これがテンプレってやつか…
「貴様らっ!我らが伯爵家の者と知っての狼藉か!?」
現場に辿り着くと、領域展開で捉えていたように賊が馬車を襲っていた。
伯爵家か。どの伯爵家なんだろう?
確か、このアルバート王国には四つの侯爵家と四つの辺境伯家、それと四つの伯爵家があったはず。
これに当代の国王の兄弟が興した公爵家を含めた貴族家が上級貴族家となる。
下級貴族は子爵家、男爵家、準男爵家、当代限りの騎士爵家と名誉貴族家を合わせたモノが、総じて下級貴族家となる。
「知らんな。金持ちを狙っているだけだからな」
「そうだ!お頭の言う通り、金持ちじゃなきゃ旨味も少ねぇからな!」
「…愚か者たちめ」
良かった。コイツらがクズで。
唐突な初陣だったから様々な理由で緊張していたけど、一番の気掛かりだった『殺人』に対して、あまり気負わなくて済む。
勿論、出来れば、殺したくはないけど。
さて。状況確認。
倒れているのは一人。
馭者さんかな?
馬車の馭者台から落ちただろう位置に、弓矢が正面から刺さっている人が倒れている。
賊は全員見渡せる街道に出ている。それもテリトリーで把握していた通り。
騎士達は鎧を装備しているけど、馬からは降りている。この状況では馬上のメリットは少なく、戦いづらいもんね。
「僕のテリトリーに気付けた猛者もいない。すぅー。はぁー。よし。カーバインも位置についた」
深呼吸をして、心を整える。
それでも残る胸の高鳴りは、僕に心地良い緊張感を残した。
「さて。狩ろうとしたんだ。狩られても仕方ないよね?」
場に変化は少ない。
展開していたオーラを殆ど戻し、身体強化全開にして僕は街道へと躍り出た。
「結局、俺の出番は無しかよ」
何故か不貞腐れているカーバインは置いておくとして。
僕は騎士へと話しかける。
「ロープは足りますか?」
「ああ、いや…ロープは必要ありません。この者だけ縛り、他はここで始末しますので」
「…そういうものですか」
「はい…?」
騎士から疑問の声が漏れるも、僕に返事をする気はなかった。
折角、殺さず行動不能になるようにと手心を加えたけど、ただただ賊達にとっては恐怖の時間が増えただけだった。
自己紹介はカーバインが僕が飛び出した時点で騎士達に行っていた。
だから僕達は素性不明の正義のヒーローではなく、偶々通りがかった剣に覚えのある貴族。
騎士達は手際良く賊達にトドメを刺していき、その骸を街道から森へと捨てている。
そして死んでしまった馭者の方は、遺髪だけを取ると、火の氣化製品を使い、街道の隅で荼毘に付していた。
「オースティン卿。お嬢様がお礼を伝えたいと申しております。どうか、お聞き届け頂きたく」
騎士の一人が横にいるカーバインへ近づき、馬車の主人からの伝言を伝える。
目の前にいるのだから、出てくれば良いのに……
と、以前の僕であれば思っていただろうが、僕も既にこの世界に…ううん。貴族に染まっているのだろう。違和感はそれほど覚えなかった。
「いや、お礼は私ではなくそこの息子へ…」
「父上。母上へこちらに来るよう、伝えて来ます」
「オースティン卿。こちらへ」
睨むカーバインをその場に残し、僕達の馬車へと急ぎ向かって走る。
面倒はごめんだ。
そうじゃなくとも、元々面倒な生まれだからね。
僕が馬車を連れて戻ると、燃え盛っていた木の片付けが終わったタイミングだった。
「まあ!ブロークン伯爵家のご令嬢様でしたのね。主人達が間に合い、良かったですわ!」
今は女性同士の歓談。
男である僕達は、未婚の貴族女性とおいそれと話す事は出来ない。
マナーという守らなくても罰せられない範疇ではあるけれど、どうもこのお嬢さんからは生真面目な雰囲気を感じる。
「リベラ様。ありがとうございます。父にも必ず報告しますので何かしらのお礼はあるかと思いますが、先ずは私からお礼の言葉を。
この度は家人含め、私の命を救っていただき、ありがとうございます。このご恩には必ず報います。
お困りごとがありましたなら、お声がけください。
非力な若輩者ですが、微力ながら力になります」
やっぱり真面目だね。
適当に挨拶だけして『後は父から』と言って先を急げばいいのに。
こっちも相手が上級貴族だから無碍に出来ないので付き合わないといけないし……
「失礼ながら、ご子息様はまだ小さく見えますが、とても頼もしい殿方に育てられ、流石勇猛で有名なオースティン様のご子息様ですね」
待て。それは不味いのでは……
「流石エミリア様!ジークリンドの凄さに気付かれるなんて、お目が高いですわ!」
やっぱり……
その後、僕のことをあれこれ話し出したリベラを、カーバインとの2人がかりで何とか馬車へ押し込むと、出立の運びとなった。
「綺麗な方だったな?」
馬車の中。ニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべながら、カーバインが僕を構ってきた。
「は?…今なんと?」
鬼がいる。
僕達の馬車には鬼が潜んでいたのだ。
「い、いや。俺じゃなくてジークがだな…」
「分かっていますわ。だから怒っているのです」
「…何で?年上とはいえ、綺麗で聡明なお嬢様だったじゃないか……」
彼女の名はエミリア・ロジャー・ブロークン。
エミリアは王都にある学院へ入学する為に旅をしていた。
歳は十五歳で僕の五個上にあたり、明るめの茶髪が似合う淑女だった。
これまでに会った貴族女性にミドルネームが無かったのは、結婚しているから。
未婚の貴族女性と既婚未婚関わらず王族の女性にはミドルネームがあるのだ。
そしてカーバインの言い分。
それは貴族なら当たり前にある政略結婚に対して。
相手がリベラと同じく上級貴族なら申し分ない、と。
「ジークはまだ十歳です。私は認めません」
「…そうだな」
折れるの早くない?
いや、別に良いんだけど。
「それはいずれ私が見つけますから。良いですね?お二人とも」
「「はい…」」
返事は一つだけだった。
「久しぶりの王都ですわ」
リベラは元伯爵家令嬢。
リベラも学院には通っていたので、王都は懐かしい場所なのだろう。
「今日は旅の疲れもあるし、汚れを落として早々に休むとしよう」
「はい。僕は稽古の後に入るので、お先にどうぞ」
ここは王都の貴族街にある高級宿。
宿といっても、王都に別宅のない貴族家の為の専属の使用人がいる一軒家。
ここには中庭もあるので、旅で固まってしまった身体を解す為にも剣を振ろうと思ったんだ。
「丁度良い。俺も身体が動かしたかったんだ」
「え…なんで…」
これまで稽古に付き合ってくれた事はない。
それどころか見たことも。
これは……戦闘で良いところがなかった嫌がらせだよね…多分。
カーバインに肩を組まれ、僕達は連れ立って中庭を目指した。
「改めて見ても凄い剣だな。俺のと変えないか?」
中庭では素振りのみの予定。
オーラを使っても良いけど、どんなルールやマナーがここにあるのか分からないのでやめておくつもりだ。
そして、この剣。
先程の戦闘でも遂に抜くことはなく、鞘に入れたままで鈍器として扱った。
そんな抜き身の剣を見るのは、カーバインにとって二回目。
光沢のない無骨な黒い鞘に納められた剣身は、太くはない黒光する両手剣だ。
オーラを使えば片手でも扱えるけど、身体を鍛える今はオーラを使わず両手でしっかりと持っている。
「嫌ですよ。父上の剣は特徴的過ぎます」
「なんだよ、ケチだな。当たり前だ。俺のは冒険者時代の奴だからな。お貴族様の見た目だけの儀礼用の玩具とは違うんだよ」
僕らもそのお貴族様なんですけど…一応、ね?
「お前…何者だ?」
カーバインが素振りを止めて、不乱な視線を向けてくる。
「ジークリンドですよ。貴方の自慢の息子です」
不審者はいない。
いるとすれば、貴族街で汗を流しながら剣を振っている僕達のことだ。
「先の戦いでその一端は見ていたが……それ、強化なしなんだよな?」
「はい。自前の力を鍛えないとですからね」
僕クラスになるとオーラを鍛えるより、筋肉を鍛えた方が強くなれる。
何せ、第二次成長期間近なものですので。
「アホらし」
「酷い言い草ですね…」
「おかしいだろ?お前、まだ十歳なんだぞ?」
僕に言われても……
それに。
「規格外は他の方です。叔父さんとか…」
「普通、そことは比べないんだぞ?その時点でお前も同類だ」
後、レイチェルも。
これは言えないけど。
何せ、元冒険者仲間が当時は手を抜いていたなんて知ったら、機嫌が最悪なことになりそうだから。
「ここにおられましたか。お手紙を預かりました。こちらです」
僕らがどうでも良い会話を楽しんでいると、この家付きの使用人がカーバインへ手紙を渡しに来た。
「豪華な封蝋ですね?」
その手紙は災いを呼ぶ。
「…王族からだな」
「あ。僕、お風呂に入ってきます!」
よし。逃げよう。
しかし、カーバインは俊敏だった。
「逃げるのか?逃げられると思っているのか?」
流石パパ……身体強化した足は凄く速かったです。




