Episode015 教授の過去 III
図書室は本校舎のに併設されていて、建物には他に職員室、宿直室なんかがある。
かなり広い図書室に圧倒されながら、思えばここに来るのは初めてだなぁと考える。
本を探す、と言うか、中央にあるメインコンソールにキーワードを打ち込むと目的の本が何処にあるか足下に浮かんだ矢印通りに行けば分かるようになっている。
と、言っても半分はデジタルコンテンツになってるからその場合はノートパソコンが並んだデジタル・ブースで閲覧することになる。
半分といいながらそれでも膨大な量の本に再度圧倒される。
アキはコンソールに「魔法等級 S級」と打ち込む。
すると一瞬間を置いてコンソール画面に「デジタルコンテンツ」と表示された。同時に 図書室は静寂に包まれており、学生たちの足音が響くたびに、その広さがさらに際立って感じられた。
中央に設置されたメインコンソールは、未来的なデザインでありながら、どこか冷たい印象を与えた。
アキはその前に立ち、生徒証をかざしてコンソールを操作した。
「生体認証中です…」無機質な声が響き、コンソールの画面に文字が次々と表示された。「魔法・超能力等級Sについて…」
その表示が出た瞬間、学生たちの間に静かな緊張感が広がった
アキたちはデジタル・ブースへ移動して1台のノートパソコンの周りに集まる。
そのパソコンには対象のコンテンツがあることを示す緑の点滅が光っている。
ノートパソコンを開いて、生徒番号を打ち込んで、更にパスワードを打ち込む。
すると画面に「魔法・超能力等級Sについて OK?Cancel?」と表示される。
アキはみんなを代表してマウスで「OK?」をクリックする。
するとずらずらっと細かい文字で文章が表示される。
みんなが読みやすいようにフォントを最大にした。
1行目に「Confidential Documents」と書かれている。機密文書という意味だ。
みんなで食い入るように画面を眺めたがノートパソコンの画面は小さくて見にくい。
何とかならんもんか、とパソコンを眺めていると「Wide Screen」というアイコンがあった。押してみるとパソコンの後ろから24インチくらいのモニターがせり上がってきた。
大きな画面にパソコンの文章が表示されている。
マルチディスプレイの要領だな。
中々便利な仕様だ。
再びみんなで食い入るように画面を眺めて文章を読み始める。
「能力等級S級について」とタイトルが浮かぶ。
「S級とは通常の等級1等級を超える能力を発揮した人間に対して与えられる特殊階級である。
S級能力者はありとあらゆる魔法・超能力を行使することが出来、魔法と超能力を合体させたミスティック・シナジーを駆使することが出来る。
S級能力は魔法・超能力両方の理事会によって認定される必要がある。
現在S級能力者は事象改変研究所教授ロバート・クロムウェル一人である」云々。
アキたちは黙りこくってしまう。
ただ者では無いと思っていたが、これじゃ魔法・超能力両方のトップに君臨しているわけじゃないか。
「すごい話ね」リサが呟く。
「あぁ、とんでもない話だな」タケルが同意する。
「こんなすごい人に教鞭をとってもらえるなんて幸せなことですわね」とリョーコ。
「そうね。3級や4級で喜んでちゃ駄目ね」と気合いを入れるリサ。
今日は驚くことばかりだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パイプを加えたまま教授は独りごちた。
準備室でくつろいでいた教授はおもむろに椅子から降りて、壁にしつらえたファイルキャビネットから1冊のファイルを取り出した。
「Top Secret」と赤いスタンプが押されたそのファイルから書類をだして、「ふむ、これなんか良いかも知れませんね」
書類には「魔法結社エリュ・コーエンと下部組織の暗躍について」とタイトルが記してあった。
「今日は魔術結社エリュ・コーエンについて講義します」
「エリュ・コーエンは1760年にジャック・マルティネス・ド・パスカリと言う人物によって結成されたと言われているフランスを起源とする秘密結社です」
「エリュ・コーエン」と黒板に大きく書いて教授は語り始める。
「その初期に置いてフリーメーソンからの入会が多かったため、フリーメーソンの下部組織だという見方もされますがそれは間違いです。 あくまでエリュ・コーエンと言う魔術結社が独立して存在します。
創設者パスカリはカバラにも精通した魔術師で、1772年に病死するまで様々な儀式を行いました。
その後、サンマルタンという人物に引き継がれロシアの神秘主義にも影響を与えました。 有名な怪僧ラスプーチンなどを生み出しました。
その思想は魔術によって、世界を一つにすると言うものです。
そしてこの秘密結社は様々な人物によってその儀式が受け継がれ、現代でも暗躍しています。
フリーメーソンの一部ロッジなどがその暗黒面を引き継いでいると言われています。
しかし、エリュ・コーエン独自の組織が魔法師至上主義を掲げて世界中で暗躍しています。 そう、この日本でも。
先日来ニュースを賑わしている魔法師による犯罪はこのエリュ・コーエンの下部組織によって引き起こされていると目されています」
教授はエリュ・コーエンの名前を口にした瞬間、教室の空気が一変した。
学生たちは一斉に顔を上げ、教授の言葉を聞き逃さないように集中した。
「エリュ・コーエンは非常に危険な組織です。彼らを相手にすることは決して簡単なことではありません。」
教授の声が低く響き、学生たちの間に緊張が走った。
「しかし、皆さんにはこの任務を乗り越えられる力があると信じています。 だからこそ、私はこの任務を任せるのです。」
教授の言葉が教室全体に重く響いた。アキはその言葉に重みを感じ、心の中で
「本当に俺たちにできるのだろうか…」
という不安が広がった。
教授は学生たちに任務を任せる際、一瞬躊躇した。
彼らがこの任務を成功させられるかどうか、不安が心の奥底に渦巻いていたが、それを顔に出すことはしなかった。
「皆さんにはこの任務を乗り越えられる力があると信じています。」
その言葉には自分に対する信頼も含まれていたが、教授の心の中には一抹の不安が残っていた。
リサは隣に座るリョーコの手を握りしめた。
「私たち、これからどうなるんだろう…」
彼女の心に浮かんだその疑問は、口にすることができなかった。
教授の言葉が現実として彼女に迫ってきていた。
「もし、失敗したら…」
その考えが彼女の頭をよぎったが、すぐに打ち消した。
「そんなことを考えていてはダメだ…」
彼女は自分に言い聞かせたが、不安は消えなかった。
「リサ、光属性の”ヒーリング”は使えますか?」
「3級相当のヒーリングは出来るようになったと思います」
「サイコメトリーの方はどうですか?まだ難しいですか?」
リサは教授の問いかけに、一瞬言葉を詰まらせた。
光属性のミスティック・シナジー「ヒーリング」が使えるようになったことは確かに嬉しいが、彼女の心はサイコメトリーの喪失に囚われていた。
毎晩、寝る前に何度もその感覚を取り戻そうと集中するが、何も感じられない。
それが彼女の心を蝕んでいた。
「サイコメトリーの感覚が戻らないんです・・・・」
リサは声を震わせながら告白した。
「何度も練習しているんですが、全然戻ってこなくて…」
彼女は一瞬、周囲を見渡した。
仲間たちが彼女を見守っているのを感じるが、その視線がかえって彼女を追い詰めるようだった。
「もし、このまま戻らなかったら…」という不安が、彼女の胸に重くのしかかっていた。「はい、相変わらず何も見えません。いくら練習しても感覚が戻らないんです」
リサが答える。
「なにか、思い当たることはありませんか?」
「実は・・・・」
リサは例の不審な男のことを話す。
「ふむ、フロッグコートの中年男性ですか」
教授はしばらく考え込んで
「いや、きっとまた元通りになるでしょう。 練習を頑張ってください」
「はい・・・・」
と、教授の励ましにリサは力なく返事をした。
リサは夜遅くまで部屋にこもり、サイコメトリーの感覚を取り戻そうと集中した。
手に触れる物に意識を集中し、過去の感覚を思い出そうとするが、何も感じられないたびに、焦りが募っていく。
「どうして・・・・どうして戻らないの・・・・」
リサは涙をこらえながら手を握りしめた。
彼女は何度も自分に言い聞かせた。
「私はこれまでできたんだ、またできるはず・・・・諦めないで・・・・」
しかし、その言葉の裏には、自分がこのまま能力を失ってしまうのではないかという恐怖が隠されていた。
「それでは悪党退治と行きますか」
教授は何やらブツブツと呪文を唱えると、右手をパチンと鳴らした
アキたちは一瞬真っ暗闇の中に突き落とされた。