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隠していたかったもの

 





 男爵邸にまともな客室はない。

 これは語弊だけど、対象が変わればそうでないのも事実。

 国王夫妻をもてなすにはあまりにも質素で小さな部屋しか用意できなかったのだ。

 だから苦肉の策。


「ふむ。これはこれで悪くない」


 国王が一人呟いた。


「ここへ泊まるのは私達が最初で最後なのですわ」


 王妃のテンションは幾分上がっている。


「広いわね」


 王女はそのままを感想とした。


「申し訳ありません。この様な場所しかなく…」


 カーバインは平身低頭。


「何。気にするではない。急に来たのはこちらの都合。それに、ここは悪くないと申したではないか」

「そうですわ。オーティア卿のもてなしの心は充分に届いています」

「…そう言って頂けるのであれば…この上なき、有り難き幸せ」


 でも、よく思いついたよね。

 工事中の新しい工場を来賓室に改装するなんて。


 そう。ここは新工場予定地。

 予定地といっても既にガワは造られており、改装は内装だけで済んだ模様。


 といっても、とても質素で伽藍堂だけどね。

 それでも広さは充分にあるし、ベッドも新品で清潔感もある。

 上出来だろうと僕は素直に感心した。


 王妃のテンションが高いのは、ここで近い将来紅茶が作られると知ったからだろうな。


「ジーク。貴方の部屋が見たい。案内しなさい」

「それは…」


 セフィリアの申し出に、王と侍女へ視線を向ける。

 判断するのは王であり、付き添うのは侍女だから。


 二人が頷いたので仕方なく案内することになった。






「へえ。何もないわ」


 素直な感想ありがとうございます。


 確かに僕の部屋には何もない。

 あるのはベッドと机に本棚。それからクローゼットに小物置き場。


「ここで勉強してたの?」


 今では少し小さくなった机を、指でなぞりながら聞いてきた。


「そうです。書斎とここで勉学に励んでいました」

「ふーん。つまらない部屋ね」


 そうでしょうとも!さ。早く戻りましょうね。


「でも、ここで大人達が驚くほどの品々を作ったのよね」

「…そうですね」

「凄いわ。私には無理だもの。例え、どんな部屋だろうとも」


 違うんだ。それは、他人のアイデアなんだ。

 喉まで出かけた言葉を飲み込む。


 この子の物の本質を見抜く力は本物だ。父親譲りなのだろうか。

 だからこそ危険だ。

 僕の…本当の僕を、いつか見つけてしまいそうで。


「さ。戻りましょう。陛下がお待ちです」

「わかったわ。その前に」


 何だ?空気が変わった?


「隠しているものを見せなさい」

「…え?」


 何だ?何のことを言っているんだ?


「白々しい…言ってたじゃない!」

「な、何を?」


 何のこと?一体……


「妹よ!いるんでしょ?隠したって無駄よ!」

「へ?」


 あ。

 そういえば、事あるごとにセフィリアには喋っていたな。

『僕の妹は実は天使なのです。あれは多分、神様が頑張っている僕へ遣わせてくれた使者に違いありません!』

 とか。


「そ、うですね。今、呼んできます」


 良かった。何も疑われてはいなかった。

 いや、妹を隠しているって疑われはしてたけれど。




「ごきげんよう。わたしはテレス・アイル・オーティアです」


 凄い…天使がちゃんと話せるようになっている……

 どこからどうみても、完璧な淑女ですよ。

 カーテシーはリベラから習ったみたいですね。同じ癖のあるカーテシーです。


 カーテシーには言葉の訛りと似たような癖がある。

 地方によりその作法は少しだけ異なるが、別に恥ずかしいことではない。


「ご機嫌よう。私はセフィリア・ミスティア・アルバートよ。ジークには世話になっているわ」


 凄い…ちゃんと挨拶が出来ている……

 テレスより、こちらの方が驚いたまであるな……

 感動したのはテレスだけどね。


「にいさまのお友達?」

「ええ。友達だし、ライバルだし、旅の仲間でもあるわね」

「仲良しね!おねえちゃんいいなぁ。わたしもにいさまと遊びたいなぁ」


 セフィリアは子供の扱いが上手い?

 なんで?


「テレスのお兄様はまだ王都…遠くに用事があるの。だから、ごめんね?」

「しってる。かあさまからいつもいわれるから。にいさまをさがして泣いてると、にいさまが心配してかなしむって。

 だからがまんする」

「偉いわ。じゃあ、明日は思いっきりお兄様に甘えなさい。それと、明日は私とも遊んでくれるかしら?」


 セフィリアには剣の才能がある。

 残念ながらオーラの才能は並のようだが、子供の扱いが上手いという才能も持っているようだ。


「うん!やくそく!」

「ええ。約束よ」


 二人が約束を交わし、そこでお開きとなった。

 六歳になった可愛い妹が見れたことだし、今日はいい日になったね。


 そんな風に終わりを迎えるつもりだったが、もう一つ、肝心な事を思い出すのであった。









「ジ、ジ、ジ、ジーク…なのね?私の…可愛い…ジークリンドよね?」


 怖い。

 感動よりも、恐怖が勝る。

 見てみろ。自分の愛する妻であるはずなのに、不気味なナニカを見たかのようなカーバインの表情と視線。


「え、ええ。ジークリンドですよ。母上。事情が事情でしたが、挨拶が遅くなり心苦しく感じておりました」


 嘘です。さっきまで忘れてました。


 ここは慣れ親しんだ我が家の食堂。

 そこには大人達五人が揃っており、先ずはリベラへ挨拶をした。


 普通は先に当主にするものだけど、そこはカーバインも空気を読んでくれた。


「良いのです…ジークが無事で健康で幸せなら…母は貴方の幸せが一番なのですから。

 ですが、偶にはこんな母もいたなと思い出し、折を見て帰ってきてくれたら尚のこと喜ばしく思います」


 こ、怖い……結局、顔を見せに定期的に帰ってこいと言いたかったのね……


「ジーク。大変だったな」


 今度はカーバインの番。


「ええ。そちらも」


 男同士って楽だよね。


「ジークリンド様。お帰りなさいませ。男子、三日会わざれば刮目して見よと言いますが…まさか国王陛下夫妻を連れてこられる程に立派になられるとは、夢にも思いませんでした」

「ロキサーヌ義母上、ただいま帰還しました。…心労を掛けました。王妃殿下のお相手、ありがとうございました」


 ロキサーヌは平民出。

 リベラ以上にその心労は大きかったかもしれない。


「坊ちゃん…」

「坊ちゃんはやめてよ。ただいま、サーニャ」

「はい!お帰りなさいませ。ジークリンド様」


 こちらもリベラと同じく抱擁を交わして挨拶をした。

 嫌とかではなく、ロキサーヌにはやはりしづらい。

 抱擁も、手の甲にキスをすることと同じく、平民の間ではあまり馴染みのない挨拶だから。


「先代様が見たら、きっと腰を抜かしておられました。お帰りなさいませ、ジークリンド様。

 家人一同、貴方様の成功を疑うことはありません」

「タイラー…ありがとう。全部不可抗力なんだけどね……」


 王族を連れてきたことが余程嬉しかったのだろう。

 あの厳しかったタイラーが涙ぐんでいる。

 うん。こちらも怖いな……

 実家に精神的に怖い人が二人もいると、今後も足が遠のきそうだよ。


「早いですが明日の昼にはここを発ちます。王族の方々のご予定もあるでしょうし、明日はテレスとの約束があるのでみんなと話す時間も取れないでしょう。ですので足早で申し訳ないですが、用を済ませます。

 先ずは、父上にはこちらを。

 今後の計画と提案が書いてあります。

 母上にはこちらを。

 どれも紅茶に入れると美味しい果物です。

 ロキサーヌ義母上にはこちらを。

 国の直轄領で見つけた織物です。

 家人達にはこれを」


 そういって焼き菓子を渡した。

 ロキサーヌは平民出だからか、裁縫が得意だ。

 ドレスをあまり持っていないとのことだったので、織物を贈る。

 リベラは上級貴族の出だからやはりお茶が好きみたいだし、それに合う珍しい果物を贈る。

 カーバインは…仕事だ。

 アンタの軽はずみな行動のせいで、国王からいらぬ疑いを持たれたんだからね!お土産は無し!


 これにて、束の間の里帰りは終わりを迎えた。

 明日のテレスとの逢瀬を糧に、僕はこれからの修行の日々を耐えるんだ。

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