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究極のアンチエイジング

 






「カーバイン様…」


 ジークリンドが食堂を去ってから暫く。

 カーバインは愛息子に拒絶され傷心のリベラを慰めようと声を掛けた。

 だが、それは無視されてしまい、リベラは独り言を呟きながら食堂を後にした。


 去っていくリベラを引き留めようと手を伸ばした状態で固まってしまったカーバインを、今度はロキサーヌの慰めの言葉が続いた。


「一体…」

「カーバイン様。天は二物をお与えにならなかったのですよ。それだけです。

 ええ。ジークリンド様にはオーラなど無くとも、他に沢山の才があるではないですか」


 カーバインの悩みはジークリンドにない。

 愛するリベラになんと声を掛けてやればいいのか?

 そればかりが思考を支配している。


(ジークは自分の力でまた立ち上がるだろう。生まれて初めて物理的に立ち上がったのも、誰に教えられるでもなかったからな。

 アイツの心配はしても、それで俺が悩むことはない。

 それよりも、リベラ……

 俺…というよりも、貴族としての責務の所為で、リベラには負担ばかりが。

 それを紛らわしていたジークという存在に拒絶されたことは、どれ程の傷となったことか…)


「レイチェル様。どうです?何か他に……あれ?」


 自分の知識では太刀打ちできないと早々に匙を投げたロキサーヌは、レイチェルへと助けを求めるも、その姿はいつの間にか食堂から消えていた。











 ◇◆◇


「師匠…貴女は…」


 振り返ると、銀髪を靡かせた少女がいた。

 その少女の瞳は金から赤へと変色しつつある。


「うわっ」


 レイチェルに押し倒される格好になるも、僕の身体はまだ五歳のもの。

 何の興奮も……いや、別の興奮は確かにある。


「…師匠は悪魔族なのですね」

「じゅる……そう。私は悪魔族」


 悪魔族とは、他全ての人種から忌み嫌われている存在。

 要は、人類に仇なす存在と恐れられているのだ。


 それでも、僕にとっては別の意味が勝る。


 だって、初めて見る人種なのだから。


 何が好きなんだろう?

 食べ物は普通なのかな?

 どうして人の世界で暮らしているんだろう?

 何か特殊な能力はあるのかな?


 などなど。

 口にしないだけで、聞きたいことは山程浮かんでくる。


 そう。現在を簡潔に表すなら、僕は猫で、好奇心に殺される状況。


 何故か涎を垂らしていたレイチェルは、それを拭うと真剣な眼差しで見つめてきた。


「でも、一括りにしないで」


 歳の頃は…十五歳くらいかな?

 少しキツい目をしているけど、美少女なんだろう。


「私は悪魔族でも稀少な吸血種。そこは混同しないで」

「うん?わかった」


 食べる。

 吸血種。

 うん……死んだかな?


「僕を食べるんですか?出来れば、もう少し生きたいのですけど…」


 この出来ればは、正直かなり小さなもの。

 成人した姿をリベラとカーバインに見せてあげたかったな。くらいの。


 それくらい僕は落ち込んでいる。

 借り物の姿でこの世に生を授かり、どうも立場上自由が少なそうだからと考えた目標が、()()()(オーラ)を習得することだった。


 結婚と子供以外、大体のことは前世でしてきたから。

 だから他は譲っても、初めてのことは譲る気になれなかった。

 負い目を感じていてもね。


 それが閉ざされた今、正直足掻く気になれない。


「変わってると思ったけど、やっぱり変わってる。神童じゃなくて変人」

「うっ…そう、正面切って言われると…くるものがありますね…」


 僕はこの世界の異物だ。

 ここは夢ではなく、ちゃんと現実としてある。

 どこかで誰かが苦しみ、喜び、嘆き…ちゃんと皆生きている。


 そんなこの世界の異物と自認していても、正面から『変人』と言われることには慣れそうもない。


 慣れる前に今死にそうだけど……


「それで、答えだけど」


 ああ。食べるのか?の問いか。


「血が欲しい。その『ギトギト』してて『ネチョネチョ』してる『ドロドロ』で身体に悪そうな血を飲みたい」

「……僕、健康体ですよ?」


 失礼な!

 今世の僕は健康体そのもの。

 早寝早起きは当然として、運動も倒れるまでしている。

 食事に関しては添加物などなく、よく噛み、よく食べ、水分も塩分も適度に摂取しているんだ。


 きっと『サラサラ』で綺麗な薄赤色の血が流れているはず。


「健康は関係ない。そのオーラがそうして見せるだけ」

「オーラ?」


 僕のオーラは人と違うのだろうか?

 うん。違うのだろうな。

 だって、誰でも一つは使えるはずの『火』『土』『風』『水』のオーラツールすら使えないのだから……


 ん?それにしても……


「オーラが見えるのですか?」

「見える。これは吸血種の特性もあるけど、私の絶え間ない努力と才能のお陰」

「えっ。ズル…」


 しまった。あまりの理不尽さに口が勝手に……


「でも、全オーラに適応しているのは、私の才能」

「はあ…」


 何だ?結局自慢話に繋がるのか?


「そんなオーラ、二百年以上生きてきて見たことない」

「え?に、二百?」

「ババァと言ったら物理的に食べるから」


 慌てて口を押さえる。

 勿論、この少女の姿を見ては、そんな言葉は出てこないけど。


「吸血種に老いはない。ちゃんと吸血することが条件だけど」

「若さを保つ秘訣…みたいなものでしょうか?」

「それは少し違う。あくまでも食事がメイン。不老はそれに付随しているだけ」


 凄いな、吸血種。

 だが、色々と腑に落ちてきた。


「それって、人限定ですよね?」

「むっ…やっぱり神童。何故わかった?」

「だってそうでしょ?ただずっと若いだけで嫌われることはあっても、それは他の長命種も同様。

 他に忌避される原因があるということ。

 それは、人からしか吸血出来ない」


 考えれば単純なロジック。

 同じく長命で見た目の若い長耳族(エルフ)は、嫌われるどころか崇拝している地域もあるしね。


「そう。他の血も飲めなくもないけど、そこから生きる為の量を得るには、腹が裂けるほど飲まないといけない」

「それは難儀しましたね…」


 初めは嫌われていなかったのだろう。

 レイチェルの性格はぶっきらぼうの様に見えるも、その反面面倒見が良く、保護者としての能力が高そうに感じた。


 それでも忌嫌われたのは、血を吸うから。

 そして、その血を飲むことで不老になるから。


 長い歴史の中で何があったかまでは分からないけど、こと細かい原因の一つや二つは想像に難くない。


 誰かの親の血を飲んで生きながらえ、親が死ねば次は自分の番。

 それでも終わらず、次は自分の子の番。


 想像するだけで、『これは自分の番で終わらせなければ』と考えてしまいそう。


 そしてレイチェルが人を傷つけて喜ぶような人ではないことから、他の血も実際過去に試したのだろう。

 だから『難儀した』と労った。


「吸えば、僕は死にますか?それとも…」

「死なない。量はそれ程必要ない。じゃないと、人族はすでに滅んでる」


 それはそうか。

 殺すほど摂取すれば数は減る一方。

 食物連鎖が成り立たなくなる。


 つまり、戸惑っているのは後者の所為。


「僕が吸血種になってしまうんですね」

「…なるかもしれない。わからない。こんなオーラは初めてだから」

「これまでも他人を吸血種に変えたことは?」


 恐らく、吸っただけでは変わらないはず。

 変わっていたらこの世界は吸血種で溢れ、これもまた食物連鎖が崩壊する。


「ない。吸っても変わらないし、方法()知らない」

「つまり知らないだけで、あるんですね?」


 この喋り方、何とかならないかな?

 ならないんだろうなぁ……

 話が進まないよ……


「私がそう。元々人族だったから」

「なるほど……え?本当に?」


 生まれた時からと違うんかーい!


 ということは…もしかして、呼び方そのものが間違っているのでは……


「本当」

「もしかして、吸血種なんてなかったりします?」

「かもしれない。でも、大昔すぎて誰も知らない」


 元々は突然変異。若しくは感染症に近い何らかの病気。

 それなら、出処は不明。


 てっきり、突然変異で生まれた始祖なんかがいて、そこから繁殖していったのかと。


「何故、僕も貴女と同じことになると?」

「私を吸血種に(こう)した人が言っていた。『美味しそうで、我慢出来なかった!ごめんっ!』と」

「…何だかその人、軽いですね」


 可哀想に。

 いや、心の底からそう思っている。


 レイチェルが人族だったのなら、家族や友人もいたはずだ。

 それなのに自分だけが老いない。皆が死んでいく。

 それは数少ない理解者を失くすということ。

 味方のいない世界で、長い間その身を隠して生きていたんだ。

 恐らく、カーバインもその仲間もレイチェルが吸血種であることを知らないのだろう。


「はあ…どうします?」

「…飲みたい」


 仕方ない。くれてやろう!(色々と教えてくれた)褒美だ!

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