Episode017 エリュ・コーエン II
「まだまだぁ」
おぼつかな足取りでそう告げるアキ。
相手をしてくれてるのはジムだ。
アキたちは体術の実習を受けている。
ジムは柔道3段、合気道2段の実力者だ。
アキでは相手にならないのは分かっているけど音を上げていられない。どんなシチュエーションが待ち受けているか分からないからな。
それにいざという時女の子に助けられたんでは様にならない。
今のところ、リサやスージーの方がアキより断然強い。
アキはあの日のことを思い出していた。リサが不良たちに囲まれた自分を助けてくれた時のことだ。
彼女は一切の躊躇もなく、自分を守るために立ち向かってくれた。
その時、アキはただ震えながら彼女の背中を見つめていた。
「あの時、リサが見せた強さ・・・・あれがなければ僕はどうなっていたか・・・・」
その思いが、彼の決意をさらに固めた。
「今度は僕が彼女を守る番だ。彼女に恩返しをしなければ・・・・」
アキはその決意を胸に、リサを助けに行くことを決意した。
。
バタン
またジムに投げられる。
アキは柔道場で受け身の練習を繰り返しながら、自分が本当にリサを助けられるのか不安を感じていた。
柔道場の冷たい空気がアキの肌に突き刺さるように感じた。
練習のたびに、彼の体は重くなり、疲労が蓄積していく。
「こんな状態でリサを助けに行けるのか?」
アキは心の中で自問したが、彼はその思いを振り払うようにさらに体を動かした。
「リサはもっと強い。僕だって強くならなきゃ・・・・」
そう自分に言い聞かせながら、彼は無理やり自分を奮い立たせた。
「ふぅ」
柔道場に大の字になって寝っ転がるアキはため息をつく。
「もうこれくらいにしておくかい?」
ジムの優しい言葉に「もう一丁!」と起き上がって向かっていく。
次に気づいたときには目線の先には柔道場の天井が見えた。
「アキ!大丈夫かい?アキ!」
ジムの声に気づいて
「大丈夫」と答えるのが精一杯だ。
ジムの右手を借りて起き上がると
「ありがとう、これくらいにしておくよ」と返事した。
先日のエリュ・コーエン事件以来、1日1時間は体術の訓練に当てるようにしている。
リサに助けられてからは2時間を心がけている。
そんな時だった。リサを誘拐したと言う脅迫状が届いたのは。
脅迫状の内容は簡単に言うとこうだ。
「この間は世話になったな。女は誘拐した。助けて欲しければ一人だけで第3埠頭の13番倉庫に17時までに来い」云々
脅迫状を持ってきたのは驚いたことにカズちゃんだ。
何やら、購買でファッション誌を立ち読みしていたら目つきの悪い高校生風の男に手紙を僕に渡すように頼まれたそうだ。
内容を知らないのだろう。ニコニコと僕の顔をうかがう。
僕が顔面蒼白になっていたんだろう。カズちゃんは怖くなったのか「じゃ、私はこれで」と言って去って行った。
今日は教授は3年生の授業なので1日自習だ。
スマホの時計を見ると今11時。もうすぐお昼だ。
カズちゃんもお昼を買いに購買に行っていたのかもしれない。
あと6時間。どうしよう。
付け焼き刃でもいいから体術を練習しておこうか。
脅迫状には女としか書いてなかったがさらわれたのはリサだろう。
しかし、あのリサがそんな簡単に捕まるだろうか。
僕なんかにあの不良達と渡り合うことが出来るだろうか?
不安がよぎった。
ジムにでも事情を話してついてきてもらった方が良いかも。
でも、脅迫状には僕一人で来い、とある。
どうしよう。
行かなきゃリサがどんな目に遭うか分からないし。
僕は迷った。
が、決心する。
リサは以前僕を助けてくれた。
女の子一人助けられなくてどうする。
そう決心したとき、ちょうどジムとスージーが通りかかった。
ジムに事情を説明しないまま練習相手になって欲しいと申し込んだ。
ジムは僕の必死の形相を見て思うところが有ったのだろう。快諾してくれた。
ただし、お昼ご飯を食べてから、と条件を付けられた。
僕は食欲なんて全然無くて、一人柔道場で受け身の練習をした。
「受け身なんて練習してもしかたないか」と思いながら他にやることも思いつかず、ひたすら受け身だけを繰り返す。
アキは柔道場で受け身の練習を繰り返しながら、ふと過去の記憶が蘇ってきた。
あの日、リサが自分を助けてくれた時のことだ。
あの時、彼女が見せた強さと優しさが、今でもアキの心に強く刻まれていた。
「リサが僕を助けてくれた・・・・」
その思いが、彼の決意をさらに固めていった。
「今度は僕が彼女を助ける番だ。 彼女に恩返しをしなければならない」
アキは自分にそう言い聞かせ、拳を握りしめた。
するとジムがやってきた。食事を終えてすぐに来てくれたんだろう。
彼も真剣なまなざしで「攻撃を練習したい?受け身を練習したい?」と聞いてくるので、少し悩んだが「攻撃中心で」と答える。
「来い」とジムが誘ってくる。
「うぉーりゃー」と僕は叫び拳を振り上げて突進する。
なんなくいなされて、僕の拳は空気を切る。
こんな僕で勝てるのか?
「モーションが大きすぎる。大ぶりしても当たらないよ」とジムに足払いをされる。さっきまでの受け身の練習が功を奏したのか、きちんと受け身が出来た。
「もう一丁!」
無駄なあがきじゃないのか?
僕は再び叫び、今度は回し蹴りを試してみる。
今度も軽くいなされて畳の上にたたきつけられる。
「蹴りを入れる前に攻撃目標を注視しない。相手に目標を悟られるよ」
「まだまだぁ!」
もうジムに任せて逃げてしまおうか。
手刀をかわされ、蹴りをいなされ、そのたびに畳にたたきつけられる。
1時間に10分休憩を入れながら16時まで4時間半練習した。
付け焼き刃なのは分かってる。それでも僕は何かしてなくてはいられなかった。
やっぱりリサは僕が助けるんだ。
ジムに丁寧にお礼を言って、急いで服を着替える。
その僕の尋常ならざる様子を見てジムが「何があったか知らないけど、僕もついて行こうか?」というジムの提案を丁寧に断って僕は第3埠頭に急いだ。
「ジム、ありがとう。 でも、これは僕一人で行かないといけないんだ・・・・」
アキはジムの提案に感謝しながらも、彼が協力を申し出た理由を理解していた。
「ジム、ありがとう。でも、これは僕一人で行かないといけないんだ・・・・」
アキはジムの提案に感謝しながらも、自分が背負っている責任の重さを感じていた。
「リサを助けるのは僕の役目なんだ。 彼女は僕を助けてくれた。 だから、今度は僕が彼女を助ける番だ」
アキはそう言いながらも、心の中では一人で行くことに対する不安と恐怖が渦巻いていた。
それでも彼はその思いを振り払うように、ジムに感謝の言葉を述べて埠頭へと向かった。
ジムはアキの背中を見送りながら、彼の決意を理解しつつも、心配が拭いきれない様子だった。
アキは第3埠頭に向かう途中で、再び不安に襲われた。
「本当にこれでいいのか?リサを助けられるのか?」
心の中で迷いが生じたが、彼はその思いを振り払うように頭を振った。
「リサは僕を助けてくれた。それに、あの時彼女が見せた強さに僕は何度も救われた。 今度は僕が彼女を救う番だ」
その握りしめた拳が、彼の決意の表れであり、再び彼に力を与えていた。 ジムと体術の練習をしたせいで体中が悲鳴を上げている。
ちょっとやりすぎたか。
埠頭に近づくにつれ、冷たい風がアキの頬を切り裂くように吹きつけてきた。
薄暗い空の下、彼の足音だけが静まり返った埠頭に響いていた。
「こんなに静かだと、何が起こるかわからない・・・・」
彼は一瞬立ち止まりそうになったが、「リサのためだ」と自分に言い聞かせ、再び歩みを進めた。
その静けさが彼の不安を増幅させたが、それでもアキは前に進むことをやめなかった。
アキは第3埠頭に到着すると、一瞬息を呑んだ。
薄暗い倉庫が不気味にそびえ立ち、冷たい風が彼の頬を切り裂くように吹きつけた。
「ここでリサが捕まっているのか・・・・」
彼は思わず拳を握りしめたが、その手が震えていることに気づいた。
「どうする?本当に一人でやれるのか・・・・?」
その思いが頭をよぎったが、彼はそれを振り払うように頭を振った。
「いや、やるしかないんだ・・・・リサを助けるために・・・・」
アキは自分にそう言い聞かせ、倉庫の中へと足を踏み入れた。