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コウノトリが運んできたもの

 






「ジーク!待ちなさい!貴方は安静にしてなくちゃいけないのよ!」


 足にしがみつき縋るリベラを引き摺り、カーバインの執務室前へと辿り着いた。

 そして扉をノックして返事を待たずに入室する。


「おっ。ジーク。目覚めたようだな。……これは、どんな状況なんだ?」


 そこにあったのは、書類を片手に思案顔をして立っているいつものカーバインの姿だった。


「父様。話があります」


 リベラを引き摺りながら父の元へと向かう。


「…何となく理解した。リベラ。二人で話がしたい。いいな?」

「…わかったわ」


 この時、僕は自身の身に起きている異変に気付いていなかった。

 カーバインはすぐに理解したのだろう。リベラを説得し、二人きりでの話し合いとなった。


「ふむ。ま、座れ」

「はい」


 勧められたので、ソファへと腰を下ろす。

 まだまだ身体が小さいので、座ると足が地面に着かなくて不安定だ。


 そして向かいのソファへ腰を下ろしたカーバインがゆっくりと口を開いた。


「気付いていないのか?」

「はて?何のことでしょう?」


 ん?何の話だろう?


「お前はリベラを引き摺ってここまで来たんだぞ?」

「え…」


 執務室と僕の寝室は同じ階にある。

 何が……

 あ・・・


「気付いたか。そうだ。それが(オーラ)の恩恵だ。普通…習わないと上手く使えないんだがな……まあ、お前のことは今に始まったことでもないか」


 何か言っているが、僕の耳には入ってこない。


 凄い…倍以上重いリベラを苦もなく引き摺ることが出来たんだ。


「自然に使っているようだが、まだ使わないほうがいいぞ。(オーラ)を使うのは、ゲレーロの講義を受けてからにしろ」

「は、はい」


 無意識の内に(オーラ)を使っていたようだ。


「それで?リベラから聞いたようだな」


 そうだ!何を嬉しそうにしていたんだ、僕は!


「そうです。どういうおつもりですか?その答え如何によっては、僕は母様を守ります」

「…いや、それがなくても母親なんだから守ってやれよ……」


 カーバインは呆れているが、僕は真剣だ。

 笑い話でもない。


「僕は悲しいです。家では良き父であり良き夫でもある父様が、外に女を作り、ましてや子まで作ってしまうとは」


 そう。リベラの変化の原因は、カーバインの浮気だった。

 僕も前世では片手以上の人とお付き合いをした記憶がある。

 でも、結婚はしていない。

 ましてや浮気も。


 浮気に関しては、面倒が勝ってしなかったような気がしないでもないけれど……


「まあ、聞け。本来であればまだ成人もしていない子供に説明する義理もないが、お前は特殊だからな」

「僕のせいみたいに言わないでください。

 …わかりました。聞きましょう」


 普段と顔つきが違う。

 何やら真面目な話らしい。

 これで言い訳だったら本当に殴ってしまいそうだ。


「俺には将来を誓い合った女がいてな」


 それはリベラでしょう?


「その当時の俺は16.7の若造だったが、本気だった」


 あれ?計算が合わない……

 僕は四歳で、カーバインは二十七歳。そして、リベラと結婚して二年で僕が産まれたはず。

 まさか……浮気相手の方が長い?

 なにそれ?


「当時の俺は冒険者をしていてな、そうだ。その時の仲間の一人がゲレーロで、今回ジークのオーラの先生に抜擢したってわけだ」


 なるほど…そういう繋がりだったのか。


「その時に依頼で助けた娘に俺が一目惚れをしてな。向こうも満更でもなかったみたいで、俺達は晴れて付き合うことになった」


 おお…僕の求めるファンタジーがそこにはあったんだ……


「…あれ?父様…冒険者だったのですか?」


 カーバインは貴族だ。普通荒くれ者の多い冒険者にはならない。それも嫡男であれば尚更。

 家が許さないだろう。


「まあ、聞けって。と言っても、不思議だろうから説明してやるか」


 勿体ぶらないでください!


「俺は貴族が嫌だったんだ。今のお前みたいにな。いや、お前よりも大嫌いだったと思うぜ?」

「僕は別に…嫌いではないですよ?ダンスとか作法が恥ずかしいだけです…」

「ははっ。お前も一端(いっぱし)の幼児をしているじゃないか」


 笑うところか?

 それよりも、一端の幼児って……


「特に嫌いだったのが、妻を選べないところだ」

「選べない?…確かに下級貴族である男爵家に嫁ぎたい人は少ないかもしれませんね」

「いや?見ての通り俺は男前だからな。お見合いの手紙は毎年山の様に貰ってたぞ」


 見た目か……この世界でも、やはりイケメンに限る、のか……

 僕のファンタジー…どこに行ったの?


「それで?」

「…何か怒ってないか?まあ、いいか」


 僕のこの怒りは、全人類の怒りですから。抑えようもありませんよ。


「家を飛び出した俺は冒険者となり、その女性と出会った。そして、今に至るというわけだ」

「……大分端折りましたね…」

「ジークならわかるだろう?」


 わかる。読めてしまった。


「つまり、母様とは政略結婚であり、それが条件だったと?」

「そんなところだ」


 条件とは、複数が関与したもの。

 まず第一に、カーバインは脅されていたか、もしくはその女性が脅されたか。

 それをやめさせる代わりに家を継いだ。

 しかし、貴族の跡取りは通常だと平民と婚姻を結べない。

 そこにも交換条件があったのだろう。


 恐らくカーバインに恋をしたリベラはそれを飲む代わりに婚姻に漕ぎつけた。

 その条件は……


男爵家嫡男(ぼく)が生まれた後で、妾なり側室などにその女性を迎える、と」

「なんだ?もう答えまで辿り着いたのか」

「父様。一つお聞きしても?」


 その言葉にカーバインは頷いて応えた。


「母様を愛していますか?」


 この時、僕は言葉を間違えてしまった。

 それは目を見開くカーバインを見ても明らかだった。


「当たり前だろう?リベラは男爵夫人としても妻としても母としても完璧な人だ。

 それがなかったとしても、こんな俺を立ててくれるだけでそれに値するし、その想いには応えなくてはならない。

 人としてな」

「わかりました。いつ会えますか?」


 そこからはいつもの会話となった。

 カーバインは終始嬉しそうに、そんなカーバインを見ると先程までの僕の怒りは何処へやら。


 本当に愛しているようだ。両者ともに。















「紹介しよう。ロキサーヌ第二夫人だ」


 あの衝撃から一月。その小柄な身体に不釣り合いな大きなお腹を支えながら、とある女性が我が家を訪ねて来た。

 そう。カーバインの愛じ…じゃなかった。愛する人。


 カーバインはそんなロキサーヌを妾や側室ではなく、リベラと同格の人物として紹介した。


「初めまして。リベラ・オーティアです」


 違和感…はないかな。リベラは平静のようだ。


「ん?ジーク…?」

「あ、いや。ジークリンド・アイル・オーティアです。ようこそ、オーティア家へ」


 リベラに注視し過ぎ、自分の挨拶をすっぽかしちゃった。


「リベラ様。その寛大なお心へ感謝申し上げます」


 そういうと、ロキサーヌは頭を下げた。

 次にその小さな頭を上げた時、その視線は僕に向いていた。


「ジークリンド様。産まれて来てくれて感謝致します。聞いていた通り、利発そうな方ですね」


 そう言うと、微笑んでみせる。

 そうか。

 この笑顔か。

 なら仕方ないよね。

 そう思い、カーバインへチラリと視線を向けた。


 そしてロキサーヌのこのセリフには、彼女なりの意趣返しが含まれている。


『私と彼が直ぐにでも結婚できなかったのは、男爵家の所為』だと。


 それでも、僕やリベラには感謝しているようだ。

 その声に戸惑いの色はない。


「いや、利発というよりも、マセガキなだけだ。な?ジーク」

「貴方?私のジークちゃんに、なんと?」

「い、いや。俺には過ぎた息子だと……」


 負けるのがわかっててやっているのかな?いや、わかってないんだろうな……

 思い浮かんだ言葉をすぐ口にするとは、カーバインは本当に貴族に向いてないよね……


「た、立ち話もなんだ。座って話そう」


 カーバインはその一言で難を逃れることに成功した。



 その半月後。

 我が家に新たな産声が上がった。

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