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冒険者はガサツ

 





「ここが冒険者組合(ギルド)か…」


 街の外れ。王都の入り口に近い場所に、目的の建物はあった。

 見た目はおしゃれなカフェみたいだね。


「…よし。とりあえず、入ってみるか」


 ここでウダウダしていても埒が開かない。

 とりあえず目的もないけど、建物に入ってみることに決めた。


 カランカランッ


 ドアベルを鳴らしながら入ると、中から多数の視線が集まる。

 建物は三階建。ここ一階には柱が多いけど、仕切りはなく、とても広い空間が広がっていた。

 しかし…それでもこの圧迫感。


 中は大勢の冒険者で溢れていた。


「とりあえず、受付に聞いてみようかな」


 人を躱してカウンターのある場所まで行くと、元気よく声を掛ける。


「すみませーん」


 すると、奥から職員と思わしき女性が出てきて対応してくれる。


「はい。どうされましたか?」

「あの。冒険者について、お聞きしたいのですけど」

「はい。制度についてですね?」


 女性の見た目は十代後半。綺麗に編んだ髪と清潔そうな制服。

 これもあるある。

 理由は冒険者のモチベーションといった所だろう。


 僕を含め、男は綺麗な女性に弱く、また単純だからね。


「…ということです」


 説明はカーバインから聞いていたものと変わりない。

 登録すれば誰でもなれる個人事業主。

 働けば働いた分だけ給料と評価が増える。

 その評価は階級に関わる、と。


 冒険者には階級がある。

 まず見習い。

 次に初級。

 次に中級。

 そして、カーバイン達の上級。

 さらに上が聖級。

 その上が王級と続くが、聖級ですらこの国にはいない。


 直近での唯一の王級は、引退した現ギルド統括マスターだとか。

 聖級は大陸に四人いる。

 どうも剣聖と同じ感じがする。


 恐らくバケモノなのだろう。

 是非とも関わり合いたくないものだ。


「ありがとうございます」


 受付にお礼を伝えると、何故か後ろから声をかけられる。


「ここはガキの来るとこじゃねー。帰んな」


 僕達の話を聞いていて、僕が登録に来た新人と勘違いしたのだろう。

 それにしてもガサツだな。


 カーバインをガサツな男と評価していたが、彼らを見るとカーバインはやはり貴族だ。

 幼少期の教育が抜けきらず、根底に貴族を残したままガサツになると、ああなるのだということか。


 なるほど。


「スカしてんじゃねーぞ!ガキがぁ!」


 どうでもいい評論に夢中になっていて、どうやら無視をしていたらしい。


 でも、気にしない。

 目には目を、歯には歯をではないけれど、郷に入っては郷に従っているまで。


 舐められたらダメだと教わっていたからね。

 貴族も、冒険者も。

 ここに共通点があった。


「すみません。あまりに声がデカかったので、目の前にいる僕に話しかけているとは思いませんでした」

「…てめぇ。いい根性だ。だが、死んだぞ…」


 あれ…おかしいな。

 カーバインは『言い返せば、お前に勝る奴なんて冒険者にはいない』って言ってたのに……


「おい…あのガキ、煽り返したぞ…」

「馬鹿なのか?アイツは上級だぞ」

「可哀想だけど、あの子死んだわね」


 周りに助けてくれそうな人はいない。

 冒険者は自己責任だと聞いていたけど、まさにその通り。

 でも、忘れていないかい?


「僕、冒険者ではありませんよ?」


 自己責任なのは子供の冒険者だけ。

 僕は普通のお子様なので、喜んで助けて下さいね。


「あん?だからなんだ?」

「だから、手を出したら犯罪ですよ?」


 冒険者はどうなんだろう?

 カーバインは喧嘩に明け暮れていたって言ってたけど。


「アホか。お前は俺を馬鹿にしたんだ。その責任は死んで償ってもらう。犯罪がどうした?お前は死ぬんだから関係ねーよ。

 おら、こっちこい」

「あのーこう言っているんですが、良いんですか?」


 僕の後ろ襟を掴み、引き摺って何処かへ連れて行こうとしている。

 僕は受付の女性に声を掛けてみるが、見て見ぬふり。

 気付いているのに、そっぽを向かれてしまう。


 周囲の人も誰も止めようとはしない。


 僕は周りの子より少し大きいけれど、まだ十歳なんですよー?





「いて」


 無理矢理連れてこられたギルドの地下には広い空間があった。

 階段を降りたところで放り投げられたので、痛いふりをしてみる。


「ガキ。お前は調子に乗りすぎた。殺しはしないが、腕の一本は覚悟しておけ」

「へー。柱がないのに建物が沈下しないなんて凄いですね!この石材は何か特殊なものなのでしょうか?」


 男が何か言っているけど、壁をペタペタ触ることに夢中な僕の耳には何も入ってこない。


 あれ?オーラが…そうか。やはり特殊なんだね。


 ここは20m四方の広い空間。

 天井も壁も青白い石で造られている。

 床だけは剥き出しの土。

 天井までは…五メートルくらいかな?かなり高い。


 なるほど、ここは戦闘を目的とした空間なんだね。


 それが決闘なのか、模擬戦なのかは知らないけど。


「ガキ。お前はやっぱり、殺す」

「ですから、貴方は牢屋ですよ?多分死罪に問われるでしょうし」

「誰も見ていない。じゃあ、お前を何処かに捨てれば、証拠もない」


 短絡的ですね。

 こういう人が大きな失敗をしたら、賊へと落ちぶれるのでしょう。


 身長は180以上あるし、力はありそうだから、賊にドラフトがあれば一位指名間違いなしです!


「一つ、聞かせてください」

「どうせ死ぬんだ。何が聞きたい」

「なぜ、僕に難癖をつけてきたのです?」


 そう。気になったのはそこ。

 あんなやり方をしていたら、冒険者の成り手がいなくなるのではないだろうか。

 特に子供なんて、新人の割合が一番高いだろうに。


「お前みたいな綺麗な服着たガキはすぐ死ぬからだ。

 その度に俺達冒険者の肩身は狭くなる。

 やれ『うちの子が死んだのは、冒険者がちゃんと教えなかったからだ』とか『本当はうちの子を囮にしてたんだろう』とかな。

 俺はうんざりしているんだ。

 自己責任だとあれほど周知しているにも関わらず、ちゃんとした家で生まれた奴らに限って馴れ合いを求め、人の所為にしやがる」


 意外だ。あまりにもまともな答え。

 やり方は拙いし、殺しては本末転倒な気がするけど。


「そうですか。つまり、貴方の自己満足と自己中心的な考えで、冒険者でもない僕は死ぬのですね」

「剣を持ってここへ来たんだ。その覚悟がないお前が馬鹿なだけ」


 煽りももう効かないみたいだね。


「あれ?まだシメてないのか」

「まだピンピンしてんじゃん」


 会話を終えようとしたところで、階段からゾロゾロと他の冒険者達が降りてきた。


「また、お溢れか?」

「へへ、昨日賭場ですっちまってな」

「黙っててやるから、良いだろう?少しくらい」


 なるほど。のされた子供の所持品狙い。

 この人達の方が、僕のイメージ通りなんだよね。


 この二人以外にも、ゾロゾロと。

 子供がやられる姿を見物したいなんて、やっぱり冒険者はガサツですね。


「ガキ。逃げ場もなくなったな」

「そうですね」

「さっさと腰の剣を抜け。殺される理由になるのが怖いか?」


 この人はもしかしたら、良い人なのかもしれない。

 どうせ死ぬなら、自分が痛めつけて諦めさせた方がマシ。

 なんて考えてるのかも。


 他の人の方がやっぱり普通の冒険者。

 子供が殴られるところを娯楽として捉えられる異常者達だ。


「いいえ。ただ、これだと僕に利がないと思いまして」

「利、だと?」

「はい。せめて、そこにいる人達と賭けをさせて貰えませんか?」


 僕にこれっぽっちも非がないとは言わない。

 あの場面でこの人にペコペコしていたらこうはなっていなかったんじゃないかと、今はそう思える。

 さっきはこの人も他の人達と同類と決めつけていたから、そんな考えは微塵も浮かばなかったけど。


「そこで見物している人達。僕と賭けをしませんか?」


 少し声を張り、聞こえる様に伝える。


「僕が負けたら、装備も服も有り金も全部あげます。

 僕が勝てば、貴方達の有り金を下さい」

「なんだと?」

「あのガキ、なんていいやがった?」


 聞こえているけど、理解するのに時間が掛かるようだ。


「え、俺!俺はその賭けに乗るぞ!」


 一人、先程の金をすった男が名乗りを上げる。


「おいおい!俺もだ!」

「抜け駆けはやめろ!俺もだ!」

「私も!」

「その剣は俺にくれ」


 あっという間に全員が賭けに参加することに。


 集めた有り金を奥の壁周辺に置いておく。

 誤魔化されたら面白くないからね。


「お前…何を考えていやがる?」

「何も?ただ、僕の利を探しただけですよ。無報酬で僕が戦うと思っている時点で、貴方は冒険者失格です」


 冒険者は命懸け。

 それはそうだろう。

 時には自然を相手に。

 時には魔獣を相手に。


 そこには命懸けに値する報酬が存在する。

 存在しなければ誰もそんなことをしないからだ。


 冒険者にとって、命の次に大切なのは報酬。


 そこに気付けないとは上級って言われてたけどまだまだだね!


「…く、くっはっはっはっ!そうか!そうだな!」

「そうですよ。対価は重要です」


 無駄働き、そしてサービス残業は前世でお腹いっぱい。


「わかった。賭けたんだ。お前らでやれ」

「はあぁ!?」

「何でだよ!」


 この人達は日和見。

 掛けるだけなら良いけど、自分の手は汚したくないタイプ。

 こういう人達も前世には沢山いた。

 いや、どの時代も大半がこのタイプ。


 確かにリスクは少ないけど、大成もしない。

 前世なら兎も角、エトランゼ(この世界)でそれだと夢がないよね。


 ましてや、失うものが自分の命くらいの冒険者をしていて。


 この人が上級冒険者だということは間違いなさそうだ。


 あれよあれよという間に、話を力で纏め、結果は僕が一番望んだ通りになった。

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