。


 私は今日も、目的の為に歩む。

 誰にも止められない。

 止まらない。


 目的地はたった一つなのだから。

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