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可愛い子には旅をさせろ

 






「そうだ。それでいい」


 あれから更に時は経ち、僕は九歳を迎えていた。

 アルバートはこんなのでも剣聖、忙しい身なのだ。

 特に、産後間もない妻と幼子がいるのだから、とても忙しい。


 だからここへは二ヶ月に一度だけ僕の鍛錬の為にやって来ている。

 その生活ももう三年以上。よくやっていると思う。

 いくら甥とはいえ、血の繋がる息子を放ったらかしてまで。


「やっと…出来た…」


 そう僕はこの一年で、オーラを身体の外へ伸ばすことに成功していた。

 今思うと、切っ掛けなんてなかった。

 ただがむしゃらに四六時中、自分のオーラと向き合った結果がこれ。


 偶に寝ることを忘れて朝を迎えることもあったけど、今日を無事迎えられたのならそれも必要経費というもの。


「後は、それを磨いていけ」

「はい!」


 よしよし…これで時間が出来るぞ……


「何か忘れていないか?」


 家の裏手にある空き地。

 いつもの場所でいつものようにアルバートと鍛錬している。

 忘れ物などあろうはずもない。

 あ。そうか。


「ありがとうございました!」


 お礼か。当然だ。僕としたことが、礼儀を忘れるなんて。


「違う。義兄上との約束だ」


 え……


『剣が欲しいなら、アルバートから一本取れ。そしたら許可してやる』


 そうだった……

 余りに厳しい修行と、余りにも難しい約束だったから頭から抜け落ちてたよ。


「次に来る時がタイムリミットだ。俺も暇じゃないからな。これ以上付き合えん」

「叔母様が怖いからでしょうに……」


 会ったことはまだないけど、どうもそんな感じだ。

 カーバインと同じ匂いがする。

 血の繋がりのない義兄弟の筈なのに。


「馬鹿を言え。怖いのではない。そんな生優しいものではない……アレが怒ると……

 真冬に滝壺へ飛び込む方が遥かにマシだと、付け加えておこう」

「分かりませんが、わかりました…」


 そこは聞きたくないし、知りたくもない。

 それに、剣聖の予定を僕が変えられるはずもない。


「ラストチャンス、か」


 後ろに道はない。

 無謀だとしても、やれるだけのことはしよう。


 そう覚悟を決めた、秋の終わりだった。












「というわけで、これは確定事項だから準備を怠るなよ?」


 いつもの晩餐。

 それは唐突に景色を変える。

 普段であれば、それをするのは僕の役目なのだけど、今回変えたのはカーバインだった。


 近年変わったことといえば紅茶の売り上げくらいで、他は何もないいつもの静かな男爵領。

 しかし、その売り上げが空前絶後の好景気を生み出すほどのものでなければ。


 一貴族が気に入る程度であれば、それは想定の範囲内の出来事で収まる予定だった。というか、誰にも気に入られないのはすごく困る。

 紅茶の所為で失った男爵家の財を取り戻す為に、したくもない前世知識チートをすることになるからね。


 そんな心配は杞憂に終わり、売り上げは好調も好調。

 ただ、問題が生じてしまっていた。

 気に入ったのが、貴族ではなく王族だったのだから。


「つまり、僕達の紅茶が国王陛下が寵愛している第二妃殿下のお目に適った結果、製作者であり発案者の僕が新年の挨拶の時にお呼ばれされる、と」

「…さっき、同じことを説明しただろう?」


 いや、していない。

『第二妃殿下がお前に会いたいってよ』

 これの何処が同じなのか。


 突拍子がなさ過ぎて、謎謎かと思っちゃったよ。


「しかし、王都ですよ?十に満たない僕に、長旅が耐えられるでしょうか?」


 行きたい行きたい行きたい行きたい。

 でも、それをおくびに出してはダメだ。

 リベラの反対を覆せなくなってしまうから。


『いやー。母様。王族様が御所望とあれば、仕方なくですよ?』


 と。


 事実、この世界での子供の長旅は珍しい。

 歩いて一日の距離くらいなら普通にあるけれど、馬車で何日もはあまり聞かない。


 それこそ王子様お姫様の内遊くらい。

 それは旅というより、護送といった方が正しいけれど。


「何を今更…お前の日々の鍛錬からすれば、馬車旅など休んでいるのと同じだ」


 ナイスフォロー!

 さて、リベラの反応はっと。


「………」


 え?

 どうして…?

 どうして、何も言わないの?


「よし。そうと決まれば、支度に掛かれ。

 支度金はリベラへ預けておくから、二人で考えて用意してくれ」

「はい。貴方様」

「…はい」


 まさか、息子が大きくなり過ぎて、どうでも良くなった…とか?

 いやいや、あのリベラだよ?

 三度の飯よりジークリンドが大好きな。


「母様。早速ですが食後に相談しませんか?」

「ええ、そうね」


 何だか素っ気なく感じる。

 それに対して、寂しさよりも不安を抱いてしまうのは、僕の身体がまだ子供だからなのだろうか?










「はい。それでお願いします」


 王都往復に必要な物資。

 これは毎年カーバインが行っていて、これまた毎年リベラが用意しているので、滞りなく話し合いは終わりを迎えた。


 子供(ぼく)が一人増えたところで増加分の物資は微増するだけだもんね。


 母様の提案に二つ返事で了承を示すと……


「私はまだやることがあるので。おやすみ、ジークリンド」


 おかしい。

 明らかにおかしい。


 僕は思い切って、リベラへと抱きついてみる。


「母様。何故、お止めにならなかったのですか?」


 わからないことは聞くに限る。

 特に、何でも答えてくれる相手には。


「………」


 久しぶりに抱きついたリベラは、震えていた。


「引き留めたかった…でも、これはある意味で王命ですから…」

「うん」


 僕は相槌だけに留め、続き待つ。


「でも、私の我儘でジークリンドが信頼を…忠誠を疑われることなどあってはなりません…」

「母様は心配してくれているのです。我儘なんかじゃありませんよ」


 優しさの肯定。


「もし…もし、ジークに何かあれば…わた、私は…生きていけません……」


 遂には子供(ぼく)の前なのに、泣き始めてしまった。


「大丈夫です。僕は母様の息子で神童と呼ばれる程の傑物なのですよ?

 それに、何かあれば父様を盾にするので安全です」

「…ぷふっ。もう!母様は真剣に心配しているのですよ!」


 最後に少しおどけて見せる。

 これでいつものリベラへと戻る。


 心配は変わらないだろうけど、少しでも心の負担を取り除かなくてはならない。

 いくらやりたいこととはいえ、心配してくれる家族なのだから。


 というか、これは(カーバイン)の役目なんだよなー。

 前世で結婚したこともない僕には荷が重いよ……













「遂に、生産数と受注数に開きが出て来た、か」


 今は自室の机へ向かって、書類と格闘している。

 紅茶工場は僕がいなくとも動くけれど、生産量の管理は僕の仕事だ。


 茶畑の増加はお願いしてあるけど、それはすぐ直ぐどうにかなるものではない。

 それに、増加するにしても過度なことをするつもりも元々ないしね。


「プレミア価格と呼ぶほどではないにしろ、他が真似してきた時に価格を下げなくともブランドで対抗できる程度の値段に落ち付けたい」


 今はまだ高値で売れば良いけど、これから生産量を増やして値下げする予定。

 男爵家の実入は減っても、増産した分の労力は男爵領に住む人達にとっての大切な収入源。


 近い将来的に、そうなるような価格設定を考えている。


「生産が追いついていない今はプレミア価格で売り、その分の利益を次の増産システムの予算に充てる」


 こんなものだろう。

 頭は痛いけど、これは嬉しい痛み。


 王族御用達のお茶。

 それは瞬く間に貴族へと広まり、注文が後を絶たない。


 それでも、在庫全てを売るわけにもいかない。

 これが貴族の間だけで広まっているのであれば、売り切り御免もまかり通るけれど、王族からの注文は迅速に対応しなくてはならない。


『臣下の貴族に売る分があっても、我ら王家に差し出す分はない、と?』


 なんて言われたら、お家取り潰しの可能性さえあるかもしれない。


 正直、王族・王家に対しては未知の部分が多すぎるのだ。


 文献にも載っていない。


 いや、あるにはあるけども……

 悪いことが書かれるはずもなく、また良いことは誇張してある可能性が極めて高い。


 これが途絶えた王朝などであれば話は別なんだけどね。

 まだまだそんな気配も感じないし、王家としての力は衰えていないと聞いている。


 アテにならない人(カーバイン)から……



 そんな日々を過ごしていると、あっという間に年越しの時期がやって来てしまった。

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