里帰りは王族をお供に
『あら?そうだったのですか?てっきり仲を取り持てという意味だと…早とちりしてしまいましたわ。おほほ』
策士に理由を尋ねると、意味のない結果に終わった。
この動きというか、流れは止められない。
国王の予定まで狂ってしまうから。
諦めた僕はその日の指導を朧げながらも終え、寮の自室へと帰ってきた。
「あ…旅の準備を…」
そう思ったが、よく考えれば王族のすること。
「僕が用意するものなんてないよね」
必要なのはこの身とお土産くらいのものだけれど……
「陛下達が手ぶらとも思えないし…」
考えれば考えるほど、用意するものがなかった。
「しかも雪が降るかもしれないから明日って……」
逃げ道どころか、その準備期間さえ与えない手際の良さ。
「僕の予定はセフィリアから筒抜け…どうしたものか」
この旅の予定は変えられない。
でも、僕らの未来は変えられるかもしれない。
どうしてもセフィリアと婚姻を結びたくないわけじゃない。
セフィリアにはもっと色んな道があるはずなんだ。
そこが僕には引っ掛かってしまう。
仮に彼女が僕を好きだとしても。
「半分は冗談なんだろうけど、半分は本気」
本当に僕達をくっつける気がないなら、ここまではしない。
つまりそうなっても良いと思っているんだ。
恐らくだけど、それほどにセフィリアの婚約者候補が酷いのだろう。
ここで復習。
貴族の婚姻は当主が決める。
家の未来を左右するのだから当然と言える。
では、王族は国王が?
それは少し違う。
臣下である貴族達が王へ進言し、そこで王が頷けば決まる。
つまり、国王に決定権はあれど、選ぶ権利はないのだ。
勿論全くないわけではないが、そんなことは臣下に任せて王は国の為に働いてくれ。これが建前だろう。
貴族は懇意にしている他国のお偉いさんを紹介し、その働きによる恩恵を得たい。
又は、自身の家に降嫁させ、王族との繋がりという確固たる権威・権力の増加を目論んでいる。
それが殆どで、新進気鋭の貴族が国の為に選んだ案は上に悉く潰されるのだろう。
「それをどうにか出来れば、この計画を諦めてくれるのだろうけど……全く思い浮かばない……」
僕が少し考えたくらいで思い付くのなら、国王や妃はとうに思い付いてるよね。
「はぁ…意味のない時間だったかな。明日も早いし、寝よっと」
前回の旅は用意周到に行った。
今回はその真逆。
気持ちすらも。
「遅いわよ!」
城に着くなりセフィリアが待ち構えていた。
僕が遅刻するはずもないけど、余程楽しみだったのだろう。
言葉とは裏腹に素敵な笑顔を浮かべていた。
「おはようございます。セフィリア殿下」
「う…気持ち悪いけど、仕方ないわね」
僕が殿下呼びするのは久しぶりのこと。
何も気持ち悪がらなくてもいいのに。
やっぱり恋心ではないね。
好きな人ならどんな時でも魅力的に映るものだから。
「陛下方は?」
「陛下とミスティア様は後宮の馬車乗り場から馬車に乗って来られます」
僕の質問に答えたのはいつもの侍女。
彼女がいなければ、僕はまともに城も歩けないのだ。
いつも感謝しています。
「来たみたいね!」
ここは城の中ではなく、堅牢な塀と城の間にある中庭の様なスペース。
そこでさえもセフィリアは大はしゃぎだ。
そんな風にセフィリアと未だ小さな馬車を眺めていると、侍女の口が僕の耳元へ近づいてくる。
「セフィリア様はジークリンド様を自分が出迎えると朝から張り切っておられました。
出迎えは私が行きますと止めましたが、ご覧の通り。
ジークリンド様。不躾ですが、もう少し姫様へ優しく接してあげて下さいませ」
「…わかりました」
味方だと思っていたが、この人もあちら側の人間だったか……
僕は少し萎えかけた気持ちを新たに、目の前に迫る馬車へ向けて跪いた。
「お父様!お母様!ジークが来ましたわ!」
セフィリアは礼儀作法を僕ら貴族よりも叩き込まれているだろうに。
しかし、今日は特別か。
「ジークリンド。よく来た。後ろの馬車へ乗るがいい」
「は。ありがたき幸せ」
同じ馬車に乗ってこいと言われず、僕は心底ホッとした。
王も臣下がいれば休めないだろうしね。
「何で!?ジークも一緒よ!」
「セフィリア。あまりジークと父を困らせないでくれ。他人の目があるからな」
「そ、そうね!わかったわ!」
何たる暴君…いや、暴姫。
これは国王も大変だね。
いや、こんなやり取りでも嬉しそうに見えるな……
気のせいか?
王族を乗せた馬車が進んだので僕は自分の乗る馬車を探し、荷物を馭者へ預けて馬車へと乗り込んだ。
「流石、来賓用の馬車…フカフカだ」
男爵家の馬車も悪いものではない。
けれど、そこに『貴族の』と付けば良いものでもないのが現実。
この馬車は凄い。いくらでも寝れそうだ。
寮のベッドより寝心地のいい椅子に座り、この旅の利点に今更ながら気付くのであった。
コンコンッ
馬車の扉がノックされる。
その音で微睡から覚醒した僕は、急ぎ身支度を整え返事をする。
「はい。どうぞ」
ガチャ
扉が開くと、そこには騎士が一人。
「本日の宿泊予定地へ着きました。下車を願います」
「はい。今」
降りたそこは見知らぬ街だった。
僕が王都と男爵領を往復するのは初めてではない。
それにも関わらず、こんな街には来たことも寄ったことも、通り過ぎた事すら記憶にはない。
「あの…ここは?」
まさか騙された?
一瞬不安が過るも、それをするならセフィリアは必要ないなと考えをフラットに戻した。
「ここはバーセルク侯爵領領都です。…神童と名高いジークリンド殿にも知らないことがあるのですね。安心しました」
「知らないことの方が多いですよ。それに私は家督も継いでいないただの若輩者。
敬称は不要です」
「王族方の来賓者を呼び捨てには出来かねます。ですので、お気持ちだけ頂いておきましょう」
流石近衛騎士。
ただ強いだけじゃなれず、筆記試験も厳しいと聞くだけはあるね。
でも、本当に敬語はやめて欲しい……
何だか悪いことをしてるみたいで居心地が……
いや、我慢しよう。これも貴族の在り方だもんね。
「ジーク!こっちよ!」
「また端ないことを…」
遠くで手を振りながら呼びかけてくるセフィリア。
それに対して僕が小言を呟くと、件の騎士からくぐもった笑い声が漏れてきた。
「これは失礼を。さ。殿下がお呼びです」
「…では、失礼を」
まさか、この人まで敵じゃないよね?
そう思いつつ、セフィリアの待つ玄関まで足早に向かうのであった。
「ようこそお越し下さいました。侯爵家一同、心よりお待ちしておりました」
城と見紛う程に豪華な屋敷。
その屋敷の主人であるバーセルク侯爵が代表挨拶をしている。
歳は40程で中肉中背。
ここはダンスホールなのだろうか?
国王夫妻にはテーブルと椅子が用意してあるが、他には見当たらない。
長テーブルに所狭しと料理と飲み物が並べられているだけ。
恐らく立食パーティーなのだろう。
「では、陛下と国の安寧を祈願して。乾杯」
さあ、パーティが始まった。
といっても、知り合いもいないし、僕は料理に舌鼓を打つだけだ。
「君が有名なジークリンドかな?」
お腹の空き具合と相談しつつ料理を摘んでいると、一人の青年が声を掛けてきた。
「そうですが…貴方は?」
「私を知らないのかい?これはとんだ田舎者だね」
知らないものは王族だろうと知らない。
それにしても、分かりやすいお貴族様だね。
侯爵と同じ白に近い銀色の髪。
顔立ちも似ていることから親子なのだろう。
自信家なところを見るに嫡男だろうか?
身長は175くらい。平民にしては高く、貴族であれば普通くらい。
歳は…15.6?
「いいだろう。私の名前はミナレード・アステカ・バーセルク。バーセルク侯爵家嫡男さ」
「ご丁寧にどうも。ご存知の通り、ジークリンド・アイル・オーティアです」
何がしたいのだろう?挨拶だけならいいけど。
「こう見えて、君には感謝しているんだ」
「はて…何もしていないと思いますが…」
この手合いは相手にしたくないけど、今回ばかりはそうもいかない。
そもそも逃げ場もないし、仮に逃げたところで僕を連れてきた国王の顔に泥を塗ってしまうからね。
「エミリア・ロジャー・ブロークン。この名前に聞き覚えは?」
「エミ…あ。あの時の…」
学園へ入学する時に王都への道すがら僕とカーバインが助けた伯爵令嬢の名前だ。
その人とこの人に何の関係が?
「思い出したようだね。彼女は私の婚約者候補の一人でもある。
それに、そうじゃなくとも王国の華の一人。
その命は何よりも大切であり、君はそれを救ってみせた。
そこに感謝しなくては紳士を名乗れないだろう?」
「そ、そうでしたか。それは…何より?です」
婚約者候補?
確か、婚約者はいないと言っていたけど……
「それに、今回はもう一人の婚約者候補の護衛をしてくれたのだからね。ありがとう。姫を私の元へ運んでくれて。
コウノトリの次くらいには感謝しているよ」
「…護衛?」
それに姫って、セフィリアのことだよね?該当者が他に見当たらないし。
これが上級貴族か……
ううん。流石の僕でも騙されないぞ!
この人はおかしいんだ!
「聞きたまえ。私の数々の浮き名を!」
うん…やっぱりおかしな人だった。
悪い人じゃなくて安心したけど…これはこれで……
僕がこの変…ミナレードの評価を下していると、もう一つここへ近づく気配が。
「ジーク!こんな所で何してるのよ!」
「セフィリア殿下」
「私を放っておくなんて、良い度胸してるわねっ!」
そう。セフィリアだ。
さあ、婚約者候補様のお出ましですよ?




