Episode011 サイコメトリー V
部屋の真ん中にあるテーブルの上に既にESPカードや、いくつかの物が置いてある。
「先にリサの練習しようよ。第4級の実力をまた見たいし」
とアキが提案すると、リサは微笑んで『相変わらず優しいのね』と答えた。
とうつむいて小声で言った。
アキは「?」となったのだがあまり気にせずに、解答を打ち込むノートパソコンを用意する。
テーブルの真ん中にライターを置き、対面に腰掛けたリサにサイコメトリーをうながす。
リサはライターに手を伸ばしたが、何も見えないことに焦りを感じた。
リサはそっと右手でライターに触れ、目をつぶって瞑想する。
「だめ、何も思い浮かばない」
じれったそうにリサは吐き捨てる。
「じゃ、僕が質問するからそれに答える形でやってみようよ」
アキが提案するとリサが「いいわ」と答える。
「まず、どんな人が使ってましたか?」
「うーん、中年の男の人。メガネを掛けてる」
「その人は何をしてる?」
「パイプタバコを吸おうとしている」
良い調子だ。
「その人の名前は?」
「うーん、と、分からないわ。 でもこれは教授だわ」
顔でわかったらしい。
「お呼びですか?」
といつの間に入ってきたのかそばに教授が立っていた。
「リサの練習を見たくて、あぁ、そのまま続けてください」
教授に促され、リサはサイコメトリーの練習を続け、次第に鮮明な映像が浮かび上がってきた。
「昨日よりも確かに見えている・・・・」
彼女はその感覚に驚きつつ、教授が見守る中で次の質問に答えていった。
アキが「次の練習に行こうか」と提案すると、リサは微笑んで頷いた。「そうね、次はもっと上手くいくはずだわ。」
リサはサイコメトリーの練習で成功したとき、自分でも驚くほどの鮮明な映像が浮かんできた。
「まるで誰かが私の力を引き出してくれたみたい・・・・」
彼女は心の中でその感覚を反芻しながら、今後の可能性に期待を寄せた。
教授はリサの成長を見守りながら、心の中で思案していた。
「リサの力がさらに強まれば、今後の作戦に大きな影響を与えるでしょう・・・・」
教授は慎重に言葉を選びながら、リサにさらなる訓練を課す決意を固めた。
一方で、彼女の成長を見守る教授の表情には、微かな不安が漂っていた。
「この力が、今後どう作用するのか…」
教授はリサの成長を喜びつつも、その影響を慎重に見極めようとしていた。
◇◇◇◇◇◇
「リサ、光属性のミスティック・シナジー”ヒーリング”は使えますか?」
「3級相当のヒーリングは出来るようになったと思います」
「サイコメトリーの方はどうですか?まだ難しいですか?」
リサは教授の問いかけに、一瞬言葉を詰まらせた。
光属性のミスティック・シナジー「ヒーリング」が使えるようになったことは確かに嬉しいが、彼女の心はサイコメトリーの喪失に囚われていた。
教授はリサの決意を聞き、優しく頷いた。
「焦らず、自分を信じることが大切です。リサならきっと乗り越えられます。」
リサはその言葉を胸に、再び訓練に励む決意を固めた。
毎晩、寝る前に何度もその感覚を取り戻そうと集中するが、何も感じられない。
それが彼女の心を蝕んでいた。
「サイコメトリーの感覚が戻らないんです・・・・」
リサは声を震わせながら告白した。
「何度も練習しているんですが、全然戻ってこなくて・・・・」
教授はリサの言葉を聞いてしばらく沈黙した。
彼の厳しい目がリサを見つめ、何かを計りかねているようだった。
その静寂がリサの不安をさらに増幅させた。
「リサ、サイコメトリーが戻らないことは確かに問題ですが、それに囚われすぎると他の力が伸び悩むことになります。 あなたはヒーリングで成果を出しているのですから、そこに自信を持つべきです」
教授の言葉は理性的だったが、リサの心には何かが引っかかる。その違和感を無視することはできなかった。
「でも、私にはサイコメトリーが必要なんです。 あれがあれば、もっと多くのことが見えるんです。 もっと役に立てるはずなのに・・・・」
教授は微かに眉をひそめた。
「リサ、あなたの焦りは理解できます。しかし、力が戻らないのには理由があるのです。 無理にそれを取り戻そうとすることが逆効果になることもあります」
リサは俯き、教授の言葉を噛みしめた。
彼の言葉には真実が含まれていることは理解できたが、それでも諦めきれない自分がいた。
サイコメトリーが戻らないことで感じる喪失感は、思っていたよりも深刻だったのだ。
「教授、私は・・・・どうすればいいんですか?」
リサの声には、彼女自身でも驚くほどの弱さが含まれていた。
彼女は自分がこれほどまでに力に依存していたことを認めるのが怖かった。
「まずは落ち着くことです、リサ。あなたの心が乱れている限り、力は戻りません。 サイコメトリーは心の状態と深く結びついています。 ですから、まず心を整えることが重要です」
教授の言葉は穏やかだが、その中には厳しさも感じられた。
リサは深呼吸をし、自分の胸に手を当てた。
心を整えること、それが彼女にとってどれだけ難しいことかを痛感しながらも、彼女はそれを受け入れるしかないと理解した。
「わかりました、教授。私、頑張ってみます」
リサは小さな声で答えた。教授は優しく頷き、リサの肩に軽く手を置いた。
「リサならできると信じています。 焦らず、今は自分を信じることが最も大切です」
リサは微笑みを返そうとしたが、それはまだ少しぎこちなかった。
だが、彼女の中で何かが変わり始めているのを感じた。
サイコメトリーが戻らないという事実を受け入れ、それでも前に進む決意が少しずつ彼女の心に芽生え始めていた。
リサは瞑想を通じて心を整えようと努力していた。
焦りや不安が彼女を襲ったが、教授の言葉を思い出し、深呼吸を繰り返した。
「焦らないで・・・・今は心を整える時・・・・」
リサはその声に導かれ、徐々に心の乱れを整えていった。
翌日、リサは教授に報告した。
「教授、サイコメトリーが戻るまで、他の力をもっと鍛えようと思います」
教授は微笑みながら頷いた。「その通りです、リサ。今のあなたは、より強くなっています。」
その言葉にリサは自信を持って頷いた。
そして、彼女は新たな目標を胸に、訓練を再開する決意を固めた。
今は、焦らずに一歩ずつ前進することが大切だと理解していた。
彼女の心は少しずつではあるが、確実に強くなっていった。
リサは自分の中で生まれた新しい感覚を大切にしながら、日々の訓練に励むことにした。
サイコメトリーが戻らなくても、自分は無力ではない。
それを証明するために、彼女は今まで以上に集中し、努力を重ねる決意を新たにした。 リサはサイコメトリーが戻らない現実を受け入れつつ、他の力を鍛えることで自分を強化する決意をした。
「今はサイコメトリーが使えなくても、私は他の方法で貢献できる・・・・」
彼女はその想いを胸に、さらなる訓練に励むことにした。