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入園のその前に

 





「オースティン男爵家より、カーバイン卿、並びにジークリンド様、ご入場」


 毎年カーバインを見送ってきた扉。

 その両開きの扉の向こうへと歩みを進める。


 中には真っ赤な絨毯がランウェイのように敷かれており、道を間違えることはまずないだろう。


 周囲を囲むのはフルプレートアーマーを纏った騎士達。


 先へ進むと、直ぐに目的の場所。

 そこに着くとカーバインと並び、膝をついた。


「よく来た。そして、よくぞ勇気を出し、救ってくれた」


 ここは謁見の間。

 中には騎士の他にこの部屋の主である国王と…確か宰相だったかな?…の二人がいるのみ。


「彼女はブロークン卿が目に入れても痛くないと申すほどの愛娘。

 オースティン卿の武勇は有名だが…その息子までとは知らなかったぞ?」


 僕達は俯いている。別に怒られてるわけじゃないけど、これがここの普通だから。

 そして、お口にはチャック。


「さあ、聞かせてくれ。何があって、どうしたのかを」


 白々しい。

 手紙を寄越した時点で全て知っているんでしょうに。


 ここからカーバインの説明が入った。

 勿論、嘘はない。

 誇張もなく、正確にあの時を説明していた。


「ほう…剣聖のな。いやいや済まんな。実は知っておったのだ。

 姫が煩くてな。知っておろう?」

「…セフィリア殿下でございますね?はい。大変、お世話になりました」

「はっはっはっ!卿は相変わらず腹芸が下手だのう!

 どこをどう間違えたのか、大変なお転婆に育ってしまった。迷惑を掛けるが、迷惑と思わず付き合って欲しい」


 迷惑ですよ?

 そう素直に伝えると、どうなるのだろうか?


 首が飛ぶのかな……試せそうにないよ。まだ死ねないからね。


「特に、同い年のジークリンドにはな」

「…ほら。返事をしなさい」


 良いの?許可を得なくて?

 心配なので、横に立っている宰相へと視線を向ける。


 すると、こっちの意図を理解したのか、頷いて応えてくれた。


「は!勿論にございます」

「ふむ…聞きしに勝る傑物よな。父と違い、場を見る冷静さもあるとは」


 カーバインが恥ずかしさから震えている。

 そして、僕も笑いそうになり、震えている。


 親子揃って恥ずかしいけど、ここに人の目が少ないことが唯一の救いでもある。


「ジークリンドよ。その歳で全てを学び、そして全てを人並み以上に会得し、その先に何を目指しておる」


 パパ…何も喋らなくて良い、俺に任せろって言ってたじゃない……

 嘘つきっ!


 ここは間違えられない。本当に首が飛びそうな威圧だ。


「目指すところが多く、迷っている次第であります」

「ほう?その心は?」


 話す時は顔を上げ、目を離さずに。

 いや…眼光鋭いですね……


「迷っているので、学園へ通うことにしました。将来、男爵家…そして、王国へ。

 この身で何が出来るか分かりませんが、力及ばずとも、国の為になればと」

「ほう。子供なのにつまらん答えを出すのだな」


 だって、死にたくないんだものっ!


「剣聖は目指さないのか?」

「未だ遥か遠く、どこを目指せば辿り着けるのかさえわかりません」

「セフィリアは辿り着けそうに見えるか?」


 なんちゅう難題を……

 正解は何だ?

 素直に伝えても良いのだろうか?


 わからないから素直に伝えよう。


「私とは違い、殿下には才能があります」

「お主には勝てないと憤慨していたが?」


 それはそうだろう。僕はズルいのだから。


「手合わせをしていないので、憶測ですが」

「良い」

「先ず、私が負けることはありません」


 嘘は見破られる。

 そんな目をしている。


「ですがそれはオーラの影響によるものが大きく、剣筋や感覚ではこちらが一歩も二歩も下がります。

 そこには埋められない才能が大きく関わり、私には辿り着けないものです。

 ですので、剣聖になれるかどうか。

 この質問には、『私よりも』とお答えしました」


 王女と模擬戦なんてするはずもないし、したくもない。

 だから、王女御付きの近衛騎士と模擬戦をさせられたのだ。

 勝負は引き分けに終わったが、王女は納得せず、双方の手加減を疑っていた。


 それはそう。模擬戦なのだから。


 騎士と剣を交わし、お互いに気付いたんだ。


『怪我なく勝敗をつけるのは難しい』と。


 だから、様子見だけで終わった。


「相わかった。二人とも、此度は良き働きであった。国としても褒美を出すので、沙汰を待て」

「「はっ!ありがたき幸せ」」


 親子で息が合ったところで、お開きとなった。

 良かった…僕、まだ生きてるよ……













「陛下からの褒美である。謹んで受け取るように」


 翌日、国王の名代である役人が、男爵家が借りている家まで褒美を持ってきたところ。

 名代ということは、国王の代わりということ。

 膝をつき、その言葉が終わるのをみんなで待つ。


 全てが終わり役人が帰ると、プレゼント開封タイムの番だ。


「金子ですか。ベタですね」

「馬鹿野郎!不敬で打首になるぞ!」

「いたっ!?大丈夫ですよ。皆さんが帰ったのは確認済みですから」


 テリトリーでね。


 褒美はお金だった。これが漫画とかなら、この世に二つとない武器だったりするんだけど、助けたのは王族ではなく貴族子女だからね。高望みはダメ。


「いくらになるんですか?」


 それでも気になるお年頃。


「金貨三十枚だ」


 ということは、300万円くらいか。

 命懸けの報酬と考えれば安いけど、これは国が勝手にしてくれたこと。

 伯爵家からはまだ何もないからね。


「使い途はどうしますか?」


 これは褒美だ。

 それも、王家からの善意のもの。


 つまり、『こんな感じで使わせてもらいました』と報告した方が無難。というか、一種の暗黙の了解。


「半分はお前の物だ。考えろ」

「体良く、逃げてません?」


 ま、別に良いけど。


「ジークが私にプレゼントを買うとか?」

「母上は俗物ではないですよね?」


 キラキラした目を向けてくるが、息子が悩んで買った物が欲しいだけだろう?

 寧ろ、自分のことで悩んで欲しいだけっぽい。


「では、配りましょう」

「俺たちで誰に配るだよ…」

「それをこれから探します。検討はついてますけどね」


 これも国王のお試しなんだろうね。

 カーバインではなく、僕に対しての。


 そんなに気にしなくとも、国にとってマイナスな行動は取りませんよ?










「やはり、ありましたか」


 知らなかったけど、予想ではあると考えていた。

 これじゃなくとも、似たようなモノが必ずあると。


「孤児院か」

「はい。なければ、親のいない子供達へ配るつもりでした」


 僕には負い目がある。

 前世の記憶。

 そして、これもまた不可抗力だけど、裕福な家庭に生まれたこと。


 どうせならこの機会にその負い目を少しでも軽く出来たらな、と。


「何か、ご用でしょうか?」


 身なりの良い男と子供の二人組。

 危険は少なくとも、ここにいるには不自然な組み合わせ。


 悪い可能性は多々あるが、それなら追い返せばいい。

 そんな強い拒絶を隠した目をしている婦人が、僕達へ話しかけてきた。


 そして、訪問理由を伝えると……


「あ、あ、あ、あ…」


 声にならない悲鳴が聞こえた気がした。

 まあ、いくら身なりがいいとは言え、貴族が来るとは思わないよね……

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