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アルバートとバベル 終戦

 






「右辺へ増援を送るのだ」


 軍閥のトップに立つ軍務卿の指示を聞き、伝令兵が城壁を駆け巡る。


『ドンドドン。ドドドンッ』


 太鼓の音により、その指示は現場へと伝えられる。


「よく戦ってくれている…」


 心の準備すらままならなかった筈。

 それなのに、アルバート軍は善戦していた。


「そうですね。父上。私も早くあの場へ」


 アルバート王の漏れた声に答えたのはマクレード第一王子。

 母親から受け継いだ黒い髪を城壁の上で靡かせている美男子だ。


 その整った顔は可愛らしくも見える。それとは正反対に、その気性は交戦的。

 そんな息子を頼もしそうにアルバート王は見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「まだだ。我ら王族は簡単には死ねん。お主には戦況を変えるタイミングで奮闘してもらう予定だ。

 心して用意しておくのだ」

「既に心は祖国へと殉じております。弟が命を捨てて抗ったのです。兄として、負け戦で生きながらえようとは思っておりません」


 アルバート王の言葉に、マクレード王子は死兵となって戦うことを宣言した。


「我々から家族を…いえ。全てを奪ったバベル王国。この身が滅びようとも、その喉元に喰らい付きましょう」

「…其方が王であれば、もしかしたらこんなことにはなっていなかったかもしれぬな……」


 神童と言われたアーノルド王子。

 それほどに優秀な弟が居たので、現時点でのマクレード王子の立太子は叶わなかった。


 疾患があるとはいえ優秀過ぎる弟が居たせいで、臣下たちの意見を纏められなかったのだ。


 冷静沈着な弟と王とは対照的なマクレード王子。


 そんなマクレード王子が実権を握っていれば、その威を恐れ、バベル王国はアルバート王国を攻めなかったかもしれない。

 そうじゃなくとも、軍備に力を入れ、未然に防いだかもしれない。


 国王は戻らない時間を悔やむ。


「それはありません。形は多少違っていても、バベルは攻めてきたでしょう。

 私に知略はありません故」


 マクレード王子の言葉を受け、アルバート王は過去を振り払うように首を二度三度と振るった。


「すまんな。感傷的になっていたようだ。

 今は兎に角、一人でも多く倒し、一秒でも長く時間を稼がねばな」

「はい。後二日も待てば、必ずや援軍は来ます。それまでの辛抱です」


 外の貴族達と連絡を取る為の早馬にも限りがある。

 最後に受けた報告は、三日後に参戦するというもの。

 それから一日が経っていた。


「伯爵軍は凡そ二万。その増援が間に合えば、更に時間が稼げる」

「はい。今が踏ん張りどころです。私は兵を激励に行って参ります」


 マクレード王子はじっとしていられない様子。

 そんな王子を見て、頼もしいのか子供なのか、アルバート王の表情が戦時において初めて和らい瞬間だった。














「報告!」


 戦争は三日目に突入していた。

 夜の間は何事もないが、日が明けるとバベル軍からの攻撃が始まり、アルバート軍は耐えることで精一杯となる。


 耐え忍んだ三日間だった。

 そして、漸く……


「伯爵軍、敵の妨害により到着が二日遅れる見通しとのこと!」


 首を長くして待っていた報告。

 されどその報せは既に瀕死状態のアルバート軍に絶望を与えた。


「な、ぜ……」


 最早アルバート王に気力は残されていない。

 僅かに残されていた気力も、報せにより消し去られてしまったのだ。


「へ、陛下…」


 宰相も混乱している。

 これだけの敵軍だ。まさか国内に別動隊を散らしているとは予想していなかった。


「…どうやら、ここまでのようだ」


 戦地とは反対側を向いたままアルバート王が告げる。

 城壁を挟んだだけなのに、そこには普通の街並みが続いていた。

 戦中ということで、外を出歩いている民の姿は見当たらないが、慣れ親しんだ王都の姿がそこにはあった。


 その王都内で見られる疎な人影、その殆どが傷ついた兵士達。

 これから手当を受ける者、応急処置を施され死地へ舞い戻ろうとしている者達。


「近隣の貴族家は最早辿り着けん。かといって、遠くの領地を持つ貴族達は間に合わん」


 アルバート王は振り返る。


 眼前には、今も王都を守ろうと文字通り必死な姿で防衛している兵士達の姿があった。


 その兵も王から見れば守らねばならない民の一人である。


「陛下!あそこをっ!」

「どうした?」


 誰が声をあげたのか?その確認をする前に、王の視界に飛び込んできたのは、背後を気にして戸惑う敵兵の姿だった。


「あれは……オーティア男爵!」


 左辺の端。

 敵軍の背後でやけに騒がしい場所があった。

 よく見ると、オーティア家の家紋が描かれた旗を背中に掲げる一人の戦士の姿が。


「くっ。来てくれたか。友よ」

「陛下…」


 宰相が見たのは、嬉しそうな表情で涙を流している国王の姿だった。


「父上。私も行って参ります」

「お前もあてられたか。仕方あるまい。あの武勇を見せつけられ、滾らない男は最早男ではないからな」


 たった一人の援軍。

 オーティア男爵の奮闘を見たことにより、マクレード王子は決意の視線を向けながらアルバート王へ伝えた。


「お先に征きます。父上のご武運をあの世から見守っています」

「うむ。よもや親不孝者とは言えん。其方の勇姿、この目に確と焼き付けようぞ」


 マクレード王子は騎士礼をとり、晴れやかな表情のまま戦地へと向かった。









「強い奴がいるって聞いたけど、なーんだ。もう死にかけだね」


 傷だらけになりながらも奮闘するオーティア男爵。

 そこへやって来たのはバベル最強騎士であるエスキル・フォン・レイフ。


 男爵は傷だらけになりながらも、敵を寄せ付けていない。

 バベル兵も手の出しようがなく、膠着状態になっていた。


「知らないのか、口の悪いガキ。魔獣でも人でも、死にかけが一番恐ろしいんだぞ?」


 エスキルの言葉にそう返すと、当のエスキルは笑みを浮かべた。


「じゃあ!楽しませてね!」


 その言葉の後、一瞬で間合いを詰めるエスキル。

 男爵に残された力はごく僅か。


 キィンッ


「おお!受けたね!」

「ぐっ…」


 エスキルの致命の一振りを何とか受け切った男爵だが、その左腕が宙を舞う。


 生存本能により咄嗟にとった行動だった。

 それがなければ受ける剣は間に合わず、首が落とされていただろう。


「あーあ。でも。放っといても出血で死んじゃうね」


 剣を合わせたまま、笑いながら伝える言葉はまさに事実だった。

 男爵の命の灯火はまさに風前。


「うおおおおっ!」

「おわっ!?まだそんな力があるんだね!驚いたよ」


 最期の力を振り絞り、エスキルの合わせた剣を弾く。

 そして、剣を落として懐に手を入れ、今生の別れを述べる。


「誰か知らんが、お前だけでいい…」

「何いってんの?」


 男爵のオーラが残された右手に収束していく。


「え?」


 次の瞬間、辺りは眩い光に包まれた。


「があああっ!?めが、目がぁぁっ!?」


 男爵が今際の際に使ったオーラツールは、不良品の光源のオーラツールだった。

 その効果は一瞬。

 エネルギーの制御が効かず、一度きりの使用で壊れてしまう不良品だった。


「エスキル殿!?」


 周りのバベル兵達が駆け寄るも、エスキルの目が光を取り戻すことは二度となかった。














「オーティア卿。其方の献身…いや。熱き心。確と受け取った」


 アルバート王は、倒れて動かないオーティア男爵へ目礼で応えた。

 その男爵の周りには、夥しい数のバベル兵だった死骸の山が。


「陛下。殿下の御出陣です」

「うむ。こちらも見逃せんな」


 次いで現れたのは、完全武装した騎馬隊。

 乗馬を得意とするマクレード王子が選んだのは騎馬隊での突撃。

 これが自分の力で最も効率よく敵を殲滅することが出来ると、自信を胸に選んだ行動。


 その数、百騎。


 他の九十九騎は王子の戦友達。

 マクレード王子は研鑽を積んだ仲間との死を選んだのだ。


 というより。

 一人で行くと言った王子に対し、水臭いとついて来たのだ。

 王族にしては口数も少なく、また感情表現の乏しい王子だったが、その実、支えてくれる仲間は一番多かった。


 開門と同時に王都内から雄叫びをあげて突撃していく騎馬隊。


 その姿を目撃した兵士達は道を開け、歓声を送った。

『これぞ、我らがお仕えする王族方よ』


 見送る兵士達の自慢げな表情がそう物語っていた。











「報告!マクレード殿下…戦死!」


 報告を聞いたアルバート王は、それに頷いて答えた。

 そして……


「宣戦布告もなく、またその行いは悪逆無道。そんな奴らに余の首をやるわけにはいかん」


 これはアルバート王としてのものか、それとも別の何かか。


「自害する故、その首を掲げ、向こうが確認したら燃やせ」


 端的に伝えるのは最期の言葉。


「これで、アルバート王家の血筋は……いや。奴がいたな。

 あの世で見守ろうぞ。なあ、家族(みな)よ」


 首に添えた剣を引き、アルバート王はその生涯に幕を引いた。


 こうしてアルバート王国は歴史の中だけの存在となり、大陸史には滅亡が記載されることとなった。














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        人物紹介

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グスタフ・ムラジャ・バベル(国王、茶髪、小太り、172cm、45歳差)

フレデリック・フォン・バベル(第三王子、黒髪、太身、185cm、24歳差)

クリストフェル・フォン・バベル(第一王子、茶髪、細身、175cm、26歳差)

アドルフ・フォン・バベル(第二王子、茶髪、細身、180cm、24歳差)

ドルヴァルド・フォン・ミゲル(軍務大臣、赤髪、偉丈夫、180cm、44歳差)

フレデリク・フォン・マシューザ(第一将軍、金髪、偉丈夫、182cm、46歳差)

エスキル・フォン・レイフ(バベル最強騎士、黒髪と白髪が混ざり合う、178cm、10歳差)

ギルス(バベルの死神、男、黒髪、175cm、不明、戦後消息不明)

マルス(バベルの死神、男、黒髪、180cm、不明)

アルス(バベルの死神、女、白髪、162cm、不明)

次話から二章となります

もう一人の主人公のお話になります


二章から隔日投稿になります。ご了承ください。

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