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ロバート教授の不思議な授業(改)  作者: @manacho03
不審者と転入生
23/24

Episode023 転入生 III

 エリュ・コーエンの支部を襲撃する計画が実行される日が訪れた。

 ロバート教授は、生徒たちを研究室に集め、緊張感を帯びた声で作戦の詳細を説明していた。

 今回の突入班アキ、タケル、リョーコ、スージー、リサ、そしてアツシが真剣な表情で教授の言葉に耳を傾けている。


「皆さん、今回の任務は極めて重要です。 エリュ・コーエンの支部を制圧し、彼らの動きを封じ込めることが目的ですが、焦らず、慎重に行動してください。 情報収集が最優先です。 そして、何よりも自分の命を大切にしてください」教授は、一人一人の顔を見つめ、彼らの心に言葉を深く刻むように語りかけた。


 アキはその言葉を深く胸に刻み、静かに頷いた。

 タケルや他の生徒たちも同じように緊張感を持って教授の指示に従おうとしていたが、アツシだけは異なっていた。

 彼の表情には冷淡さが漂い、その目には計画の目的や仲間への共感が欠けているように見えた。

彼にとって、この任務はただ敵を倒す機会であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。

 作戦は、テレポートによる移動で始まった。

 彼らは一瞬でエリュ・コーエンの支部の近くに姿を現した。

 夜の冷たい空気が彼らの肌を刺すようで、周囲は不気味なほど静まり返っている。

 アキはその緊張感を全身で感じ取り、慎重に周囲を警戒しながら進んだ。

 教授の指示に忠実に従い、無駄な動きをしないように心掛けていた。

 しかし、アツシはその慎重さを欠いていた。

 彼の心はすでに、敵を討つことにしか向けられておらず、その一挙一動からは焦りと冷酷さがにじみ出ていた。


 彼らが最初の敵と対峙した瞬間、アツシは迷いなくその場に踏み込んだ。

 彼の拳が鋭く突き出され、相手の体に深くめり込む。

 その瞬間、彼の目には確かな光が宿り、拳を通じて彼の「瞬発強化」のミスティック・シナジーが炸裂した。

 このシナジーは、アツシの空手の動きを一瞬で強化し、信じられない速度と力を生み出すものだ。

 敵はその圧倒的な力に対抗する間もなく、地面に崩れ落ちた。


「アツシ、やめろ!」

 アキはすぐに駆け寄り、アツシを止めようとしたが、すでに手遅れだった。

 倒れた敵を見て、アキの心臓は激しく鼓動し、その行動の残酷さに動揺が広がった。


「なんでこんなことをするんだ? 捕まえて情報を集めるべきだっただろう!」

 アキは声を震わせて訴えた。

 その声には、アツシの行動に対する理解不能な感情が込められていた。


「無駄だ、アキ。 こいつらは俺たちの敵だ。 それ以外に考えることなんてない」

 アツシの声は冷たく、まるで感情が完全に消え去ったかのような響きだった。

 その目には冷徹な決意が宿っていた。


「でも、それじゃ何も変わらない!  俺たちは情報を集めて、次にどう動くかを考えるべきなんだ!」

 アキは必死に訴えたが、アツシはその言葉に耳を貸そうとはしなかった。


「お前は甘いんだよ、アキ。 敵は敵だ。 それ以上でも以下でもない。」

 アツシは冷たく言い放ち、再び前進を始めた。

 その背中には、人間らしさがまるで感じられず、冷徹さだけが漂っていた。


 アキはその背中を見つめながら、胸に深い痛みを覚えた。

 アツシのやり方には、どうしても納得がいかなかった。

 しかし、今は任務を遂行することが最優先だと自分に言い聞かせ、気持ちを切り替えるしかなかった。

 アキも自らのミスティック・シナジー「反応加速」を発動させた。

 このシナジーは、アキの反応速度を瞬時に高め、戦闘の中で相手の動きを読み取り、対応する力を強化するものだ。

 アキは冷静に周囲を警戒しながら行動を続けたが、心の中ではアツシの行動に対する疑念が消えなかった。


 戦闘が続く中で、アキとアツシの間に生まれた溝はますます深まっていった。

 アキが敵を捕らえ、情報を引き出そうとするたびに、アツシは一切の躊躇もなく敵を無力化していった。

 そのたびに、アキの苛立ちは募り、アツシとの間に生まれた亀裂が広がっていった。


「お前のやり方は間違っている!」

 アキはついに声を荒げて叫んだ。

 アツシの無慈悲な行動に耐えかねたのだ。


 アツシは振り返りもせずに答えた。

「間違っているのはお前だ。 俺たちは正義のために戦っている。 敵を倒すことが、そのために必要なんだ。」


 その言葉にアキは深いショックを受けた。

 彼はアツシが抱える深い闇と苦しみを感じ取った。

 しかし、どうすればアツシを変えることができるのか、その答えは見つからなかった。

ただ、アツシとの対立がこのまま放置されれば、より大きな問題に発展する可能性を強く感じていた。


作戦が終わりに近づいたころ、アキは一つの決意を固めた。

「アツシと本気で向き合わなければならない」

 と。

 彼はアツシの背中を見つめながら、心の中で強くその決意を固めた。


 エリュ・コーエンの支部での任務が終了し、アキは研究室に戻っても心の中に残る不安と葛藤を整理しきれずにいた。

 アツシの行動が理解できなかった。

 彼はただ敵を倒すことしか考えておらず、その冷徹な行動に対する疑念がアキの心を強く締め付けていた。

「僕たちが学んでいるミスティック・シナジーは、こんな風に使われるべきものではない」

と、アキは何度も心の中で繰り返していた。


 ミスティック・シナジーとは、魔法と超能力を融合させた技術体系であり、破壊や殺戮のためだけにあるわけではないはずだ。

 むしろ、それは人々を守り、未来を築くための手段であるべきだとアキは信じていた。

だが、アツシはその力をただ敵を排除するためだけに使っているように見えた。


 その夜、アキはアツシが一人で訓練場にいることを知った。

 彼は迷いながらもアツシのもとへ向かった。

 冷たい夜風が吹きすさぶ中、アツシは一心不乱に技を繰り出していた。

 彼の拳は鋭く、力強く、まさに「瞬発強化」のミスティック・シナジーを駆使した一撃だった。

 だが、その動きにはどこか焦りが感じられた。


 アツシは無言で拳を突き出し続け、その度にアキはアツシの内面に何かが揺れ動いていることを感じた。

 アツシの中で、かつて固く信じていた「悪・即・斬」という信念が揺らいでいるのではないかと、アキは思った。


「アツシ、少し話がしたい」

 アキは静かに声をかけた。

 アツシは動きを止め、ゆっくりと振り返った。

 彼の目には、いつもの冷たさとは違う、わずかな不安が浮かんでいた。


「まだ僕のやり方に文句があるのか?」

 アツシは冷たい表情を保ちながらも、その声には以前のような確信が感じられなかった。


「文句じゃない。ただ、お前が本当にそれで良いのか確かめたいんだ。」

 アキは慎重に言葉を選びながら、アツシに歩み寄った。


 アツシはしばらく黙っていたが、やがて拳を見つめた。

 その拳は、これまでに数多くの敵を倒してきた。

 しかし、アキとの対立や、彼が投げかけた言葉を通じて、アツシは自分の信念に対する疑念を抱き始めていた。

 彼は、家族を失ったときに「悪・即・斬」という信念を固め、それを正義として戦ってきたが、それが本当に正しいのかどうかがわからなくなってきていた。


「僕が間違っているとでも言いたいのか?」

 アツシは低い声で問いかけたが、その声には以前ほどの力がなかった。


「そうじゃない。 ただ、お前にはもっと別のやり方があるんじゃないかと思うんだ。 僕たちが学んでいるミスティック・シナジーは、ただ敵を倒すためだけのものじゃない。 もっと大切なものを守るための技術だと僕は信じている」

 アキは真剣な目でアツシを見つめ、彼の心に届くように語りかけた。


「大切なものを守るため・・・・か。」

 アツシはその言葉を反芻するように小さく呟いた。


「お前の力は素晴らしい。 でも、その力をもっと違う形で使えるんじゃないかと思うんだ。 僕たちは敵と戦うけど、無駄に命を奪う必要はない。 情報を集めて、次にどう動くかを考えることで、もっと大きな成果を得ることができるはずだ」

 アキの言葉には、確固たる信念が込められていた。


 アツシはしばらく沈黙していたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「俺は、今までずっとこのやり方でやってきた。 家族を失ったとき、俺にはもうこれしか残っていなかったんだ。 だから、悪い奴は全て斬り捨てる。それが俺の正義だと思っていた。」


「でも、それで本当に良いのか? お前がそうやって苦しむ必要があるのか?」アキはさらに問いかけた。


「わからない。 でも、今はお前の言葉が少しだけ理解できる気がする」

 アツシは、ゆっくりと拳を開いた。その手のひらは、自分が築いてきた信念と、その裏に隠された苦しみを象徴しているようだった。


「それでいいんだ、少しずつでいい。 お前はもっと強くなれる。 その強さは、ただ敵を倒すことじゃなくて、守るべきものを守る力だ。」

 アキは微笑みながら、アツシの肩に手を置いた。


 その夜、アツシは初めて「悪・即・斬」という信念に疑問を感じた。

 そして、それが必ずしも正しいわけではないかもしれない、と考え始めた。

 彼の心の中で、少しずつ変化が芽生えていた。

 その変化はまだ小さなものだが、確実に彼の未来に影響を与えるだろう。


 アキと共に訓練場を後にするアツシの背中には、かつての冷たさとは違う、新たな決意の色が見え始めていた。


彼は、自分の力をどう使うべきかを再考する時が来たのだと感じていた。


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