赤髪の剣士
「次は貴方ですけど、どうしますか?」
周囲には冒険者達が倒れている。
最早足の踏み場に困るくらいだけど、釣り上がってしまった賞金に最後まで誰も諦めなかった。
初めはみんなと僕との賭けだったのに、結局一人一人と有り金を賭けての戦いとなった。
つまり僕が勝ち続ける度に、貰える予定の賭け金も増えてしまう。
欲に目が眩むとはこのこと。
先程までの圧倒的な強さを見せた戦いを、みんな忘れたかの様に挙って参加してきたのだ。
「やらねーよ。なんだ、強いなら最初から言え。性格の悪いガキだな」
「…貴方が人の話を聞かずに絡んできたんでしょうに」
あれ?僕が悪いの?
まあ、どっちでもいいか。
「それにしても、そんだけ強くて冒険者にならないって、お前、ここへ何しにきたんだよ?」
「父にここへ来たら身体が動かせるって言われたから来てみたんです。完全に騙されたのですが、もう気付いているのでしつこく聞くなら、貴方に駄々を捏ねます。僕はまだ十歳の子供ですのでね」
身体が動かしたくなったら、冒険者組合に行くといい。
この言葉に騙されてノコノコ来てしまった。
だって、動かしたかったのだもの。
「…そうか。親父さんは元冒険者か?」
「はい。元上級冒険者だと聞いています」
「名前は?」
この人は恐らく25くらいだから、関わりはないと思うけど。
というか、言ってもいいのだろうか?
まあ、いいか。僕を騙したんだから。
「カーバインです。カーバイン・オーティア」
確か、貴族を抜けた気でしてたって言ってたからミドルネームは登録していないだろうし、名乗ってなどいなかったはず。
「カーバイン…兄貴の…兄貴の息子か!?お前!」
「えっ…知ってるんですか?」
確か上級冒険者は常に国に二十人くらいいるって聞いたんだけど。
それなのに、過去の人も知ってるんだ。
しかも、兄貴って……確かに、この人とカーバインは八歳差くらいだから、おかしくはないけど……
「知ってるも何も、兄貴は俺の命の恩人だ」
「へー。そうなんですね。では、僕はこれで」
ここへは身体を動かす為に来ただけ。
明日も予定があるし、そろそろお暇しよう。
「まあ、待て。兄貴の息子をタダで帰したとあっては会わせる顔がねぇ」
「いや、父はそんなことを気にするタイプじゃないので…」
「よし!上で飲むぞ!」
え。あの?
僕の疑問を無視して、行きと同じく僕は連れて行かれてしまうのであった。
「まあ、とりあえず飲め!」
差し出されたのは酒が並々と注がれた木のジョッキ。
ここはギルド内にある酒場のようだ。
「いえ、僕は未成年なので、飲酒はしません」
「かあーっ!馬鹿かお前!冒険者が酒飲めねーって、武器を持ってないようなもんだぞ!?」
「ですから、僕は冒険者ではありません」
この人、もう酔ってるの?
「あ、そうだ。これを」
じゃら……
上級冒険者へ渡したのは、先ほど得た金子。
幾ら入っているのかは知らないけど、このお金に興味はない。
「何だそりゃ。お前が稼いだ金だろ?」
「ええ。ですので、これを使って、下に転がっている人達にお酒を振る舞ってください。
僕にも落ち度はありますが、貴方の責任でこうなったとも言えるので、それくらいの労力は嫌いませんよね?」
「…お前。実は生粋の冒険者だろ?やるな…流石兄貴の息子なだけはある。かっこいいぜ」
それは嫌だなぁ…カーバインに似てるってことでしょ?
僕はリベラ似なんです。中身はね。
そんなことがあり、酒は飲めないが宴会に付き合わされ、帰った頃には日が沈んでいた。
「ふぅ…昨日は散々でした」
翌朝、人の少なくなった寮の中庭で素振りをしている。
これまでは誰かに見られると面倒だと思ってしてこなかったけど、長期休みに入ったので見られる可能性はぐっと少なくなった。
「さて。今日こそは、何もないことを願いましょう」
目指すは有意義な時間。
今日の予定をこなす為、もう暫くという気持ちを抑えて素振りを中断し、顔を洗う為に中庭を後にする。
「姫様は既に修練場にてお待ちです」
やって来たのは通い慣れてきた王城。
慣れたけど、城内は複雑に入り組み、そこが慣れることはなさそう。
案内なくして辿り着くのは不可。最初から覚える気すら起きないんだもん。
ミスティア王妃やセフィリア王女に用がある場合、案内は必ずこの女性。
名前は忘れたけど、いつも影に徹していてかっこいいなと思う。
そんな彼女の案内でよくわからない通路を通り、漸く修練場へと辿り着けた。
そこには仁王立ちの赤髪の少女が一人。
修練場の壁際にはお付きの侍女二人と騎士が三人見える。
「セフィリア殿下。遅くなり、申し訳ありません」
別に僕は遅刻などしていない。
王女がせっかちなだけ。
「別にいいわ!逃げずに来ただけ、褒めてあげる!」
自信満々に仁王立ちでそう言われると、僕が遅刻したと自分でも錯覚しそうになる。
「師匠の許可は?」
「安心しなさい!合格したわ!」
ここでの師匠とは、剣聖アルバートのこと。
許可と合格。
許可は、国王が課したもの。
合格は、師匠がそれを認めたということ。
「はあ…嫌ですね…」
「なによっ!私に負けるのがそんなに怖いの!?」
勝つのが怖いんです。だって、貴女しつこいでしょ?
そう。僕とこの姫様が剣で戦うのだ。
木剣とはいえ間違いは起こるし、怪我も往々にして負う。
その場合、いくら許可を貰えたとしても、僕の心象は地に落ちるだろう。
誰の?
そりゃ、この国の人全員の。
「気は進みませんが、準備しましょうか」
「私は出来てるわ!さっさとしなさい!」
はあ…溜息しか出ない。
そもそも、何故僕なのか。
そりゃ同い年で無敵と褒められていたのに、何処の馬の骨とも知らない僕が急に現れて、それを全て掻っ攫ってしまったからだよね。
師匠も一々言わなくていいことを……
『師匠にはまだ勝てないけど、同年代では最強よねっ!?』
それに馬鹿正直に答えたらしい。
嘘でも王族には媚びろよ。
それが僕と王女が出会う前。
そして会ってみたらこんな普通の男。私の敵じゃないわ、と。
行動力の塊の様な人だ。
僕と模擬戦を組む為に王女は奔走した。
父である王に直談判し、『…剣聖が認めたなら』と。
そして、遂に認められた。
仕方ない。元々強さを求めたのは僕なのだから。
言っておくけど、強さだけを求めてはいないからね!あくまでも、漫画やアニメみたいなことをしてみたかっただけ。
だから、理由がないんだ。
以前王に伝えた様に、才能は王女の方がある。
だって、理由があるから。
強くなりたい、誰よりも、剣聖よりも。
いつか抜かれるに決まっている。
僕はどちらかというと、強さよりもオーラの可能性の方が気になってるからね。
今後も剣は振るけど、それは長く健康でいられる為と、生き延びる為。
理由が大違いだ。
志の違いが結果に現れるのもまた道理。
しかし、今はまだ理不尽な結果を見せる気ではいる。
僕に手を抜くつもりはない。
「構え。始めぃっ!」
騎士の一人が審判役となり、開始の合図を告げる。
「ふふふ……やっと。やっと来たわ…」
どうしたことか、セフィリアはブツブツと喋っている。
「しねぇぇぇっ!!」
「なにっ!?」
木剣を両手で握りしめ、セフィリアが上段からの振り下ろしを仕掛けてくる。
あまりにも隙だらけだったが、その気迫に押され僕の足は竦み、後退を余儀なくされる。
カッ
カンッ
カカンッ
「どうしたの!?逃げてばかりじゃない!」
「くっ…」
本物の殺気だ。初めて受けたよ。
オーラの存在する世界だ。地球人と比べて誰もが感受性は高く、そして僕も例外ではない。
木剣が幾度となく衝突する。
「カカシの方がもっと斬り甲斐があるわね!」
「それはどうもっ!」
それはそう。僕はまともに受けずに受け流しているのだから。手応えはないだろう。
「はっ!」
最初の振り下ろし以降、セフィリアの出してきた技は小さなものばかりだった。
そちらの方が僕には厄介で、やはり注意していたところ、急な横薙ぎ。
ブンッ
視界がブレる程の圧力を伴ったそれは、スウェーした僕の目の前を紙一重で通り過ぎていった。
ギリギリだった。
「チッ。惜しかったわ」
「当たらなければどれも同じですよ」
危なかった。
軽口を叩いたけれど、それは虚勢でしかない。
王女とは、もっと実力に差があると勝手に勘違いしていた。
それはそうか。
剣聖が僕との模擬戦を認めたくらいなんだ。
元々油断していなかったけど、考えを改めなくてはいけない。
「煽ったつもり?見てなさい。次は首を落とすわ」
怖いって……
それに首が落ちたら見えないでしょうが!
「正直、みくびっていました」
「アンタ、馬鹿?私はいずれ最強になるのよ?」
「知っています。多分、なれますよ。剣士の中では」
「…何が言いたいのよ」
この人は真っ直ぐだ。
だから強くなれる。
「これから見せます。剣だけでは、届かないところを」
僕に剣の才能はない。
そりゃ、同年代にはそうそう負けないけど、それも後五年もしたらどうかな?という程度。
現に、セフィリアには迫られてしまっている。
明日にでも剣技で抜かれるかもしれない。
でも、こっちでは負けません。
「…何よそれ」
セフィリアが異変に気づく。
「気付いたのは流石ですね。でも、秘密です。知りたかったら、僕から一本取ることですね。無理でしょうけど」
王国第三王女である赤髪のセフィリアは剣術に夢中。
まだ十歳なのに、その顔は完成された美しさを持っている。
「ガアァッ!」
その美しい顔を般若の如く歪ませると、身体強化全開でこちらへと突っ込んできた。
国王と王妃はこの子に剣ではなく筆を持たせるべきだった。
そうすれば僕は平穏に過ごせ、王女はさぞモテたことだろうに。




