天使と悪魔のオシゴト 〜悪霊なんて聞いてないっ!〜
国語力0の猫屋が、まわりの方に助けて貰いながら一生懸命書いた初めての小説です。お手柔らかにお願いします。
ここは現代の日本。一都市の中心にある街の上、夕焼けに染まり白い天使と黒い悪魔が現れた。二人は天界の使者で人間の魂を回収して回っているのだが……。
逃げ出した魂を一生懸命捕まえようと必死になって白い翼を広げ飛び回っている彼女は、赤い髪のポニーテール。黒のレザージャケットにショートパンツ。銀の十字架のチョーカを付けた白い羽を持つ人間の魂の罪を審判する天使だ。ちなみにここは病院の上である。
そんな様子を遠巻きに眺めながら、困ったような表情をしてため息をつく白いチャイナドレスに黒い布を纏った輝く金髪を靡かせた碧眼の美女。見た目は天使のようではあるが、しかし背中には黒い悪魔の翼を生やしている。
「あらあら〜、カリンちゃんたら困った子ねぇ」
「っていうか、アリス! そんなとこに突っ立ってないでお前も手伝えよー!」
「大丈夫よ、カリンちゃんは出来る子だから」
どうやら彼女は見物人に徹することにしたらしい。ちゃっかり自分のネイルをチェックしている。
「アリスのバカー!」と叫びつつ、ようやくカリンが逃げていた魂に不意打ちで飛び掛かり捕まえた。
「やっと捕まえたぞ、コノヤロウ!」
右手で魂を掴むと同時に左手をチョーカーに伸ばした。
『ジャッジメント!』
と唱えた。
その途端十字架は聖なる光を放ち魂を包み込んでいく。
それはふよふよと宙に浮かびあがり、やがて魂と一体化して真珠の珠のようになり光り輝いてる。
口調の荒い天使は優しくその珠をそっと手に取り、天使の微笑みを浮かべた。そして、天界行き魂用の器に入れた。
「よっし、任務完了っ。手こずらせやがって!」
カリンは屋上に降り、嬉しそうにニヒヒと笑いながら、容器の中身を見つめた。
「さすがカリンちゃん。お見事だったわ。やっぱり私の出番はなかったわね〜」
コツコツとワンストラップのハイヒールを鳴らしながらアリスはカリンに近づき、全く残念そうではなさそうな微笑みを浮かべる。
「いいじゃん、楽出来て。って、さっき手伝ってくれなかったじゃん」
「一生懸命頑張ってるカリンちゃんが可愛くてついね。でも、私の出番が来たら頑張るわね〜」
「まったく。そんときゃ頼むよ。ノルマあるんだから」
そういうとカリンはその魂の入った容器を天高く掲げると、シュンと音を立てて消えた。
その魂はこれから天界で浄化され、転生されるだろう。それが二人の仕事だ。
二人はお互いの羽を消すために屋上の建物の隅に隠れ、自分たちの影が落ち実体化したのを確認した。
アリスは閻魔帳を開くとうふふっと笑う。この二人は天界からの指示で動いていて、閻魔帳とは天界からの指示を届けるためのノートだ。ちなみにノルマもここに記載される。
「今日のノルマは達成ねぇ〜」
「そんじゃ、帰るか〜」
カリンは今日の疲れを解すようにぐっと伸びをする。
「今日のご飯どうしましょうか」
「唐揚げ食べたい!」
カリンは無邪気な笑みを浮かべて答える。その様子を見たアリスは口元に手を当て、お淑やかに笑う。
「じゃあ、材料買って帰りましょうか」
「よっしゃ! じゃあ、安全運転で帰るか〜」
二人は何事も無かったように病院の屋上から駐車場へと移動する。すれ違う人々と軽く会釈をしながら。この病院にいる誰もが、先程の二人の活躍を知らない。知られることもない。それは、二人がコツコツと魂を回収して平和を守っている証拠なのだ。
駐車場に停めてあった愛車のバイクにカリンは走り寄り跨るとエンジン音をふかしアリスにヘルメットを渡すと自分もヘルメットを被りアリスを後ろに乗せた。
(今日は頑張ったからバイク乗るのも気分がいいや)
カリンは心做しかいつもより早くバイクを走らせた。
この天使と悪魔は、実体化している間は現世で一般人と変わらない生活を強いられている。そのため二人は都市の中心部に近い三階建てアパートの一室で暮らしている。アリスお手製の出来立て唐揚げや付け合わせのサラダに白ご飯、旬の野菜のお味噌汁を二人で頬ばりつつ、このアパートで暮らしていることに「三ヶ月経ってやっと馴染んできたな」と、夕飯をつつき笑いながら話をしていた。
「カリンちゃんよく食べるわねぇ」
「だって、美味いもん! アリスこそ食べなさすぎ」
そんな楽しい団らんの中に鈴が鳴った。天界からの知らせが閻魔帳に届いたのだ。二人は顔を見合わせ、すぐに箸を止め真剣な顔になった。
閻魔帳に記載された内容は、女の子に取り憑いた悪霊を対処するというものだった──
◆◆◆◆
「ん〜、閻魔帳に載ってた場所はだいたいこの辺なんだけどな」
閑静な住宅街の上をバサリと翼を羽ばたかせて空から被害者のいるであろう場所の辺りを捜索して回っている。
「この辺は何だか空気が良くないわねぇ」
「やっぱり?」
「確実に被害者は近くにいるわ」
「今回の被害者ってどんな子だっけ?」
閻魔帳を見ると、そこには今回の要請が載っていて今回の事件の経緯と被害者の居場所と名前があり『吉田加奈子』と書かれている。被害者が霊媒体質であったがために、遊びに行った先で悪霊に取り憑かれてしまったらしい。
「加奈子ちゃんか。可哀想な子だなぁ」
「遊びに行った先で巻き込まれちゃうなんてねぇ」
アリスは閻魔帳を見てため息をつき、哀れむように瞳を伏せた。
「加奈子ちゃんは特別に取り憑かれやすい体質だったんでしょうね」
突然、アリスは何かに気付き、視線の先に公園を見つけた。そこを見てアリスは「マズイわね……」と小さく呟く。
「カリンちゃん、行くわよ」
アリスが公園の方へ飛び去るのを見て慌ててカリンは追いかける。
「アリス! 私も行くから待てよ!」
アリスが向かった先は普通のすべり台や鉄棒などの遊具があり小さい林のある公園だったが、禍々しい瘴気で溢れていて、その中心の塊にたどり着く。
「どうやらお目当ての子はあの子みたいねぇ」
淀んだ空気の中、緊迫した状況には似合わない口調で、あらあら、とアリスが笑った。
「ここ笑うとこじゃないと思うぞ、私は」
隣でニコニコしているアリスを見て、ため息をつくカリンだったが、公園のブランコに一人ポツンと座っている中学生らしき少女を見て「見つけた」と呟きアリスに笑って見せた。
二人はふわりと公園の中に降りた。そして彼女『吉田加奈子』が座っているブランコに近づいた。
少女に近づくにつれ、淀んだ空気が禍々しく重苦しい。
少女が座っているブランコは瘴気で錆びていき、赤くなった鎖はギィギィと音を立てた。
それを見たカリンは、眉に皺を寄せ、アリスは黒い笑みを浮かべる。
「こりゃ、大分ヤバいヤツかも」
「そうね、しかもかなり侵食されているし」
カリンはブランコの柵の中に入り、虚ろな顔をした少女の様子を見ようと近づいた。だが、少女は見えないはずのカリンをギッと睨みつける。と、次の瞬間ブランコを踏み台にしてカリン目掛けて飛び掛かかった。
カリンは驚きザッと音を立てて後ろに飛んだ。
「マジかよ!」
「完全に体を乗っ取られてるみたいね」
「コレ絶対ヤバいヤツじゃん!」
「そうねぇ、特別手当て頂かないと割りに合わないわねぇ」
どう見ても正気ではない少女の様子に身構えつつカリンたちは文句を言う。
「そんでどうする? いつもみたいにはいかねぇし」
「そうねぇ、ここまで侵食されていると魂の方が心配だわ」
「……ゔゔぅぅ……よ、こせ…魂、寄越せ!!」
獰猛な獣のようにヨダレをポタポタ垂らし、唸りながら声を絞りだした。
少女は再び襲いかかって来たが、カリンたちは左右に分かれた。
「チッ、この状態じゃあ、『ジャッジメント』も使えねぇから何とかしねぇとな」
「そうねぇ、一度魂の状態にしないと悪霊にあのまま暴れさせたら彼女の器の方も傷が付いてしまうわ」
「それじゃ、暗くなる前にカタを付けるか」
二人が会話をしている間にも少女からの攻撃は続く。
カリンはその攻撃を避けると、翼を広げ空に飛び上がり、首のチョーカーに付いている十字架を外した。その瞬間、それは淡い光を放つ白いハープのような形状をした美しい弓へと変わる。 純白の弓。その鳥打(持ち手の上の部分)には十字架が施され中心に青い宝石が夕日を浴びてきらりと輝いた。豪奢な弓をつがえると瞬間に矢が四本現れた。
それを見た少女はさら攻撃の動きを速めた。
「アリス! 少しだけ足止めを頼む!」
「わかったわ!」
そう言うとアリスは襲いかかってくる少女に肩に掛けていた黒いショールを足元に絡ませた。いきなりの不意打ちに少女の体勢が崩れる。
その隙を見逃さなかったカリンは四本の矢を勢いよく放つ。その矢は少女に向かって飛んでゆき彼女の足元に周りにぐさりと突き刺さった。
『バリアー!』
カリンがそう叫ぶと少女の周りに刺さった矢から光が溢れ、薄い壁が展開された。
「コレで身動きが取れなくなったわね」
アリスはチャイナドレスの白い太腿を惜しげも無く露わにした。そしてスリットから取り出された短銃は黒くデリンジャーのように小さいながらも精緻な模様が施され、持ち手には逆十字が描かれていて中心には赤い宝石が埋め込まれている。この短銃は健康な肉体からも強制的に魂を抜き取ることが出来る。
「アリス! 今だ!」
「ええ!」
アリスは悪霊が混じってしまった少女の魂を抜き取るために短銃を構え標準を合わし少女に撃ち込んだ!
「ゔゔゔぅぅあ"あ"つ!!」
しかし、少女が激しく暴れたために、渾身の一発が外れてしまった。
「んな!?」
カリンもそれなりの魔力を持ってバリアーを展開させた。なので、まさか避けらけるとは思ってなかったのだ。
「……カリンちゃん」
「わかった。もう一段階バリアーを張る」
アリスは一瞬真顔になったが、すぐにいつも通りになった。
『バリアー!』
二段階目のバリアーを張られた少女は完全に動きを止めた。
再びアリスは動けなくなった少女の胸に魔力の塊を撃ち込む。すると胸の辺りからスルリと魂が抜け出したと同時に少女は倒れ込み、魂だけが宙を浮いている。普通の魂と違うのは少女の魂が悪霊に絡め取れているところだ。
『あ"あ"あ"ぁ"ぁぁぁ……』
カリンはその状態を見て眉を潜め、アリスは瞳に暗い光を落とした。
「酷い状態だな……」
「ええ、早く解放してあげましょう」
カリンとアリスは頷き合うと、少女を救うべく早速行動を移した。
「カリンちゃん、先ずは『ジャッジメント』を!!」
「りょーかいっ! くらえっ!! 『ジャッジメント!』」
カリンは素早く魂に近づき、白く輝く十字架を直接、悪霊に叩き込んだ!
『ギャアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』
けたたましい叫び声をあげて悪霊は少女の魂からズルリと離れた
「悪霊は私に任せて、カリンちゃんは加奈子さんを!!」
「わかった! アリスも気を付けろよ!」
二手に分かれて走り出し出した。
カリンは少女の身体に怪我がないか丁寧に確認していく。
「よし、器に怪我はなし! 魂の方も異常なし!」
魂と体に傷ががないのを確認して考える。
(コレはどうする?! もっと真面目に蘇生の研修会出ときゃ良かった)
珍しくカリンが、動揺して冷や汗をかいている。その汗が青白くなっていく少女の顔にポタリと落ちた。その状況を見てカリンは両手でバシンと頬を叩き覚悟を決めた。
(やるっきゃねぇっ!)
翼をバサリと広げ、まるで母鳥が雛鳥を守るかのように白く柔らかい羽で少女の体を包み込み、横たわっている少女の胸の上にフワリと白く光る魂の珠を浮き上がらせる。そして両手でそっと十字架をを握りながら天使の聖なる力を込め始めた。
その聖なる力は少女の魂を包み込み、魂と身体を繋ぐ霊子線を再生していく。
完全に霊子線が再生したのを確認してカリンは呪文を唱えた。
『リバース!!』
そう唱えると少女の魂がパァっと輝き出し、彼女の身体の中にスゥッと一つになった。すると青ざめていた少女の顔に赤みが差していく。その光景は、とても幻想的で神の御使いである天使の力そのものであった。
規則正しい呼吸音が聞こえてきて、それを確認したカリンは気が抜ける。
「…は〜、成功して良かった〜」
額の汗を拭いながら、思い出したようにアリスがいるであろう場所をみた。
「……アリスのヤツ、やり過ぎてねぇよな……?」
その頃、悪霊はアリスに対して伸び縮みする鋭い爪で幾重にも攻撃を仕掛けていたが、それを楽しそうに微笑みながらスルリスルリと黒いショールを巧みに操り攻撃を躱していた。
「あらあら、そんな攻撃じゃあ当たらないわよ〜?」
「ア"ア"ア"ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ツ"」
アリスの挑発に対して更に悪霊の腕が触手状になり、鋭い爪の攻撃がより勢いをましていく。
しかし、アリスは何ともなしに避けていく。時には黒いショールをくるりくるりと翻し、優雅にダンスを踊っているようにも見える。
「さて、そろそろ頃合かしらねぇ。貴方も攻撃ばかりで疲れたでしょう?」
そう言ってフワリと飛んで距離を取り、美しい顔でニコリと笑った。
「私の纏っている黒い布はね、少し特殊な布なの。だから、こんなことも出来るのよ? 『いでよ、デスサイス』」
アリスはうふふっと笑い、黒い布をばさりと翻し、唱える。すると、左手には黒いショール、いつの間にか右手には160cmありそうな綺麗な漆黒の大鎌が現れた。
「ね、手品みたいで不思議でしょう?」
さて、とアリスは黒いショールを纏ったまま、重たそうなデスサイスを軽々と構えた。
「うふふ〜、さっきの勢いはどうしたのかしら〜?」
「……ぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
普段は柔和なアリスの瞳が獰猛に光り、その気配に気付いた悪霊はジリジリと後ろへと後退るもコツコツとワンストラップのハイヒールが容赦なく距離を詰めていく。
「今度は私が攻撃する番かしら〜?」
アリスは大鎌を振り回し、悪霊を林の方へ追い立てていく。振り回している大鎌からはブォンブォンと風きり音が鳴りその瞬間、アリスの大鎌の風圧で周りに木々の枝が揺れる。大鎌の鋭い切っ先が少しずつ悪霊を切り裂きダメージを与え、アリスの姿はまるで肉食動物が小動物を嬲って遊んでいるようにも見える。
「うふふっ、ちゃんと避けないともっと傷が付いてしまうわよ〜」
アリスは笑いながら楽しそうに大鎌を自由に操り振り回していた。その反対に悪霊の方は少しずつダメージを食らう度、瘴気が漏れ出し力を失っている。最初の勢いはなく弱体化している。
「アリス!」
後ろの方でカリンの声が響く。攻撃の手を一時止め、チラリと後ろを確認するとカリンがこちらに駆け寄ってくるのが見える。
「カリンちゃんの方は終わったみたいねぇ」
アリスの注意が逸れたため、悪霊はその隙に木々の茂る方へ逃げを図る。
「あら〜、逃げちゃダメじゃない? 『デスサイス、捕まえて』」
デスサイスからカチリと音が鳴り、カシャンカシャンと持ち手の下の部分から鎖が現れ、その形状を変えた。そしてその鎖はジャララと音を鳴らし悪霊を絡め取った。
「はい、捕まえた。さっきみたいに暴れても無駄よ?」
うふふっ、と笑い悪霊を茂みの中からズルズルと引き寄せる。
「ァァァァァ"ァ"ァ"ァ"ァ"……!」
悪霊は暫くは足掻いていたが、もう抵抗する力がないのか大人しくなった。
「アリス! こっちは無事に終わったぜ……って、そっちは大丈夫そうだな」
カリンはアリスに駆け寄り現状を把握して、ボロボロになった悪霊を見て若干引いた。
「ええ、もう終わるわ」
ニコリとカリンに微笑みながら、片手で鎖鎌状のデスサイスを持ち、自分の肩に纏わせていた黒い布をバサリと宙に広げ叫んだ。
『ブラックホール!!』
アリスが唱えると黒い布はシュルシュルと丸まっていく。ピシピシっ音を立て人が一人入れるくらいの大きさの真っ黒く暗い空間が現れた。
「さて、さっきは避けられちゃったから、これなら大丈夫よね」
(あ、やっぱりさっき狙い外したのキレてたんだな……)
カリンはそう思いつつ、ポーチから銃弾を取り出し聖なる力を込める。するとそれは銀色の光り輝く悪霊払い用の銃弾になった。
「ほら、銃弾」
「ありがとう、カリンちゃん」
カリンが銀色の銃弾を渡しアリスはそれを受け取り器用に銃に装填すると、悪霊に絡ませた鎖を引き寄せ、足で踏み付ける。そして引き倒されている悪霊の額に短銃を擦り付けた。
「うふふっ、一緒に遊んでくれてありがとう。名残り惜しいけど時間がきてしまったわ」
「悪霊、お前はやり過ぎた。これから刑罰を受けてもらう」
「それでは刑を執行しましょう」
美しい顔に天使のような悪魔の微笑みを浮かべながらアリスは続けた。
「……さようなら。逝ってらっしゃい」
聖なる弾丸を込めた銃を悪霊の額に叩き込んだ。その瞬間、銃弾から放たれた聖なる力が悪霊の身体に絡み付き激痛を与え悲鳴の様な断末魔が響く。そして鎖鎌状になっていたデスサイスを元に戻すと、動かない悪霊を片手で掴み上げ、ブラックホールへと堕とした。
「随分、エグい堕とし方したなぁ」
この後、地獄に堕ちた者は更なる苦痛が待っている。
ブラックホールの前に立っているアリスにカリンは呆れた顔で言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。
「そんなことないわよ〜。こっちも弾丸一発外してるし、ちょっと頭に来ちゃった」
「……あ〜、ソウデスネ。って、そろそろマズイからブラックホール閉じようぜ」
「そうね、カリンちゃんお願い出来る?」
「了解」
アリスは数歩後ろに下がり、カリンは一歩前に出た。そしてチョーカーの十字架を手に取り、聖なる力を込め始める。
「聖なる帷よ、邪悪なる入口を塞げ! 『ホーリーカーテン!』」
カリンが唱えると白いカーテン状の光りがブラックホールを覆い隠す。すると暗黒の空間がピシピシっと音を鳴らし縮小していき、丸まった状態の黒い布だけが残った。
アリスは丸まった黒い布を手に取り、バサリと広げ『デスサイス、戻りなさい』と言うと出て来た時と同じ、黒い布の影に隠れて手から消えた。そしていつもの様に黒い布を肩に纏った。
「いつもは自分で出来るのに、今日はカリンちゃんに頼っちゃったわねぇ」
アリスは困ったふうに笑う。
「そんな顔すんなって。元々は天使の役目だからさ、気にすんなよ」
さて、とカリンは後ろを振り向いた。
「最後の仕事を終わらせて、さっさと帰ろうぜ」
◆◆◆◆.
「ーー……じょうさん、お嬢さん!」
「……っ!? はい!?」
誰かに呼ばれて目が覚めた。
「あぁ、良かった。気が付いたのね」
金髪と赤髪のものすごい美人なお姉さんが二人立っていて『私』を心配そうに見ている。
「アンタ、呼んでも反応ないから心配したよ」
話しによると、どうやら『私』はこの公園で寝こけていた様だ。
そういえば最近、疲れやすくて体が怠かったせいもあるのだろう。とはいえ、こんな時間に公園のベンチで寝てしまうとは、なかなか恥ずかしい。
「す、すみません。起こしてくれてありがとうございます!」
『私』は、バッと立ち上がると二人にお礼を言った。
「いいのよぅ、女の子がこんな所で寝ていたら危ないですもの〜」
「ほら、暗くなってきたし、そろそろ家に帰った方がいいんじゃないのか?」
赤髪のお姉さんが『私』の頭をぽんと撫で、公園の時計を指差した。見ると大分遅い時間になっていた。
「大変! もうこんな時間だ。あのっ、本当にありがとうございました!」
起こしてくれた二人の美女に再びぺこりと頭を下げ『私』、吉田加奈子はバタバタと走り帰路に着くのだった。
◆◆◆◆
バタバタと走り去っていった少女を見送った後、カリンとアリスは顔を見合わせ、にっこり笑うと頭の上でパチンとハイタッチした。
「お疲れ〜! これで特殊任務完了!」
「お疲れ様、特別手当て出るかしら〜?」
仕事が終わったテンションできゃあきゃあ言いながら騒いでいるが、二人とも翼を出しているので人間には見られていない。
「カリンちゃん、あの子に『天使の加護』を与えたのねぇ〜」
「ん?、まぁな。あれだけ酷い霊媒体質なら、今後も巻き込まれる可能性があるからな。生きてく上で支障が出ない程度だけど」
被害のケアも仕事の内だしな。と、笑いながら云うカリンに「本当に優しい子ねぇ〜」とアリスは嬉しそうに微笑んだ。
「さて、腹減ったしそろそろ帰ろうぜ」
「そうね、帰りましょうか」
カリンはニシシと笑い、それを見たアリスはうふふっと微笑む。
二人は白と黒の翼を広げると、バサリと夕暮れ空に舞い上がり自分たちの住む家に帰って行った。
━━━後日談━━━
「最近は、平和でいいなぁ。変なの出ないし」
「そうねぇ、有難いことに比較的、楽なお仕事ばかりねぇ」
いつもの様にアリスお手製の夕飯を食べながら二人で会話を楽しんでいた。
「カリンちゃんがあの後すぐに会社に激烈抗議したからかしら?」
「そーいうお前だって悪魔の微笑みで特別手当て貰える様に仕向けてたじゃんか」
カリンは、お、これ美味いと肉じゃがをつまみながらいう。
「まぁ、暫くは普通の仕事でいい」
そんな話しをしていると閻魔帳の鈴が、ちりんちりんと鳴り始めた。
「あら、要請だわ」
カリンは青くなって「マジか」と呟く。
「あら〜」
アリスが閻魔帳を確認に行くと要請には『特殊要請・悪霊払い』の文字が書いてある。
「だから、悪霊払いに頼めって言ってんじゃねーかーっ!!」
二人の住むアパートにはカリンの叫び声が木霊するのであった。
─終わり─
ここまで読んでいただきありがとう御座いました。