須藤先生
「須藤先生、好きです!」
「俺も由美のこと、好きだよ」
ついに、思いを伝えられた!やったよ、私。まるで夢みたい!
ピピ、ピピピピッ
二人きりの状況のはずなのに目覚まし時計のアラームが鳴る。ん?なんかお母さんの呼ぶが……
「由美!早く起きなさい!学校遅刻するわよ。」
あぁ、また夢か。私は一体何回先生に下の名前で呼ばれる夢を見たら気が済むのだろうか。
私は眠たい目をこすりながら学校に行く準備を始めた。
朝ごはんを急いで食べて自転車で駅まで行き、学校までの電車で朝霧由美は須藤京平との出会いを回想していた。
由美はまあまあ都会にある女子校に通っている高校2年生だ。そして須藤京介はその女子校で働いている男性教員のうちの一人だ。
須藤は由美が高校一年生の時に高校2年生の担任をしていたため深い関わりはない。
だが須藤は由美が所属している演劇部の顧問だった。だから由美は自然と部活で須藤を見かけることが多くなった。
須藤の年齢は31歳。由美が通っている女子校には年老いた男性教員が多いため須藤のような若い教員は普通にいるだけでも目立つ。
由美は最初は須藤のことをなんとも思っていなかった。しかし中学は共学だったため男子と関わる機会が減り、おのずと須藤に目が行くようになった。
須藤の顔は言ってしまえば中の上。しかし女子校、しかも年寄りしかいない由美の学校では上の上に見えてしまうのである。
しかし教員というのは忙しいもので須藤はたまにしか部活に顔を出さない。おまけに由美が所属している演劇部は週に三回しかないため、須藤と会う機会は少なかった。
それでも由美は一度かっこいい、知りたいと思ったら止まらない性格だった。
だから由美は廊下で須藤とすれ違ったり、たまに部活に来る須藤を隠れて見つめながら半分須藤を「推し」のような存在にしながら生活をしていた。
そして最近ではその思いが加速しほぼ「ガチ恋」のような状態で高校2年生に進級した。
☆
「須藤先生、私のことだけ見てくれないかな」
はっ!私ったらまた妄想しながら歩いてたからもう学校の門の前まで来ちゃった。
その時、見つけてしまった。校舎に入っていく須藤先生の姿を。私は急いで校舎まで走り、それとなく須藤先生に挨拶してみる。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう。」
須藤先生は私を見るなり ”演劇部の生徒” と認識したようで笑顔で挨拶を返してくれた。
そう、実際の距離感はこんなもん。多分苗字は覚えてくれているけどフルネームではおそらく知られていない。
まあでも私のこととりあえず演劇部の生徒、って認知してくれてたらいいよね、と気を取り直して自分の教室まで入る。
「由美、おはよう!」
教室に入るなりクラスで一番仲の良い風花が話しかけてくれた。
「風花おはよー。朝からラッキーなこと起こったんだけど。」
私は須藤先生に挨拶できたことを風花に報告した。風花は私が須藤先生を好きなことをすでに知っている。だからこうやって先生との出来事を逐一報告している。
「あんた本当に須藤のこと好きだよね。その熱量分けてほしいわ。」
風花は他校の彼氏がいるけど停滞中らしい。私からしたら同年代の彼氏がいるだけで雲の上のような存在に感じる。
「いや、私は須藤先生に会うために毎日頑張って学校来てるの!」
「でも須藤って結婚してるじゃん。」
風花がそう言った言葉がズシンと心にのしかかった。
私だって、分かってるよ……
でも好きになっちゃたもん