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熱烈なアプローチには戸惑うお年頃

 




『遅くなったが剣を贈る。ジークのことだ。遠慮の思いと嬉しさの狭間で苦しくなるだろうが、気にせず受け取れ。

 俺も免許皆伝時には師匠から剣を賜った。これはただの慣わしだ。

 それでも心苦しく思うのなら、いつかお前に弟子が出来た時、同じ事をしてやればいい。


 それと、本題はこっちだ。


 お前が習得したオーラを身体の外に伸ばす技法は、領域展開(テリトリー)と呼ばれている。

 それをただ使うだけなら、オーラを習得している者の百人に一人はテリトリーも習得していると聞く。


 お前はそれを薄く伸ばし過ぎだ。

 そこに辿り着くまでにどれ程の苦難を乗り越えてきたか、そこまで出来なくとも想像に難くない。

 それの行き着く場所は、自然と一つになること。

 つまり、肉体的な死を迎える。


 両親が泣くぞ?

 ただ気を失っていただけでお前の母は泣いていた。

 死んでしまえば、よもや後を追ってしまうだろう。

 だから、やめておけ。誘惑は多いだろうがな。


 ああ、これも必要事項か。

 免許皆伝ということは、ジークリンドは晴れて一閃確殺流上級剣士を名乗れる。

 恐らく最年少だろう。

 次からは手加減なしだ。話は以上。


 剣と手紙を贈る   剣聖アルバートより』


 筆まめな人だったとは……

 僕の免許皆伝より驚きですよ。

 しかも達筆。

 どこで習ったのか、はたまた趣味が高じてか。


「確かに、受け取りました」


 そう呟き、机に立て掛けてある剣を撫でた。











「父様、お呼びでしょうか?」


 ノックの後、返事を待たずに執務室の扉を開けて伝える。


「…ノックの意味を知らんのか?」

「まさか、父様…まだ隠し事があるのですか?」

「俺に妻は二人だ。これ以上増えることはない。しばくぞ」


 いつもの軽口を言い合う。

 僕がボケで、カーバインがツッコミだ。


「知っています。一人でも手に余るのに、三人は死んでしまいますから。

 それで御用件は?」

「お前には一度、拳でわからせなければならないらしい。

 要件は少し長い。座れ」

「はあ」


 何だろうこの展開。デジャブ……


 僕はソファへ腰を下ろす。

 漸くつま先が床に届くところまで来たな。


「来年、ジークは何歳になる?」

「遂に僕の歳を忘れるほど……十歳です」

「………」


 いや、つっこんでよ。寂しいよ、パパ。


「そうだ。つまり、王都へ行け」

「端折り過ぎではっ!?」

「やはり、こっちの方がしっくり来るな」


 ああ…ボケたかったのね。パパン。


「ジークは来年から学園へ入学する。願書は既に出しておいた」

「また急な話ですね…母様は?」


 ジークリンドに依存気味なリベラの許可は得ているのだろうか?

 なければ、またこの前のような夫婦喧嘩が……


「これはそもそも、リベラからの提案だった。だが、勘違いするなよ?

 リベラは今もお前と離れたくないと強く思っているんだ。

 そこを押し殺し、ジークを王都へ送り出そうとしている」

「…よくわかりませんね。何故母様はそうしたのでしょうか?」

「理由は二つあると聞いた。

 一つは、頭の良いジークはこんな田舎じゃなく、様々な人がいる王都で見聞を広めた方が将来の為になると。

 もう一つは、お前達の関係性だ」


 はて?関係性とな?

 一応、リベラの前では子供でいられているつもりなのですが。


「お前が手の届くところにいると、必要なくともつい口を出してしまう。

 守れるところにいると、必要なくとも守ろうとしてしまう」

「有難い話です…」

「嘘をつくな。大人かどうかはわからないないが、お前は十分に賢く、親から見ても何事もよく考えていると思う。

 そのジークが出した答えに、危険だから、難しいからと、ついブレーキを掛けてしまう言葉が口から出てしまうことをリベラは悩んでいるんだ。

 それならいっそのこと、煩わしい母のいない場所へと。

 そう言っていた」


 リベラ……


「煩わしいと思ったことは一度も…」

「当たり前だ。そんな風に思っていたら、ぶん殴っているところだ」


 カーバインは貴族なのに体育会系だよね。


「ジークの邪魔をしたくないんだとよ。お前にも言い分はあるだろうが、受け取ってやれ。

 リベラを子離れさせて、立派な母親だと自覚させてやって欲しい」

「既に完璧な母ですが……

 そうですね。確かに距離の近さはややおかしく感じています」


 物理的にも、心情的にも。


「学園は王都以外にもあるが、一番人が多く都会なのは王都だし、何より簡単には行き来できん。

 俺も年に二回は王都へ上るから全く会わないわけじゃない」

「各々の理由は理解しました。学園へ通うことは、義務ではなかったですよね?」

「ああ。通わない貴族の子弟も多いし、俺もその一人だ。

 その上の学院は殆どの貴族が通うがな」


 カーバインは貴族には珍しく、そのどちらも出ていないと聞いた。

 正確には、学院へ行くと嘘をつき、中退してそのまま冒険者になったと。


「わかりました。それといっては何ですが、一つお願いがあります」

「…お前からの願いか。怖いが、まあ聞くだけ聞こう」


 カーバインへ願いを伝える。


「何だ。そんなことか。お安いご用だ。家人達へも周知させておく」

「宜しくお願いします」


 頼んだのは、プライバシーについて。


 こうして、急ではあったけど、僕は学園へ通うこととなった。

 学べることがあればいいけれど。 


 前世で、初めて小学校へ通った時の気持ちは思い出せない。

 不安一割、期待九割。

 大人だと、こんなものなのかな?












「隠れていてもわかります。姿を現したらどうですか?」


 現在は日課の鍛錬の時間。

 免許皆伝ではあるけれど、強さの極みは遥か彼方にある。僕に立ち止まる暇なんてない。


 目を瞑り、木々に囲まれた森の中で自然との調和を目指していると、隠れて近づいてくる気配に気付いた。


「…何でわかった?ジークの目は背中にもある?」

「レイチェル師匠。お久しぶりです」


 現れたのは永遠の可憐を手にする吸血種の師匠、レイチェル・ハントレー・ザルビスパ。

 彼女のフルネームを知っているのは、この世で三人だと言っていた。

 カーバインも知らないそれを僕は知っている。


 それは吸血種を名乗られた時に聞いた。


『捕食する代わりに、真名くらい教える』


 いや、知りたくもないのですが……

 あの時は心底そう思ったものだ。

 力では勝てない相手だったのだから。


 それから約束を交わした。

『我慢出来るまでは我慢する』と。

 それは僕を吸血種に変えてしまう恐れのある吸血行為のこと。


 そして、成人までは何とか我慢してみると言って、僕の前から消えたのだけれど……

 早くない?現れるの。


「目が血走っていますよ。良かったですね。ここが人気の無い森の中で」

「ジークのオーラ(美味しそうな匂い)が森中に蔓延してるせい。

 何だか余裕そうだけど、良いの?ここには誰もいない」

「それ。貴女が貴女の姿で言うと、めちゃくちゃ違和感がありますね…」


 普通?悪い男が言いそうなセリフ。

 見た目には可憐な乙女。このセリフが似合わないことこの上ない。


 ただ二点。

 その血走った赤い目と、涎の垂れてるだらしない口元を除いて。


「レイチェル。僕は強くなりました。あの時の僕と比べてですが。わかりますか?」

「美味しさが増しているのは気付いてる。我慢出来そうにない。約束を果たせなくて悪いけど、仲間になってもらう」


 ダメだ。元々我慢の限界で近づいて来たのに、僕のオーラに触れてしまい、理性が崩壊寸前になっている。


 吸血衝動。

 僕には理解出来ないものだけど、理解出来る身体には一生なりたくないな。


「があぁぁっ!」


 まるで屍を喰らうグールのよう。

 涎を垂らし、後先考えずの特攻。


「それでは、僕は捕まりませんよ?」


 どれだけ暴れても、ここでなら構わない。


 ここは町の外の森。

 免許皆伝以降、領主権限で未成年の僕でも一人で町の門を出られる許可証が発行された。

 それ以来、鍛錬はなるべく外で行うようにしている。


 一人での鍛錬も激しさを増して来たから、町中だと色々と拙いからね。

 ここなら被害を気にせず暴れられる。


 飛びかかるレイチェルをいなすと、彼女は派手に転んだ。


「貴女の真骨頂は違うでしょう?見せてください。オーラの多様性というものを」


 彼女は我を忘れている。

 故に、思い出させてあげる。自身の力の使い方を。


「うごあぁぁっ!」


 彼女が手を翳すと、そこから七色のオーラが飛んできた。

 火、水、土、風、それ以外にも。見たことのないオーラも。


 それでも。今の僕には届かない。


 展開したオーラを一部圧縮すると、レイチェルが飛ばして来たオーラはあらぬ方向へと飛んでいく。


「うーん。感覚的に出来るとは思っていましたが、実際にやると、少しズレが生じますね」


 出た結果に、少し不満を覚える。


 これでオーラの展開量は六割。

 今の僕の領域展開(テリトリー)限界の六割ということ。


 我を忘れているレイチェル相手なら、今の僕でも太刀打ち出来る。

 そう推測から導き出した答えは、間違っていなかった。


 現に、あれから一時間ほどでオーラを出し尽くしたレイチェルは、気を失い倒れたのだから。





 レイチェルの身体を抱え、大木へもたれるように降ろして暫く待つと、その宝石のような瞳を飾る銀色の睫毛がピクリと動きを見せた。


「目覚めましたか?」


 これには二つの意味が含まれている。


 意識は戻ったのか?

 理性は戻ったのか?


「…大丈夫。迷惑をかけた」

「いえ。手間でしたが、迷惑と言うほどではありません」

「ムカつく…勘違いしないで。理性を失わなければ負けない」


 わかっていますとも。

 命を賭けた(たったこれ)だけの修行で、二百年以上の経験差を埋められると考えるほど、僕は能天気ではありませんから。


 通常時には、まだまだ届いていない。

 剣聖にも、吸血姫(レイチェル)にも。


「次こそ我慢してみせるけど、保証はない。じゃあ」


 一方的にそう告げると、レイチェルの姿は森の奥へと消える。


「安心して下さい。今度は僕が貴女の前から消えますので」


 そう。僕は図らずも逃避行することが決まった。

 カーバインへのお願い。


 それは……


「レイチェルには、誰も教えてくれません」


 僕は苦手なこの師匠から、逃げ出すことに成功するだろう。

 そう願うばかりだ。

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