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報告と進言

 






 あの後、どうやって子供達だけで町の外に出るのかなど、聞きたいことを聞いた僕は今日も無事門限前に男爵邸へと帰宅していた。


 今向かっているのは食堂でも自室でもない。


 コンコンッ


「父様。ジークです。今よろしいでしょうか?」

『入れ』


 許可が降りたので、執務室へと入室する。


「どうした?夕飯の時間には早い気もするが?」


 夕食時に誰かがカーバインを呼びに行くのが、ウチの数少ないルールの一つ。

 その殆どがタイラーとサーニャなのだけれど、僕も偶に呼びに行くことがある。


「違います。報告と、進言に来ました」

「……怖いな。ま、座れ」


 碌な話じゃない。

 そう顔に書いてあるカーバインだが、それでも息子を無碍にすることはない。それがカーバインの愛されポイントでもある。

 流石ハーレム男爵。


 促されたのでソファへ座り暫し待つと、キリが良くなったのか、カーバインも執務机を離れて向かいのソファへ腰を下ろした。


「よし…先ずは報告から聞こう」

「はい。実は・・・」


 ベーグル達には悪いが、見過ごせないので報告させてもらう。

 というのも、ベーグル達男の子が町の外に出た方法なんだけど、それは岩壁の破損を利用したものだった。


 話を聞いて家に帰る前に見てみたのだけど、聞いた通りの壁のとある箇所の岩を除くことが出来た。

 その場所の先には勿論また岩があるけど、それも取り外せるようになっていて、結果子供が通るには十分な穴が町の外まで開いた。


 地盤沈下や隆起、はたまた地震なのか。

 原因は定かではないけど、壁の一部が剥がれそうになっていたのだろう。


 壁で強固な部分は外側。

 そこにはコンクリートに近いものが塗られているけど、中は建設方法にもよるけれどそこまでしっかりとは塗られていないことが多い。


 町の外壁もそうだった。


 外が崩せたのなら中は子供の知恵と力でもどうにかなったようで、現在の抜け道がいつの頃からか作られてしまった。


 それをベーグル達のことは伏せて、カーバインへと報告した。


「む……そうか。よく見つけてくれた。明日にでも早速直させよう」

「はい。次は進言なのですが、子供の浅知恵と思い、最後まで聞いてくれると有難いです」

「子供はそんな言い回しをしないからな?まあ、聞こう」


 ここからは実験。

 といっても、動くのは別の誰かで、責任を取るのはカーバイン。

 僕は実利が得られたらいいな、程度の感覚。


「ある領民が作っている茶葉に関してです」

「茶葉?」

「はい。今日知り合った…といっても、身分を明かしていないので、その辺はご理解ください」


 だから…言い回し……

 そんなカーバインの声を華麗にスルーして、僕は話を続けた。


 話を終えると。


「…成程な。つまり、その茶葉を買い取って、名産として売り出せという話だな?」

「はい。オーティア男爵領には目立った産物がありません。

 領を潤すには外貨を得ることが手っ取り早いとも聞きます」


 税を上げるのは簡単だが、体力のない領民はすぐに飢えてしまう。

 では、税収を増やすにはどうすべきか?

 民の収入をどうにか増やし、また安定させる。

 もしくは、領主のポケットマネーでなんらかの商売を始めるか。


 今回は民の収入を増やした上に、男爵家のお金で商売をするという提案。


「はい。販路は貴族や豪商をターゲットに考えています」

「問題は、その茶葉がどれだけのものか、か」

「はい。それは実験結果を待つしかありません。ですので、無駄な出費になる可能性もあります」


 ただ茶葉を売るだけなら、もうとっくに売れているだろう。

 ここから一捻り必要なのだ。


「その…お前が言った方法で、新しいお茶が作れるんだよな?」

「はい。町へ出た時に、遠くから来た旅の方から偶々聞きました」

「そうか……」


 よし。言い訳は問題ないだろう。

 実際、この町には稀に遠くからの来訪者が寄るからね。

 何もない町だから、寄り道だけで長居することはないけれど。


 暫く悩んだ後、カーバインは目を見開いて頷いた。


「よし。やってみよう。俺が金を出すが、その代わりにジークが現場監督だ。

 いいな?」

「そのつもりです。ありがとうございます」

「領地の為にすることだ。礼はいらない。だから成功しても、礼は言わないぜ?」


 カーバインは悪そうな顔をしてそう伝えてきた。

 僕はそれに頷いて応えてみせた。












「坊ちゃん。これで良いのかい?」


 最初は畏まっていた領民の女性。

 それも最初だけで、僕が仕事にならないからもっと気楽に接してと言えばこの通り。


「はい。そうです。発酵させ、茶色くなった茶葉をそうして揉みます。そして、また発酵させたら乾燥させて完成です」


 そう。僕が作っているのは完全発酵茶。所謂紅茶だね。

 緑茶やウーロン茶と違い、火を入れずに発酵させるのがミソだ。


 この前レーズンが淹れてくれたお茶。

 確かに美味しかったけど、余分な成分を感じた。

『もしかしたら、これは緑茶としてではなく、紅茶が合う茶葉なのでは?』と。


 そして、僕は生まれてこの方紅茶を飲んだことがない。

 勿論、今世での話。


 もしかしたら、紅茶が存在していない世界なのでは?

 もしくは、この近隣国にはないとか。


 そこはなんでも良かったから調べていない。

 あったとしても、なんの問題もない。


『作ればいつでも飲める』

 それが僕の原動力となるからだ。


 そう。僕はここの食に飽き始めていた。


 飽きたからといって、贅沢が許される訳でもない。

 僕一人がどれだけ食べても怒られないくらいには裕福ではあるけどね。


 だから自分で作ることにした。

 どうせならお金を稼いで、そのお金で更なる食を、と。


 だから売れなくてもいい。

 良くはないけど、困りもしない。

 失敗したら、次頑張るだけ。


 失敗が許されることが有り難かった。


「なんだか枯葉みたいで、ホントに飲めるのかねぇ」

「飲めますよ。きっと」


 緑茶しかないならその感想はご尤も。

 でも、きっと、大丈夫。


 だって、僕は前世で同じことをしてきたから。













 ここは執務室。部屋には僕とカーバインしかいない。


「どうぞ」


 発酵には室温と湿度が重要な鍵を握る。

 僕にその知識があったのは、前世での趣味の一つが茶作りだったから。

 家の横に自作の発酵室を作り、そこで裏庭で採れた茶葉を紅茶にしたり、ウーロン茶にしたり、緑茶にしたりしていた。

 この世界では、前世の田舎暮らしが大いに役立つ。


 何事も経験だね。


「お、おう」


 差し出したのは、今し方出来たばかりの紅茶。

 それをティーカップへと注ぎ、カーバインへ差し出したところ。

 カーバインはそれをまじまじと見つめ、何故か一気に煽った。


「えっ!?」

「うぅぅぅぅっ!?!?!?」


 …多分、怖かったのだろう。わかるよ。未知のものを口に入れるって怖いよね。

 でも、馬鹿なの?

 沸騰させていないとはいえ、熱々なのは見てわかるだろうに……


「あちちちち…」

「…大丈夫ですか?」

「あ、ああ。口の中を少し火傷しただけだ」


 うん。全然大丈夫じゃない。

 それは暫く尾を引くよ?


「味の方は…?」


 今度はこちらが恐る恐るになる番。

 味は既に知っているけれど、それは僕の価値観でしかない。

 大切なのは、貴族(金持ち)の舌に適うのかどうか。


「ああ。美味かった。正直、今回ばかりはジークを馬鹿に出来ると思っていたが…残念ながらな」

「…そこは残念に思わないで欲しいですね」


 カーバインは大人だ。

 沢山の領民の生活を抱え、さらに二人の妻、そして二人の子供。

 責任ある大人であり、その責を全うしている。


 しかし、家族内で見せる姿は違う。

 リベラやロキサーヌには適度に気を遣い、そして甘え、僕には男友達のように接することが多い。


 そんなカーバインがみんな好きで、僕も嫌いじゃない。

 何故か、色々と許せてしまう。そんな雰囲気を持った男だ。


「では…」

「ああ。コイツは売れる。後は、販路だな」

「はい。問題は元々そこにあります」


 お茶作りには自信があったが、販路には全くない。

 何せ、最近まで強制的な引き篭もりをしていたのだから。


「御用商人の方は?」

「御用商人って響き良いな」

「…毎月来られる行商の方は?」

「一気に寂れた感が出たな…」


 そう。金のないところには商人も来ない。

 それでも、一応貴族ではある。

 他の街を巡る行商は毎月ウチにも顔を出してくれる。

 滅多に買わないけれど。それでも。


「年賀の挨拶の時にでも、声をかけてみる」

「それが無難でしょうね」


 貴族は法衣貴族含め、国王陛下に会う機会が毎年ある。

 その一つが年賀の挨拶。

 その時の王都では貴族の馬車が王城まで列をなしているのだとか。


 つまり、そこを商機とするのだ。


「今年は長旅になりますね」

「…他人事だと思いやがって」


 年賀の挨拶は貴族家一軒につき基本一人だけ。

 国王もそれほど暇ではないということなのだろう。


 長旅になる理由は、勿論紅茶。

 待たされる時間は長く、挨拶はすぐ終わる。

 しかし、今回は色んな貴族に会ってもらわないといけない。


 つまりカーバインにはいの一番に登城してもらい、やってくる貴族に可能な限り渡してもらわなくてはならない。

 後は、紅茶を気に入った貴族からの注文を待つだけ。


 逆に言えば、年が明けてから暫くは王都に居てもらうことになる。


 前世感覚では近いと言えば近いけど、今世の移動手段を考えると王都までは馬車で五日もかかるから通うのは難しいし、そもそも時間とお金の無駄だからね。


 その機会を存分に生かしてもらおうじゃないか。

 どうせ、年越しから五日は休みなのだから。

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