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吸血姫の呪い

 





「ん。ここ、は…?」


 赤髪の少女が目覚めると、そこは新緑の香りに包まれた暖かいベッドだった。


「私は…一体…?」


 少女は身体を起こし、記憶を探る。


「思い、出せない…」


 何があったのか?

 何故ここにいるのか?

 全ては暗い闇の中。


 ガチャ…


 少女が記憶と戦っていたその時、部屋の扉が開いた。


「起きた。どう?」


 現れたのは銀髪の少女。


「どうって……貴女は?…ここは一体……」

「一時的な記憶の混乱。血を流し過ぎたし、回復に体力も使ったから」

「え?どういう…」


 赤髪の少女は益々混乱する。


「私の名前はレイチェル・ハントレー・ザルビスパ。貴女の恩人。

 自分の名前は思い出せる?」

「恩人……私の名前は…セフィリア… セフィリア・ミスティア・アルバート。アルバート王国の第三王女よ」

「その王国はもうないから貴女はただのセフィリア」


 は?

 セフィリアの開いた口は塞がらない。


「何を無礼な!うっ…」

「その身体はまだ治りきってない。仮に治っても、貴女じゃ私に勝てない」


 セフィリアは殴りかかろうとするも、ベッドから落ちただけとなった。


「落ち着いたら話してあげる」

「……落ち着いたわ」


 セフィリアはベッドへ攀じ登ると、淵に腰をかけて姿勢を正した。


「貴女はジークリンドとどういう関係?」

「ジーク…そうよ!ジークは私の師匠よ!」

「そう」


 レイチェルはあの時の光景を思い出し、言葉を続けた。


「ジークリンドは私の弟子でもある。師匠の師匠だから敬え」

「は?…ジークの師匠?そんなちっこいアンタが?」

「口には気を付けた方がいい」


 そういうと、レイチェルは指先からオーラを飛ばす。


「痛っ!?なに!?」

「頑丈。流石弟子の弟子」


 セフィリアのおでこが赤くなる。


「次に生意気言ったら、もっと凄いことするから」


 その姿は14.5歳の少女そのもの。

 身体は細いし、背もセフィリアより五センチ以上は低い。

 だが、身に纏う雰囲気は別物だった。


「は、はい!大師匠!」

「大師匠?」

「師匠の師匠は長いわ…」


 確かに。

 レイチェルは一つ頷くと言葉を続ける。


「ジークリンドとは長い付き合い?」

「五年…程かしら?」

「貴女は何歳?」

「13…?」

「ジークリンドとの歳の差は?」

「同い年よ」


 確かに付き合いはジークリンドが初めて王都へ出向いた時からだと、正しい。

 ジークリンドはそれを知り合っただけで付き合いがあるとは認識していないから、互いの年数に錯誤がある。


 そう。レイチェルの認識とは全てが噛み合っていない。


「貴女がジークリンドと同じ歳なら、凡そ二年間の記憶が消失してる」

「…どういうこと?」

「さあ?」


 正解はわからないが、凡その検討はついている。


「今のジークリンドは十五歳。恐らく貴女も。おかしな所はない?身体の変化とか」

「…そういえば。おっぱいが大きくなってるわ。あと背も」

「背はいいけど、次に胸の話をしたら殺すから」


 レイチェルの背後に不気味なオーラが立ち昇る。

 セフィリアは息を飲み、その言葉に激しい頷きで応えた。


「じゃあ…私は今、十五歳ってこと?」

「そうなる。その失われた二年に何があったかは知らないけど、最近の大きなことなら教えてあげる」


 レイチェルはバベル王国が攻め入り、アルバート王国が滅びたことを伝えた。


「…お父様も、お母様も死んだってこと?」

「そうなる。王族は皆殺し。結末は違えど、それはどの戦争も辿る道」

「お父様っ!お母様ぁぁあっ!」


 セフィリアは膝を濡らし嗚咽を溢した。

 溜めどなく溢れる思い。


 そんなセフィリアをレイチェルはただ見つめるだけ。


 長く生きた弊害。

 人の死に慣れ過ぎたが為に、その感覚を共有…共感出来なくなっていた。


「ここからは推測も入る」


 静かになったところで、レイチェルは話を続ける。


「貴女とジークリンドが倒れていたのは、オーティア男爵領のすぐ側の森の中。

 恐らく、攻め込まれるであろう王城から貴女を逃す為にジークリンドは行動した。

 その過程で、最期の別れの挨拶をする為にジークリンドと貴女は男爵家へ立ち寄った。

 そこに現れたのがバベルの兵達。

 その時は予想外だっただろうけど、今となっては当然の結果。

 バベル軍は王都を攻める為に、援軍が来ないよう兵達を主要な街道へ向かわせていたから。

 だから、貴女達の行手をタイミング悪く阻んだ。

 何とか男爵領から脱した貴女達は、近くの森に逃げ込み、姿をくらませることに成功した」


 セフィリアの失くした記憶の部分。

 それを聞き逃さまいと、セフィリアは耳を傾け続ける。


「そこまでは良かった。でも、運が悪かった。

 バベル王国の影と呼ばれる男が、偶々貴女達を発見してしまった。

 そして、貴女はその男に殺され、それを見たジークリンドは怒りで暴走したオーラを制御することなく解き放った。

 結果は、森の消失。

 大きかった森の半分が消し飛び、残されたのは荒野と化した荒れ果てた大地。

 そこに貴女を守る様に抱きしめ続けているジークリンドを私が見つけた。

 以上」


 セフィリアは混乱している。

 それを何とか整理して、聞きたいことをピックアップした。


「聞いても?」

「答えられることなら。私は部外者、知らないことも多い」

「構わないわ」


 レイチェルの表情に変化は見られない。

 丸っ切り嘘ということはないだろう。

 どこまで信じていいかは謎だけど。


 セフィリアはそう結論を出して口を開いた。


「先ず、何故私は逃げていたのよ?私ならみんなと共に死を選んだはず」

「さあ?二年の間に心変わりすることもある」


 部外者であるレイチェルに知る由もない。


「…次に。私は死んだと言ってるけど、こうして生きているわ。どういう意味かしら?」

「死んでた。あのままだと。実際には私が見つけた時には心臓は止まり、呼吸も止まってた。

 だから、蘇生した」

「蘇生?大師匠は死んだ人を生き返らせれるの?」


 セフィリアは小さな期待を胸にしまい、質問を返す。


「誰もは無理。これは蘇生ではなく、呪いだから」

「呪い…?」


 死んだと聞かされた父と母を生き返らせられないと知るが、それよりも気になる話が。


「そう。貴女は人をやめて、吸血種になった」

「…まるで、大師匠が不死の者みたいな言いようね」


 吸血種は忌み嫌われている。

 人の血を吸って生き、その者だけ生き続けるから。

 セフィリアも御伽噺で悪役となることが多かった吸血種に良い印象を持っていない。


「そう。私は二百年以上生きる、不死の吸血種」

「っ!!そう…でも、そのお陰で、私は生き延びたのよね?」

「そう。でもおかしいと思った。今は納得がいっているけど」


 セフィリアは自身が御伽噺の悪役と一緒の空間にいることに震えたが、相手はどうやら恩人らしいと考えを改める。


「何に納得がいって、何がおかしかったのよ?」

「貴女は前に見た時、美味しくなさそうだった。

 でも、死んでた時は美味しそうだった」

「…意味がわからないわね」


 レイチェルは元々ジークリンドを狙っていた。

 見たこともない様なオーラ。

 それにより、抑えきれない吸血衝動が自身を襲ったからだ。


「貴女のオーラは変質した。原因はジークリンド。密着するくらいじゃオーラは変質しないから、性行為が要因」

「ちょ、ちょっと!何で私とジークが!?まさか…アイツ、寝込みを襲ったの!?」

「そこまでは知らない。けど、原因はそれくらいしか思い当たらない」


 寝たか寝てないか。レイチェルにとっては酷くどうでもいいことなのかもしれない。


「お陰で、貴女は無事に吸血種として蘇った。

 それだけ。理解した(わかった)?」

「納得のいかない部分も多いけど…今はそれでいいわ。そのジークは?無事なのよね?殴らないと気が済まないんだけど」


 セフィリアは王女だ。

 その貞操は守らなければならない。

 失うにしても、それは婚姻後だ。


 そう育てられ、それを守る為ならと剣術を習うことを許されてもいた。


「ジークリンドは破格の美味しさ。近くにいたら衝動を抑えられない。

 だから、腕がちぎれ掛けて死にそうな貴女をジークリンドから引き離し、吸血した後に変化しだしたから応急処置をしてここまで連れてきた。

 貴女がジークリンドと寝ていたお陰で、貴女で私は一定の満足を得ることが出来た。

 中々の美味だった」

「寝たって言うの、やめにしない?」


 花も恥じらう乙女が気にするのはその部分。


「ん?まあ、ジークリンドは吸血してないからそのまま。

 オーラが枯渇してただけで、健康体。

 次の日見に行ったら、そこにはいなかった。

 これが全て」

「魔獣に食べられていないわよね?」

「それはない。辺り一面荒野になっていて、魔獣どころか生き物が生存出来ているとは思えない。

 それに、あの辺りに魔獣は出ないから」


 全てを聞かされ、聞きたいことも半分は知れた。


 どっと疲れが出たセフィリアは、レイチェルへ断りを入れてから、再び眠りへと就くのであった。

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