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ファーストコンタクト

今回は視点がコロコロと変わります。

わかりやすく書いたつもりではありますが、分かりにくければ私の力不足です。

ご了承下さい。

 





「奥様!頑張られましたね!立派な坊ちゃんですよ」


 息も絶え絶えに汗ばむ私へ差し出されたのは、希望の光だった。


 ここ、オーティア男爵家へ嫁ぐ前。私は深窓の令嬢と持て囃された伯爵家三女でした。

 見目麗しく産んでくれた母には感謝していますが、幼い私を残し早逝されたことはとても理不尽に思いました。


 父である伯爵はすぐに後妻を娶り、私にはとても無関心で、その後妻が私へ嫌がらせしていたことは今でも知らないのでしょう。


 そんな私にも味方はいました。

 ええ。他の兄姉です。


 別の街で暮らす兄には偶にしか会えなかったのですが、会えば必ずお土産を頂き、家の外に出られない貴族の未成年の娘である私を随分と楽しませてくれました。


 同じ家に住む姉は、私が泣いていると必ず見つけてそばにいてくれました。

 そんな姉は私が十歳の時に婚姻を結び出て行ってしまった。


 家に残されたのは父と後妻と私だけ。

 そう邪魔者以外の何者でもありません。


 暫く邪険にされる日々を耐えていましたが、王都の学院へ行くこととなり、そこで暫しの自由を手に入れました。


 しかし、自由はその期間のみ。

 卒業すると再び家に閉じ込められ、次に出された時は見知らぬ誰かとの婚姻。


 家を出られるならと婚姻を前向きに捉えていた私でしたが、カーバイン様と会い、話をしたことで、もうどうでもよくなりました。


『好きな人がいるんだ』


 カーバイン様には想い人がおり、その人と結ばれる為だけに私と婚姻を結ぶと。

 その時の顔は、今でも忘れません。

 ああ…この方は、その人の前でだけ、今後はその顔を見せるのだ。私には最初で最後の、歯に噛んだどこか照れ臭そうで幸せそうな笑みを。


 そして、新しい暮らしが始まる。


 私は間違っていた。

 この人は私にも同じ顔を見せてくれた。


 そこに恋心はなくとも、親愛の情はある。

 それが恋を知らずに生きてきた私にもわかるほどに。


 私の初めての恋を、不器用だけどどこまでも真っ直ぐなこの人へ捧げた。

 決して叶わぬ恋だけれど。


 そんな私だけど、カーバイン様の想い人に唯一勝てることがある。

 それは婚姻の時から決まっていたこと。


 この方の最初の子を授かれるという大役です。


「よく…よくぞ、無事に、産まれてきてくれました…」


 すやすやと眠る我が子を見つめ、この家へ嫁ぎ、初めての涙が頬を濡らしたのでした。












 ◇◆◇


「産まれたか!?」


 親父が病に倒れ半年。

 急遽家督を受け継いだが、右も左もわからず右往左往している毎日。


 それでも、この日の為に頑張れてこれた。


「はい!母子共に健康。男児です!」

「でかした……」


 産婆の補助をしているサーニャから寝室の外で待つ俺に伝えられた一報は、心の(もや)を晴らすには充分なものだった。



 これまで、リベラには色々と負担を掛けてきた。


 初めて会った時、何でも受け入れてくれると勝手に勘違いして、その場で伝える必要もないことを口走ってしまった。

 それでもリベラは変わらぬ表情でそれを飲み込んでくれた。

 そしてあの時、受け入れたわけではないことを、子を授かったと知った時に明かされた。


 それでも…俺の想いは変わらない。


『変わらず君のことも、お腹の子のことも愛する。だから我慢しろとは言わない。

 我慢出来ないことはぶつけてくれていい。

 君に嫌われたとしても、俺は君のことを愛するし、子も当然。

 …でも、譲れないんだ。

 君とロキサーヌ、二人ともを』


 今でも馬鹿な台詞だと思う。

 ただの我儘だ。あっちも欲しいしこっちも欲しい。

 俺は子供のまま。

 それでも君は……


「旦那様。奥様がお呼びです」

「あ、ああ。行こう」


 まるで死に際の走馬灯。

 子が産まれたことにより、過去が一度に過ぎ去ったかのような。


 気を取り直し、サーニャに先導される形で寝室の入り口を潜る。


「おお…小さいな…」

「産まれたて、ですから…」


 俺の言葉に返事をしてくれたのは、疲れた様子のリベラ。

 ここで失態に気付く。


「すまん。君を労うのが最初でなくてはな。

 ありがとう。そして、お疲れ様。よく頑張ってくれたな」


 リベラの汗ばむ右手を握り、おでこに汗で張り付いた前髪を直すように優しく髪を撫でた。


「私の仕事はこれでお終い…」

「馬鹿いうな。君はずっと俺の妻だ」


 背中に冷たい何かが過ぎる。

 俺は手放したくない。

 何があろうと。


「と、思っていました」


 その言葉を聞き、心と腹の底から安堵の息が漏れる。


「この子……私と同じなんです」

「そうだな。君に似て、愛らしい顔付きをしている」

「貴方と同じ、綺麗な蒼い瞳なんです…」


 確かに。

 二人の特徴がよく現れていると思う。


「この子は、私の宝物になりました」

「そうだな。俺たちの宝だ」

「いえ。私のです」


 え?何だ?どういうこと……


「私は貴方が好きです。初恋でした。ですが、初恋は叶わぬもの。それは諦めます。

 ですが、そんな貴方に似て、私にも似ているこの子は……私だけの宝物なのです」


 そうか……譲ってくれたんだな。

 出産を機に、心に無理矢理整理を。


「わかった。この子の一番は譲ろう」

「はい」


 君の初めて見せるそんな表情。

 その表情(かお)を、俺は一生忘れることが出来ないだろう。


 母とは、斯くあるものなのだな。










 ◇◆◇


「テレスは義母様似でよかったですね」


 とても不気味な子。

 初めて会った日からずっとそう感じていました。


「ジークリンド様。何故、半分しか血の通わないこの子に、そこまで良くしていただけるのですか?」


 初めて会ったあの日。

 この子はまるで大人のような対応をしてきました。

 まるで私を客人であるかのように、そして壊れモノのように扱ったのです。


 気を遣われている。それも、気にしなければわからない程度で。


 通常であればそれは普通なこと。

 しかし、相手は四歳。

 そうなると不思議でしかなく、私の目にはその不思議は不気味に映ったのです。


 そんな不気味な日々は過ぎても、他の家人の方達との距離は一向に縮まりませんでした。


 平民の私が雲上人のリベラ様をお茶に誘って良いものか悩んでいた時、リベラ様の方から急にお茶に誘われたのです。


 それまで何の交流もなく、日に一度挨拶すれば良い方という関係。

 何の前触れもありませんでした。


 ですが、それは渡りに船というもの。

 私は二つ返事で了承の旨を伝えました。


 そしてお茶会は静かに始まり、静かに終わりを迎えました。

 ええ。失敗です。

 向こうに気を使わせるだけ使わせて、私はただ返事をしただけ。


 緊張という言い訳は浮かんできますが、それは子供だけに許されるもの。

 学のない平民出身という言い訳も、貴族の妻になったからには通用しません。


 なので、最後だけ。最後だけは自発的に何か質問しよう。

 そう覚悟を決め、私の口から出てきた言葉は、何とも情けない、意地汚い言葉でした。


『何故、誘って頂けたのでしょうか?』


 あまりにも失礼。

 これは貴族平民関わらず。人として。

 他に言うことがあるだろうと、今になっても恥ずかしく、穴があるなら入りたい気持ちになります。


 せめて、感謝の言葉の一つくらいすんなり言えたなら、また違った過程で今の関係を築けただろうに、と。


『あの子…ジークリンドが私にしつこく言うのです。

「家族といえど立場上、母様から声をかけないと向こうからは話せないと思うよ。だから一度お茶会へ誘って、話しかけても問題ないと思わせないとダメだよ。家族ならね?」って。

 ごめんなさい。貴女に非がないことは頭ではわかっているのです。

 ただ、心が追いつかなくて』


 そこから、お茶会の二次会が始まりました。

 それは涙ありで始まり、賑やかに終わりを迎えました。


 全てはジークリンド様のお陰。

 それを知っていても、やはりわからないことの方が私には多かったのです。


 私は平民出ですが、家庭環境は少し複雑でした。

 別の町の商家の長女として生を授かり、暫くは普通でした。

 私が四つの時、父が行商中に死ぬまでは。


 私には乳飲み子の弟がいて、子供二人を母一人女手一つで養えるほどの蓄えもありません。

 母はすぐに父の商売を継げる人と再婚し、私の人生は狂いだしたのです。


 その人は仕事に熱心でした。母にも。

 ですが、私達には無関心でした。


 弟が流行病に罹った時も『そんな余裕はない』と医者にも行かせてもらえず、弟は短い生涯に幕を閉じました。


 ですが、母がその人の子を産むと、その人は変わりました。

 溺愛を始めたのです。


 六歳下の弟は可愛がられて育ち、私が十五の時には笑って私に暴力を振るえるくらい逞しい子に育ちました。

 勿論、子供の力です。怪我というほどの傷は負いませんでしたが、また反抗も許されませんでした。


 それが原因かどうかはわかりませんが、私には半分しか血の通わない弟を可愛いとは思えませんでした。

 守りたいとも、逆に傷つけたいとも。

 ただ少し、可哀想だとある種の同情心は抱いていましたが。


 だから、理解出来ないのです。

 ジークリンド様が返事も出来ない赤子を見るために、忙しい中毎日顔を出してくれることが。


 おかしいですよね?


「家族ですから。それに、こんなのでも一応兄です。守らなければならないし、何より…義母様に似て可愛いですから、見てて飽きません。

 そこに血が半分だとか……いえ、血が繋がっているとかは関係ないです」


 可愛い。確かにこの子は可愛らしい顔をしていますが、恐らくジークリンド様のユーモアなのでしょう。

 貴方のお顔もリベラ様とカーバイン様に似て、十分可愛らしいですから。


「血の繋がりが関係ない、ですか?」

「はい。だって、ロキサーヌ義母様もリベラ母様も父様にも、血の繋がりはありません。

 そこを家族として繋ぎ止めているものは、愛情という名の絆だと僕は思うのです。

 であれば、僕もテレスも同じでしょう?」


 私はハッとさせられました。

 そう。

 私が弟、それと義父に対してなかったもの。

 それがここにはあると。


 それからのこの子は、不気味な子ではなくなりました。


 ただ…不思議な子ではありますが……

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