Episode009 サイコメトリー III
リサはサイコメトリーの練習で成功したとき、自分でも驚くほどの鮮明な映像が浮かんできた。
「まるで誰かが私の力を引き出してくれたみたい・・・・」
彼女は心の中でその感覚を反芻しながら、今後の可能性に期待を寄せた。
一方で、彼女の成長を見守る教授の表情には、微かな不安が漂っていた。
「この力が、今後どう作用するのか…」
教授はリサの成長を喜びつつも、その影響を慎重に見極めようとしていた。
リサはサイコメトリーの練習が終わった後、自分の成長を実感していた。
「今日の感覚は今までとは違った・・・・」
彼女はその可能性に期待を寄せながら、次のステップを心に描いた。
カフェテリアへ行って事情を話しケーキをホールで出してもらえる事になった。
嬉しい事に「Congraturation」と書かれたチョコプレート付きだ。
シャンパンで乾杯といきたいところだが全員未成年なので、コーヒー、紅茶、コーラ、ジュースと銘々(めいめい)好きなソフトドリンクを頼んでガゼボに輪を作る。
「本当におめでとう」
とジムが言うと、リサは照れくさそうに微笑んだ。
「ありがとう、皆がこうして祝ってくれるなんて、本当に嬉しいわ。」
「シンはどうしてあんなにひねくれてるのかなぁ?」
タケルがぽつりと呟くと、リョーコが軽く肩をすくめた。
「それが彼の性格なんじゃない?」
とだけ答えると、すぐに話題が変わった。
リサはサイコメトリーの練習を続け、次第に鮮明な映像が浮かび上がってきた。
「昨日よりも確かに見えている・・・・」
彼女はその感覚に驚きつつ、教授が見守る中で次の質問に答えていった。
アキが「次の練習に行こうか」
と提案すると、リサは微笑んで頷いた。
「そうね、次はもっと上手くいくはずだわ。」
「教授が魔法で底上げしてたりして」とアキが言うと
「あるかも知れませんわね。私もいつまでも出来なかったファイアボールが簡単にできましたもの」
リョーコがしみじみと言った。
「実は私、小さい頃ファイアボールの練習をしてて。 親には止められてたんだけど、初級魔法だから大丈夫だろうと思って。
それで大やけどしちゃって。以来ファイアボールはどうしても出来なくて。怖いんです。
それがこないだの練習の時、指先が温かくなるくらいだったけど魔法が発動したんですのよ。 超能力だから? なんかそれもしっくりこないし、やっぱり教授がなんかしたんじゃないかと思いますの」
と回想するリョーコ
「そんな過去があったのね、じゃ、ファイアボールの練習辛かったんじゃない?」
とリサ。
「それが不思議とこの間は怖さを忘れてたんですの。 あれから何度も練習してるんですけど、独りでやってるとやっぱり怖さがよみがえって来て出来ない事があります。 でも、前よりは成功率は上がりましたわ」
とリョーコが答えた。
「私もそう、サイコメトリーの才能は消えちゃったと思ったけど今日はすごく調子よかった。まるで誰かに力の底上げをして貰っているみたい」
と、リサも言う。
「よし、教授がなんかやってるに1票」とジムがイケメンで言った。
「私も」「僕も」と全員が教授が何か魔法的な事で僕たちを底上げしてくれている、と言う事で意見がまとまる。
「明日は講義ないから思いきり練習できますわ。 教授無しでもファイアボールを発動できるように復習しますの」
と、リョーコが決意を述べる。
それは全員の思いと同じだろう。
アキは
「何をしよう。誰かとESPカードの復習でもしようかな」
などと考えているとリサが
「アキ、明日は何するの?」
「ESPカードの復習をしようかな、って」
「じゃ、私の練習にも付き合ってよ。 アキのESPカードの相手するから」
「そうだね。 うん、いいよ」
とアキが言うと、なぜかリサは嬉しそうに笑った。
「じゃ、解散するか。 俺は食堂で晩飯食って帰る」とタケルが言うと
「まだ食べられるの? ケーキ食べたところじゃない」とカズちゃんが指摘する。
「甘い物は別腹って言うだろ? 本腹にちゃんと飯入れないと寝られないからな」
と、タケルは、またカレーを食べると独りごとを言う。
「あ、僕も行くよ。今日はラーメンにしようっと」
アキも物足りなかったのか、タケルに乗っかる。
「あなたたち、太るわよ。 じゃ、アキ明日午前中からで良い? 午後からの方が良ければ私は構わないけど」とリサが聞いてくる。
アキは明日の午前中はゆっくり寝ようと思っていたらしく午後からにして貰う。
「じゃ、カフェテリアのいつものガゼボに1時ね」
と、弾んだ声で言ってくる。
「オッケー」
アキは返事をし、帰りに非常食を買わなきゃ、と考えた。
リサは昇級後、仲間たちの期待が高まっていることを感じていた。
彼女はその重さに一瞬戸惑ったが、教授の言葉を思い出し、再び気持ちを引き締めた。
「私はこれからも成長し続けるんだ」と、彼女は心の中で誓った。そしてその夜、教授から新たな指導が始まった。
カフェテリアに到着すると、リサとアキは柔らかい照明が暖かく感じられる席に座った。
周囲には他の生徒たちが楽しそうに談笑しており、カフェの奥からはコーヒーの香ばしい香りが漂っていた。
リサはサイコメトラーだった。
だったというのは今現在その力を失っているからだ。
小さい頃のリサは周りに「天才」とほめそやされる程のサイコメトラーだった。
それがある日誰かは思い出せないのだけれど「サイコメトリーを使っちゃ駄目だよ」と目をのぞき込むようにして言われた。
それ以来サイコメトリーがうまく出来ないのだ。
本人曰く血のにじむような努力をしたのに改善されない。きっと自分の才能は消えてしまったんだと思っていた。昨日までは。
だからいい成績を出せたことが本当に嬉しかったようだ。
「お茶も飲んだし、そろそろ練習しようか」とアキが言うと、
「そうね、実験棟に行きましょうか」とリサが答える。
実験室の使用許可は昨日のうちに取ってある。
本校舎の裏手にある実験棟は各種実験が出来るように設備が整っている。
備品もESPカードを始め、魔法で使う杖、その他必要なもの。そして耐火性の壁に囲まれたその実験室は、1級魔術師のファイアボールにも耐える事が出来る仕様になっている。
その実験室の一つに借りた鍵を使って入ると、壁一面に貼られたポスターや機器の並ぶ棚が目に入った。
実験台には様々な器具が整然と並び、機械の低い音が静かに響いていた。
空気はわずかに消毒液の匂いが漂っていた。」