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向かうは大都会。さらば愛しの故郷よ

 






 とある宿場町の中にある、一際豪華な宿の一室。

 中にいるのは、煌びやかなドレスではなく、動きやすそうな明るい色のドレスに身を包む女の子が一人、立ち上がって何かを待っていた。


「姫様。用意出来ましたので、馬車までお願いします」


 部屋へ入って来た初老の女性は、姫と呼んだ女の子をエスコートする。


「婆や。これから向かう王都には本物の王女殿下…お姫様がおられるのです。

 間違っても私のことをそう呼ばないように」

「ほっほっほっ。昨日までこの婆やに不作法で怒られていた可愛いお嬢ちゃまはもういないのですね。寂しいやら、嬉しいやらです」

「…昨日ではありません。一体、何年前の話をしているのですか…」


 仲のいい主従関係。


「私を送り届けたら、お母様の事をよろしくお願いしますね」

「はい。この旅も、ついていけない奥様の代わりですから」

「ええ。お母様付きの貴女がいて、心強いです」


 正確な主従ではなく、母親からの借り物。

 しかし、関係は深い。


 二人は静かに、されど確かな足取りで宿を後にした。



 馬車旅を続ける事、半日。

 王都まで後少しのところに馬車の姿はあった。

 周囲には騎馬が3頭見える。


「今代のブロークン伯爵家は、残念ながら男児に恵まれませんでした。

 姫様。優秀な殿方をよろしくお願いします」

「…婆や。確かに、伯爵家にとってそれは重要です。しかし、学舎に行くのですよ?目的は勉学です」

「また生娘のようなことを…」


 生娘ですっ!

 女の子の叫び声が漏れる。

 それを合図にしたわけではないだろうが、そこで事態は動き出した。


「な、何だ!?」


 初めに気付いたのは護衛の騎士。

 丘を越えると前方に燃え盛る木が倒れて道を塞いでいた。


「賊だ!皆の者、構え!馭者は何とかして馬車を反転させるのだ!」

「む、無理です!道が狭すぎます!」


 馬車の反転には開けた土地が必要。

 そして、急には止まれない。


「獲物を逃すな!囲め!囲め!」

「「「「うおおおおっ!」」」」


 背後から。そして前からも、雄叫びをあげながら賊達が馬車目掛けて駆け寄ってきた。

 少女たち一行の運命や如何に。















 ◇◆◇


「母上とは初めての長旅ですね」


 翌春。僕は十歳を迎えた。

 日和は上々、士気も高い。

 出立にはもってこいの朝がやって来ていた。


「ジークとのこの旅を思い出に…母は今後を生きてまいります…」

「あの…まだ旅にすら出ていないので、別れの雰囲気を出すには気が早いですよ…」

「ジーク。準備はいいか?」


 馬車に乗り込んだだけ。

 それなのにこれでは、この先が思いやられそう……


 乗り込んだ後、カーバインから最終確認が入る。


「父上。問題ありません」

「よし、向かおう」


 馬車はゆっくりと動き出した。


 呼び名。その変化は突如として起こるもの。

 僕が二人を呼ぶ時のものも、昨日より急に変わった。


『十歳になったんだ。その父様、母様呼びはやめろ』


 誕生日を迎えた翌朝、その第一声がこれだった。


『学園でそう呼んでみろ。女子から変な目で見られ、男子からは情け無い男認定を受けるぞ?』

『そうですか?僕は気にしませんが』


 十歳前後の子供の言うこと。それを一々気にする程僕は神経質じゃない。


『…俺が嫌なんだよ。俺は物心つく頃には親父のことを『父上』、その頃死んだお袋のことは『母上』と呼んでいたからな。

 特にマセガキのお前が言うと…鳥肌が立つんだ…』


 ガーンッ!そうだったのか……

 流石の僕でも、父親からキモがられていた事実には傷付いた。


 よって、呼び方を改めたんだ。


 そして今回の王都への旅。僕とカーバインは例により年明けに行っているから今年既に二回目だけど、今回は特別。

 入学式の為、リベラも王都へと同行するのだ。


 さて。これまでの旅では僕の馬車酔い以外何もなかったけど、今回に限りリベラ同伴だからね……

 嫌な予感がするよ。










 道中暇なので、学園と学院について復習してみる。


 まず学園。

 これは国内の大きな都市に一つはあると言っていい。

 通っているのは八割が平民で、王侯貴族の子弟は二割ほど。

 それはどこも同じくらいの割合みたいだね。


 学園には三年制と五年制があり、平民の殆どが三年制を選んで入園してくる。

 平民が三年制に多い理由は、人生で役立つ学問に力を入れている為。

 五年制へ進学する生徒の殆どが貴族で、その中の平民は名ばかりの平民であり、家が名家や豪商などで、貴族たちとの繋がりの為に五年制へ進学していると言って過言ではない。


 そして、年齢制限だけど。

 それは特にない。

 簡単な入試に受かれば何歳でも入れるのだ。

 若い子を優先的に受からせていることは明らかだけど、平民の大人もチラホラいるのだとか。


 次に学院。

 こちらの割合は、貴族九割、平民一割。

 貴族の為の学院かと思いきや、たった一割の優秀な平民の為なのだから、すごい制度だ。


 その平民は兎に角勉学に励み、貴族はそれを邪魔することなく繋がりを築く。

 それは横のつながりから、派閥争いまで。

 要は、学院とは練習用の王宮なんだ。


 大人になり家督を継げば、そこは魑魅魍魎とはいわなくとも、また仲良しこよしとも掛け離れた政治の場へと放り出される。


 そこで食い荒らされないように、強い国を作れるように、学院でその牙を磨くのだ。


 そして、数少ない優秀な生徒とも関係を築き、何なら主従関係すらそこで結ぶ。


 学舎とはかけ離れた社交場。

 それが学院の正体だった。

 ちなみに、こちらにも年齢制限はないけど、平民だと紹介状が必要。


 そんな風に学園生活を想像していると、本日の宿場町へ無事に到着した。














「父上。丘を越えると、何やら争っているようです」


 馬車に揺られること数日。

 旅も終わりに差し掛かったタイミングで、初めてのトラブルが起きる。

 馬車の対面に座るカーバインへ領域展開(テリトリー)で察知した出来事を報告した。


「…何でそんなことがわかるのかは、とりあえず置いておこう。本当だな?数は?」

「双方人のようです。数は全部で二十一人。恐らくですが、襲われている方が六…いえ、五人」

「死んだのか……」


 流石に気付くか。


 この世界で初めて関わった人死。それは映像でもなく生身でもなく、オーラ越しだった。


「助けますか?」

「こっちは俺とお前の二人だぞ?何が原因かも分からないんだ。引き返し、身を隠そう」


 それが一家の大黒柱としての選択であることは明らか。

 だけど、オーラで丸わかりですよ?


「母上」

「…はい」

「母上は、虐げられている人を自己愛の為に見捨てる息子でも愛せますか?

 またそんな夫でも良いですか?」


 決定権は僕等にはない。

 カーバインも、母上がここにいなければ別の選択を取った可能性が高い。


 それは顔を見ても明らかだ。


「愛せます!だから…行かないで欲しい」

「…そうですか」

「でも、お二人に任せます。女は待つことも仕事の内ですから」


 本当に変わられた。

 カーバインもそうだけど、尊敬できる人達と暮らせていることを有難くも誇りに思うよ。


 前へ進む為に変わることは、強くなることよりも難しい。

 それは前世で苦いほど自覚した。…と、思う。

 気のせい?


「父上。僕が多数の方を制圧します。父上は劣勢な方を助けてあげて下さい」

「お、おい!行くとは言ってないぞ!」


 じゃあ、嬉しそうに装備の点検を始めないでください。


「問題なさそうですね。信じていますよ?」

「馬鹿野郎!俺は上級冒険者だぞ!」

「元でしょうに……」


 上級とは何だろう?

 これまで他に気を取られていて冒険者のことを調べていないのでわかりませんが、普通よりは強いということでしょう。


「私は待つことが仕事といいました。二人の仕事は、必ず私の元へ帰ることです。努努お忘れなきようお願いします」

「「はい!(おう!)」」


 馬車は止まり、もしもの時の反転を馭者へ頼んでおく。

 僕達二人は簡単な合図だけ決め、左右の森へ別れて突入した。


 僕達の無事は勿論のこと。

 間に合えば良いけれど……

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