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エピローグ

 





「兄さん。閉店だよ。起きな」


 ん…閉店…そうか。


「そうか。宿はないかな?」

「…銀貨二枚、二階だ」


 ジャラ…


 金をカウンターに置くと、酒瓶を片手に部屋へと向かう。


「カビ臭いな。でも、仕方ないね」


 こんな世界なのだから仕方のないこと。


「目覚めてからそうだけど、身体が若いからか、変な感じだね」


 目覚めた場所は岩と砂の荒野だった。

 確かセフィリアさんが側にいたはずなんだけど、周りには何もなかったな。


「記憶はあるけど、これじゃ別人かな?」


 前世の…というか、僕を思い出してからは記憶が統合された。

 ついでにと言っては変だけど、ジークリンドの精神と僕…東條 仁(とうじょう じん)の精神も統合されてしまった。


「そのせいでめちゃくちゃ辛いよ…」


 既に知っているんだ。

 愛する者を失う辛さは。


「でも、お酒に逃げるのももうやめにしないとね」


 目が覚めると辛すぎて酒に逃げてしまった。

 前世でも同じことをしたなと、今になって思いだす。


「セフィリアさん…会ったことがないからさん付けにしてみたけど…違和感が凄い…セフィ…いや、やめておこう」


 これで忘れられない愛するものが二つになった。


「けど、愛するものが増えるのは良いことだよね。失うと辛すぎるけど。

 それにしても、今世の僕は頑張ったね」


 僕が愛するものを見つけるまでにかけた時間は三十年以上。

 今世の僕はたった十五年。

 半分以下の大記録だ。


「何故、セフィリア…の遺体が失くなっていたのか……

 オーラが爆発した所為?

 でも、それだと僕が無傷だったことはおかしい」


 衣服も剣も無事だったんだ。

 覆い被さるほどに密着していたセフィリアも無事でなきゃ辻褄が合わない気がする。


「セフィリアには悪いけど、遺体を探すよりも先ずは生きている可能性が高い者を探すね」


 必ず両方とも探し出す。

 だから待っていてね。


 君の知らない僕になってしまったけど、ジークリンドは確かにここにいるから。


 僕は胸を叩いて静かなジークリンドへ伝えた。


 今の僕は記憶と自我の完全体。

 同じ魂だけど、生まれた環境の違いで形成された少しだけ違うジークリンド。

 そこから更に記憶を取り戻したジークリンド。

 そして今のジーク。


 それは一人称の違いからも判断可能。

 最初の、40%程前世の自我と混ざったジークリンドが『私』。

 次の60%程前世の自我と混ざり合ったジークリンドが『俺』。

 最後、完全に二つが一つになったジークリンドが『僕』だからね。


 自我と記憶はリンクしている。

 記憶が自我を作り上げているといっても過言ではない。


「さて。ラヴを探しに行こう」


 僕が倒れていた荒野は、恐らく元はあの森。

 そこを抜け出し、記憶にある地図を辿って山を越え、今は山を挟んだ別の国のとある宿場町にいる。


 ずっと嘆いていたけれど、思い出したからには探さないわけにいかない。

 約束だからね。


「待たせてごめんね?もう少しだけ待っていて」


 愛するラヴへ向け、見知らぬ夜空へと想いを馳せた。











「さて。冒険者としてお金を稼ぎながらの旅になるけど、旅費にはまだ余裕がある。

 探すアテは…ある」


 全てを思い出した僕に死角はない。

 前世…いや、今世と前世の狭間。

 確かにそこの記憶が僕にはあるのだから。









『ここは…?』


 僕は死んだはず……


 愛するものを失ったショックで酒に逃げ、その後は碌に食事を摂ることもなく仕事に逃げ続けた結果、裏の畑で倒れた…と思う。

 ここまで鮮明に覚えていることは不思議だけど、覚えているのだから仕方ない。


『あれ?あそこだけ妙に明るいな…』


 真っ白な世界。


 ここが死後の世界なのだろうか?

 そこで一際輝く場所を見つけ、誘蛾灯に引き寄せられる虫のように、考えもなくその場所へと近寄る。


『いたっ!いた!いた!』


 声が頭の中に直接聞こえた。


『良かったわね』


 優しい声も聞こえてきた。


 さらに近づき、その姿が顕になる。


『ラヴ…なのか…?』

『そうだよ!ペロペロさせて!』


 目の前にはゴールデンレトリバー。

 その傍らには見知らぬ女性。


『ラヴっ!会いたかった!会いたかったよぉ…』

『僕も!僕も!嬉しい!楽しい!』

『顔を舐めるなっ。く、くすぐったいぞ!やめ……なくていいぞ!』


 やめろなんて言えない。

 夢にまで見た、ずっと待ち望んでいたペロペロなのだから。


『そろそろ良いかしら?』

『はい。すみません』


 この人はラヴと一緒にいた。

 恐らく、一人で待つラヴを不憫に思い、一緒にいてくれたのだ。

 とても良い人。


『え…顔…』


 声をかけてくれた人へ視線を向けたら、少しだけ驚いてしまった。

 失礼だから驚いてはいけない。でも、驚いちゃう…ごめんなさい。


『良いのよ。貴方達に私の真の姿は見えないの。これは仮の姿なのよ。だから顔がないの』


 そう。のっぺらぼうさんだった。

 でも、ラヴの恩人さん。

 良い人なんだから、お礼は忘れずに。


『礼はいいわ』


 まさか?心を読んでらっしゃいます?


『そうね。私は神のような存在ですから。この世界の支配者、といったらわかりやすいかしら?』

『それはご無礼を』

『良いのよ。このわんちゃんが可愛かったから、勝手にしたことよ』


 神様か……

 やっぱり僕は死んだんだね。

 悔いはないけど、父母を見送ってやれなかった未練は少しだけある。


 でも、ラヴに会えたことを思えば、それも些細なことで。

 全てが些細なことなんだ。


『そうね。でも、これから大変よ?』

『何故です?』

『このワンちゃんは貴方を待つ為に輪廻から抜け出しちゃったの。

 そうなると、元の輪廻には戻れない。

 ワンちゃんは別の空いている輪廻に入ることになるわね』


 どういうことだろう?


『簡単に説明すると、別の世界へバッバイ!って感じかしら?』

『バッバイ…?』

『異世界転生よ。ほら。よくあるでしょ?』


 良くあるのかぁ。なら仕方ないか。


『それは…』

『貴方もついていけるわ』

『本当ですか!?』


 ラヴとまた生きれる……

 ああ…神様…ありがとうございます……


『泣くのはまだ早いわよ?』

『すびません…』


 目を擦り涙を拭う。

 死んでも泣けるんだね……


『輪廻を抜けると、それまでに積んだ徳も失うの。

 貴方達2人の徳は多い方よ。

 その徳があれば、次の生がより豊かになる。

 良いの?素晴らしい人生を捨てても?』

『構いません。この子が、僕の全てですから』

『結構。二人ともあまりに素直で可愛いから特別にサービスするわ。・・・』


 神様からサービスとして、詳しい説明があった。

 僕はもうおじさんなのに、可愛いって……

 でも。良いことが聞けたね。


『次の生まれ変わりはお互いに人にしたわ。でも、産まれる場所までは選べない。運次第ね』

『記憶があるだけで充分です。それより…』

『大丈夫よ。お互い、死産の運命を辿った身体に入れるから。だから、誰も代わりに消えていなくならないわ』


 良かった……

 結局結婚もしなかった僕に、他人の人生なんて背負えるはずもないからね。


『じゃあ、いってらっしゃい』

『色々ありがとうございました。ラヴ、行こう』

『またね!』


 ラヴの思念は言葉ではなく、気持ちがそのまま頭に伝わっているんだとか。

 でも、今の記憶を持ったままラヴも転生するから、その内自我を持てた時、ここでの全ても理解出来るらしい。


 だから、ラヴとはとある約束を交わした。

 必ず再び巡り会う為に。




 眩しい光が僕とラヴを包む。

 また暫くの別れだけど、今度は寂しくはない。

 いつも、心で繋がっているから。

次から新章、ラヴ視点…の前に。

アルバートバベル戦役をお届けします。


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