Episode019 不審者の正体 I
「何者かにつけられてる?」
ミサが心配そうにカズちゃんに聞いた。
ここ数日誰かの視線を感じる、とカズちゃんがミサ達に相談したのだ。
アキたちは放課後に研究室でかたまって雑談をしていた。
「私もそう」とスージーが口を挟んだ。
「実は私も何度か変な魔力を感じましたのよ」
魔力感知に優れたリョーコが言う。
「僕たちもこないだ視線を感じたよ。 気のせいかと思ってたんだけど、そうでも無かったみたいだね」
ファイアボールの実習の後、カフェテリアで感じた視線を思い出した。
一緒にいたタケルも思い出したのかうなづいている。
「捕まえてみようか?」
ジムが気軽に口にする。
「簡単に言うけど、どうやって?」
と、アキが問うと。
「なに、簡単さ。 今度気配を感じたら僕に言ってよ。 サイコキネシスで石をぶつけて気絶させて捕まえれば良いよ」
と、フフンといった感じでジムが胸を張る。
「何言ってるの。 貴方の等級も5級でしょ? 石をぶつけられるわけないじゃない。それに貴方のノーコンじゃ、相手の場所が分かっても狙いを外すのは間違いないわ」
スージーがこきおろす。
たはは、とジムが力を落とす。
自覚はあるみたいだな。
「それよりわざと気づかせて、リサのサイコメトリーで相手を特定する方が確実よ」
スージーが代案を口にする。
「私、そこまで出来ないわよぉ」
と、リサが珍しく弱気な発言をする。
「出来るわよ。って言うか他に手はないしね」
スージーがはげます。
「じゃ、この中で一番魔力感知の鋭いリョーコにレーダー役になって貰って、見つけたらわざと『誰だ?』とタケルあたりに言ってもらったら相手はびっくりして逃げるでしょう。 そこでリサの出番ね」
と計画を説明するスージー。
「だから、そんなにうまくいくと思えないの」
と、リサは相変わらず自信のなさそうな声を出す。
「大丈夫。 きっとうまくいくから」
スージーは自信満々に言った。
「リサ、大丈夫だよ。あなたならできるって、私たち信じてるから」
スージーはリサの手を取り、優しく微笑んだ。
彼女の目には、リサへの信頼と、何とかして彼女を支えたいという思いが溢れていた。
「私も最初は自信がなかったけど、みんながいてくれたからここまでやってこれたんだよ」
スージーの言葉に、リサは少しだけ勇気をもらったように感じた。
「見つけたら俺が取り押さえる方が早いんじゃないか?」
タケルが腕まくりをして言う。
「相手がどんな奴か分からないうちにそうするのは危険よ」
と、スージーがたしなめる。
「それもそうか」とタケルも納得したみたいだ。
「取りあえずいつものカフェテリアに移動しましょ」
とスージーがみんなをせかす。
今日はリサがおとなしいのでスージーがしきり役だ。
アキたちはぞろぞろとカフェテリアへ移動した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カフェテリアのいつものガゼボでカフェラテを飲みながら、何か様子がおかしいリサにどうしたのか、と聞いてみる。
「実は・・・昨日教授に呼び出されてね。3級に昇級できるかもしれないの」
とリサ。
「へぇ、すっごぉーい。こないだ4級に進級したばかりなのに」とカズちゃんが感心至極 という風に驚いている。
「まだ、決まった話じゃないのよ。後はなにか決め手になる事があれば、って」
と、リサ。
「じゃ、今回の犯人を特定できれば3級昇格じゃないの?」
リョーコが訪ねる。
「そうなんだけど、いまいち自信が無いの、失敗したどうしようかって。また自信を無くしそうで」
それを心配してたんだ。気持ちはわかるけどね。とアキは思う。
カフェテリアでいつものように談笑している最中、リサはふと、背筋を撫でるような冷たい感覚を覚えた。
「誰かが見ている・・・・」
彼女はその視線の出所を探そうとしたが、何も見えなかった。
周囲は静かで、いつも通りの平和な雰囲気が漂っている。
それでもリサの胸には不安が残った。
「これはただの気のせいじゃない・・・・」
彼女はそう確信し、仲間たちに小さな声でそのことを伝えた。
「オッケー、任せな。」とタケル。
「誰だ!」と叫んで林の方に行きかけるタケルをアキは止めた。
「だから、今回は駄目だって」
「おぉ、そうだったな、わりぃ」と頭をかくタケル。
林の方でガサガサと人が逃げていく音がする。
誰もいなくなったのを見計らって、みんなでそちらへ行ってみる。
垣根を探ろうとすると
「誰も何も触らないでね。何人も触ると犯人を絞りきれなくなっちゃうから」
とリサがみんなを止める。
リサが垣根に手を触れると、周囲の音が一瞬遠のいたように感じた。
林の中は静まり返り、風の音すら聞こえない。
彼女の耳に届くのは、心臓の鼓動だけだった。
手のひらに伝わる冷たい感触が、彼女の集中力をさらに高めていく。
「お願い、見せて・・・・」
リサは心の中でそう祈りながら、瞑想に入った。
しばらく苦しそうに瞑想していたが
「かすかに見える。 これは・・・・シン?」
「えぇーっ?クラスメイトが?」とみんな驚く。
「確かなの?リサ」
「うん、残念だけど間違いないわ。 たった今までここにいたんですもの」とリサ。
「何を考えてるんだろう、あいつ」とアキ。
「本当はみんなと一緒にお茶したいんじゃないの?」とスージーがあきれ顔で口にする。
「それもあるだろうけど・・・・」とハヤトが口を挟む。
「リサの事を勝手にライバル扱いしてたから様子を見てたんじゃないかな」とハヤトが続ける。
「みんなの輪の中に入ってくれば良いのにね」
「それが出来ないんだよ、彼は」とハヤト。
「なんでそんなスパイみたいなことするのか、僕たちが聞いても教えてくれないだろうから、ハヤト悪いけど探り入れてよ」とアキ。
「分かったよ。機会があれば聞いてみる」
シンはずっとリサの影を追っていた。
彼女の力が、そして彼女の仲間たちとの絆が、シンには眩しく見えて仕方がなかった。
「自分もあの中にいたかった・・・・」
しかし、自分の能力が一番になれないことが、彼にとって耐え難い屈辱だった。
だからこそ、リサの行動を監視することで、彼女に勝つための何かを見つけようとしていたのだ。
「けど、さすがね。リサ。 3級昇級間違い無しね」とスージーがほめそやす。
「今回はほんのさっきまでそこにいた人だったからね。 毎回これくらいはっきり見えたらいいんだけどね」とちょっと自信を取り戻した様子のリサが言う。
研究室に戻って、リサは準備室にいた教授に報告しに行った。
アキたちは研究室でリサを待っていた。少し時間がかかっている。
「みんな、ありがとう! 3級に昇級したよ」
リサのほほに涙がすじを作っている。
「おめでとう!リサ」とリョーコがリサの両手をつかんで我がことのように喜んだ。
「今度はケーキは良いからね」とリサが涙をぬぐいながら言う。
「それとシンの事も少し聞けたよ。 一番になりたいのになれないのを苦にしてみんなと打ち解けられないんだって。 そっとしておいてあげてくださいって」
「ふ~ん、1番にねぇ」とタケルが心底分からないという風にかぶりを振る。