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破壊魔は謳う  作者: kou
破壊魔【久木結衣編】
17/18

15 離れていても

 高校に進学してからは、ほんとうに色々あった。

 入学式での私と由美の驚きはそれはもう笑えてしまうほどだった。

 何十倍とも言える全校生徒の数、覚えるまでにかなりの時間が掛かりそうな程広い校舎。

全てが新鮮で、私たちの心を揺れ動かした。


 最初は上手くやれるか不安だったけど、由美の明るく誰にでも隔てない姿に惹かれる人は多くて、いつの間にか彼女の周りには人が集まっていた。


 私には、何故か男子が寄ってきた。

 一年の内に告白された回数は正直覚えていない。


 どうして由美ではなく私なのか。当時はそんな事ばかり考えていたけど、そんな私に由美はよく言っていた。


「だって、百合香はかわいいもん!」


 どう考えても由美の方が可愛いでしょ。

 言われる度に私はそう思っていた。


 学年が上がると、私を主としたカーストが出来た。

 どうやら私の知らないところで勝手に作られた物らしく、私自身、そんな物があるとは思いもしなかった。


 驚く事に、由美にもカーストが作られていたらしい。

それも、由美と私を崇拝する輩たちが、スポーツ系爽やか美人と、クール系頭脳美人。どちらの花が綺麗かと言う事で揉め事を起こしていたらしく、そんな事とはつゆ知らない私と由美は相変わらずの親友関係を続けていた。

 結果、二つの対立したカーストの花たちは仲がいいと言うおかしな状況が生まれ、色んな意味で騒がしい高校生活を送っていた。

 もちろん、その間も私の隣には、いつも由美がいた。


 そんなこんなで、私と由美にとってはそこまで変わり映えのなかった高校生活もあっという間に過ぎていき、卒業式の日を迎えた。



「え? 今、なんて?⋯⋯」


「私は村に帰る」


 証書を片手にバスを待つ途中、由美は笑顔でそう言った。


「百合香は大学行くんでしょ? それじゃあ、暫くはお別れだね」


 私は、由美だったら、私と同じ道に進んでくれると思っていた。

あの時。同じ高校に行くと約束した時のように⋯⋯これからも私の横にいてくれると、そう思っていた。


「じょ、冗談だよね⋯⋯だって、私たち同じ大学受験して、二人とも受かったでしょ?」


「断ったよ」


「え?⋯⋯」


 由美の言っている事が本当の事だとは思えなかった。

 冗談にしてはタチが悪すぎると、ものすごく腹が立った。


「おばあちゃんが死んじゃってね⋯⋯今までお母さんとおばあちゃんで畑仕事やってたんだけど、お母さん一人になっちゃったからっさ⋯⋯私が手伝ってあげるんだ!」


 そこでようやく由美が本気なのだと、私は分かった。


「なんで、言ってくれなかったの?」


「だって、言ったら百合香も大学行かないって言い出すもん」


「そんなのわかんないじゃん!」


「わかるよ! 百合香はいつだって自分の事は二の次だもん! 高校受験の時だって、自分の勉強よりも私の勉強を優先してた!」


「それは⋯⋯」


 確かに、由美の言っていることは間違っていなかった。

 私はいつも由美に合わせていた。いい意味でも、悪い意味でも。

 無意識のうちに、由美に依存していたんだと思う。由美の側にいるのが、あまりにも心地よかったから。


「じゃあ、由美は私と離れても平気なの?」


 悲しくて、虚しくて、悔しくて⋯⋯


 由美には、私が居なくてもいいと思うと悔しくて、そんな言葉を発してしまった。

 前から何も学んでない馬鹿な私⋯⋯

 そんな私の考えは、由美の一言で打ち消された。


「そんな訳ないじゃん!」


「由美⋯⋯」


 その両目からは、涙が溢れていた。


「私だって百合香といたいよ! ずっと、ずっと⋯⋯これからも!百合香と離れるなんて、考えもしなかった⋯⋯でも、ダメなの⋯⋯私のわがままで、百合香の人生を壊したくはないの!」


 由美の何かを悟った言葉運びに、ある考えが頭をよぎった。


「由美、もしかして⋯⋯」


 そして、その考えが正しいと直ぐに証明される。


「知ってるよ。百合香、学校の先生になりたいんでしょ?」


「どうして、知ってるの?⋯⋯」


 私の問いに、由美ははにかんでみせた。


「百合香のことは何でもわかるよ」


 恐らく、私の進路用紙を除いたのだろう。

 幾ら由美とはいえ、気持ちを全て理解する事はできない。


 冗談めいた言い回しすら、その時の私にはとても愛しく見えた。


「だから、百合香は大学に行かないとダメ。たとえそこに私が居なくても⋯⋯

大丈夫! 一生会えなくなる訳じゃないよ! 会おうと思えば、いつだって、、⋯⋯あえ⋯⋯るよ、、」


 涙が堪えられなくなるほど、由美の言葉が途切れ途切れになっていく。


 聞かなくても分かっていた筈だ。由美はいつも私の側に居てくれた。

 それは体だけでは無くて、心だってどんな時も私の隣にあった。


「由美⋯⋯!」


 それに気づいた時、私は無意識に由美を抱きしめていた。

柔らかい体以上に、温もりに満ちた心音が泣きたくなるほど切なかった。


「そうだよね⋯⋯離れていても、私たちは側にいる⋯⋯離れることなんて出来ない⋯⋯絶対離さないから!」


「うん! 絶対に離さないでね⋯⋯」


 側にいるのが全てじゃない。

 由美には由美の夢があって、私には私の夢がある。

 離れていても心は側にいる⋯⋯

 由美の夢が叶った時、誰よりも先におめでとうって言えたらいいと、その時の私は思った。



 次の日、私は由美と別れた。

 由美が応援してくれた夢を叶えるため、一人で村を出た。


 



 





 

 

 

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