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陽の沈む王国

 






「随分と人が増えたな」


 見えるのは、人、人、人、馬車、人、人、人だ。

 大会を間近に控え、王都の人口密度は限界まで膨らんでいた。


 ここはそんな王都を見下ろせる学院の時計台の上。

 王都の様子が気になって、息抜きがてら身体強化を使ってここまで来てみたんだ。


「もう直ぐだもの。オーラの練習はしたの?」

「ああ。実家に帰りがてら、道中でな」

「見てみたかったけど…直ぐに見せてくれるわよね?」


 オーラ。

 それは俺の強みでもあり、弱点でもある。

 そのオーラを使った技。

 それであれば剣術大会でもルール内であり、使える身としても卑怯だとは思う。


 普通、オーラを使った攻撃は二種類。

 先ずはオーラを代表する技である身体強化。

 もう一つは、戦闘氣化製品(バトルツール)を用いた攻撃。

 それは火の玉だったり、石の礫だったり。


 しかし、剣術大会ではバトルツールを含むオーラツールの使用が禁止されている。

 武器といえば剣であり、棍であり、斧や槍だったりが殆ど。

 稀に飛び道具を使う者もいるようだが、それは実際の武器を投げるといった技。

 弾には制限があり、また使用する武器は全て開示しなくてはならないから、効果は半減する。


 その点、俺が使うのは俺の純粋なオーラ。

 そのオーラを放つ技を俺は使える。


 暫く会っていない吸血種であるレイチェルから教わった技法だ。


 それは出力を強めると轟音を伴った大爆発を起こすから、下手に王都では練習できなかった。

 だから、大会前最後の機会に実家へ帰る口実を使って練習してきたんだ。


「ああ。次に二人で王都を出る機会にでも、必ず見せるよ」

「楽しみだわ」


 俺達は幸せだった。

 最早、二人に隠し事はなく、それは秘めた想いも同じ。

 セフィリアは隠すことなく想いを真っ直ぐに伝えてくるから、誰かに聞かれていないかいつもヒヤヒヤとしているのは俺だけの秘密。


 あったな秘密……


「私の前世はきっとジークの想い人ね!」


 前世の記憶があることも勿論伝えている。

 恐らく、金輪際誰にも打ち明けることはないけど、セフィリアへは自然と話してしまった。


 何を言っても、全てを受け入れてくれる。

 そんな自信…いや、確信を心の中で持っていたのだろう。


「どうだろうな?もしかしたら、近所の意地悪おばさんだったかもな?」

「…殺すわよ?」

「すみません…」


 意地悪おばさんがいたかどうかは覚えていない。

 いや、思い出せないと言う方が正しそうだ。


 自覚はないけど、あの日以降俺は少し変わったらしい。

 人付き合いも良くなったらしいし、口調もフレンドリーになったのだとか。


 多分、前世の記憶を少し思い出せたからなのだろうな。

 それが今の人格形成に影響している。

 というのが、俺の持論。


 歳をとってから思い出すなんて不思議だけど、そもそも前世の記憶がある方が不思議なんだから、今更そこを気にしても仕方がない。


「それはそうと…お姉様のことは、本当なの?」

「え。ああ、本当だ」


 話が切り替わる早さもセフィリアらしい。


「ヴィクトリア様は、元第一王女殿下の苦しみを知らない俺達が許せないんだ」


 これは第二王子であるアーノルド殿下から齎された情報。


「でも、実はキャサリンお姉様は幸せな結婚をしたのよね」

「ああ。そして、ヴィクトリア様に良い人が現れたら、身分と相手次第ではあるけど、それを王家と国王陛下はお認めになるつもりだと」


 悲しいすれ違いだけど、それを解消できるのは第一王女と第二王女の二人だけだ。

 外野が説明した(とやかく言った)ところで、ここまで拗れると火に油を注ぐだけになる。


「文は出したんだろう?」

「ええ。私達のことは濁して、キャサリンお姉様へ伝えたわ」


 伝えたのは、誤解を解いて欲しい旨。

 その誤解によって、別の誰かも苦しめられていることを添えて。


 それよりも……


「本当に濁せたんだよな?」

「だ、大丈夫よっ!」

「怪しいなぁ…」


 俺達が傍目に見ればいちゃついている時、その真下では例の三人組がこちらを窺っていた。


「やっぱり、近い気がしますわ」


 そう誰とでもなく口にしたのはミシェル。


「第二夫人でもいいかも…」


 …怪しい。もとい、怖いことを呟いたのはナナエル。


「流石、我が心の友。王女殿下と対等に話せるのは、王国広しといえどジークくらいのものだ。うんうん」


 何故か偉そうなグラスナーがいた。


「下が騒がしいから、そろそろ降りよっか」


 オーラを極める。

 それは幼少期に掲げた目標。

 その道がどこまで続いているのかは未だ分からないが、今は遠い場所の会話まで拾える程度には上達していた。

 目の届く範囲と、そこまで便利ではないけれど。


 断っておくが、べ、別に、盗み聞きする為じゃないんだからねっ!


「そうね。送りなさい」

「は。その名誉、有り難く」


 セフィリアの冗談に冗談で答え、その身を抱える。

 そして身体強化を強めに掛けると、高さ12mほどの時計台から身を投げ出したのであった。


 冗談だよな?

 まさか、便利屋とか思ってないよな?


「きゃぁあっ!?」


 その光景を目撃していた下に居るミシェルが絶叫し、後でしこたま怒られたのは余談でしかない。

















 ずっと、こんな日が続いたらどれほど幸せだったか。


 近い未来。


 俺はそんなことばかりを考えていた。



















「いよいよね」


 遂に大会当日の朝を迎えていた。

 王都はパンク寸前。

 それもそのはず。多くの観客とそれを警備する騎士団が、王都へ集まってきているのだから。


「ああ。体調は万全だし、気持ちも晴れやかだ」


 心身共に万全とはこのことなのだろう。

 今なら、空も飛べてしまいそうだ。


「当たり前よ。最高の夜だったでしょう?」

「…やめろよ。具体的な発言は」


 俺達は健全な十五歳。

 そして、ダメだと言われていること程、気になる年頃でもある。


 ダメだったとして、誰に罰せられようとも。それでも昨夜は世界一幸せな時間だった。





『ま、待て…はやまるな!な?』


 昨晩、いつもの如く窓から侵入してきたセフィリアは、元々薄着なのにそれを更に脱ぎ始めた。


『剣術大会では真剣を使わないわ。だけど、当たりどころが悪くて助からないことも偶にある。

 後悔したくないの』

『俺も後悔はしたくないが…その為だけにすることではないだろう?それに、何もこんな所で…』

『それに、嫌な予感がするのよ…上手く言えないけど…』


 ムードもないこんな所で。


 その日はいつかくるけど、その時は俺なりに完璧にしたかった。

 が、それはセフィリアの幸せを考えてのこと。


 今日それが訪れたとして、それでセフィリアが幸せなら。


『わかった。セフィリアがそれで安心できて、幸せなら』

『ええ。でも、もうすでに怖いくらい私は幸せだわ。お母様が言っていた意味を漸く理解出来た気がする。

 愛してるわ。ジークリンド』

『俺も、だ。一緒だな。これまでも、これからもずっと。愛している。セフィリア』


 誰もが羨む夫婦になろう。

 誰もが祝福したい夫婦であろう。

 そして、何にも負けない愛で、揺るぎないモノを築いていこう。

 俺達二人が一緒なら、怖いものは何一つないのだから。











 剣術大会開会式。

 それも後は国王の開幕宣言を残すだけとなる。


「ジーク。まさか一緒に出られるとは思っていなかったぞ」

「ベジック。悪いな。カッコつけて辞退したが、カッコ悪く舞い戻ってきたよ」


 参加者は顔見せの意味もあり、開会式では修練場の中央で晒し者となっている。


 修練場の周囲には、ここを囲むように外が高くなる階段状に観客席が設けられている。

 即席だが、しっかりとした木材で作られたそれは、人々が飛び跳ねた所でびくともしないだろう。


 そして、城が建っている方向。

 会場の一番外側には一際高い客席が設けられており、王侯貴族の客席がそこになる。


 そこの一番高い席には国王が鎮座しており、これから開催が宣言される。


「何を言うか、ジーク。お前と戦うまで負けないからな?」

「俺も優勝するまでは負けないよ」


 その会話で、お互いにフッと笑った。


 見ての通り、一年の代表はベジックに決まっている。

 当然だろう。

 オーラの練度が上がったベジックは俺でも一筋縄とはいかないからな。


「ジークが見て、強そうな人はいるか?」

「いるな。三人いる」


 身のこなし、落ち着き、風格、オーラ。

 そこでの判断だが、大きくは違っていないだろう。


「どれくらい強いと思う?」

「…そうだな」


 細かな分析をするつもりはなかった。

 誰と当たっても全力を尽くす。

 その先に優勝が待っていてくれると信じて。


 そのつもりだったが、弟子の弟子から聞かれては答えない選択はなかった。


「あの二人は恐らく俺と同等か、それ以上だな」

「…なに?ジークより強いのか?」


 強いかどうかはしらん。

 ただ、勝つのは俺だ。


「さあな?剣技では太刀打ち出来ないだろうし、オーラも俺ほどではないけど、剣聖と同等くらいには高く質もいいだろう」

「そうか。だが、ぶつかるだけだな」


 そう。それでいい。

 俺達はまだ発展途上なんだ。

 二十歳を越えているだろうあの二人の強者にはない不確定要素。

 大会の中でも成長できる強み。

 ベジックはまだまだ強くなれる。

 俺も。


 そしてその二人に負ける気はない。

 オーラの練度に差があることも、偶然気付けたからな。そこもアドバンテージ。

 領域展開(テリトリー)を広げて二人を観察している今も、その二人がこちらに気付けた様子はない。


 やはり、こちらを磨いて正解だった。


 指導者のいない俺の剣術は伸び悩んでいた。

 確かにその一振りは剣聖のそれに近づいているが、それでもまだ遥か彼方。


「剣聖がいなくて良かったよ」

「そうか?俺は負けるなら剣聖かジークと決めていたからな」


 ベジックの負ける前提でぶつかれるところは俺にない強みだ。


「偶々別の国にいる師匠から呼ばれたみたいでな。俺も久しぶりに会いたかったけど、いないなら居ないで好都合だ」


 師匠の師匠。一体どれ程の強者なのか。

 興味は尽きないけど、俺には目の前に大事なことがある。


「それにしても…遅くないか?」

「そうだな」


 ベジックは気が逸っているのだろう。

 普段なら誰よりも我慢強いだろうに。


「あれは、普通なのか?」

「いや、普通じゃないだろうな」


 ベジックが視線で示したのは国王のいる所。

 顔までは区別出来ないが、服装でわかる。


「貴族達が集まっているな」

「ああ、何かあったのかもしれないな」


 あんなに国王の近くに寄ることはあまりない。

 護衛もしづらいし、不敬に取られても仕方ないような距離でみんなが集まり立っている。

 その外側には恐らく父の姿もあるだろう。


 何せ、王国中の貴族が集まっているのだから。


「動いたぞ」


 動きがあった。

 貴族の集まりが解かれると、そこにいたのは立っている国王が一人。

 そして、その右手には拡声のオーラツールを握っていた。


『皆の者、今日はよく集まってくれた』


 そこから告げられたのは全てに感謝し、全てを労う言葉ばかり。


『しかし、不届者がこの度の催しを邪魔してきた』


 ここから話の毛色が変わる。


『ここにいる戦士達よ!古から続く慣わしに則り、剣を持って余に続くのだ!』


 なんだ?何が起こった?


『我らが仲間のバレドー辺境伯は賊に対応し、今も命を削り戦っている!

 さあ!行くぞ!悪逆無道な『バベル王国軍』に正義の鉄槌をくれてやるのだ!ついて参れ!』


 そう告げると国王は外套を翻し去ってしまった。


「どういう意味だ?」


 ベジックが聞いてくるが、こちらもそれどころではない。


「戦争が起きた、ということだ。大会は中止だ。ベジックはそのことをみんなに伝えて自分が信じる行動を取れ」

「っ!…ジークは」

「俺は…行かなければならない。じゃあな」


 友人へ告げた別れの言葉。

 それは前世で慣れ親しんだ言葉だった。

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