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破壊魔は謳う  作者: kou
破壊魔【久木結衣編】
6/18

4 破壊魔の卵

 破壊魔に呼ばれた私達は、彼の待つ公園へとやって来た。駐車場に止めた車から降りると、りゅうさんが鍵を閉めるのを待ちながら、草が茂る広間を遠目に眺めた。


「大丈夫か?」


 不意にりゅうさんから問われる。


「うん。もう大丈夫⋯⋯行こう。破壊魔の所に⋯⋯」


 いつまでも泣いている訳にはいかない。とっくに覚悟はした。自分で選んだ茨の道を、今更踏み外す訳にはいかないのだ。


 広間に着く。そこには一人の少年の姿があった。まだ小学生くらいの小さな男の子だった。


「初めまして」


 純粋な笑顔と共に、向けられた言葉。その瞬間、身体中がひりついた。それは、りゅうさんも同じようだった。鋭い目つきで、目の前の少年を睨んでいる。

 この子が破壊魔なのだと、直ぐに分かった。

 向けられた笑顔からでも、高い声のあいさつからでもない。彼からは、ただならない程の不気味さを感じた。


「君は⋯⋯一体、何者なの?」


「僕は、卵だよ。世を憎んで、破壊する。そんな人の感情から生まれた卵⋯⋯」


 純粋だ。あまりにも、純粋な、子供のような話し方。笑顔⋯⋯でも、話す内容は異質を極めていた。


「どうして俺たちを呼んだ!? お前は一体なんなんだ! 何を考えている!?」


 りゅうさんの額に血管が浮かび上がる。憤怒の如く荒ぶる怒声が場の緊張感を膨れ上がらせる。


「そんなに一気に質問されても困るよ。一つずつ答えるからさ⋯⋯まあ、焦らないで」


 困ったような顔をしているが、口角は不気味に上がり続けている。


「まず⋯⋯なんだっけ⋯⋯えっと〜⋯⋯あ! どうして俺たちを呼んだか⋯⋯だっけ?」


 ごくりと。私が固唾を飲み込んだ瞬間だった。破壊魔の目の色が変わったのは。


「君、勘違いしてるよ」


「なんだと?」


「僕が会いたかったのは、その子⋯⋯君じゃない」


 破壊魔は、私の方へ人差し指を向けながらそう言った。私も、りゅうさんも怪訝な表情で彼を見つめる。


「君に用はない。邪魔だから⋯⋯」


 その瞬間、私の中にゾッと嫌な予感が巡って、気づけば体が動き、叫んでいた。


「りゅうさん!」


「死んで」


 破壊魔の一声が聞こえたすぐ、一発の銃声が鳴り響いた。私が手を伸ばす方向には、心臓部分に穴の空いたりゅうさんの姿が映った。


「いやーーーー!」


 何が起きたのか分からない。そんな表情で胸に手を当てるりゅうさん。私の叫び声を聞き、我に帰ったように手に付いた血を眺めると⋯⋯


「ぐふっ⋯⋯」


 鈍い声を漏らして、倒れ込んだ。


「あははははっ! あはははっはははっはは!!」


 声高らかに笑う破壊魔。そこにさっきまでの純粋な笑顔はなかった。


「邪魔者が消えて、僕と君の二人っきり⋯⋯ね。こころ」


「どうして、どうしてこんな事をするの!? あなたの望みは何なの!?」


 なぜ私の名前を知っているのか。とても不思議だったが、その時の私にはそれを聞く余裕はなかった。


「同じ質問ばかりだね⋯⋯つまらない。でも、いいよ。こころには教えてあげる」


「え?⋯⋯」


「さっきも言ったけど、僕はただの卵。僕に感情はないし、目的もない。あるものは、僕が破壊をするために生まれたって言う事実だけ⋯⋯」


「どう言う意味⋯⋯」


「はあ〜〜。分からないかな。君たちが生きるためにする事。食事、睡眠、娯楽、繁殖。それが僕にとっては全てが破壊。ただそれだけの事さ⋯⋯」


 合っているようで、まるで違う。彼の言っていることは、明らかに常軌を逸していた。


「そんなの、おかしい⋯⋯こんなのは、おかしいよ!」


「おかしい? 君なら分かってくれると思ったけどな⋯⋯そうじゃないのか。この世界の君は、つまらない考えをするんだね」


 何を、言って⋯⋯


「結衣は、分かってくれたよ」


 今、結衣って言った? 私の気のせい? いや、確かに今、この子は結衣って言った。聞き間違えじゃない。

 私の早る心の臓が、聞き間違えではないと、そう言っている。


「やっぱり⋯⋯あなたが、結衣の心を操ってるんでしょ?」


「違う!」


 突然響いた甲高い声に、身体が動かなくなる。強張る全身が、私に恐怖を訴えかけているようだった。


「お前は何も分かってない! 結衣は僕を分かってくれた! だからいっぱい殺した! 壊した! 破壊した! 全部僕の為だ! 結衣はそう言ってくれた! そんなつまらないこと言うお前なんか嫌いだ! お前も死ね———」


 嵐のような怒声と、危機迫った表情に、強張った体が無意識に震え出す。

 まるで吹っ切れたように、破壊魔が私に銃口を向けた瞬間だった。


「っく!」


 彼の銃を持つ手が吹き飛んだ。骨の底から破裂するように、吹き飛んだ。


「何が、起きたの⋯⋯?」


 呆然としてしまう。映画のような光景を目にした私の瞳に今映っているのは、狂気じみた表情ではなく、落ち着いた、諦めたような表情をした破壊魔の姿だった。


「やっぱりダメか⋯⋯」


 怖かった。逃げたいとすら思ってしまう。目の前にいるのが、少年の皮を被った化け物なのだと、その時初めて自覚した。


 首を傾げて、見下ろすようにこちらを睨み付ける。頭が状況を理解したがらない。殺意にまみれた視線に、身体の震えは増す一方だった。


「もういいや。結衣には君を殺すなって言われてるし、君は思ってたよりずっとつまらない。自分の幸運に感謝して、結衣の破壊を眺めてればいいさ⋯⋯」


「ちょっと待って!」


 トボトボと立ち去ろうとする破壊魔を、私は呼び止めた。


「何。まだ何かあるの?」


「私を殺せないってどう言う事? 結衣にそう言われたの?」


 私の質問に、呆れた様子で深くため息を吐く破壊魔。


「口をひらけば疑問ばかり。うざったいな〜。契約だよ! 契約! 僕の力を渡す代わりに、結衣が定めた制約! 制約がある限り、僕は君を殺せない⋯⋯もういいでしょ!?」


「待って!」


「まだ何かあるの?」


「結衣は今どこにいるの!?」


「そんなの教える訳ないだろ!?」


 私の問いに答える気はないらしい。でも、諦める訳にはいかない。ここを逃せば、もう結衣には会えないかもしれない。何としても、絶対に、それだけは聞き出す必要があった。


「どうして!?」


「結衣が死んじゃうと僕も死んじゃうからだよ!」


 これだ!


「へえ〜」


 ぎくっ


 今私は確信した。今のは彼自身の地雷だと。


「確かあなたに私は殺せないんだよね?」


「だ、だから何なのさ⋯⋯」


「あなたをとっ捕まえて、眠らせるとどうなるのかな⋯⋯?」


「な、何いってるの?⋯⋯」


 段々と距離を詰めていく。本当はすごく怖いけど、私、すごく頑張ってる。


「や、やめてよ⋯⋯こっち来ないでよ!」


 慌てて逃げようとする破壊魔。まずい⋯⋯何か手は⋯⋯あ⋯⋯

 ふと閃いた私は、携帯を片手にわざとらしく叫んだ。


「そーだ! 私結衣の位置わかるんだった!」


 その瞬間、破壊魔の動きが止まる。

 恐る恐るこちらを見つめてくる破壊魔に、私は意地悪な笑顔で言った。


「ジーピーエス」


「お、お前⋯⋯何する気?⋯⋯」


「結衣を見つけて、殺す」


 勿論嘘だ。自分で言った言葉に、胸を締め付けられる。でも、折れる訳にはいかない。

 お願い⋯⋯のってきて⋯⋯


「嫌だ! 死にたくない! それだけはやめて! お願いだから?」


 よかった。のってくれた⋯⋯

 ここまでくれば、私の手の内だ。


「じゃあ、結衣の所まで連れてって! そうすれば殺さないであげる」


「ほんとに?」


「うん。ホント」


 本当に。私も殺したくはないし、殺す気もない。本来の目的は結衣ともう一度話す事だから。

 結衣が今、何を思っているのか、それを確かめるのが私の目的だから。

 でも、もしもの事があったら、その時は⋯⋯


「分かった。でも、約束は守ってもらうから」


「うん」


 今は考えちゃダメだ。結衣に会える。結衣に会うために、今はできる事をしよう。

 

 破壊魔が指を鳴らす。すると突然目の前にヘリが飛んできた。


「これに乗ってけば結衣の元へ行けるから。ほら、さっさと行って! 僕の前から消えて!」


「待って!」


「今度は何!?」


「もう少しだけ、待って欲しい」


 ヘリのエンジン音と、ローターが回る際の暴風が容赦無く襲う中、私は隣で倒れているりゅうさんを見つめ、破壊魔にそう言った。





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