8 ゆびきりげんまん
お母さんが、帰ってこなくなっちゃった。
『夜までには帰るから』
そう言ったのに、夜になってもお母さんは帰ってこなかった。
今まではこんな事なかったのに。
目の見えない私の側に、お母さんはいつもいてくれたのに⋯⋯
どうして? どうして私から離れちゃうの?⋯⋯⋯⋯
側にいてよ。ずっと私の側にいてよ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「ん⋯⋯⋯んん」
「おはよう。香織ちゃん」
暖かい。お母さんの温もり⋯⋯
お母さんと同じ温もり⋯⋯⋯⋯
「香織ちゃん! なんで一人で山に入ったりしたの!?」
「え?⋯⋯」
この声、百合香おばさんだ。もしかして、怒ってる?⋯⋯
「その⋯⋯お、お母さんを⋯⋯⋯⋯」
「バカ! 怪我でもしたらどうするの!」
「⋯⋯⋯⋯」
やっぱり。すごい怒ってる⋯⋯⋯⋯
あやまらないと。私は、悪い事をしたんだ⋯⋯⋯⋯⋯⋯
でも⋯⋯⋯⋯
「お母さんを、探してたんだもん⋯⋯」
でも⋯⋯⋯⋯
「だからって一人でいっちゃダメよ! 村の人たちがどれだけ心配したか分かってるの!?」
「ちょっと⋯⋯言い過ぎじゃ⋯⋯」
「あなたは黙ってて!」
お母さんの声だ⋯⋯⋯⋯
お母さんと、同じ声⋯⋯⋯⋯
「その言い方はないでしょ。香織ちゃんの気持ちを考えたら、そんなこと言えないと思います」
「違う! あなたは分かってない! この子がどれだけ不便な子か!」
二人が言い合いをはじめちゃった⋯⋯⋯⋯
私のせいだ。私が、あやまらないと⋯⋯⋯⋯
でも⋯⋯⋯⋯でも⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「じゃあなんでお母さんはいなくなっちゃったの?⋯⋯」
お母さんに会いに行くのが、そんなに悪いことなの?
「香織ちゃん⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「なんでお母さんは帰ってこないの?⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
なんで、答えてくれないの?
「私はお母さんに会いたかっただけなのに!」
お母さん。会いたいよ。お願いだから、帰ってきて⋯⋯
「気持ちは分かるわ。でも、幾ら山を探しても、お母さんは見つからない。お母さんは、山には居ないから———」
「香織ちゃん! ごめんね⋯⋯一人にして。もう、どこにも行かないからね」
「おかあさん⋯⋯うん。約束、だよ? もうぜったい、かおりをひとりにしないでね?」
「うん。約束」
ゆびきりげんまん うそついたらはりせんぼんのます
「「ゆびきった⋯⋯」」
約束だよ。




