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見えているもの、見えていないもの

 





「セフィリアのあの様な表情(かお)を余は見たことがない」


 国王の独白は続く。


「余も含め、我ら王族に恋というものは不要。

 持ち得たとて、それは叶わぬからだ。

 ミスティアも余も、国の為に結ばれたのだ。

 そこに恋はない。

 しかし、愛はある。

 臣民を愛すること以上に、余はこの者達を愛している」

「陛下…」


 僕は何を見せられているのだろうか……

 イチャイチャしたいなら二人きりでどうぞ。

 その為に死ぬのは嫌なんだけど……


「余も、これまではそれでいいと信じていた。

 今もそれは変わらないが、一つだけ変わったこともある。

 それは娘達。

 彼女らを国の為に差し出すのは、如何ともし難い苦痛を伴うと気付いたのだ」


 …そうだろうね。

 自分が政略結婚する側ならまだいいけど、子供のことになると違うだろう。

 それが必ずしも子供達の幸せに繋がるとも限らないから。


「流石に何処の馬の骨とも知れぬ輩にやるつもりはないが、幸せにしてくれるならそれで構わないと思うのだ。

 勿論、ミスティア達妃が不幸せだとは思っておらん。余は出来る限りの愛を与えていると自負しているからな。

 しかし、姫達の政略結婚の相手がそうだとは言い切れぬ。

 既に相手が決まっている姫もおるが、その相手を選んだ理由も国に利するだけで、姫を幸せにしてくれるのかはわからぬのだ」


 一つだけ、子供もいない僕だけど気付いたことがある。

 陛下は熱い人だ。

 その熱は王族へと向けられ、また国にも向けられている。

 これほど頼もしい国王はいないだろうとさえ感じる。

 どれだけ賢くとも、どれだけ強くとも、これには優らない、と。


「故に、お主ならいいと。セフィリアが認めたお主であれば、娘をやると言っておるのだ」


 凄い。何を見たのか知らないけど、ここまで人は熱くなれるんだね。


「陛下。お言葉ですが、前提が違います」

「なんだと?」


 うっ…怖い……戦えば勝てそうだけど、そういう怖さじゃない。

 信念の重さ。その双肩に乗っている物の重みが僕とは全く違う。


「…セフィリア王女殿下は、私に恋心を抱いておりません」

「されど、あの表情は…」

「アレは憧れです。自分には出来ないことが出来る者への。

 そうでしょうとも。その出来ることが、自分のなりたい何かなのですから」


 確かに、僕への好感度は鰻登りしているだろう。

 しかし、それをすぐに愛とか恋とか言うあたり、この王様もミーハーな感じだね……


「憧れ…なのか?」

「私はそう思っています。それに、それは本人に確認したのですか?」

「いや…するわけなかろう。嫌われてしまうからな」


 でしょうね。

 憶測で物事を進めると、それも嫌われますよ?


「ミスティア王妃殿下。殿下はどう思われますか?」


 僕の助かる可能性はここにしかない。

 頼む!


「陛下には申し訳ありませんが…あの子にはまだ早いかと……」

「余が間違っていると…」

「いえ。もしそうであったとしても、あの子はそれに気付いていません。

 本人が気付いていないのに、分かりようもありませんわ」


 良かった…流石、酸いも甘いも経験した大人の女性だ。


「…そうか。余の早とちりであったか……」


 そうそう。

 何でもかんでも臣下に押し付けてはダメですよ?


「いえ。もう少し成長すれば、その想いは恋心へと充分に変わると思います。

 なので、時間の問題かと」


 なんだとっ!?


「それも、そうか。よし。その時が来れば、またこの父が応援しようではないか!はっはっはっ!」

「ま、待ってください!」

「何だ?余の娘では不服と申すか?」


 そんなこと、言えるわけないだろっ!


「ち、違います。その時までに王女殿下には沢山の出会いがあります。

 ですので、心変わりも。

 ここは一度全てを忘れて見守るのが一番かと思います」


 勝手に婚約してきたよ、パパ、ママ。

 なんて言えないし、リベラに殺され…ることはないにしても、大変なコトが待っているのは事実だ。


 いつか来る僕の婚姻が恋愛ではなくてもいいけど、それはいつかであって今ではない。


「セフィリアに限って、それはなさそうだが……ジークリンド」

「は、はい」

「お主、本当に嫌ではないのだな?」


 ぎょろっ。

 そんな擬音が聞こえてきそうなほどの視線を向けられた。


「勿論に御座います。されど、私の身分は男爵家嫡男。王女殿下の嫁ぎ先としては足りず、無理を通せばやっかみでは済まなくなると愚考致します。

 それは、国の混乱を招くかと」


 セフィリアは嫌いではない。

 というか、寧ろ好ましい女性だ。

 僕と全く同じではないけど、極めることを目指しているところとか。


 だから、本心を伝える。

 僕は子供ではないぞ、と。

 そしてこの話の意図はなんだ?と。


「それも問題あるまい。お主が結果を出し、そんなお主に喧嘩を売ろうと思わせなければ良いこと。

 カーバイン卿から受け取ったが、『算盤』『将棋』『オカリナ』はどれも素晴らしい品だ。

 これを売れば、男爵家といえどかなりの財を築ける。

 やっかみ相手は、その財目当ての婚姻と受け取るだろう」

「父上が……」


 何を勝手なことを……

 説明書付きで家族みんなに渡したのが仇となったな。


「何故、紅茶の販売には手をつけ、これらを売らなんだのだ?」


 これか……この話に持っていくための、前座だったのか。


「………」

「答えぬと、お主と言えど不敬に問うぞ?」


 子供相手であれ、本気だぞ?か。


「…答えを持ち合わせておりません」

「なに?理由がないとな?」


 これらを売れば、他に転生者や転移者がいた時、向こうにだけ一方的にバレてしまう。


 それに負い目もある。

 人の知恵を拝借し、自分が利することへの。


「細かな理由はありますが、陛下を納得させるだけの理由がありません。

 その中でも一番は、これで良いのかと悩んでいました」

「作品に自信がないと?」

「いえ。これを売って、誰かの職を、誰かが他に使うつもりだったお金を、それらを奪ってもいいのかと」


 どれも売れるだろう。

 それは前世が証明している。


 それらを売ると生じる歪み。

 それは経済の偏り。

 職人の飽和。


 皆が皆同じことをすれば、良い意味で安定し、悪い意味で成長が止まる。


 それをここで生きる者(自分)のアイデアではなく、他所の世界(他人)のアイデアでするのは何か違うと。


「何やら、抱えているものがありそうだな。わかった。どれなら許す?」

「算…いえ、将棋であれば」

「わかった。余が勝手に広める故、お主に迷惑はかけん。売上の一部を…そうだな。三割を権利として男爵家に渡そう。

 それで良いか?」


 算盤があれば、間違いなく計算力が向上する。

 その代わり、指導者の育成から始まり、現職の教員達に脱落者が出るだろう。

 その者達は職を失う。

 それは嫌だ。


「はい」

「よし。他に、提案はないか?」


 提案……

 そもそも世に出す気がなかったから何も考えていなかった。


「暫し考えさせてください」

「うむ」


 何か……

 これは…しかし、これも前世の…でも……


 よし。どうせ同じだ。


「あります」

「うむ。聞かせてくれ」


 国王が勧めて断れる人などいない。よって、将棋はこの国に広まるだろう。

 どうせ広まるんだ。それなら面白い方がいい。


「大会を開きます」

「大会とな?」

「はい。将棋は頭脳の競技。肉体はあまり関係ないので、ルールさえ覚えてしまえば老若男女全員が出来ます。

 先ずは地方大会を開き、その優勝者が王都へ集まり、王国一を決めるのです。

 地方大会の優勝者にはそこの領主が褒美と王都までの旅費を出し、王国一の人には国王陛下自らが褒美を贈呈します。

 それにより、国民と王族との距離も多少なりとも縮まるかと。

 それに国民全員が出来るのですから、武芸などと違って関心は高くなります」


 これが出来たら、本物の王座戦となる。

 勝っても玉座には座れないけど……


「余も参加出来るのか?」

「それは…ご遠慮ください。どの様な結果になっても、対戦者が可哀想ですので」

「わかっておる。冗談だ」


 でしょうね。


「よし。その提案が通るか不明ではあるが、それを踏まえて皆に伝えておこう」

「はっ」

「良き昼食となった。これからもセフィリアを頼んだぞ」


 これにて、何とか命を繋ぎ、初めての師匠としての仕事は幕を閉じた。


 カーバインへの苦情の手紙が十枚以上になったことだけ報告しておこう。

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