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学園の異端児

 





「馬鹿な…」


 目の前にいる大男が驚愕している。


「馬鹿ですみません」


 そして、僕は素直に謝る。というか、明らかに煽っていた。


 普段温厚な僕が怒っている理由を知るには、少し前に遡る必要がある。









 少し前のこと。


 王都へは寄付をするために来たのではない。ましてや観光でも。

 そう。今日は待ちに待っていない入園式。

 この日のせいで僕はお小遣いを使って一張羅を用意しなくてはならなくなった。

 成長期だから、これ一度しか着ないのに……


「着いたぞ。ここがジークの通う学園だ」


 貴族街以外では初めて歩く王都の街中。

 大通りから一つ中に入った通りに面して、その建物があった。


 建物は綺麗で大きく、白を基調としていた。

 塀に囲まれているから一階は見えないが、恐らく変わらないだろう。


保護者(俺たち)は別の入り口だから、ここでお別れだ」

「が、頑張って下さい…いえ。辛ければいつでも帰ってきて良いのですよ?」

「…母上。そもそも、まだ入学すらしていません」


 入学式を終えると、寮への引っ越しが待っている。

 そして、二人との会話はここが最後。

 次に会うのは長期休みかな?


「では、行ってきます」

「頼むから大人しく過ごしてくれよ」

「僕は暴れん坊じゃないですよっ!」


 カーバインが全て台無しにしてくれたが、湿っぽいのは苦手だからちょうど良かった。



 人の流れに逆らわず門を越えて進むと、大きな入り口が見えた。

 あそこが生徒用の玄関なのだろう。

 この国では内履きの文化がないから、このまま入れば良さそうだ。


 そんなことを考えていると、校舎の陰になっている場所から、話し声が聞こえてきた。


「お前。俺が誰か知らんのか?」

「し、知るもんか!」

「俺様はパフェット子爵家の次男様だ。平民風情が調子に乗りやがって…しね!」


 聞こえない振りなんて初めからするつもりはなかった。

 伸ばしたオーラからも、体格の違いが大きいことがわかる。


 貴族の悪い部分を集めた我儘っ子なのだろうが、その我儘は見過ごせない。


 その子が振り下ろす拳より速く移動して、間に入り、左方向へとその拳を捌く。


「うわっ」


 僕が急に現れたものだから、後ろに庇った少年が驚く。


「誰だっ!?お前…貴族か?」


 着ている服で気付くとは。

 僕よりもそっち方面の知識はあるみたいだね。


「そうだよ」

「どけっ!俺が用のあるのはそいつだ」

「暴力は見過ごせないな。残念だけど、諦めて」


 ここは校舎を上から見ると凹んでいる部分。

 それでもこれだけの大声で騒げばすぐに人が来るだろう。


「何処の家だ?」

「オースティン男爵家だよ」

「どけ。俺は子爵家だ」


 この子は大柄だ。それでも僕と身長はあまり変わらない。

 貴族あるあるなのかな?食事環境が良いから大きく育つとか。


「だから?ここでは貴族も平民も同じ生徒。さ。入学式に遅れるから、君も行こう」


 遅れたら、僕はカーバインから怒られるんだよ!

 いや、笑われるだけかな。

 そっちの方が嫌だっ!


「待て!待てと言ってるんだ!」


 声は聞こえるけど、殴られそうになっていた少年の手を引いてその場を去ろうとする。


「待て!おいっ!止めろ!その二人を!」


 その声とほぼ同時に、巨大な壁が行手を阻んだ。

 壁かと思えば大男。

 そうか。この勘違いした子供の護衛か。


「待ちなさい。坊ちゃんが話があるそうだ」

「…オジサンも大変だね」


 この時、僕は勘違いしていた。


「良くやった!その二人を痛めつけろ!」


 二人から挟まれた格好だけど、別に窮地でもない。

 流石にいきなり殴ったりはしないだろう。


 と思ったが、普通に殴りかかってきた。

 それも嬉しそうに。


 そうか……そういう人か……


 僕の心は少し冷え、想像を巡らせる。


 この人は好きでしているんだ。

 恐らく彼の親の領地でも、同じようなことばかりを。


「ひいっ!?」


 後ろの少年が悲鳴をあげる。

 もう少し早く、もう少し大きな悲鳴を上げてくれていたら、僕の出番はなかったはずなのに。


 冷めた心が、罪のないだろう少年にまで愚痴を溢した。


「え」


 大男が出した声とは思えない、可愛い疑問の声が耳を掠める。

 そして僕に投げ飛ばされた大男は、背中から地面へと着地した。





 冒頭へ戻る。


「馬鹿で、すみません」


 煽り散らかした後はお決まりのパターンが待っていた。


「何をしている!さっさとやれ!」


 貴族の少年が叫ぶ。


「う、うおらぁぁあっ!」


 大男が不安を叫びで押し殺し、僕へと向かって走り出したその時。


「何をしているっ!ここは神聖なる学舎だぞ!」


 漸く、話が通じる大人がやって来てくれた。

 これにて、僕の出番はお終い。


 最後に、声で止まらなかった大男を投げ飛ばしてね。







「新入生代表挨拶」


 入学式には無事に間に合い、式も残す所後僅か。

 入試もなかった貴族(ぼく)には関係ないだろう新入生代表挨拶を残すだけだ。


「ジークリンド・アイル・オーティア。前へ出なさい」


 ……何基準で選んだの?


 演説台までの距離は僅かばかり。

 何を喋るか決める猶予も少ない。


 ゆっくりと歩き、台の上へと登る。


 台の高さは1.5mほど。

 登れば全員の顔が確認でき、カーバインとリベラの姿が目に入ってきた。

 カーバインは驚いた様子で、リベラはハンカチを目に当てて感極まった様子。


 生徒は全校生徒凡そ五百名。

 僕の同級生は百五十人くらいってとこかな。

 一クラス三十名で五クラスあるって、話に聞いていた通りだ。


 変な考えに思考が右往左往してるけど、何か話さないとね……


「紹介します。ジークリンドさんは、オーティア男爵家の嫡男であり」


 えっ?僕の紹介?

 っていうか、誰この人……


 話し出したのは、知らない大人の男性。

 歳はカーバインよりも少し上だろうか。


「・・・という、素晴らしい功績と実績を兼ね備えた生徒です。

 この度の挨拶も、実績とミスティア王妃殿下の強い推薦により決まりました」


 僕の功績は伯爵家令嬢を救った話。

 そして実績は紅茶生産と販売について。


 この代表挨拶は、全部王族のせいだった。


「紹介に預かりましたジークリンドです。私は貴族ですが、ここは学舎です。全員が仲間ですので、気兼ねなく話しかけてくれると嬉しいです。

 ここで必要なのは身分ではなく、学ぶ意思です。

 もし、身分を笠にきた人がいたなら、私か教員に報せて下さい。

 これから皆と学べることを楽しみにしています。

 そして最後になりましたが、保護者の方々並びに在校生の諸先輩方。

 本日は忙しい中お集まり頂き、誠に有難うございました。

 この学年を代表してお礼申し上げ、それを挨拶に変えさせてもらいます。

 新入生代表挨拶、ジークリンド・アイル・オーティア」


 先程事件があったばかりだからね。その辺を強調させてもらった。

 同じことはもうしたくないから……


 それよりも、この挨拶は国王にどう聞こえるだろうか。

 恐らく報告するんだろうな…さっきの男の人辺りか、学園長辺りが……










「はい。皆さんお静かに。私がこのクラスを担当する先生、ガーベラです。ガーベラ先生と呼んでください」


 メガネの似合う優しそうな三十代中頃の女性。この人が僕の担任か。

 あの子爵家次男坊は見当たらないから別クラスなんだろう。

 貴族が通わなくても良い学園に学ぶ気がなさそうなあの子。

 恐らく手を焼いていて、追い出したかったんだろう。


「つまり皆は、入試で優秀な成績だったからこそ、このクラスに選ばれたのです。

 勿論、学園は学ぶ意思さえあれば生徒を選びません。ですが、成績は誇ってください。

 皆んなの頑張りの現れでもありますからね」


 ああ…成績でクラスを決めるタイプか。

 僕は入試を受けていないけど、推薦によりこのクラス。

 また後ろめたいけど、テストを受ければその内はっきりするからまだマシかな。


「先生」

「はい、どうぞ」


 物怖じしないタイプなのかな?

 一人の女生徒が手を挙げる。


「ジークリンドさんはテストを受けていないのにこのクラスなんですか?」


 ご尤も…本人が一番気にしてるから許して……


「はい。良い質問です。答えは、異端だから。

 わかりますか?」

「…よくわかりません」

「わからなくて良いのです。わからないままにすることが悪なのです。

 彼は貴族の中でも異端です。

 社交デビューする前から王族の方々と知り合い、更には商売まで成功させているのですから。

 この様な生徒は前代未聞。

 勿論、良い方でです。

 これは先生たちの予想ですが、テストをしても一番か、悪くてもAクラスには値する成績を残すでしょう。

 なので、次のテストを楽しみにしておいて下さいね」


 この先生、正直だな。

 しょうがないけど、貴族とばかり関わってきたから、腹芸ばかりを気にしてしまうしこちらもしてしまう。

 うん。やっぱり、正直が一番。


 異端は…もう少し、何とかならなかったのかな?


 こうして、僕の入学式は無事に終わったのだった。

 無事とは一体……

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