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破壊魔は謳う  作者: kou
破壊魔【久木結衣編】
10/18

8 ゆびきりげんまん

 お母さんが、帰ってこなくなっちゃった。


『夜までには帰るから』


 そう言ったのに、夜になってもお母さんは帰ってこなかった。


 今まではこんな事なかったのに。

 目の見えない私の側に、お母さんはいつもいてくれたのに⋯⋯


 どうして? どうして私から離れちゃうの?⋯⋯⋯⋯


 側にいてよ。ずっと私の側にいてよ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯



「ん⋯⋯⋯んん」


「おはよう。香織ちゃん」


 暖かい。お母さんの温もり⋯⋯

 お母さんと同じ温もり⋯⋯⋯⋯


「香織ちゃん! なんで一人で山に入ったりしたの!?」


「え?⋯⋯」


 この声、百合香おばさんだ。もしかして、怒ってる?⋯⋯


「その⋯⋯お、お母さんを⋯⋯⋯⋯」


「バカ! 怪我でもしたらどうするの!」


「⋯⋯⋯⋯」


 やっぱり。すごい怒ってる⋯⋯⋯⋯

 あやまらないと。私は、悪い事をしたんだ⋯⋯⋯⋯⋯⋯


 でも⋯⋯⋯⋯


「お母さんを、探してたんだもん⋯⋯」


 でも⋯⋯⋯⋯


「だからって一人でいっちゃダメよ! 村の人たちがどれだけ心配したか分かってるの!?」


「ちょっと⋯⋯言い過ぎじゃ⋯⋯」


「あなたは黙ってて!」


 お母さんの声だ⋯⋯⋯⋯

 お母さんと、同じ声⋯⋯⋯⋯


「その言い方はないでしょ。香織ちゃんの気持ちを考えたら、そんなこと言えないと思います」


「違う! あなたは分かってない! この子がどれだけ不便な子か!」


 二人が言い合いをはじめちゃった⋯⋯⋯⋯

 私のせいだ。私が、あやまらないと⋯⋯⋯⋯


 でも⋯⋯⋯⋯でも⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯


「じゃあなんでお母さんはいなくなっちゃったの?⋯⋯」


 お母さんに会いに行くのが、そんなに悪いことなの?


「香織ちゃん⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯」


「なんでお母さんは帰ってこないの?⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯」


 なんで、答えてくれないの?


「私はお母さんに会いたかっただけなのに!」


 お母さん。会いたいよ。お願いだから、帰ってきて⋯⋯


「気持ちは分かるわ。でも、幾ら山を探しても、お母さんは見つからない。お母さんは、山には居ないから———」


「香織ちゃん! ごめんね⋯⋯一人にして。もう、どこにも行かないからね」


「おかあさん⋯⋯うん。約束、だよ? もうぜったい、かおりをひとりにしないでね?」


「うん。約束」


 ゆびきりげんまん うそついたらはりせんぼんのます


「「ゆびきった⋯⋯」」


 約束だよ。

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