謎の軍隊からの攻撃...(4)
さて……。
すっかりいじけた主人公と、自分の未来を儚む羽目に陥ったヒロイン候補を、俺は何とか宥め賺すことに成功したわけだが、その後の物語を順を追ってみていこう。
正体不明の敵の中の1機を何とか撃墜したラウラ少尉だったが、直後、油断した隙を突かれて窮地に陥る。(この折衷案がギリギリだった……)
俺はラウラの窮地に気付くも間に合わず、可愛い部下──…
(であるかはともかく……〝ドス!〟 うっ……)
…──が、為す術なく撃破されるのを覚悟する。
しかし、ラウラ機の前に現れた友軍の機動兵器が〝無駄のない美しい機動〟で敵を排除するのを見る──。
回線を繋ぎ礼を言うラウラと俺。
だが、通話モニタ越しのコクピットにいたのは、民間人と思しき少年であった……。
そんなシーンを改稿するのにあーだこーだ(ry
で、そんなこんなで即席のチームを構成した俺たちは、混乱するコロニーから退避する民間人を収容する軍用宇宙船を援護するよう命ぜられる。
もうこのときには俺たちの原隊 (確か基地所属だったはずだが)は壊滅してしまったのか何の指示も送っては来ず、なぜか寄港中だった新鋭強襲巡洋艦〝コモンウェルス〟の指揮下で行動している。
── ところで〝強襲〟巡洋艦 って何なんだ……?
閑話休題。
コモンウェルスの艦長は、敵が遊弋するコロニーの外を、民間人を乗せたまま強行突破することを決断した。
俺たちのチームも、それぞれのRA-04に乗って出撃する。
民間人、それも未成年 (同じ年齢のラウラが正規軍人であることも謎っちゃ謎だが……)のリオネルが出撃させられるのは、少しでも戦力を増強したい〝リベラルな〟艦長が無理を通した、として解決される。
そうして生起した戦闘は機動兵器のみならず艦艇をも含めての大乱戦となった。
明確な指揮系統のない連邦軍と、それぞれに功を焦るアルメ・ブランシェの前線指揮官。
互いに実戦は初めてということもあって、最早まともな統制の利かない混沌とした戦場となった。
そんな中、ちゃんとした手解きもなく〝対艦兵装〟であるところのA装備で出撃させられたリオネルは、状況に翻弄される健気な少年をしっかりと演じ強襲巡洋艦コモンウェルスの正面に立ちはだかった敵の巡洋艦を〝葛藤の中で半ば恐慌に陥りながら引き金を引くという演出〟で排除してみせた。
──通常、初弾の命中など期待できない状況下での大口径粒子砲による超長距離射撃であったが、彼の〝特別な〟能力が開花すれば初弾から次々と命中していった。Eパック・カートリッジ1個分5発、全弾命中である。
次々と突き刺さるビームにものの数秒で大破炎上となった敵巡洋艦は、そのまま制御を失ってスペースコロニー〝ヘクセンハウス〟の採光窓に突っ込んだ。ガラスを思わせる透明な外壁を砕いて内殻に墜ち込んでいき……そこで爆発四散した。
そしてその結果は甚大だ……。
内殻の中にまだ取り残されていた人々 (その多くはやはり民間人だったろう)を巻き込んで、コロニーは崩壊することとなった……。
戦闘が終結した後、リオネルは動揺を隠すことができないでいる。
*
戦闘シーンから数時間後の強襲巡洋艦コモンウェルスのRAデッキ──。
「中尉……」
いまデッキ内には気密が維持されており、帰投したRA-04が立ち並んでいる。
それらのコクピットへと伸びる作業用仮設通路で独り戦闘糧食のチューブを咥えていた俺に、ふらりと流れてきたラウラが声を掛けてきた。
「どうした?」
明らかに誰かを捜しているふうの彼女にわざとらしくそう訊く自分に、さすがに我ながらうんざりとする。
だが、少し青ざめた感の少女の顔を前に、そんな想いを表情には出せない。……絶対にだ。
「あいつ、見ませんでしたか? 姿が見えなくて……」
真摯さを感じさせる目で真っ直ぐに俺に訊いてきた。
思わず口元が綻んでしまった。
俺は背後のRA-04の閉じられたコクピットハッチの方を、背中越しに親指で指し示してやる。
ラウラは大きく深呼吸をすると、コクピットハッチを開けて中へと入っていった。
…──いいコだ。
俺は、世の中捨てたもんじゃないな、と思うことにした。
*
ラウラがコクピットハッチを潜ると、やはり内部に操縦シートやコンソールはなく、あの〝謎空間〟が広がっていた。
その中で、リオネルは内省するふうに一人腕を組み、静かに佇んでいた。
ラウラは、すぐにはそちらへは行かず、ちょっと躊躇うふうに彼に向いた。
何度か予行練習するようにパクパクと口を動かし、少ししてからようやく声を発した。
「…──あれは、あんたの所為じゃ、ないよ……」
反応は、やはり無かった。
それでも挫けることを拒否するように、少女は言葉を続ける。
「ここは戦場なんだから〝誰も死なない、殺さない〟なんてことにならない。
あたしたち、戦ってるんだよ?
あんたはよくやったと思う。
もしあのまま、あの敵艦を撃たなかったら、コモンウェルスも攻撃されて、この船に乗ってる民間人も死んでたかもしれない。そう考えれば…──」
「──やめてくれ!」
そのリオネルの声は、冷静と言えば冷静だった。
はあ、と一つ息を吐き、閉じていた瞼を開いた彼は、苛々としたふうの目を一瞬だけラウラに向けると、面倒そうに視線を外して言った。
「そりゃそうなんだよ…──一々お説ご尤も!
ここは戦場で、僕は機動兵器に乗って戦う主人公──。
ご都合主義だろうが、予定調和だろうが、何だかんだできっちり最善手、最適の解を導くように戦う存在だよ!
言われなくても、自分自身、わかってるっ!
リオネルはよくやってるし、誰かを守るために引き金を引いてるだけなのも、その通りさ!
でもさ、その主人公リオネルとしての役割のために引き金を引くのは、ここにいる僕なんだよ!」
一気にそこまで言ったリオネルに、ラウラは何も言えなくなってしまった。
そんな彼女に、気拙くなったふうのリオネルが、こう続ける。
「──だから、その〝よくやってる〟リオネルと折り合いを付ける必要が、僕にはあるんだ……」
言われた方のラウラは、身を硬くして、それでも泣き出したりはせず謝罪の言葉を口にした。
「そうだね…… ごめん、あたし、その、余計なこと、言ったね…… ホントに、ごめんなさい」
何とかそう言った彼女の声音に、さすがにリオネルの方も気が咎めたのか、しどろもどろになって言う。
「──いや、その……僕は、少し時間が欲しいだけで…──」
「うん、わかってる」
静かに応える彼女に、リオネルは言葉を重ねていた。
「キミのこと、邪魔だとか、そんなふうには思ってるわけじゃ、なくて……」
「だからわかってるよ」
ラウラのその声が優しい響きなのに、リオネルはほっとして顔を上げた。
視線の先で肩をすぼめたラウラが、小さく一つ頷いてから、〝謎空間〟の出口のコクピットハッチに向いた。
その背中にリオネルは言った。
「ラウラ… 少尉……」
「……ん?」
振り向いた彼女に、何か言おうとしたリオネルは逡巡し、こう言っていた。
「──ここでのこと、外では黙っていてくれるかい?」
ラウラは小首を傾げてから、小さく笑ってこう返した。
「あんたが、そうして欲しいなら」
そう言った彼女が、外の世界へのハッチを潜って消えるのを、リオネルは見送った。
「──…ありがとう」
彼女の背中に、そう小さく呟いて……。
── ACT.2 へ つづく