表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/46

親の心、子知らず

 






「ふう。やはり、慣れないな」


 翌朝、城を前にして深呼吸をしている。

 目の前には白亜に青が散りばめられた巨城が鎮座している。

 その入り口には厳格そうな騎士が立っており、その横を通り過ぎる時が一番緊張する。


 そこを過ぎると、次に立っているのは城勤の人達。

 その中の一人が僕へと話しかけてくる。


「ジークリンド様。こちらです」

「お願いします」


 案内がなければ通えない。

 今日も今日とて、昨日の侍女さんが僕をエスコートしてくれた。






「お、お、お、お…」


 オットセイかな?


 辿り着いたのは修練場。

 普段ここは近衛騎士が使っているらしいが、王族権限で今は貸切だ。


 その王族であるはずのセフィリア王女は、オットセイのモノマネにハマっているらしい。

 僕も変わっているとは言われるが、彼女ほどではないと安心する。


「なんですか?」


 黙りを決め込む王女へ、僕は問い掛ける。


「お、お、お…」


 まだ続けるのか……


「お、はよう、ございます…し、しょう…」


 僕は目を見開き、あまりの驚きで何も出来ないでいた。


「ジークリンド様。ご挨拶を」

「あ。そうでしたね…これは失礼を」


 見かねた侍女さんが静かに伝えてくれた。


「おはようございます。セフィリア王女殿下。今日も美しい髪がお似合いです」


 女性への挨拶は兎に角褒めることから。

 そこさえ出来ていれば問題ないと、カーバインからも家相のタイラーからも教育されてきたからね。


「…ふん。敬称は要らないわ!ジークは師匠なんだからっ!」

「そうでしたね。わかりました。セフィリア。おはよう」


 危ない。ツンデレ耐性が低いから、可愛いと素直に褒めてしまう所でした。


「早速始めたいと思いますが、先ずはセフィリアのオーラを見せて下さい」


 そういうと、僕は領域展開(テリトリー)を広げる。

 今は平時。セフィリアのオーラは身体の中心で纏まっている。


「こ、これで良いのかしら?」


 オーラが全身へ行き渡り、身体強化された状態へ移行して見えた。


「そうです。では、限界まで動かしてみて下さい」


 そういうと、『むむむ…』と呟きながら力み始めた。


「違います。オーラを速く、そして滑らかに、さらに強く動かして下さい」


 暫く見ていたが、何の変化もなかった。

 いや、身体は十分硬くなっていってるけど……


「中断して下さい」


 これ以上は倒れてしまう。

 酸欠と同じように、澱みなく動かさないとオーラはその力を失っていく。

 そしてオーラが体内から消失すると貧血に似た症状を起こして倒れてしまう。


 勿論、身体強化を行えばどんな達人であれ、オーラを消費し続けるけど。

 それでも、今のセフィリアほど酷くはない。


「は…はっ…はっ…」

「わかりました」


 考えを纏める為、少し休憩を取らせる。

 そして纏まったので顔を上げると、そこには子供がいた。


「何で…泣いているんですか…?」


 王女は涙を溜め、そしてそれは頬を伝い落ちる。


「だって…私には才能がないんだもん…」

「誰がそんな事を?」


 僕は言っていないし、何なら才能の塊だとさえ思っている。

 それは恐らく剣聖アルバートも同じだろう。


「………」

「告げ口などとは思いませんし、誰にも言いませんから」


 この涙はそのプライドの高さから溢れてしまったものだ。

 誰かのせいにしたくない。

 その気持ちは痛いほど分かる。


「…第二王子」

「ああ、お兄様でしたか」


 なるほど。昨日まで可愛い妹だったけど、気付いたら自分のすぐ後ろにいた。

 その恐怖からつい心にもないことを言ってしまったのかな?


 才能があるとそれが乏しい人からの口撃は、いつの時代もどんな場所でも起こり得るからね。


「あんなの…兄じゃない…」

「そうですか…」


 何があったのかは知らない。

 知らないから踏み込まない。


 僕が教えるのは剣術…というより、オーラの使い方だから。


「安心して下さい。セフィリアには才能があります。剣術にもオーラにも」

「本当…?」

「本当です。剣術の才に関しては僕以上なのは間違いありません。オーラまで譲る気はありませんが、それもあると確信しています」


 こういう時に嘘は諸刃の剣となる。

 だから、事実だけを伝えた。

 それでも渋るセフィリアへ、更なる事実を伝える。


「セフィリア。こちらへ」


 はてな顔でひょこひょこと近寄るセフィリア。

 僕はその耳へ顔を寄せ、内緒話で話しかける。


「ちょっ…ジークリンド様っ!」


 傍目にはキスをしているように見えたのかも。

 配慮が足りなかったせいで、侍女が大声を上げる。


「僕は氣化製品(オーラツール)が使えません。勿論、戦闘氣化製品(バトルツール)も全て使えません」


 セフィリアの息を呑む音が聞こえた。


「なので、そんな僕に出来るのに貴女に出来ない筈がない。わかりましたね?」


 綺麗な赤毛が僕の鼻を擽りながら、今度は頷いてみせた。


「というわけです。さ。頑張りましょう」

「ええ!わかったわ!」


 顔を離し、いつもの距離で伝えた。

 セフィリアもいつもの表情へ戻っていた。









「はい。今日はこの辺りで終わりにしましょう」


 好きこそ物の上手なれ。

 セフィリアは努力の人だ。


 勿論それは彼女だけに関わらず、好きなこと、やりたいこと、なりたい自分があれば、人は努力出来る。

 それを可能にしているのは、それを努力だと思わないからなのだろうというのは僕の持論。


 努力や我慢など誰も出来ないし、続かない。

 それが出来ているのは、本人の資質であったり、周りの環境、師事している人物のお陰。


 だから僕も感謝している。

 いままでの師匠達は勿論のこと、環境を整えてくれていた両親にそれを支えてくれた人達を。


 セフィリアは少し違う。

 誰が何を用意していなくとも、彼女は出来るから。

 なりたい自分が既に決まっているから。

 そうなる為にどうすればいいのか考えられるから。


「ふう…コツは分からないけど、何か掴めた気がするわ」

「それでいいと思います。仮にそれが気のせいであってもいいのです。セフィリア、貴女は立ち止まらない。それが貴女の強さなのですから」


 本当に強いと思う。

 僕は中身が大人だから耐えられた。

 セフィリアは子供なのに頑張れている。

 これは言葉以上に大きな違いを持つ。


「…ぁりがと、ございました」

「はい。お疲れ様でした」


 慣れてしまえば可愛いものだ。

 慣れるまでが大変だけど……


 どこの世界に暴力大好きお姫様がいるのか?

 ここにいたのだ。

 それも自分の手を使う暴力の玄人だ。


「さて。それでは送って下さい」


 時間はまだ午前中だが、王族の一日を全部貰うわけにもいかないし、そもそもセフィリアのオーラの残量が乏しい。


 侍女さんに連れられ、僕は修練場を後にした。






「何故…ここに…」


 道を知らなくとも、近づけば流石にわかる。

 中庭へ連れて来られた僕は侍女へ向けて疑問を投げかけた。


「ミスティア様と昼食の御約束をしていたのでは?」

「いえ、していませんよ?」

「そうですか?私は連れてくるように言われているだけですので。では、どうぞ」


 勧められたのはいつもの東屋へ続く道。

 この先にはミスティアが待っているのだろう。


 そもそも、既婚女性とご飯の約束とか、普通殺されても仕方ない行動だと思うんだけど……

 それが国のファーストレディであれば尚更……


 今更悩んでも仕方ないので、僕は東屋へと向かった。



「よく来たな。堅苦しい挨拶は必要ない。座れ」


 跪く僕の頭上へ、よく通る声が響く。

 顔を上げるとそこにはいつものように柔らかな笑みを浮かべるミスティアとその隣に……


「陛下…心臓が止まるかと思いました」


 この国最高権力者の姿があった。


「偶々時間が取れた故な。お前にばかり余の可愛いミスティアを独り占めされてはかなわん」

「決してその様な……」


 というより、それが方便であることはわかる。


「座れ」

「はい…」


 逃げたかった。

 話を聞かないレイチェルの次に僕の苦手な人。

 何を考えているのかさっぱり読めないし、こちらのことは逆に見透かしている雰囲気がある。


 転生者としては非常に困るのだ。


 命令されれば従うしかない。

 僕は二人の正面に腰を下ろした。


「先ずは食事だ。持って参れ」


 国王がそう伝えると、テーブルがすぐに料理で埋まる。

 コース的なものではなく、定食的な雰囲気だな。


「食べながら聞かせてくれ」

「はい。何なりと」


 いえ、何なりは嘘です。素性は聞かないで下さい。


「ごめんなさいね、ジークリンド様。陛下が来るときかなくて」

「いえ。ミスティア王妃殿下。陛下と殿下の御二方と食事を共に出来るなど、身に余る光栄にございます」


 光栄?何の罰かと頭を抱えたい気分です。


「セフィリアはどうだ?」


 良かった。そうだよね。子供のことだから心配だよね!


「王女殿下は努力の人です。そこには何人(なんぴと)も寄せ付けない程の才をひしひしと感じております。

 まだ始めたところなので成果はありませんが、それはこちらの不徳の致すところ。

 殿下は必ずや目標へ辿り着くでしょう」


 ふう。こんなところだろうか?

 嘘は言えないし、そもそも言う気もない。


「そのことではない」

「え…失礼を。質問の意図を図り損ねました。この若輩者にどうかお教え下さいませんか?」


 これが違うなら何が聞きたいんだ?


「ジーク。お主はセフィリアをどう思っておるのだ?」

「はい?」


 しまった!質問に疑問で返してしまった!

 それも二回目……


「し、失礼を。セフィリア王女殿下はとても活力があり、見目も麗しく、素晴らしい女性であります」


 何だ?娘自慢か?


「はあ…そうではない。お主は娘を好きなのか?と聞いておるのだ」

「えっと…それは好きです。人として尊敬に値するお方ですので」

「そうではないっ!嫁に欲しいかと聞いておるのだっ!」


 ガシャンッ


 遂に国王は激昂し、テーブルを叩いて立ち上がってしまった。


 質問の意図は掴めないけど、どうやら僕は怒らせてしまったらしい。

 ここで、今世も死ぬんだね……


 カーバイン、リベラ。

 約束を守れなくて、ごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ