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二人の姉妹

 






「夢じゃなかったみたいね…」


 セフィリアは昨日と同じ天井を見つめると、寝起きにそう呟いた。


「ログハウスと言ったかしら?中々趣のある建物ね」


 この家には一つしか部屋がない。

 同じ部屋にキッチンがあり、リビングがあり、寝室がある。


 セフィリアは隣を見る。


「吸血種も寝るのね。知らなかったわ」


 隣のベッドには、銀髪の少女レイチェルの姿があった。

 ぐっすりと寝ており、起きる気配はみられない。


「一週間も寝ていたらしいから、身体を動かそうかしら」


 固まっている身体を起こすと、少しふらついてしまう。

 それを馴染ませると、立ち上がり外へ向かった。


 ガチャ…

 ギィィ……


「な、に…ここ?」


 どこではない。

 何なのか。


「雲の上?いえ、まさか…」


 扉の向こうには、雲が広がっていた。


「足は…着く。地面はあるようね」


 恐る恐る外へ出てみると、その全容が明らかとなった。


「山の頂…上台地といったところかしら?」


 ログハウスはその中心に建てられており、周りには何も無く、端まで進むと絶景が広がっていた。


「そう。ここは人のいない上界」

「ビックリしたじゃない!いるなら声を掛けなさいよ!危うく落ちるところだったわ!」


 背後から突然掛けられた声により、セフィリアは足を踏み外しかけていた。


「ここから落ちたくらいじゃ、死ねない」

「死ぬわよ!?どれだけ高いと思ってるのよ!」

「吸血種は死なない」


 高さは1,000mを優に超えている。


「貴女がここから落ちれば、まずバラバラになる。

 でも死ねない」

「…何したら死ぬのよ?」


 怖いもの見たさ。

 知りたくもない真実だが、聞いてしまうのが人間。

 好奇心は猫も殺すのだ。


「飢えて死ぬ。口が無事でも、胃が無ければ吸収できない。

 私達吸血種は、首を切り離されても暫くは生きれる。

 でも、身体を治そうと勝手にオーラを使い、そのオーラが尽きて死ぬ。

 人はオーラが尽きても死なない。

 どっちがよかった?」


 究極の選択。

 それを問われたセフィリアは、鼻で笑ってすぐに答えを告げる。


「吸血種にならなければとっくに死んでいたわ。そこに後悔はない」

「じゃあ、何に後悔する?」


 これは単なる質問。

 時間を持て余しているのか、興味があるから質問をしたのか?それは表情の乏しいレイチェルを見ても判断がつきそうにない。


「わからないまま死ぬことよ。この二年で私とジークの間に………」

「どうした?」


 急に顔を赤くして黙るセフィリアに、レイチェルは疑問を抱いた。

 これは本当に知りたいようだ。


「何でもないわよ!ああっ!もうっ!ジークのバカっ!どこいったのよっ!」

「わからない。でも見つける。あんなに美味しそうな獲物を逃す私じゃない」

「…それはそれでどうなのよ」


 二人の会話は何とか噛み合うものの、感覚はすれ違ったまま。


「そういえば、私も血を吸わないといけないのよね?」

「そう。でも、今はなりたてだから、まだまだ自然とオーラが回復する。

 その間は血は必要ない」


 時が経ち、身体が完全に吸血種になると、オーラの自然回復は見込めなくなる。

 そしてオーラが枯渇すると死ぬことから、極度の飢えに襲われるのが吸血種の宿命だった。


 それには何人たりとも抗うことはできず、我慢の末に最愛の人を襲うこともあるそうだ。


 我を忘れると摂取する量を見誤り、殺す必要のない人を殺してしまうことも。


「見つけても…ジークはその内、お父様と同じように先に死んじゃうのよね?」

「人は皆死ぬ。私も不老なだけで、その内死ぬ。でも、貴女は違う。多分ジークと変わらないくらいで死ぬ」

「どういうこと?吸血種は不老なのよね?」


 聞いていた話と違う。

 セフィリアに不老は必要なかったが、持っていないとも思っていなかった。

 それが顔に出ていた。


「貴女は運良く条件を満たせていたに過ぎない。

 そして、それはもうない」

「え?」

「ジークリンドのオーラを身体の回復に使ったから、もうそれがない。

 つまり、条件を満たしていない、不完全な吸血種」


 二人の営みにより、セフィリアの体内へジークリンドが残したオーラ。

 それが無くなった今、セフィリアは吸血種になる条件を満たせなくなっている。


「どうなるの?」

「どうにも?ただ血を吸う人間になっただけ。身体は丈夫になってるから少し違うけど。十中八九寿命はあるから大差はない」


 それを聞いてセフィリアはあからさまに安心する。

 それが気に入らないレイチェルは、意地悪な説明を続ける。


「ただ、ジークリンドにまた抱かれると、どうなるかは不明」

「だ、だ、抱かれないわよっ!!何で、あんな奴と…」

「それを知るためじゃないけど、ジークリンドは必ず見つける。抱かれたいなら私に言っておくといい。ジークリンドを連れてきてあげるから」


 その言葉でセフィリアは爆発し、無駄にオーラを消費するのであった。










「本当に着いてくる?」


 三日後。

 吸血種が何たるかをセフィリアへ叩き込んだレイチェルは旅支度を整えていた。

 成人するまで五年も待ったのだ。


 ジークリンドを見つけ次第、吸血種になるよう説得する気だ。

 吸血種というより、その血の味にしか興味がなさそうではあるが。


 閑話休題。

 助けたのはレイチェルだが、無許可で吸血種にした負い目は感じていた。

 だから、一人でも生きていける程度には色々と教えたようだ。

 なんだかんだ、人に何かを教えるのには向いている。


「当たり前よ。ジークに直接聞かないといけないことがいっぱいあるもの。

 伝言じゃ心許ないわ」

「大師匠を信用してない…」


 ジークリンドのことになると血の味のことしか話さない人を、セフィリアが信用するはずもない。


「ここを降りるまでは手伝う。けど、それ以降はついてこれなければそれまで。いい?」

「構わないわ!足手纏いになるくらいなら、それでいいわ!」

「結構」


 セフィリアの豪快な返事を聞くと、レイチェルの指が光を放った。

 正確には、指につけている指輪が。


「空を飛ぶ。といっても落ちるだけ。来て」

「?」


 疑問に思いながらもセフィリアはレイチェルの横に並び立つ。


「どん」


 トッ


「ひぎゃぁぁあっ!?」


 ドンというレイチェルの口から出た効果音。

 それと同時に上台地の外へ向けて背中を押されたセフィリア。

 その身体は宙を舞い、レイチェルは続いて飛び降りた。


「何すんのよっ!?」


 空で並んだレイチェルへありったけの想いをぶち撒ける。

 するとレイチェルは素知らぬ顔をして下を指差した。


「あれ?随分とゆっくりね…」


 確かに二人は落下している。

 それでもその速度は走った時と変わらないものだった。


「風のオーラツールの力。この制御は難しいから、使えてもお勧めしない」

「…しないわよ。二度と」


 一度目は不可抗力だから飛べた。

 自力では不可能だとセフィリアは諦める。


「もう着く」


 地面は目の前に迫っていた。






「ふう…流石は伝説の吸血種ね。することが異常よ」


 足が地面に着くことをこれほど喜んだことはない。

 心の中でセフィリアは五体満足であることを感謝した。


「これから貴女はセフィーと名乗ることを勧める。トラブルは御免」

「そうね…わかったわ」


 名前との決別。

 それでも、渾名のような次の名前に嫌悪感は抱かなかった。


「走る。遅れないで」

「それは得意よ」


 その言葉を、セフィリアはすぐに後悔する。

 伊達に二百年もの間、レイチェルは人の目から隠れて生きてきてはいなかったのだ。


 レイチェルはただの化け物ではない。

 逃げ足と体力も化け物だったのだ。

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