Episode012 サイコメトリー VI
ロバート教授はパイプタバコをくゆらせながら独り言をつぶやいた。
「リサが覚醒しましたね。他の人も早く覚醒させてあげないといけませんね。リサにかまけすぎましたか。」
教授は考え事をしながら、美味そうに煙を吐き出した。
「それにしても、観察者の犯人はシンだったのですか。 他にもまだいるような気がしますが、これをケーススタディにして皆さんの覚醒を促しましょうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リサが寮へ帰る途中、突然声を掛けられた。「サイコメトリーは使っちゃ駄目だと言ったでしょう。」
リサは怖い気持ちを抑えて尋ねた。「あなたは誰?あのとき私に声を掛けてきた人なの?」
男は暑いのにフロッグコートを着ていて、40代くらいの背の高いひょろっとした男だった。
「そんなことはどうでもいい。もう君はサイコメトリーを使えない。」
気がついたらリサは路上に倒れていた。
「なんだったのかしら。」
別に変わったこともないので、リサは自室へと急いだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リサの昇級から2ヶ月が過ぎた。
あれからアキとタケル、それにスージーとジムが魔法等級や超能力等級3級に昇級し、残りのみんなは魔法等級4級に昇級していた。
それぞれの得意魔法、得意超能力も増えてきている。
リサは机の上に置かれた古い本を手に取り、そっと手をかざした。
いつもなら本に触れた瞬間に、その持ち主の記憶や感情が溢れ出してくるはずだった。
しかし、今回は何も感じない。ただの冷たい紙の感触だけが手に残った。
「おかしいな…」リサは眉をひそめ、再度集中を試みたが、やはり何も起こらなかった。 少し焦りを感じたリサは、そっと本を置き、深呼吸をしてから再度手を伸ばしたが、結果は同じだった。
「最近調子が悪いな・・・・」
リサは小さくため息をつき、背後で自分を見つめる影に気づかないまま、その場を立ち去った。
真夏のギラギラした太陽の下、アキはエアコンの効いたカフェテリアの中でアイス・ラテを飲んでいた。
カフェテリアの中は涼しい空気が漂い、周囲には他の生徒たちが楽しそうに談笑している。
カウンターには色とりどりのケーキが並び、コーヒーの香りが漂っていた。
アキたちもそこにいて、ジムはサイコキネシスに専念し、スージーはパイロキネシスを初めとした火属性の能力を身につけていた。
全員共通のスキルとしてテレパシーを使えるようになっており、短い距離ながらもクラスのみんなと会話できるのが嬉しかった。便利だし。
でも、授業中に念話していたら教授に怒られたけど。
教授はアキたちのテレパシーリンクに割り込む事が出来るらしい。
リサは光属性のヒーリングや今日レウな光を放つフラッシュなどを習得していたが、サイコメトリーが使えなくなっていることに苦しんでいた。その話をする度に涙が頬を伝った。
「もう駄目だわ。私はサイコメトリーに見放されたのよ。」
リサは嘆いた。
「体調が悪いだけかもしれないよ。もう一度やってみようよ。」
アキが励ました。
「アキがそう言うなら……」
リサは机の上から腕時計を選び、触れた。
「やっぱり駄目、なんのインスピレーションも浮かばない。」
「今日はこれくらいにしておこうか。 また明日頑張ってみようよ。」
アキが言うと、リサは頷いた。
リサは机の上の腕時計をじっと見つめた。
これまでは、触れた瞬間に持ち主の記憶や感情が流れ込んできた。
しかし、今は何も感じない。
まるで、何か大切なものを失ってしまったかのように、心が空虚だった。
「どうして…?」
リサは自分に問いかけた。
サイコメトリーは彼女にとって特別な能力であり、それが彼女自身のアイデンティティの一部だった。
失ったことで、まるで自分の一部が欠けてしまったように感じていた。
過去の成功と失敗が頭をよぎる。
彼女が初めてサイコメトリーを使った瞬間の感動、そしてそれを失った今の絶望感。リサは目を閉じ、涙が頬を伝った。
「もう、私は何も感じられないのかしら…?」
あたりに空気が重く感じられ、彼女の不安感を増幅した。
リサはゆっくりと腕時計に手を伸ばし、再び挑戦することを決意した。
たとえ何も感じられなくても、彼女はあきらめるつもりはなかった。
新しい自分を見つけるための旅が始まるのだ、と彼女は心に誓った。
リサは図書館へ向かった。
リサは図書館の静けさの中で、古い魔法の書を手に取った。
これまでの彼女なら、ただ触れるだけで書の歴史や持ち主の感情が溢れ出してきたはずだ。
しかし、今はただの無機質な紙の感触しか伝わってこない。
彼女は本を閉じ、深くため息をついた。
「私は一体、何をすればいいの?」
自問自答するリサの目には、迷いが浮かんでいた。
リサは炎が揺れる蝋燭の前に座り、集中して炎を見つめていた。
火をコントロールするパイロキネシスを習得しようとする試みだったが、炎はリサの意志を反映することなく、ただ静かに燃えているだけだった。
「やっぱり、私は火の力を持っていないのかしら・・・・」
リサは肩を落とし、少し諦めかけていたが、次の瞬間、彼女は違う方向に目を向けた。
窓から差し込む太陽の光が、彼女の手に柔らかく降り注いでいた。
「光・・・・もしかして・・・・」
リサは手をかざし、光を集めることを試みた。すると、彼女の手のひらに光が集まり、優しい温かさが広がった。
「これなら…できるかもしれない」
リサは心の中で希望を感じた。
リサは校庭の一角で、一人静かに瞑想していた。
リサはサイコメトリーを失ったことに一時は絶望したが、新たな力を探すために努力を続けた。
炎を操ることはできなかったが、光を集めることに成功し、その力を使って人々を癒すことができるようになった。
「これなら…できるかもしれない。」
彼女は手のひらに集まる光を見つめ、希望を感じた。
サイコメトリーを失ったことで、新たな自分を発見したリサは、成長を続ける決意を新たにした。
彼女はヒーリングの練習を始めると、最初はうまくいかなかったが、少しずつコツを掴んでいった。
ある日、クラスメイトが足を捻挫した時、リサは手をかざし、集中して光を放った。
すると、クラスメイトの痛みが和らいでいくのを感じた。
「やった…できたんだ」
リサは小さく微笑んだ。
それからというもの、リサは光の力を使って仲間たちを助けることが増えていった。
サイコメトリーを失ったことで彼女は新しい自分を発見し、さらに強くなっていく自分に気づいたのだった。
リサは再び古い本に手を伸ばし、サイコメトリーの力が戻っていないことを確認した。
しかし、彼女の中には以前感じた絶望感はなかった。
代わりに、彼女は手のひらに光を集め、本を優しく包み込んだ。
「昔の私には戻れないけど、それでも新しい力を得たわ」
リサは微笑んだ。彼女はサイコメトリーを失ったことで、一時は自分を見失いかけたが、新たな能力を磨くことで自己肯定感を取り戻したのだ。
「私は私のままでいいんだ。サイコメトリーがなくても、私は役立てる」
リサは決意を新たにし、これからも成長を続ける自分を見据えた。