毛がないっ!?
「アメリア様!良かった…今、呼んでまいりますね!」
目覚めると、そこは知らない場所だった。
ううん。記憶にはある。
でも、それは記憶を失っていた時の記憶。
…しっちゃかめっちゃかね。
「アメリア!良かった!よくぞ目覚めてくれた…」
「アメリアちゃん…生きていてくれてありがとう…」
お父様とお母様が、私を抱きしめながら涙を溢した。
「心配をかけてごめんなさい。でも、もう大丈夫です」
記憶の中の人達。
この人達はとても良い人。
乱暴者で、我儘。
そして、嫌われ者の私なんかを変わらずに愛してくれているのだから。
「あ、アメリア…?」
「貴方…やっぱり打ち所が悪かったのでは?」
失礼な。
私は正常です。
ただ、記憶を取り戻しただけですから!
両親は部屋を出ていき、漸く一人きりになれた。
「…それにしても、髪の毛以外に毛がないのがこんなに不安だなんて……」
髪の毛は馴染みのあるゴールデンカラー。
でも、腕も脇も下もツルツル。
とてもスースーするわ……
「前世で手術を受けた時以来のスースー感ね…」
スースー感で良いのかしら?
なんでも良いわ。
「それよりも、どうしよ…」
私の転生先はロカディリアス帝国第一皇女。
この国唯一の皇女。
そう……
「身動き取れない…」
どこへ行くにも誰かが必ずついてくる。
城の外へは許可なく出られない。
それどころか後宮から出たことすらない。
「彼女には申し訳ないけど、階段で侍女に突き落とされて良かったわ」
それがなければ記憶が戻っていたか怪しい。
侍女が私を突き落とした理由。
そこに政治的な思惑はなく、単なる私怨。
私は仕える者に恨まれるような最低な人間だった。まだ八歳なのにそこまで腐っていたの。
ご主じ……心優しいジンとは雲泥の差ね。
その侍女は処刑されたと先程聞いた。
突き落としたことはバレていなかったのに、頭から血を流す私の横で立ち尽くしていただけで処刑されたの。
迅速に助けなかったことで、お父様の怒りを買ってしまったが為に。
「まだ、この身体は弱い」
手を握り、力を確認する。
指を自在に操れるのは良いけど、前世から比べると遥かに弱い。
「これだと、自由に動けても迎えに行けないわ」
ジンに会う。
それが私の唯一の目的。
「お父様とお母様には悪いけど、何ものにも代えられないの。ごめんなさい」
両親へ詫び、私は再び眠りについた。
次に目覚めた時、それは全ての始まりを意味する。
どれだけ過酷であろうとも、必ず手に入れてみせるわ。
決意を胸に、微睡へと誘われていく。
「殿下!素晴らしいですぞ!よもや、たったの二年で領域展開までも習得なされるとは…剣神の再来ですな」
帝国は生まれよりも実力を重んじる社会性。
そうはいっても皇室は別だし、貴族なんかの上級臣民に生まれるとそもそものスタートが違うから、普通の人は中々台頭してこれないけど。
そして、私のオーラの先生は近衛騎士団長であり剣聖でもあるこの人物。
彼の実力は先程の理由からも分かる通り、化け物。
この世界の武の頂の一人でもあり、剣に限れば最高峰の人物、剣神。
彼にすら勝てるビジョンが全く持って想像も出来ないのに、剣神なんて持っての他。
そんなご機嫌取りは、私には通じないわ。
「そういえば…今日のオヤツは殿下がお好きなアップルパイでしたな」
「ホントーっ!?わーいっ!・・・・そ、そうなのね?」
食べ物はダメっ!
特にリンゴは!
その理由はジンにある。
ジンは趣味で庭に林檎の木を植えていた。
事あるごとに、褒美としてくれたの。
それが美味しくて…美味しくて……
つい、よだれを溢していたわ。
今?今はそんな端ない真似はしません。
「殿下、お口元が」
「…はっ!?し、失礼。では、今日はこれで」
「はっ!」
しまった…まさかまた涎を……
…仕方ないじゃない。
私はまだ十歳なんだから。
◇◆◇二年前◇◆◇
「ごめんなさい。貴女達に辛くあたって。子供だからとはいえ、許されることではないわ。
今だけは不敬にとらないから、罵るなり、言いたいことを言ってちょうだい」
殴らせるわけにはいかない。
傷が残れば理由を聞かれるし、私が黙っていてもこの人達は尋問されてしまうから。
「アメリア様…」
私の部屋へ呼ばれた侍女達は皆顔を青くさせていた。
『また、何かされる…』
その怯えがありありと現れていた。
でも、私がしたかったことは謝罪。
敵は少なく、味方は多く。
それが目的だった。
確かに申し訳ないことをした。
謝りたい気持ちもある。
でも、前世は犬だったの。
犬の世界はヒエラルキーにより管理され、絶対的な皇女というこの地位は、何をしても許されるもの。
群れのボスである皇帝でさえ、私には甘い。
だから、申し訳ない気持ちはあっても、態々謝る行動まで起こすことはない。
目的があるから。
今世も前世も階級で生きる私は、目的の為に謝ることを選択した。
◇◆◇時は戻り◇◆◇
「アメリア様…今日も凛々しく美しいですわね…」
「はい。同じ女性として羨ましくもあり、目指す目標でもありますわ」
私の開くお茶会には、いつも多くの貴族子女が来てくれる。
初めてお茶会を開いた昨年は、『皇女だから』来ていたに過ぎず、私もそれを利用していた。
でも今は、『アメリアだから』皆が来ているの。
「ですが…あの噂をお聞きになりましたか?」
「アレですね…俄には信じられません。アメリア様が侍女達へあんなに酷い行いをしていたなんて……恐らく、アメリア様を羨んだ者が仕組んだ卑劣な噂なのでしょう」
「私もそう思いますわ」
彼女達の噂話は事実。
恐らく過去に貴族の親から聞かされた噂話なのでしょう。
所詮噂。後宮には貴族すら入れませんから。
「良いかしら?」
その噂を話していた少女達のテーブルには、一つ席が空いていた。
これは全てのテーブルを私が回る為に空けてある席。
そうだとしても、一応の断りを入れます。
「アメリア様!さ、お掛けになってください」
一人が率先して席を勧める。
他二人は視線を下に向けて少しだけお辞儀のような仕草を見せる。
これは着座のまま取れる最敬礼。
「随分と楽しそうでしたわね。何をお話に?」
三人の顔が青く染まる。
私の聴覚はオーラにより強化されていて、前世と遜色ないほどに、遠くの音を拾える。
「アメリア様の今日のお召し物についてですわ。
一体どこからお取り寄せになられたのです?
私達にも教えてくださりませんか?」
椅子を勧めた少女がいち早く立ち直り、嘘を伝えてくる。
「そうですわね。独り占めはよくありませんものね」
私はその嘘に乗っかる。
ここで問い質すことに意味はなく、ただ噂を更に広めるだけ。
こうして、私の悪い噂の時に現れ続ければ、自然と誰も私の悪い噂を話したりはしなくなる。
全ては、群れを掌握するため。
それがリーダーの務めなのですから。
「アメリア、聞いたぞ?私には出来なかったテリトリーを習得したんだって?本当にアメリアは凄いな」
お父様が私を褒める。
以前は何をしても褒められていたけど、今は本心から誉めていることが匂いからわかった。
私は前世で匂いから真実を見極める能力を身につけていた。
今世では、テリトリーを使えばそれと似たようなことが出来たの。
「アメリア。聞きましたわ。アメリアの刺繍が帝都で大人気のようですわよ?茶会を開くたびその様な話が聞けて、私も鼻が高いです」
それは手慰みで作ったもの。
この自在に操れる五本の指。
前世にはなかったもの。
だから夜な夜な刺繍に明け暮れ、それを馴染ませる訓練をしているの。
そして刺繍のデザインは、前世でジンが見せてくれたモノ達。
それを思い出し、懐かしみ、糧として、今を頑張れていた。
まだ、力が足りない。
この世界から、ご主人様を見つけ出す為には。
この話から隔日投稿となりますこと、ご了承下さい。




