勅旨
「さて。どうするかな」
皆が勉学に励む中、俺は一人ベッドの上。
ずる休みではない。
停学中なだけだ。
「部屋の修理費は小遣いでどうにかなったが、停学はどうすれば解除されるのか…」
停学を申し渡された時、期限については何も聞かされておらず、セフィリアが集めてくれた情報でも、停学から復帰できた人はいなかった。
そもそも、貴族の子弟で停学になる奴が珍しいんだとか。
当たり前か。
上級貴族は立ち回りが上手く、下級貴族は大人しくしていることが多いもんな。
平民くらいだ。数年に一度だけど、停学になるような奴は。
悶々としていたが、いつの間にか寝ていたらしい。
「ジーク。起きなさい」
この光景、なんだか最近よくあるな……
「セフィリア…また忍び込んだな?」
「ここには怪物を閉じ込めているっていうのに、警備がザルなのよ」
俺は怪物か?
「授業はどうだ?楽しくやっているか?」
「ええ。ジークがいないと平和で面白くないわ」
俺はトラブルメーカーか?
いや、それはそっくりそのままお返ししよう。
今は分が悪くて言えないがな。
「貴方…変わったわね」
「何処がだ?昔からこの顔だぞ?」
いや、確かにジークリンドはイケメンだが、昨日今日で顔が変わるか?
「見た目じゃないわよ。雰囲気…とか、言葉遣いとか」
「そうか?」
「ええ。一人称だって『俺』じゃない。これまで聞いたことがないわ」
嘘いえ………
あれ?昔から一人称は俺じゃなかったか?
「なんだか変な顔してるけど、今の方が私は好きよ」
「好きって…子供じゃないんだから」
そう。俺は子供じゃない。
酸いも甘いも知り尽くした大人なんだ。
「私は貴方が好き。それはこれまでも、これからも」
「そ、そうか。俺もだ。いつも助けてくれて、頼りになるセフィリアのことを信頼している。
師匠としても、臣下としても、友人としても」
セフィリアは好きと言える友達が少ないからな。
俺が言えた義理でもないけど……
ま、俺が変わっても変わらずいてくれるって言いたかったのだろう。
不器用だが、真っ直ぐなセフィリアらしい台詞だ。
間違っても人前で言ってくれるな、とは思うけど。
聞かれたら、勘違いで打首になってしまう……
「ふぅ。私の話はそれだけ。後これ。貴方に」
「なんだこれは?」
セフィリアはベッドから立ち上がると徐に何かを差し出してきた。
紙?
「勅旨よ。お父様からのね」
「最初に出せよ!?」
命令書じゃねーかよ!?
何考えてんだ!
「じゃあね。また授業で会いましょう」
「あ、おいっ!」
それだけ言うと、セフィリアは窓から飛び降りてしまった。
「また礼を言いそびれたな。ま、似たようなことは伝えたからいいか」
不可抗力だけど。
「そんなことよりも…こっちだな…」
普通の手紙。
それなのに、何故か禍々しいものを放っているように見えた。
「よく来たな。まあ、座れ」
呼び出された場所は王城。
そしてここは国王執務室。
何度でも言うが、国王から許可を得たところで、同じ空間で同じモノに座るのは心臓に悪い。
「失礼します」
「ん?緊張しておるのか?」
少し声が震えてしまう。
そこを見逃してくれるほど優しい相手ではなく、やはり突っ込まれてしまった。
「停学になってしまったので…やはり、お怒りですよね?」
「そんなこと、どうでもよいわ」
あらそう。それなら良かった。
「それよりも、何故だ?いや、理由はなんとなく想像はつく。
辞退したな?」
これは……停学ではなく、剣術大会の方だったか。
「はい。私ばかりが目立っては才ある者が埋もれてしまいますので。
それは王国にとっての損失。故に辞退しました」
「嘘だな」
くそっ…秒殺かよ……
「言ったであろう?理由は想像つくと」
「はぃ…」
嫌なんだよな…この人。
嫌いではなく好きの部類には入るし、尊敬もしているし、そもそも敬意も持っている。
だけど…苦手なんだ。
怖いから。
「だが、出場しろ」
だよね。このタイミングでそれ以外の話なんてないもんな。
「…お言葉ですが、既に代わりの者が代表として頑張っております。故に、それを覆すことはご容赦願いたく……」
「ほう?国王である余に言葉を覆させるのか?」
わかっている。
それでも、仁義だけは失くしたくない。
「ま。それは問題ない」
「え?」
どういうこと?
「お主は国王推薦者として、本戦から出場するからな」
なん…だと?
「えっと…」
「棄権は許さん」
こわっ…この人、本当に首を切る気だ……
オーラの揺らぎで本気度がわかるのもいいことばかりではないな……
「お主の心配は理解しておる。しかし、それくらい力を示して弾き返さんか。
剣聖と父親から何を学んだのだ?」
アーノルド…カーバイン……そうだな。
「わかりました。全身全霊を賭け推薦の期待に応え、優勝して見せましょう」
「それでいい」
ほ。どうやら、覚悟を示させたかったのか。
「優勝賞品だが」
「そういえば、ありましたね」
歴代の優勝者には色々と贈られている。
家だったり、名誉貴族位だったり、金銭だったり。
今回は何が貰えるのか。
確かに気になるな。
「お主が優勝した暁には、男爵家の爵位を上げ、それを以てセフィリアを嫁にくれてやる」
「………」
な、何を?
何をトチ狂ってんだ!?
「よもや、不服ではあるまいな?」
「…まさか。しかし…」
姉は…ヴィクトリアはどうする?
まだ婚約者も決まっていないと聞くし、俺達が仲良くしていることを一番嫌っている。
あれで第二王女だ。
その気になれば、男爵家など……
くっ…テレスや家族が……
「言ったであろう?外野の声など、力で吹き飛ばせと。
それに、余の代からは、王女に出来る限りの幸せな婚姻相手を探すこととしている。
セフィリアはお主を……どうも好いているらしい。
娘に願われたのだ。
余は全力を尽くすぞ」
「セフィ……殿下が?」
まさか。
これはセフィリアの案?
「セフィリアがここへ来てな。そんなこと今まで一度もなかったのに、だ。
そして願い出た。
『剣術大会にジークが出られるようにしてほしい。
誰よりも強いのに、優しいから…ジークは身を引いたの。
詳しくはわからないけど、きっとそう。いつも。どんな時も他人を優先するから。
私は…大人しくなる。
剣も置きます。
言いつけ通り礼儀作法にも力を入れ、誰が婚姻相手でも従います。
だから、お父様。最後の我儘を聞いてください』とな」
セフィリア……
「娘は強いだろう?」
「はい」
「その強い娘が、お前は更に強いと言い切ったのだ」
それは精神的に。
俺は弱い。
ただオーラが乱れただけであの様だったんだから。
「だから、今ここでその力を示すのだ!」
王の言葉を受け、俺は身体中のオーラを活性化させた。
「な、なにご……」
「よい。案ずるな」
近衛騎士達が執務室へと雪崩れ込むも、それは王自らの手により静止される。
「ここではオーラが纏えないはず。何故だ?」
王城内では、オーラが使えない。
だが抜け道もある。
近衛騎士達はオーラを使えなくする氣化製品を、更に無効化するオーラツールを身につけることでオーラを使っていた。
それを使えば、城内でも普通にオーラが使えるらしい。
勿論、そんなものは持っていないし、俺には全てのオーラツールが使えないから意味もない。
「オーラの動きを阻害するオーラツール。
その抑える力を超えればいいんです」
「…流石、娘が選んだ男。相わかった」
その言葉を聞き、活性化させたオーラを落ち着かせる。
「必ずや、陛下と殿下へ優勝を届けましょう」
期待には応える義務がある。
それが強さであり、俺が今手にしたものだ。




