Episode005 ロバート研究室 II
ロバート教授は名簿を見つめながら微笑んだ。「10人ですか、意外に残りましたね。これからの3年間、よろしくお願いします。退屈させないように頑張りますので。」
僕たちは一斉に頭を下げた。
「それでは、前から順番に自己紹介をお願いします。」
教授の声に促され、僕たちは前の席から順に自己紹介を始めた。
みんな、少し緊張しながらも自己紹介を済ませていく。
シンは立ち上がり、まっすぐに教授を見据えた。
「僕はシンです。 歴史書を読むのが好きで、過去の失敗から何かを学び取りたいと思っています。 過去を学ぶことで、未来の選択を間違えないようにしたいんです」
リサは少し戸惑いながらも、口を開いた。
「私はリサです。サイコメトリーに興味がありますが、正直言うと・・・・それが少し怖いんです。 でも、真実を知るためなら、恐怖を乗り越えなければならないと考えています。」
教授はそれぞれの生徒の言葉を慎重に聞き取り、彼らの内に潜む意志を見極めようとしていた。
次は僕の番だった。「僕はアキです。魔法と超能力の融合について興味があります。よろしくお願いします。」
他の生徒たちも続けて自己紹介をしていった。教授は一人一人の話に耳を傾けながら、時折頷いていた。
「ありがとう、みんな。お互いの顔と名前が一致するようになったら、好きな場所に座っていただいて構いません。」
教授は温和な笑みを浮かべて言った。。
「それではオリエンテーションを開始します」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
教授は黒板に向かい、大きな文字で『魔法と超能力の起源』と書いた。
「私の研究室では、魔法と超能力の融合について研究していきます。」
僕たちは一斉に教授に注目した。
「魔法も超能力も、その起源ははっきりしていません。 私は、人類の発祥とともに存在していたのではないかと考えています。」
「発明はどうでしょう。例えば、現代のスマホを50年前の人が見たらどう思うでしょう?」
と教授が問いかける。
「テレパシーのように見えるかもしれませんね。」
と一人の生徒が答える。
「その通りです!」教授は頷きながら続けた。」
教授の話に僕は感心しながら頷いた。
「では、魔法はどうでしょうか?現代のハンググライダーで空を飛ぶ人と、ほうきにまたがって空を飛ぶ魔女の違いは何でしょう? もし、中世ヨーロッパにハンググライダーを持ち込んで空を飛んだら、魔女狩りにかけられるのは明らかです。」
教授が熱く語り続ける中、僕たちはその話に引き込まれていった。
「少し熱くなりすぎましたね。」
教授は照れ笑いを浮かべた。
「つまり、まだ見ぬ技術を編み出すという点で、魔法も超能力も同じ立脚点にあるということです。」
教授はグラスに注がれた水を一口飲んで
「今挙げた例で魔法と超能力が同じ物、と言う私の言わんとするところが少しご理解いただけたかと思います」
「余談が過ぎました。当校の紹介をします。
入学前のパンフレットでご存じかと思いますが、当校では魔法科と超能力科が存在します。
そして3年間基本同じ研究室で学ぶのですが皆さんは一応超能力科の研究室に在籍していることになります。
先ほどクラス替えを希望された方達はそれぞれ希望するクラスに移動していきました」
「クラスは5クラス。A~Eですが、担当する教授の名前で呼ばれるのが普通です。例えばこのクラスだとEクラスですが『ロバート研究室』という風に」
「これでオリエンテーションは終わりです。 皆さん、各自の席に戻ってください」
教授は一同に告げた後、ふと表情を引き締めた。
「さて、私はこれから準備室に戻ります。緊急で対処しなければならない課題があるので、これで失礼します。」
オリエンテーションが終わると、教授は深く考え込みながら準備室へと向かった。
資料を机に広げ、手元のデータを見つめながら静かに息をついた。
「時間がない…この研究を進めなければ、我々に未来はないかもしれない。」
教授はエーテルリアクターの前に立ち、しばしその青い光を見つめた。
まだ答えが見つからない焦燥感が胸に広がる。
彼は一つ一つのデータを再確認しながら、次の手順を決めるために慎重に思考を巡らせた。
「今はまだ見えていない…でも、必ず突破口があるはずだ。」教授は自らを奮い立たせるように呟き、再び作業に取り掛かった。
「自己紹介しようぜ。 俺は大山猛。 タケルと呼んでくれていいぜ。魔法等級は5級」
大山猛は筋肉質な体つきをしており、体育会系の風貌が目立つ。
彼は肉体強化の魔法が得意で、自分の力に自信を持っている。
「私は東上理彩、気軽にリサって呼んでね。 私は超能力等級5級。得意な能力はサイコメトリー系。と言ってもほとんど出来ないけどね」
どうやらこの二人が男女それぞれのリーダー格になるみたいだ。
「私は・・・・」「僕は・・・・」とそれぞれが自己紹介を始めた。
一癖も二癖もあるような連中が多い。
自分で言うのもなんだが、少し引っ込み思案のアキは最後に自己紹介した。
「僕の名前は一文字昭博。アキって呼んでくれると嬉しい。」
アキは声が震えるのを感じた。
自己紹介が終わり、教室内には少し和やかな空気が流れ始めた。
タケルが冗談を飛ばし、生徒たちが笑い合う中、教室のドアが静かに開いた。
その瞬間、笑い声が止まり、再び緊張が教室を包み込んだ。
教授がゆっくりと入ってくると、全員が一斉に背筋を伸ばした。
「さて、皆さん。午後は超能力基礎の授業です。準備はいいですか?」
教授の声が響き渡り、教室内の雰囲気が一気に引き締まった。
教室には最新の研究機器が整然と並び、教授の背後にはエーテルリアクターが低く響いている。
その音が静かな教室に溶け込み、真剣な雰囲気を醸し出していた。
小脇に抱えたファイルのようなものを教壇に置き、教授が楽しそうに宣言した。
後ろを振り向くと黒板に超能力と大きく書いた。
こちらを振り返ると
「先に言っておきますが、私は超能力や魔法の細かい歴史や分類などに触れる事はあまり好きではありません。 大雑把な説明しかしません。
実践こそ必要だと思ってますからね。 そこまで時間もありませんしね。
詳しく知りたい方は専用の研究室でこっそり聴講してください」
研究室内に笑いがこぼれる。
「超能力、この異能の力は20世紀中期に一斉に広まりました。 主に映画やラジオの影響でしたね」
「超能力は完全に科学の世界です。 超心理学ですね。まぁ、超心理学自体を科学だと認めない向きもありますが、だいたいが科学で解明されています。 残念ながらその数はまだ少ないのですが」
「超能力は科学の一部として研究されているんですか?」
とリサが尋ねる。
「そうです」
と教授は頷きながら続けた。「超心理学という分野で、科学的に解明しようとしています。」
「超能力はセルフイメージを実現する技術、限界を超えたところにある技術、と言うのが現代での解釈です」
「人間の心に限界があるとすれば、その人がそう思ったところが限界、と言う言葉があります。 まさに超能力の修行はこの考えが根底にあります」
「超能力の育成・検証にはESPカードなどの道具を使います。 これは科学的客観性を求めるが故です」
教授は例によって研究室を見回してから言う。
「以前の超心理学では心霊現象なども対象にされていましたが、現在では分けて考えられています」
リサがほっとした顔をしていた。 心霊現象話は苦手なのかもしれない。
「私の授業では、サイコメトリー、サイコキネシス、パイロキネシス、テレポーテーションなどの実用的、実践的な超能力の考察をしていきたいと思います」
「皆さん、超能力についてはどれくらい知っていますか?」
教授は教室を見回しながら尋ねた。
リサが手を挙げ、「少しだけです。でも、もっと知りたいです」と言うと、教授は微笑みながら、
「素晴らしい意欲ですね。では今日はサイコメトリーを学びましょう」
と教授が宣言すると、リサの目が輝いた。
「まずは実習です。二人一組になってカードを使ってみましょう」
教授がカードを配り始めると、教室内は活気づき、生徒たちのざわめきが広がった。