Episode020 不審者の正体 II
「というような訳なんです」
アキが教授に報告する。
教授は今日も美味そうにパイプを吹かしていた。
「本当ならリサのサイコメトリーでシンの記憶をたどるのが一番手っ取り早いのですが、彼が許すとは思えませんね」
煙を吐き出して教授はつぶやいた。
「シンの持ち物をサイコメトリーするのはどうでしょうか?本人の知らないうちに」
とジムが問うと
「本人の許可無くそれは出来ないでしょう。警察でも証拠がなければ家宅捜索まではしませんよ」
「本人の同意があればいいんですね!」
「話は聞かせて貰った」と言わんばかりの勢いでリサが飛び込んでくる。
「まぁ、そうですが、あの気位の高いシンがそう易々(やすやす)とサイコメトリーに応じるとは思えないですがね」
教授はリサにそう言う。
「大丈夫、方法はあります」
にやっと悪い顔をしたリサが答える。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「シン、ちょっと話があるんだけど」
シンの机の前で仁王立ちしたリサが話しかける。
「なんか、策があるのかなぁ。少し心配だなぁ」
と、ジム
「大丈夫よ、多分。最後に愛は勝つのよ」
と、スージー。
「この間、アキが大けがしたのは知ってるわよね?」
「あぁ、知ってるよ。なんでも不良グループにからんだそうじゃないか。自業自得さ。」
「####!」
一瞬、リサが切れかける。
それでも穏やかに、笑顔で続けるリサ。
「その時にねぇ、相手のリーダー格の男の供述に『エリュ・コーエンの上川って人に指示された』ってのがあるんだけど、シンは関係ないわよねぇ」
「あちゃー、直球勝負かよ」
ジムが嘆く。
それでもシンは明らかに動揺して
「あるわけないじゃないか」と、ムキになって言いつのる。
「じゃ、あなたをサイコメトリングさせて頂戴」
「断る!僕は関係ないからね」
「関係なきゃいいじゃない、無罪証明だと思ってさせてよ」
「断じて断る!」
「じゃ、無理にしちゃおうかなぁ」
と言って、リサはシンに触れようとした。
「やめろ」
とシンは右手でリサの手を払った。
「私の手に触れたわね。そう、この一瞬があればそれでいいのよ。あなたの知られたくない過去もバレちゃうかもよぉ」
悪魔の笑みでリサがはったりをかます。
シンが諦めたように
「わぁったよ。ほら、この腕時計でいいだろ?」
「ご協力感謝しまぁす」
「ふぅ、リサは怒らせないようにしよう」
ジムはつくづくそう思った。
「なかなかいい腕時計ね。ちょっと借りるわね」
リサは難しい顔でサイコメトリングを始める。
しばらくたつとリサは
「こ、これは・・・・」と絶句する。
「リサ、誰が見えたの?」
「信じられないけど・・・・」
そしてリサはその人物の名前を口にする。
リサが口にした意外な人物にジムたちは会いに行く。
その人物は研究室で一人ESPカードの練習をしている。
「やぁ、みんなしてどうしたの?」
「聞きたいことがあるんだ」とジム。
「なぜ、あんなことをしたんだ?」とシン。
「なんのことかな?」
「エリュ・コーエンの上川信二こと伊藤隼人。君のことだよ、ハヤト」
「君はシンからエリュ・コーエンの話を聞いて上川信一の弟だという上川信二という架空の人物を作り上げた。組織は完璧に上川信二という人が上川信一の弟だと思い込んで信用した」
ジムが続ける
「そして、エリュ・コーエン品川支部を裏から操って、リサを誘拐したり、アキの襲撃計画を立てた。教授がエリュ・コーエン品川支部を摘発すると聞いたときは焦ったろう。
ただ分からないのはなぜ、リサやアキという個人にこだわったか、と言うことだ」
「証拠はあるのかい?」
開き直るハヤト。
「リサが僕の時計をサイコメトリングしたら君が組織の下部組織に連絡してる姿が浮かんだんだ」とシン。
「君は僕が心を許した唯一の友人だと思っていた。それなのになんでこんなことをするんだ?」
と、シンが心から残念そうにハヤトに告げる。
「友人?片腹痛いね。君はコンプレックスの塊だ。能力はリサに及ばず、外見はジムに及ばず、勉強はアキに及ばず。唯一勝てるのが背の低くてなんの取り柄もない僕だっただけじゃないか。そんなのは友人とは呼ばないね」
完全に開き直ったハヤト。
「君からエリュ・コーエン日本支部の話を聞いたときは飛び上がるほど喜んだね。こんな僕でも権力が手に入るんだ、と。でも上川信二というキャラを完成させるまでは苦労したよ。
でも、君の弟だって話を信じて、僕を幹部だと勘違いしてくれたんだよ。馬鹿な話さ。それからはやりたい放題。楽しかったね」
「それでなんでリサとアキにちょっかいをかけたんだ?」
「僕はリサを愛しているんだ」
「なのにリサは明らかにアキに気があった。目の前でボコボコにしてやればあきれて好意を無くすだろうと思ってね。まさか覚醒するとは思わなかったけどね。あのときアキがやられていたらリサは僕の物になってたんだ。」
リサはハヤトの言葉を聞きながら、胸の奥に湧き上がる怒りと失望を感じていた。
アキを守るために必死になってきた自分が、ハヤトに利用されていた事実が彼女を苛立たせた。
彼女の中で沸騰する感情は、理性を超えていた。
「どうして…どうしてこんなことができるの?」
リサは心の中で何度も自問したが、その答えは見つからなかった。
彼女の手は無意識に動き、ハヤトの頬を強く打っていた。
「バシィ!」
リサがハヤトの横っ面をはたく。
「あなたはそんな理由でアキを・・・・」
ハヤトは静かに笑った。
「そうさ、僕が全部計画したんだ。 エリュ・コーエンを操り、君たちを翻弄してきたのはこの僕だ。 でも、何か問題でもあるかい?」
彼の声には冷たさが漂っていた。
追い詰められているはずなのに、ハヤトはまるで勝利を確信しているかのようだった。
「君たちには何もできない。 僕は全てを手に入れることができたんだ。 金も地位も、そしてリサも・・・・」ハヤトの目には狂気が宿っていた。
」
ハヤトは頬をさすりながらそう言う。
「狂ってる・・・・」リサがつぶやく。
「狂ってるのは君たちの方さ、あんなロバートなんてマッド・サイエンティストに教えを請うてどうするつもりだい?権力を手に入れてしたいことをする方がよっぽど成功への近道だというのに」
「ハヤト、僕は、僕は本当に君のことを友人だと思って、それでエリュ・コーエンのことも話したのに」
悔しそうにつぶやくシン。
「エリュ・コーエンのことを知らなければ僕もこんな計画は立てなかったさ。おとなしい目立たないハヤトで通したと思うよ。結局悪いのは君さ」
部屋の中は異様な静けさに包まれていた。
ハヤトが開き直るたびに、空気が冷たく張り詰めていくように感じられた。
リサはその静寂の中で、自分の心臓の鼓動がやけに大きく聞こえるのを感じた。
「この静けさが…彼を助長しているのかもしれない」
彼女はそう思いながらも、何もできない自分に苛立ちを覚えた。
「そんな、そんな、僕は・・・・」
頭をかきむしるシン。彼もある意味被害者なのかもしれない。
事の次第を教授に報告したジム達だったが
「ふむ、そうでしたかハヤトがねぇ。でも、警察には届けられませんよ。サイコメトリーは現在の法律では証拠として認められていませんからね。
まぁ、学校はやめていただきますし、その筋に連絡すれば後片付けはしてもらえるでしょう」
また教授が悪魔的なほほえみをたたえて言う。
「シンはどうなりますか?」ジムが聞く
「シンねぇ、彼もエリュ・コーエンの幹部だったのは間違いないですから学校はやめていただきますし、この事実は警察に連絡します。」
退学とは思いのほか重い罪だった、いや、軽い罪なのか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふーむ、二人も減ってしまいましたね。これは補充しないといけませんかね。アキが覚醒したというのはめでたいことですが」
パイプをくゆらせながら生徒名簿を1ページずつ慎重に読み始めた。