Episode018 エリュ・コーエン III
「第13番倉庫」
見覚えがある。エリュ・コーエンのアジトがあったあの倉庫だ。
と言うことはあの不良達はエリュ・コーエンの関係者か?
倉庫の中に入っていくと5人ばかりの男達がニヤニヤしながら立っている。
倉庫の隅には後ろ手にくくられたリサがいた。口にはさるぐつわ。
「リサ!」
「おまえら、リサに何もしてないだろうな」
と僕は精一杯ドスをきかせたつもりで叫んだ。
「ほれ、白馬の王子様がやってきたぞ」
へらへらと笑いながら男達の一人がリサに言う。
「何もしてねぇよ、今はまだな」
その時、僕は目の前が真っ暗になったことに気づいた。首筋を木刀で殴られたのだ。肉体強化してれば平気だったろうけど、素人相手にミスティック・シナジーは使えない。これだけは譲れない。
「しぶとい奴だな。おい、みんなでかかれ!
リーダー格の男が男達をけしかける。
「このやろー」
モーニングスターを振り回して男が肉薄する。
僕はモーニングスターを左手で交わして右拳を奴のみぞおちに食い込ませる。
「やろー!」
バットを振り上げてかかってくる太った豚男を右足刀で仕留めて、後ろから迫ってきた豚男その2をかかと落としで沈ませる。
よし、ジムとの練習が効いてる。
そう喜んだときだった。
「バーン」
1発の銃声が空気を一変させる。リーダー格の男が拳銃を天井に向けて発射したのだ。
アキはリサを守るために必死に戦った。
男たちが次々と襲いかかってくる中、彼はモーニングスターを避けながら反撃を試みたが、その瞬間、首筋に強烈な痛みが走った。
「くっ・・・・!」
振り返ると、リーダー格の男が拳銃を手にしていた。
拳銃で殴られたらしい。
「ただの不良じゃない・・・・こいつら、プロだ・・・・!」
アキはそう思った瞬間、リサのこめかみに拳銃が押し当てられているのを見て、心臓が凍りついた。
「リサ・・・・!」彼は叫びたかったが、言葉が出なかった。
自分の無力さが胸に重くのしかかった。
僕が倒した3人もむくむくと起き上がって怒りに燃えた目でそれぞれの獲物を振りかざして僕に迫る。
アキは袋だたきにあう。
バットで殴られ、モーニングスターで傷つけられ。
腹を蹴り上げられ、顔面にパンチをもらう。
昼に何も食べなかったのが幸いした。それでも血は吹き出す。
回し蹴りが頭に直撃する。
口からは血を吐き、あばらが2~3本ひびが入ったのが分かる。
ミサは泣きながら「ウーウー」と声を上げている。
アキはいつだってそうだ。
思ったようにいかない。
こんな奴らミスティック・シナジーを使えばすぐにたたきのめせるのに。
それはできない。
拳銃もミサのこめかみに当てられたままだ。
アキは本当に何をやっても駄目な奴だな。
アキは袋だたきに遭い、全身が痛みに包まれていた。
彼の体は動かなくなり、目の前がだんだんと暗くなっていく。
「こんなところで終わりなのか・・・・リサを守れないまま・・・・」
その思いがアキの心を締め付けた。
「僕は何をやっても駄目な奴だ・・・・」
彼は自分を責めたが、ふとリサの顔が浮かんだ。
「リサを守らなきゃ・・・・でも、どうやって・・・・?」
その時、何かが心の中でカチッと外れる音がした。
アキは急に体に力がみなぎるのを感じ、全ての痛みが消えていった。
「そうだ、僕はリサを守るんだ・・・・」
彼はそう思い、立ち上がった。
突然全身に力が入り、体の痛みを感じなくなった。
アキは左手でバットを受け止め、そのままの勢いでモーニングスターを持つ敵を殴り飛ばした。
「なんだ、この力は・・・・!」
彼は自分の動きが信じられなかったが、体が勝手に動いていた。
次の瞬間、無手の二人が襲いかかってくるのを見て、アキはバットを振りかざし、一瞬で二人を倒した。
「まさか・・・・こんな力が・・・・」
リーダー格の男が震えながら銃を構えたが、アキの目にはそれがゆっくりとしか見えなかった。
「撃ってみろよ・・・・」アキは自信に満ちた声で言い放ち、男に一歩ずつ近づいていった。
バットを左手で受け止め、そのバットでモーニングスターをはじき飛ばす。更にバットで無手の二人を殴り倒し、腰を抜かして拳銃をこちらに向けて震えながら「来るな!撃つぞ!」とわめいているリーダー格の男を締め上げる。
「撃って見ろよ、あぁ?!」
リーダー格の男はズボンを濡らしている。
もう一度締め上げると気を失ってしまった。
その時、外からこちらを見ている二組の瞳に気がつかない。
アキの態度が気になって様子を見ようと後を付けてきたジムとスージーだ。
アキがやられているのを見て飛び込もうとしたジムを止めたのはスージーだ。
「やめておきなさい。 アキが男してるのよ。 邪魔をするのは野暮って物よ。 それにアキに助けられた方がリサも嬉しいだろうし」
と、含みのある笑顔で押しとどめる。
「君がそう言うなら・・・・でも、これ以上やられるようならアキは行くよ」
「大丈夫よ。 ほら、覚醒したみたい」
そんな会話が交わされているのも知らず、頭の血が下がったアキはまずリサの拘束を解いてやった。
「アキ、怖かったわ。ありがとう…」
涙を浮かべながらアキに抱きついた。
彼女の心には、今まで抑えていた感情が一気に溢れ出していた。
「本当に、無事で良かった…」
アキはリサの背中を優しく撫でながら、少しだけ自信を取り戻した気がした。
「あぁ、良かったね…」
彼はそう呟いたが、まだ実感が湧かないでいた。
アキは目を白黒させながら
「あぁ、良かったね」
としか言えなかった。
成し遂げたのか?リサを救えたのか?
少しだけ自信がついた。
戦闘が終わった後、倉庫内は静寂に包まれていた。
アキはふらつきながらリサのもとへ歩み寄り、その静けさが彼の心に重くのしかかっていた。
「これで本当に終わったのか…?」
彼は疑念を抱きながらも、リサを抱きしめた。
その時、倉庫の薄暗い空気が彼の疲れた体に染み込んできた。
そこにジムとスージーコンビがやってくる。
「ジム、それにスージー。 なぜあなたたちが?」
リサが問うとジムが
「いやぁ、アキの様子がおかしかったからね。 後を付けてきたんだよ」
とジムが答える。
「ひどぉーい、見てたんなら助けに入ってくれれば良かったのに」
リサが文句を言うとスージーが
「かっこよかったんじゃない? それにアキに助けられた方があなたも嬉しいと思ってね」
スージーの一言にリサは真っ赤になって何も言えなくなった。
一方、ジムはアキの変化に驚きを隠せなかった。「アキ、一体どうなったんだい?あんなにやられていたのに…急に回復して暴れ出したよ」ジムは不思議そうにアキを見つめた。スージーがリサにウインクしながら、「アキは限界を超えたのよ、あなたを助けるために」と言うと、リサは顔を赤らめて横を向いた。「知らない…」リサはそう言ったが、その顔には嬉しさが隠しきれなかった。
「それより、アキは一体どうなったんだい? やられてると思ったら急に回復して暴れ出したよ」
怪訝げなジム。
「あれはね、一段階段を上ったのよ。 教授が言ってたでしょ。 『限界があるとすればそれはその人がそう思ったとき』って。 アキはあの瞬間限界を超えたのよ。
「あなたを助けるために」
とスージーがリサにウインクする。
リサは真っ赤になって「知らない」と横を向く。が、その顔は嬉しそうだ。
「こいつから事の次第を聞かないとな。 やっ!」
とジムがリーダー格の男に活を入れた。
すると男は目を覚まし、真っ青になってブルブル震えだした。
「なんでこんなことになったんだ?」
ジムが男に問いただすと
「指令だったんだ。 上からの」
「なんて?」
「『あの一文字昭博って奴はいつか邪魔になる。 今のうちに始末しろ』って。っても殺すつもりはなかったんだ。 脅して学校をやめさせるくらいの手はずだったんだ」
男は震えながら答える。
「上ってエリュ・コーエンか?」
と問い詰めると
「そうだ、エリュ・コーエン品川支部の上川って人だ」
「上川って・・・・もしかしてシンのこと? ねぇ、上川って上川信一って人?」
スージーが驚いて叫んだ。
「いや、下の名前までは知らない」
と男は答えた。
「いや、まだ決めつけるのは早いよ。 教授にも相談して、それからだな」
「そうね、もう少し泳がせて様子を見ましょうか」
二人が見ると少し離れたところで意識を失ったアキがリサに膝枕されている。リサは幸せそうな笑顔をたたえている。