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泡沫の希望

 





「王女殿下は如何なされたのです?」


 放課後、鍛錬の為運動場で素振りをしていたところ、ミシェル達がそこを訪ねてきた。


「さあ?私はただの貴族。知りようもありません」

「ジークリンド殿。貴方にわからなければ誰にも分かりませんわ。無用と知りつつも、心配なのです。お答え下さい」

「ジークリンド様。ミシェルは本当に食事もままならない程に心配されています。

 話せないことであれば、せめて無事かどうか、それだけでも教えてくださりませんか?」


 グラスナーは黙ったまま此方を見つめるだけ。

 何か話してくれた方がマシだけど、それは自分の責任。


「私も本当に知らないのです。役に立てず申し訳ない」


 何を聞かれようとも、これ以外に答えを持たない。


「本当にそうなのか?

 今、王女殿下がどうされているのか知らなくとも、その原因に心当たりくらいありそうだが?」


 的を射る言葉だ。


「よもや、ジークに原因があろうはずはないな?

 答えてくれ。

 返答如何によっては、私は…『そうだ』…なんだと?」


 詳しく説明する気はない。

 だけど、セフィリアをここまで心配してくれている人達だ。

 無碍には出来ない。

 例え、嫌われたとしても。


「殿下が休んでいる原因は私にある、と思う。罵ってくれて構わないが、これ以上問答する気はない」


 考えても、何も変わらないんだ。

 無心に剣を振る他ない。


「…貴様っ」

「グラスナー殿」


 怒りに任せて殴りそうになるグラスナーをミシェルが止める。

 殴られて終わりなら、それほど安いものもなかったのだが。


「…ジークリンド殿。話しづらいことを聞きました。お答えいただき有難うございます。

 また進展があれば……いえ、セフィリア様が元気なお姿で戻って来てくださることを祈ります。

 では」


 一方的にそう告げると、ミシェルは踵を返した。

 グラスナーは不服そうだったが、ナナエルに背中を押されて仕方なくといった風に去っていった。


「ふぅ…。疲れだけが溜まるな」


 以前は気持ちのいい汗と感じたが、何故だろう?

 一人だからだろうか?


 答えのない疑問を振り払うように、再び剣を振るう。

 全てを吹き飛ばすかのように。









「これで全部でしょうか?」


 セフィリアが休んで三日。

 初めての休みの日に、私は学院の図書館を訪ねた。

 そこで有用そうな本を5冊ほど選ぶと、受付に貸出許可を求めた。


「はい」

「では、貸出カードに学年と氏名をご記入下さい」


 本の背表紙の裏側。

 そこには懐かしいポケットが備えられており、貸出カードが入っていた。


 この辺りは前世と同じシステムなんだなと、感慨に耽りながら記入を進め、書いたカードを司書へと渡す。


「はい。間違いありません。では、こちらは本に挟んだままご返却下さい」

「ありがとうございます」


 私が書いたものを司書が書類に書き写すと手続きは終わった。

 短い感謝を述べた後、本を抱えて自室へと向かった。









「やはり、そう簡単ではないか…」


 借りた本を自室に備えられている机へと重ねて溜息を零した。

 本は医学書だったり、治癒書だったり、本草学だったり。はたまた呪いの類のものもあった。


「心臓疾患については、どの本にも記されていなかった。

 この世界ではまだそこまでの専門的な知識が発達していないのか…」


 大まかに内腑を治すには。などはあるが、ピンポイントのものはなく、それは気休めに思えた。


「いきなり行き詰まったが、まだ始めたばかり。諦めるには早い」


 学院の蔵書は豊富。

 全てを読み解くには三年という在籍期間は短く、やはり内容を絞って探すことになる。


「…ん?ああ。図書カードか」


 本から一枚の図書カードがはみ出していた。

 懐かしさからそれを引き抜くとまじまじと眺める。


 図書館では司書の目があったし、感慨耽っていてマジマジと眺めてはいなかったからな。


 懐かしさに目が細くなる。

 その視線が、あるものを捉えた。


「これはっ!?」


 そこに記されていた文字。

 それは……


『一年Aクラス アーノルド・ミスティア・アルバート』


 という文字だった。


「アーノルド殿下…」


 借りた本は希少ではあるけれど、他の生徒の興味を刺激するものではない。

 貸出カードには、私と殿下の名前だけが刻まれていた。


「まさか…」


 ふと気付く。

 一つあるならば、と。

 貴重で希少な本を雑に扱いながら目当てのものだけを抜き取る。


「やっぱり…全部だ…全部に殿下の名が…」


 それの意味するところは明白。


「ず、ずびまぜん…至らない臣下で…」


 涙が止まらない。止める術を忘れてしまった。


 いつも飄々とされている殿下。

 病のことも、気にしている素振りは決して見せない。


『既に諦めたことだから、気にするな』


 この五年、いつもそう仰っられていた。

 その照れ臭そうな、はにかんだ笑顔の裏で、一人震えていたのだ。


「馬鹿だ…俺は…ただ、殿下の傷口を広げるだけ…」


 殿下は諦めがつくまで、足掻いていたのだ。

 もがいて、足掻いて。

 それでもどうしようもなかったから、今の境地に立たれた。


 それなのに、俺は諦めるな、と……

 なんとかしてみせると……


 殿下の足元にも及ばない、くだらない頭で……


「一体!何を考えると言うのかっ!」


 ドンッ


 叩きつけた拳は机を割り、暴れたオーラは窓を吹き飛ばした。


 それでも暴れるオーラは止まらない。

 その全てを消失するまでは。













「目が覚めましたね。今、呼んできます」


 抜け殻になった私は酷く怯えていた。

 枯渇したオーラは依然として一分程しか回復しておらず、力の入らない、入れ方を忘れた身体に恐怖した。


 今、何かが起きれば……と。


「起きたようですね。何があったのです?説明しなさい」


 ここは恐らく医務室。

 ベジックを送った時に見た景色と似ている。

 それがわかっても、身体の震えは治らなかった。


「聞いていますか?」


 何も知らない。

 何も話したくない。

 ただ、震えることしか出来なかった。


「パシェット教諭。まだ混乱しているようです。また朝にでも」

「…わかりました。では、よろしくお願いします」

「はい」


 大人達が会話をしている。

 子供の自分には関係のない話だ。

 あれ?成人していたんだっけ?

 いや…どうでもいい…もうどうでも……


 私は再び瞼を閉じた。














「あら?起きたのね」


 ん?…何処だ?ここは。

 ん?赤い…髪?


「セフィリア?」


 いつ見ても眩しいけど、寝起きに見ると一段と眩しい髪だ。いや、人も。


「そうよ?何よ…私がいなくなったことが、そんなに不安だったの…?」


 あれ…俺は一体何故、ここに。

 ここは医務室のはず。

 一体何が……


「聞いてるのっ!?」


 顔を赤くしてソッポを向いていたのに、今度はまた更に赤くして問い詰めてきた。


「悪い。少し、記憶がないんだ」

「え……大丈夫?」


 今度は顔を青くする。忙しい奴だ。


「ああ。少しだけ考えさせてくれ」

「わかったわっ!私は部屋の前で待っているから、いつでも呼びなさい!」

「ああ、助かる」


 その元気な声に、苦笑いで応えた。

 助かるが、少しボリュームをだな……


 セフィリアが出ていくと、一人思案する。


「昨日、一体何が…」


 最後の記憶。覚えているのは本を読み終えた場面。


「その後……あ……」


 忘れていた記憶は、ただただ情けないものだった。


「殿下…すみません。俺が不甲斐ないばかりに」


 涙は昨日で枯れた。

 オーラは戻ってきているが。


「ん?オーラ…もしかして、それか」


 昨日の取り乱し様は今考えると不自然だ。

 確かに辛く、悲しい記憶だが。


「モノにあたるほど子供ではない、はず」


 確かに殿下は大切なお方だ。

 だが、家族と比べるとどうか?

 比べるものでもないが、きっとどちらかしか選べないのであれば、迷わずに家族を選ぶ。


「やはり、オーラか」


 オーラは生きとし生ける者と切って離せない存在。


「情緒不安定になると、オーラも不安定になる。恐らく合っている」


 他の人はわからないが、剣聖が俺はオーラに敏感だと言っていた。

 そのことからも感情がオーラを左右し、逆もまた然り。


「そして昨晩の怯え様。あれは感情を支えていたオーラの殆どを失っていたから」


 そう考えると納得がいく。

 いや。他の人が当て嵌まるかどうかは怪しいだけで、確定させて問題ないだろう。


「セフィリア。ありがとう。もう、大丈夫だ」


 部屋の外で待っていてくれているセフィリアを呼ぶ。


「では、質問に答えていただけますね?」


 それに応じたのは、担任のパシェットだった。


 やばい…どうしよ?

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